ドラゴンの山へ
その夢から目覚めたあと、ほこらの地図のイメージを書き起こし、今知った情報をメンバーに共有する。
「なるほど、この世界って、そういう風になってるんですねー」
「でも、これってかなり機密情報じゃないの?」
「・・そうだな。まあないと思うが、このことを郊外するんじゃないぞ」
そして、魔王を捜索に再び出発する。
彼女がもたらしたほこらの情報で、進行方向で言い争いが少なくなったのは助かった。
彼女の言う通り、ほこらのある重要な都市や、あるいは自衛できないと思われる小さな国、村を優先して旅を続けていく。
依然僕は魔王の気配を感じていた。
だが、それはうっすらと感じるだけのもの。
すぐ近くには今だ到達していない。
今日も新しい国に到着し、僕はまず感覚をとがらせる。
「優斗、ここにも魔王はいないの?」
「・・そうだね。ここにはいない」
気配を感知するのも、今では慣れたものである。
それに対し、一同はがっかりしたように言う。
「そっかー。ざーんねん」
「でも、魔王がいないことに越したことはないじゃない」
「そうですね!!旅行みたいで楽しいですし!」
・・だが、魔王はまだ生きている。
こうやって旅を続けていく限り、必ず奴にめぐりあえるはずだ。
そして、次こそは確実に倒すために、さらに機械の改良を加え、自身の実力も磨いていく。
あれから一か月・・こうしている間にも魔王は力を蓄え続けている。
他にも勇者がいるとはいえ、のんびりと移動している時間はない。
次々と国と国とを移動していくうちに、効率的に移動していく術を求めていく。
「今日も宿泊しないですぐ出よう。そして夜の間も移動する」
「えーまたー?」
最近では、余力がある場合、こうやって夜間も移動することをしている。
車の運転は主に僕や北條が行っている。
車の中での睡眠は、疲れはあまりとれないかもしれない。
だが、彼らもステータスも高くなったゆえに、多少無理をしても問題ない体力を得ることができただろう。
僕も意識を覚醒度を調整することで、睡眠に似た休息を得ながら運転をすることができていた。
過信することはできないが、自動運転機能も補助に役立っている。
これで国から国へと移動するスピードもかなり効率的になった。
そして、、、、ある夜のことだった。
僕はハンドルを握りながら、同時に感覚を養う修行をしていた。
その疾走感。夜は感覚を鋭敏にしてくれるが、月の出る日は特にそれが顕著だという法則にいつの間にか僕は気が付いていた。
マージョリーさんからいつか聞いたことがある。
この世界の月は、魔力の固まりだというのだ。それがあるおかげで魔力が地上に降り注いているという。
満月の夜は、魔法の練習や、瞑想するには最適だというのだ。
今の僕もそうだったのだろう。
いつもはかすかな魔王の気配を感じ取ることができている。
そして、確信する。
今までは、ぼんやりと魔王がこの世界にいるとしか分からなかったのだが、、。
最近では、その方向をとらえることができるようになっていたのだ。
その邪気は前方から発せられている。
(この方向で間違いないはず・・!!)
地図によれば、そこにはある場所へと向かっていた。
そう、ドラゴンの山。
かなりの強力なモンスターが跋扈する、高レベルの狩場。
向かうのは、トップクラスの冒険者しか許されていない。命知らずが行く場所だ。
だが、僕はそこに近づいていく。
魔王はそこにいると確信しながら
(早く奴を止めなくては・・!!)
アクセルを踏んで僕はさらに速度を加速させたのだ。
「ギャォオオオオオオオオオオオッ!!」
魔王は、強力なモンスターと戦っていた。
いや、それは戦いと呼べるのだろうか。
正確に言うならばそれは一方的な捕食。
周囲の地形は、黒い沼のようなもので満たされていた。
それに飲み込まれる、恐竜型モンスター。
そう、その沼は魔王そのものだった。
彼は体をスライム状に変化させることができる。
それを利用した捕食方法は卑怯とも言っていいだろう。
地面に擬態し、通りがかってきた比較的動きの遅いモンスターを、圧倒的質量で飲み込む。
ただそれだけだった。
「ギャッッ・・・・」
哀れ、恐竜型モンスターはついには体全体が呑み込まれていく。
無論、この方法がこの土地の全てのモンスターに通用するわけではない。
もっと高レベルならば気配を察知し回避するのは当たり前。
仮に飲み込まれても力づくで突破することができるだろう。
ゆえに、魔王は自分より弱い相手を狙っていた。
そういった最底辺に位置するモンスターでも、全体のレベルが高いゆえに、魔力を尋常じゃなく速度で貯めることができる。
だが、順調にことが進んでいるというのに、
魔王の心には焦燥感があった。
(少し、やばいかもしれないねぇ・・)
それは、優斗の感じる感覚とは対極的なもの。
そう、自らの命の危険を知らせるブザーのようなものだ。それは毎日少しずつ大きくなっていた。
その感覚から、いずれここに優斗が来て、自身を発見される未来を容易に彼は推測できる。
このままだと、数日以内に彼は自分が死ぬと判断した。
(クックック、、面白い。
だが、既に布石は打ってある)
魔王は、テレパシーを利用して、自らのしもべを呼び寄せた。
しばらくして、魔王の前に、二人の影が現れる。
「うーっす」「おいっすー」
それは一見双子のように見える何かだった。
しかし、絶対にそれはヒトではない。人以外の何か。
肌が紫色。
目がいくつもあるなどと言った異形の姿をしている。
何より、その表情は見ている物を不快にさせるどころか、狂気に陥らせるほどだ。
どんなに平和ボケしている物も、一目で『それ』が危険と分かるだろう。
それは、魔王の分身だった。
『分身』、つまり、前回優斗から逃げるために使った技と同様。
だがこの二人は特別だった。
プログラム的にパターンを組んで行動させてあるのだ。
つまり、簡単に言えば、自信とは別人として過ごさせているのだ。
実は二人以外にも、多くの分身を『自立稼働』させていたのだが、、
既にこの土地に適応できず淘汰された。
だが彼女たちは違う。
この地獄のような蟲毒の中で放置され、その中で生き残った者たち。
参加者はほぼ死亡するということを覗けば、最小のコストで、最大のリターンが得られる育成方法。
彼女たちは、乱杭歯とヘビのような舌が動き、彼女たちは言う。
「んで、魔王様ー!」「私たちに何の用ー?」
「ああ、この山を下りて、周囲を警戒してほしい。近づくもの全てを殺すんだ」
「分かりましたー!」「お役に立って魅せますー!」
「頼んだぞ」
親の命令だけは絶対という風にプログラミングしてある。
そうして、彼女二人は、近々ここにやってくる優斗一行の前に立ちふさがる。
無論、彼女たちの能力は凶悪無比。
だが、それも時間稼ぎにしかならない。
それほどまでに魔王は一行を、いや優斗を脅威と確信していた。
(もし、奴らがあの子たちを突破したら、その時は、、)
彼は、斜め上のある方向を向いた。
そこには、莫大なオーラが立ち上っているのが見える。
(少し腹をくくらないといけないかもしれないねぇ・・)
そう思い、狩りを再開した。
追い詰められる魔王。
そして、進行する優斗たち一行。
現時点では、両陣営のどちらが勝つかは、分かりきっていたことだった。
当然、優斗たちが勝利することだろう。
だが、それは現時点での話。
魔王が『それ』のエネルギーを手に入れてしまえば・・。
この世界に未来はないだろう。