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誘惑と同士討ち


 

 

 魔王は逃げていた。

 

 優斗に追跡中、攻撃魔法で体の大部分をさらに破壊されるという事態は起こったものの、確かに生きている。

 

 そして今の状態の魔王は、余分なエネルギーは残していない。おそらく知性を除ばほぼスライム以下の戦闘力。

 

 勇者とエンカウントすれば、一瞬でやられることは自覚していた。

 

(やれやれ・・このまま人ごみに紛れるというのも手ではあるがねぇ・・しかし、、)

 

 自分をあそこまで追い詰めた優斗。

 

 その仲間が、そう簡単に見逃してくれるとは思えない。

 

(なら、残る手は、、)


 魔王は、急に停止する。

 

 ここままだといずれ追い付かれるが、十分に距離はとっていた。数秒程度なら余裕はある。

 

 眼下には道路。そこには行きかう人々がいる。


(・・・)


 彼らを見て、じっくりと品定めした。

 

 食らうためではない。エネルギー補充よりも今は逃げることが先決。

 

 それよりもいい方法があるということを知っていた。

 

 そう、それは『誘惑』。

 

 魔王といえば、優斗の友人にやったように、人を悪の道へとそそのかすこと。

 

 彼は近くにいるだけで、宿屋の主人や娘を、意図せずとも邪気に充てたのだ。

 

 なら意識すればそれ以上の邪気を当てることが可能。

 

 そして、ここにきて、偶然が舞い降りる。

 

 魔王にとっては幸運、そして優斗一行においては不運な邂逅。

 

(・・ん?あれは・・)


 彼の聴覚に騒がしい複数の集団の声が届く。


「おい!アンジェリカさんとあの優斗は見つかったか?!」


「いや、いなかった。おい本当にこの村にアンジェリカさんがいるんだろうな?」


「そうだ。だから宿屋を総当たりしていけば必ず見つかるはずだ」


 その声は、かなりの苛立ち、負の感情のエネルギーが込められている。


 魔王は利用しがいのある素材を発見したとほくそ笑んだ。

 

(しかも、今優斗と言ったか・・。おそらく彼に因縁がある相手・・

 これは好都合だねぇ)


 そして、迷わず魔王の力を発動する。

 

 突然、何やら不快な感覚がそのあたりの人々を襲った。

 

「ぐっ・・!!!」


「なんだ・・?!!頭が、、!!」


 キィイイイイイインと。不快な黒板をひっかいたような音を何百倍もの増幅させたような音波。

 

 これによって、精神的な抵抗力を減らす。


 次に、唆す。

 

(優斗の仲間がもうじきこのあたりに来る・・)


「な。なんだと・・?!」


 ほとんどの人はそれが何のことだか分からずに苦しんでいた

 

 が、ある一団だけはその意味をしっかりと理解していた。


(殺しなさい)


「・・!!!」


(憎んでいるのだろう?殺しなさい)


「へ、へっへへへ・・!!そうだ・・!!そのほうが手っ取り早い・・!!」


 それで一瞬で洗脳したものもいたが、


「だがしかし・・!!」


 魔法耐性が高いのか、まだ抵抗するものもいる。

 

 しかし巧みな誘いは熟達している。自らを詐称したのだ。


(私は神だ・・!!)


「神・・?!」


(罰を恐れているのだろう?

 手を汚すことが嫌なのだろう?

 ならば、、私が全て許そう。)


「許す・・?」


(そうだ。それが世界にとっても最善なのだ)


「そういうなら・・!!わ、分かった・・!!殺す・・!!」


(さあ、貴様が憎む優斗を、、そしてその仲間を殺してしまえ・・!!)


「へへへ・・!!やってやる・・!!やってやるよ・・!!」


 彼ら、、そう『ダークブレイカー』メンバーたちは顔を見合わせた。

 

(殺せ殺せ殺せ)

 

 その眼にはもはやわずかばかりの正気も失っていたのである。

 

「お前ら!!やるぞ!!」


「うおおおおおおおおお!!!」


 わずか数秒で、ダークブレイカーは一時的にせよ魔王のしもべと化してしまったのである。

 

 彼らは狂気的な表情で、すぐさま行動を開始した。


 冒険者ゆえの跳躍で屋根へと飛翔する。


「うおっ!な、なんだ!あの集団!!」「こら!!屋根の上に上がるんじゃない!!」「へへへ、、!」


(よしよし、、)

 

 それを見て、魔王はにんまりと邪悪に笑う。

 

 だが、、

 

(でも、これだけじゃまだ不十分かもしれないね、、)


 直感的にこれだけでは足りないと感じた。


 そして、少し考えて

 

(仕方ない。アレをやるか)


 多少リスキーな方法でこの場から逃げ切る方法を選択する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのすぐあと、分散して動いていた、優斗のパーティの一人、アンジェリカ。

 

「・・・ん?!」


 彼女は急に何かを感じた。

 

 周囲には、一見何もないように見えるが、、


 そう、急に緊迫した雰囲気が流れたからである。

 

「殺気・・!!」


 修羅場を潜り抜けてきた猛者だけが分かる感覚。

 

 何者かが自分を狙っているとすぐさま認識。

 

 屋根伝いに走っていた足を止め、周囲を警戒する。

 

 視覚情報に限れば、何の変哲もない周囲の状況。

 

 だが、五感、第六感。

 

 風さえ読み、そして脚下の振動から、ここに多くの者が潜伏していることを看破。


(っ・・!!)

  

 そして、彼女は走り出し、直感的に剣を繰り出した。

 

「そこだっ!!」


 至近距離にあった樽の中に敵がいると確信し、蝶のように鋭く攻撃。

 

 バゴッ!!

 

 近接ゆえのパワーで樽を破壊。

 

 だが、内側に潜伏していたものは、その攻撃を剣ではじく。

 

「む?!」


 てっきりこの敵意は魔王の者だと思っていたアンジェリカ。


(奴は現在に限っては弱弱しいと聞いていたのだが・・!)

 

 破壊した瞬間、少なくない意気とともに攻撃をはじかれてしまったことに驚く。

 

 だが、猪突猛進にも雄叫びを上げた。

  

「魔王覚悟ぉおおおおおおお!!」


 続いて連撃を加えようとした瞬間、

 

 ガキィイイインッ!!

 

「へへへへへ、、!!」


「!!」


 再び攻撃を止められ、その者の正体に気が付いた。

 

「お前ら・・?!」


 それは、久しぶりに再会した仲間。


「探しましたよ、、、アンジェリカさん・・!!」



 それ皮切りに、周囲からぞろぞろと現れた『彼ら』。

 

「何故ここに・・!!」

 

 そう、彼女が今、目の前に見ているのは、ダークブレイカーのメンバーたちだった。

 

 つまりアンジェリカの元いたパーティのメンバー。

 

 今は脱退したとはいえ、気の合うメンバーだったものたち。

 

「ぐへへh・・!!」


「うっへっへへへ・・」


「なっ・・?!!」


 だが、彼らは過ぎし日のことなど忘れたかのように、目を濁らせてこちらを見ていた。

 

(なんだ・・?!これではまるで、盗賊のようだ・・!!)

 

 当時信頼できたものたちの狂気的な仕草に困惑する。

 

 しかしすぐに気が付いた。

 

 相手は普通の者ではないということに。

 

「まさか、お前ら・・!!魔王に操られて・・!!」


「くっくく、魔王?誰ですか?そんな人に操られた?

 関係ありませんよょぉ・・!ここにいるのは私たちの意志です」


「くっ・・・!!」


 それに言葉を返したのは、ジョセフだった。

 

 彼はアンジェリカさんを一番信頼し、または信仰しているものの一人。

 

 当時から抜きんでて強く、そして司令塔としてのカリスマもあることから彼女が抜けてからはリーダーをしている。責任感も人一番強いはずだった。

 

 だが今の姿を見てアンジェリカは少なからず動揺する。

 

「アンジェリカさぁん、何で俺たちを置いていったんですかぁ・・?!」


 そう言い、ゾンビの酔うん移ろな目でこちらによって来る。

 

「なんで俺たちを見捨てたんですかぁ・・!!」


「・・っ!」


 彼女は思わず目をそらした。

 

 相手が気持ち悪いからではない。それは自責の念である。


(振り切ったはずだった・・!!

 

 どれだけ恨まれようとも迷わないと決めたはずだった・・!!)

 

 彼らのその狂気に充てられたのか、彼女は口ごもる。

  

「私は、、私は・・!!」


 その隙を狙って彼らは同時に動いた。


「そうだ・・!!あなたを殺せば、、!アンジェリカさんはずっと俺たちのもの!!」


「!!」


 あまりにも突拍子もない論理の飛躍に、動揺する。


 そして、その隙を狙い

 

 彼らは同時に切り込んできた。


「さあ!アンジェリカさん!!俺たちのために死んでください!!」


「俺たちもすぐにそこに行きます!!」


「クソ・・っ!!」


 アンジェリカは十全に戦えない精神状態のまま、1体多の乱戦が始まったのだ。

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