ブラッドゴブリンからの逃走
僕は昨夜の夢を思い出す。
友人を助けるために、できるだけこの状況から脱しなければならない。
「よし、今日は・・やろう」
まずはのどを水で潤し、食料を調達して腹ごしらえすると、僕はある武器を作り出した。
それは、武器と言っていいのかわからないが『鉄球』である。
ある程度の数を作ってから、僕はそれをブラッドゴブリンに対し落とす。
どんっ。
「ごっぶっ!?」
いきなりの攻撃に驚いている隙を狙い、どんどん頭や首のところあたりにどんどん落としていく。
どすっ、どすっ、どすっ、どすっ
直撃した個体は気絶したか死んだかわからないが動かなくなる。
だがやはりさすがに数匹やったところで彼らは避け始めた。
「ごぶっ!」「ごぶごぶっ!」
「うーんだめか」
流石にこれで全滅してくれればよかったのだが、そううまくはいかないらしい。
仕方ない。降りて倒すしかないか?
とりあえず。武器を作り出す。その形状は釘バットだ。
ナイフは余計血がかかって汚れるし、匂いが付いてよけい追いかけられそうな気がした。
初心者にも使いやすい打撃武器だし悪くはないだろう。
それともう一つ、武器を作り袖に隠しておく。
準備が完了すると、木の上から彼らの油断をついて飛び降りた。
「ごぶっ?!」
飛び降りざまに、一匹の頭を殴り吹っ飛ばす。
同時に他の個体も攻撃するが、流石に直撃は避けられる。
「ごぶっ!」
そして、反撃された。
僕はそれをを釘バッドで受け流しつつ、
「てやぁ!」
横向きに転がって回避。できるだけブラッドゴブリンが密集していない場所を選んで転がったが。
「ゴブゴブゴ!!」
すぐに周囲のブラッドゴブリンが集まり、囲まれる。
流石に今の実力でこれだけの数をさばききれない。
「ごぶっ!」
僕は、同時に360度から攻撃され、戦闘続行不可能と判断した。
というわけで『奥の手』を使わせてもらう。
僕は垂直を軸に回転。そしてその遠心力を乗せ、袖に隠していた武器を開放した。
それは手裏剣。放射状に軌道が広がり、棒状の針が突き刺さる。
「ごぶっ?!」「ごぶぶっ!!」
ナイフより殺傷力は劣るが、突然の痛みにブラッドゴブリンたちは一瞬動きを止める。
その隙をついて僕はジャンプ。
頭上の枝を掴んで、すぐに高いところまで逃げる。
「ごぶぅうううう!!」「ゴブゴブ!!」
これだけのことをしたゆえに、当然だが、先ほどよりも大きな鳴き声で怒れるように吠えている。
この怒り状態で、再度飛び込めば危ないかもしれないな・・。
それに先ほど鉄球や釘バッドでダメージを与えた個体も、すぐ立ち上がってこちらを吠えている。
どうやら僕の攻撃は気絶どまりらしい。生命力が100もあったし当然だろう。
「やはり、倒すのは無理か」
一応、木の上に避難してを繰り返したヒットアンドアウェイ戦法もとれるだろう。
が、やはりリスクのほうが大きいと判断する。
ならば・・全滅はあきらめて逃げよう。
残ったミルクミの実が入った籠をリュックのように加工してしょって、他の金属はエネルギーに変換しておいた。
出発の準備は完了である。
僕は昨日作った金属の塔の土台触ると、部分的に少しずつ少しずつ分解してゆく。
できるだけ町の方向へ倒れるようにバランスを考えて土台の金属をエネルギーに還元していった。
そして、ゆっくりと傾き、
ずどんっ!
盛大な音を奏でて塔が倒れる。
これによって、孤立していたここから、いちばん近くの木の上に橋を架けた。
その倒れた塔の上をおそるおそる渡って別の木へ到達する。
「ゴブゴブゴブ!」
当然僕に合わせてブラッドゴブリンもついてくる。
が、安全に別の木へとわたることができた。
ここからは木も密集しているので、地道に木から木へと飛び移りながら町へ進むことができる。
とりあえずは脱出完了と言ったところだろうか。
しかし、ブラッドゴブリンたちがついてきている。
彼らを町へ着くまでに撒かないといけない。
連れて町に入るわけにもいかないだろう。
どうすればいいだろうか。
途中で助けを求められればいいのだが・・。
ともかく、考えるのは後にして、進むことにした。
地上のブラッドゴブリンをお供に、慎重に木の上を移動していく。
途中食べられる実が成っている木があったので、ついでに採取。
また、猿型のモンスターや鳥型のモンスターが木の上に居たが、神眼で鑑定し、やばそうなものは大きく迂回。
弱そうなものはナイフを飛ばし牽制して追い払うことで難なく突破した。
そう、ここまでは順調。
ブラッドゴブリンという問題もあるが、それは誰かに追い払ってもらおうと楽観視していた。
町に近づくほど人気も多くなるだろうという希望もある。
しかし、
「これは・・」
数時間進んで、僕はそれ以上進めないことを悟った。
僕のいる場所。そこからすぐ先の地面が10M近く沈んでいるのだ。
逆に言えば、今まで僕が進んでいた地面が高い。
つまり崖である。
そういえば塔からあたりを見渡した時に何やら森に高低差があった気がする。
特に注目しなかったが、こうして近くで見ると深い崖だ。
無策で飛び込めば間違いなくケガすると確信できる。
迂回しようにもこの崖はかなり横幅が広い。町へ着く時間が数週間は延長するかもしれない。
それだけ時間をかければ、友人が何をするかわからない。
ならば、とるべき手段は一つ。この崖を突破すればことだけだ。
それに・・僕は眼下を見る。
「ごぶごぶごぶごぶ!!」
うまくいけばこのブラッドゴブリンたちも撒くことができるかもしれない。
そう、木登りができないならばこの崖も降りられないと思う。
そうと決まれば・
金属生成を使い、降りるための『準備』を整える。
「よし。このくらいでいいか・・」
そして、『微調整』が終わり、安全だと確信すると、
「えいっ」
――僕は木の上から崖下に飛び込む。
「ごぶっ!?」
落ちてゆく僕を追って、ブラッドゴブリンたちが素早く崖をのぞき込んだ。
が、しかしすぐに追ってこない。
狙い通り、彼らはこの崖を簡単に降りられないらしい。
一方僕は落下中、崖の側面に『棒』を突き刺す。
金属生成を使って生成した棒。
頑丈で突き刺しやすく先端をとがらせている。
両手で棒を抑えて、崖の側面に傷をつけながら、
それに加え、足も使いできるだけ落下の勢いを殺す。
ガリガリガリガリガリガリッ!!
だが、多少勢いがそがれたとはいえ、今のままでも十分な勢いだ。
そして――
飛び降りてからわずか数秒後、地面に激突。
「せいっ!」
できるだけ受け身を取り、衝撃を受け流したとはいえ、普通ならば打撲。
運が悪ければ骨折くらいいっていたかもしれない。
しかし、もう一つの『準備』が僕を守ってくれたようだ。
そう、それは『液体金属』。先ほど崖下の落下地点に落としておいたのだ。
それはまるでウォーターベッドのような感触。むしろこれだけで安全に着地できたかもしれないと思うほど高性能だ。
しかしこれでまだ油断してはいけない。追っ手がいる。
僕は起き上がると瞬時に背後を一瞬振り向いた。
彼らは、まだ崖上にいる、しかし
「ゴブっ!」
先頭のブラッドゴブリンがこちらと目が合うと、意を決したように飛び込もうと動く。
それを見て反射的に走って逃げる。
撒けそうにはないが、どうやらハンデは十分にもらったようだ。
スターテスから判断するに彼らと僕の俊敏に差がある。
距離の差は次第に縮むことだろう。
しかしブラッドゴブリンが追いついてきたら、すぐに木の上に逃げればいい。安全マージンはある。
木から木へ移動するのは時間がかかるので、できるだけいまのうちに距離を稼いでおこうと思ったのだ。
僕はいつ木の上に避難してもいいように、背後を警戒しつつ、もくもくと走っていた。
のだが・・
「・・あれ?」
いつまでたっても、背後からブラッドゴブリンたちの鳴き声が聞こえてくることはない。
「もしかして、僕を見失ったのか?」
それはない。僕はブラッドゴブリンの血を浴びているはずだ。彼らの鋭い嗅覚で位置は分かるはずである。
ならば諦めた?
それも考えにくい。もう数日も僕に執着しているのである。
どちらにせよ。好都合だ。考えても仕方がないので気にしないことにした。
それよりも今は急がなければならないのだ。
一応、背後を警戒しながら僕は走る。
このまま走り続ければ、今日の夕方には町に着くはずだ。