信頼の回復と崩壊、そしてメイドロボ
「優斗!」
「・・!マージョリーさん!!それにみんな!」
「ようやく終わったようだな」
「つかれたー!」「早く帰ってお風呂に入りたいわ」
金属生成を駆使し、魔王を狩っている間、彼らも同じように討伐していたのだろう。
念のために兵士や冒険者にも冒険を要請し終えている。
数日は緊急事態並みの警備体制になるだろう。しかし山場は乗り越えた。
とりあえず北條君が把握している魔王を全て殲滅した後、僕らは集合していた。
勇者四人(うち一人はドローン)、アンジェリカ、マージョリーさん。そしてポチ、僕の八人。
その中でもアンジェリカさんは何故か服がボロボロに汚れていた。
「あの、アンジェリカさん、一体どうしたんですか?」
「あ、ああ、?いや、色々あって・・」
しかし、特にけがはないようだ。それどこかどこか生気に溢れているような気さえする。もじもじしてこちらを見ているような・・?
そんな彼女にマージョリーさんが突っかかった。
「ちょっと!アンジェリカ!なんであんたさっき集まらなかったのよ!」
「ま、まあ少ししがらみがあってな・・みんな、本当にすまない!!」
誠実なのだろう。生真面目に直角に腰を曲げた。
だが、謝る必要はない。一人が動けなくても、誰かがサポートする。そのために『仲間』というものがあるのだから。
しかし、しばらく彼女二人は言い争っている。
「本当よ!!心配したじゃない!」
「む?貴様が私を心配するとは、珍しいな」
「もう!バカ!!」
だがそれも気の置ける仲間である証なのだろうと推測した。どこか仲が良さげに見える。
そして、互いの信頼が向上したのは、彼女たちだけではないらしい。
「北條、、あんた、、」「お前、、」「ほうじょうくん・・」
「な、なんですか・・?」
一方勇者三人は、ドローンを囲んでいた。正確にはドローンを操作している北條四郎をだが。
彼らに対し、追い詰められているかと思ったのか、北條君はしどろもどろになっている。
だが、心配することはないだろう。その証拠に次の彼らの言葉は、、
「あんた、見直したわよ」「少しはやるではないか」「すごーい!!」
「・・え?」
彼らは責めようとしたわけではない。北條君に助けられた礼を言いたかったのだ。
呆然とドローンをかしげて驚く。
「何呆けたような声をしているんだ?あのおびただしい魔王をあらかた発見できたのはお前のおかげだろう?」
「そうよ。悔しいけど、今回はあなたの技術が無ければ勝てない戦いだったわ」
「そうだよー!誇っていいことだよー!」
「み、皆・・・!」
そうだ。僕は既に知っている。彼がアイテム袋の中で、新しく作り出した兵器の操作を練習していたのだ。
彼はドローンのカメラをこちらに向けて、彼らの意図を聞くかのように見てきた。
「ああ、君は誇っていいと思う」
「優斗さん・・!!皆・・!!」
彼は直接戦うよりも研究などが得意な才能を持っているのだろう。
前にミスをしたのは直接前線に出て戦うのが苦手だっただけのこと。ゆえにミスしてしまった。
今回の戦いで彼の強みが出て、誤解が解消されたのだ。
「優斗さん!!ありがとうございます!!あなたのおかげで僕は・・!!」
「僕は何もしていない、頑張ったのは君の力だろう?」
「優斗さぁん・・・!!」
半ば鳴き声になってしまう。
それは喜びの声だ。そう、この事件を起こした魔王に感謝すらしたい。
「ところで優斗様、、」
そう思っていたら、背後からアンジェリカさんの声がして振り返る。
「気分転換に明日その、、どこかに出かけたりしないか?私と二人で・・」
「ちょっと?!何唐突にデートに誘っているのよ!?」
「優斗さん!!私・・!!あなたに付いていきます!!何でも仰せつかってください!!」
「全く、優斗さんは人気者だなぁ」「ま、あれだけの人格者なら当然だわね」「あははー!!モテモテー!!」
少し騒がしいが、こうしてこの国での戦いは幕を閉じた。
リスクも大きかったが、、結果的に皆無事で、むしろ得たものも大きかった。
しかし、
この事件から『彼』にある変化が起きたことも追記しなくてはなるまい。
あの事件から数日後のことである。
僕らはまだ戦いの疲れをいやすため、蝙蝠亭に宿泊していた。
早朝の修行も終え、朝食を取りに下の階に来るため階段を降りているところだった。
すると、、
「優斗さーん!!」
「・・?」
何やら電子的な声が聞こえた。
甘ったるい声だ。
僕は振り向く。
そこには人影。
「おはようございまーす!!」
「・・・?」
いや、正確にはヒトではなかった。
それは先日試作機として作っていた、人型ロボットである。
実践投入はまだ先だと思っていたし、見た目も骸骨のように無骨な鉄が見えていた。
が、今のそれはその時とは全くの別物と言っても良かった。
ゴム製の表皮を被せているらしく肌はピンク色であり、そして服も着せてある。フリルの付いた、いわゆるメイド服というものだった。
遠目には本物の人に見えるが、ところどころ機械らしい銀色が見え隠れしており、動くたびに小さなモーターの音がしている。
つまり、上記をまとめて一言で言えば、
『メイドロボ』だ。
僕の背後に、メイドロボが甘ったるい電子音声で僕に挨拶したのだ。
「えっ・・?!」
当然驚く。
そしてその声に既に階下に降りていたメンバーたちが、「どうした?!」「魔王なの?!」などと集まってくる。
「うわー!!かわいー!!」
「なっ、なんだそのロボ!!」
「まさか・・また優斗さんの新しい発明?!」
いや、僕は知らない。
確かに、人型ロボを試作してはいたが、ここまでスムーズに動けるものではなかった。
と、ここで僕はある考えが浮かんだ。
まさか、、北條君が操作しているのか・・?
確かに彼のならば可能かもしれない。僕はこれを自立稼働させようとしたのだが、卓越した操作スキルがあれば動かせることは可能なはずだ。
しかしだとすると、少し疑問に思うことがある。
その声だ。それはまるで女性のようなもの。
確かに彼ならば、声のピッチを調整して、女性のような声をスピーカーから出力することは可能だろう。
しかし彼が何故そこまでする必要があるのだろうか。それに服まで・・。
潜入捜査などをするというのならばわかるが、しかし僕らがやろうとしているのは魔王討伐なのだ。これから必要になるとも思えない。
不思議に思っていると、そのメイドロボはこちらに歩いてきて、、
「あのっ!!優斗さん」
「えっと、君は、北條君?」
「は、はい・・!」
・・まさかとは思ったが、北條君だった。
「それより・・どうですかこれ?」
見事にターンした。フリルが広がる。なんてスムーズな動きだろうか。
「・・素直にすごいと思う。もしかして君はこれを一人で?」
「っ!!はい!!数日前の魔王討伐の日から寝ないで作ったんです!!」
「なん・・だと・・?」
これだけのことをするのに立った数日とは、、中々彼も超人だと思った。
「でも、作っている間、記憶があまりなくて・・」
「そ、そうか、しかしなんでメイドなんだ?」
「よ、よく分からないですっ!!
でもこれであなたがやる気が出てくれるなら十分利点では・・!!」
そう言って彼は僕の腕を組んできた。その胸にシリコンなどが仕込んであるのか、柔らかい感触が伝わる。
「えっと・・?」
「ど、どうですか・・?!やる気出てきましたかっ?!」
割とおどおどしながらこちらを見てくる北條。しかし、こんな時どう反応したらいいか分からない。
「ほらっ、ほらっ!!」
数舜戸惑っていると、その間を引き離すものが居た。
「ちょっとー!!それは卑怯じゃないの!!」
「そうだっ!!抜け駆けはいかないっ!!!」
アンジェリカさんとマージョリーさん。
その両者が北條のメイドロボと僕を引き離す。
「な、何をするんです!!僕はただ優斗さんにいい思いをさせてあげようと・・!!」
「っていうかあんた男でしょ!!
そんな声も可愛い風にして!!
そんなことして恥ずかしくないの?!」
「恥ずかしい?どういう意味ですか?
これは人形であり、声を変えたのは優斗さんにいい思いをしてもらうためです。
それが何か?」
「そ、そんなことをせずともだな!!
本物の女性である私たちがいるから、わざわざそんなお人形を作る必要などないのである!!なあ!マージョリー殿!!」
「そうよっ!!」
「ですが、貴方たちは彼に腕組みをできるのですか?男同士だから気軽にスキンシップできるという利点もあるのですよ?!ほらっ!ほらっ!!」
「「うっ・・!!」」
そんな言い争いをしている間、僕は背後から勇者三人のこそこそ声が聞こえていた。
「北條・・あいつ、まさか・・
あっちの趣味が・・!?」
「うわー、なんか・・
すごい奴には変わりないんだろうけど・・
あれはさすがに・・}
「あははー!ドン引きだよねー!!」
「っ!!」
なんてことだ・・。
僕は彼がどんな趣味を持っていようと問題ないのだが。
北條君の信頼関係が崩れていくのを感じていた。
やっと再生できたと思ったのに。
だが、もはやごまかすことは難しいだろう。
また信頼を重ねていくしか他に方法はない。
いや、むしろ差し引きでいうならばプラス。
このメイドロボ、かなり動きがスムーズだ。
改良を重ねれば戦闘にも使えるはずである。
そうポジティブに考えている間にも彼らは言い争いをしていた。
「もしかしてあんたは好きなの?!優斗のことが!!」
「も、もちろん好きですよ!!恩人なのですから!!」
「北條殿、ホモとは感心しないな」
「ホモというよりも精神的な奴です!!」
「確かに優斗さんは良い人だけど、、あそこまでするとは・・」
「ちょっと距離を感じるよね・・」
「まあねー・・」
そんな感じで、彼の回復した信頼に最後に少し傷をつけたところで、
この一件は幕を閉じた。