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いくつもの信号


 

 西園寺は、周囲に薄く魔力を広げた。

 

(・・かなり疲れるわねこれ)

 

 確かにその効果範囲には限りがあった。魔力がかなり消費しているのが分かる。

 

 だが彼女は仮にも勇者。精度を保てる限界の数百メートルならば長時間それを展開することができる。

 

 しばらくして何かかよく分からないものが探知できた。

 

「(あれ?もしかして、、!」

 

 その探知の中にスライム状の不定形な物質があることに気が付いたのだ。

 

「(この嫌な感じ、、もしかするともしかして、、魔王?!)」


 彼女は東堂などと違ってバトルや討伐に対してそこまで積極的ではない。

 

 だからこそ魔王に対し、できるだけ安全マージンを取ろうと遠目からそれを確認した。

 

「!!」

 

 そう、裏路地の人気のない場所にいたのは、、

 

(・・何あれキモッ!!)


 それは一目で見れば、何やら絵の具がぐちゃぐちゃに混ざったスライム。

 

 そしてよくよく見てみれば、それはぐちゃぐちゃになる前は人の形をしていると思しかった。

 

 正確にはポチという獣人の背後にいた男。

 

「あれは間違いなく魔王ね・・!じゃあ信号弾を放ってっと」


 空に適当に特大のファイアを放った。

 

「そして、と」


 今のうちに倒してしまったほうがいいと彼女は思った。逃げられては面倒になると思ったからだ。


 しかし出来るだけ安全に確実に処理する。

 

 まずは、遠距離から土魔法を操り、路地裏を封鎖。完全な密閉空間を作り、逃げ場を無くした。

 

「っ”!」


 ビクッと魔王が震えた気がしたがもう遅い。

 

 既にドラゴンさえ致命傷を免れない魔法を準備完了している。

 

「『プラズマヘルファイア』」

 

 それは炎と電撃の合わせ技。

 

 スギャギャギャギャッッッ!!

 

 この世の者とは思えない高温が街中に鳴り響く。

 

「っ!」「なんだなんだ?!」


 住民は驚いているが、その過剰ともいえる魔法で、弱体化していた魔王は一瞬で消滅。

 

(このくらいでいいかしら、、いや)


 ズギャギャギャギャッ!!

 

 相手は魔王。もしかしたらここから復活するかもしれないという恐怖から、念のために続けて致死量級の攻撃魔法を放っていく。

 

 仲間が到着するまでその攻撃はやめないつもりだった。

 

 実際、その過剰な攻撃のおかげで、事実、魔王は最初の一撃で完全に消滅。オーバーキルと言わざるを得なかったのだが、、

 

 しかし、、不可解な事態が発生する。

 

 バーンっ!!と


 それは魔王からの反撃の音ではない。

 

 そこから離れたほうで爆発音が鳴り響いたのだ。

 

「・・・?」


 何西園寺は何事かと振り向く。

  

 するとそこには、空に爆発魔法の煙が残っていた。

 

「あれって、、!」


 見覚えがある。あれだけの爆発を起こせるのは、アンジェリカしかいない。

 

 そうそれは彼女がよく使う爆発魔法。


 東堂が言っていた言葉を思い出す。


 彼は、魔王を見つけたら空に信号を送れと。

 

 つまるところそれが意味するのは、魔王を発見したという意思表示。

 

(でも、魔王は今私が倒したはず、、?)


 西園寺は勘ちがいしていた。

 

 そう、いつから魔王が一体だけだと思い込んでいたのだろう。


 しばらくしてハッと気がつく。

 

(いや・・・!?もしかして・・!!)


 彼女は先ほどの魔王の姿を思い出した。

 

 あの不定形のゼリー状存在。

 

 明らかに冒涜的な存在。

 

 スライムでさえ増えるとというのに、

 

 どうして『あの』魔王が一体だけだと断定できるだろうか。

 

(分裂している?!!)


 そう理解した瞬間、続いて、周囲の空に

 

 パーンッ!!ドーンッ!チュドーン!!

 

 信号弾が上がる。


 それらは全て、魔王を発見したという意味の信号だった。

 

 つまり、、パーティメンバー全員が、魔王を発見したということなのだ。





 東堂が屋根上を走って叫ぶ。

 

 進行方向の先には同じく屋根の上に数人の人影。

 

 魔法使い組が、文字付きの魔法を空に放ったのである。


「皆!!」


 彼は、西園寺と南雲、マージョリーと合流した。

 

 アンジェリカの姿が見えないが、おそらく信号に気が付いていないのだろう。


「まったくアンジェリカ、あいつは何しているのよ・・!!」


「それよりも今の状況を教えてくれ、、!!どうなっている!?」

 

 彼が混乱している理由は、先ほどから空に上がる信号のことについてだ。

 

 いや、彼だけではない。他のパーティメンバーだって同様に動揺しているだろう。

 

 当初彼らが予想していたのは、最初に発見したメンバーが念のため信号をあげ、

 

 それから『一体』の魔王を全員で倒すという手はずだった。

 

 だが、しかし、先ほどメンバーからの信号が何発も上がっていたのである。

  

 それゆえにメンバーは一旦集合した。

 

 西園寺はうなづく。

 

「貴方の思っている通りよ。私なんか集合前に二匹目を見つけたわ」


「魔王が複数いるっていうのか・・!!」


 そう、魔王はスライム状になることができ、分裂して動くことができるようだった。

 

 その分力はさらに弱まるようだが、一つ一つは弱くとも、大量に潜伏すれば生き残ると思ったのだろう。

 

 その戦略は思ったよりも効果的なようだった。

 

「この頻度で見つかるということは、魔王は100匹以上、、いやそれ以上に分裂している可能性が高い・・!!」


 一同に緊張が走る。

 

 小国とはいえ、それをここをわずか数人で探すには広すぎるからだ。

 

 まだ、時間も経っていない今ならば遠くまで行っていないはずだが、じきに次々と国外へと逃げられるだろう。

 

 そうすればまた魔王による被害が出てしまうのは必然。


「一体どれほどの魔王がこの町に潜伏しているんだ・・!!」

 

「でも、どのみち私たちができることをやるしかない。

 少し話しあったけど、分散して魔王を発見次第殲滅していくしかないわ」

 

「そうか・・!」

 

 だが、まだ希望が残っている。

 

 マージョリーは信頼から、彼が何とかしてくれると信じていた。

 

「でも、私たちには優斗がいるわ・・!!彼の力なら、、!!」


「そうだ。ポチとの戦いが終われば、彼の力も借りることができる・・!!」


「でも、彼女はかなり強くなっていたみたいだった。本当に間に合うのかしら」


「・・・・」


 一同の士気が低くなりかけた。

 

 そう、その時だった。

 

 ブゥウウウウウウンと。

 

 金属が風を切る音。

 

 それが上空から鳴り響く。

 

「・・・え?」


 それは、つい先ほど目にしたばかりの物体だった。

 

 そう、この事態を収束するための福音に他ならなかったのだ。 

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