衝突 優斗VSポチ
時は、魔王とポチが宿に戻ってくる直前、
ポチと合流を待つ間、宿の夕飯をいただきつつ、僕らはくつろいでいた。
しかししばらくしてふと、
「・・・・!!」
突然奇妙な感覚に陥る。
「・・・っ!!?」
それは危険信号。
第六感ともいえる何かが危険を告げていたのだ。
その正体を探ろうとする。が、そのまえに
ガララ・・と。
扉が開いた。
咄嗟に振り向く。
「!」
そこにはポチ。
久しぶりの顔だ、本来なら彼女と再会を喜ぶべきなのだろう。
だが、後からその背後に現れた姿。
覚悟はしていたが、それを見て僕は少なからず衝撃を覚える。
(~~ッ!!!)
そう、半信半疑だった。
宿の主人から、彼の名前を聞いたとき、別人かもしれないという思いもあった。
しかし目の前に『それ』は、僕が知る唯一の友人にうり一つ。
彼が復活したとは何故かみじんも思わなかった。
こう直後に直感したからだ。
「(魔王・・・っ!!)」
それは、前に邂逅した時ほどの圧倒的な邪気はない。
しかし、僕は何故か確信できた。
世界規模の災害の権化。
そう、直後に行った行動は、、
(縮地・・・!)
反射的に、ほぼその姿を確認すると同時に、
跳躍した。
それは常人にはほぼテレポートと言っても良い瞬間行動だっただろう。
完全なる不意打ち。
ある程度の強者であっても、その一撃で倒す自信はあった。
だが、相手は魔王。
予想だにしない動きをしてくる。
そう、それは、ぐちゅっ、と。
「!」
友人の姿の魔王。
その完璧な造形である人型が変形した。
内側から爆発するかのように触手と思しき形状が飛び出て、
接近とほぼ同じ速度で後方へと跳躍したのである。
後から思い返せば、それはグロテスクな光景だっただろう。だが、
(逃がすかっ!!)
その冒涜的な変形にも関わらず、一切精神的ショック、迷いを生じなかった。
その勢いのまま、僕も同じように跳躍。
正面の屋根まで到達し、また跳躍して前進する。
その間にも魔王の姿を目でとらえていた。
あれを放置しておけばこの世界自体が崩壊するのだ。
建物間を駆け、追跡する。
僕は目で魔王の姿を追いつつも、屋根づたいに直進。
(・・・そろそろ仕掛けるか)
達人や、未知数の相手に対し、攻撃をこちらから仕掛けるタイミングは、いつでもいいというわけではない。
隙や、呼吸の間。
そんなものが魔王にあるのかわからない。
が、できるだけ不意を突くように、最低でも攻撃の予測をされないように、突然僕は動く。
瞬間的に、金属生成でナイフを生み出し投擲。
シンプルで使用頻度の多い汎用的な行動ゆえに、極めるべき攻撃行動の一つだ。
魔法の存在しない世界なら、空中に居る相手は回避不可能。
だが、魔王は魔力を使い空中を疾走しているようだ。
無論この程度なら避けられるだろう。
だが、そのスピードから、魔王の回避行動を予測。
その未来の幻視目掛けて、マシンガンのごとくナイフを射出した。
だが、不定形の異形。
無数のナイフの雨に対し、網目状になって全てを回避した。
それなら好都合!
ノーダメージだが、それにより注意力を消費させたことは事実。
跳躍、接近。
接近し、一定の隙を見せてしまいさえすれば、
魔法で焼き尽くす。ただそれだけのシンプルな攻撃。
それは、高コストの魔力を消費し、お世辞にもコストパフォーマンスの面から優秀とはいえない
が、単に火力だけを求めるのなら最高の手札だ。
先ほどのナイフの投擲が線的な攻撃だとしたら、この攻撃はまさしく空間的な攻撃。
逃げ場などない。
触れたら即アウトの空間を、魔王の周囲に広々と現れるようなものだ。
間合い1m圏内に入り、それを今まさに作ろうとした。
「ファイ、、、」
確実に取った。そう実感を受けるその寸前だった。
シュンッ
「っ!」
わずかな、しかし鋭い空気を切る音。
そして背後から急速に接近する殺気。
重要な瞬間において、なんというカウンターだ。
このまま押し切ることも選択の内ではあるが、直感からその一撃は命すら危ういと判断。
ゆえに魔法を中断し、反射的に後ろ手に剣を生成して防御するほかない。
「ガるっ!!」
ガキッィイイイン!!
「っ!!?」
と、同時に、背後の人物に少なからず驚愕を覚えた。
今の攻撃を邪魔した背後の闖入者。
(まさか、、君が)
先ほどの雄叫び、そして今の一撃によって、視覚的に認識せずとも、誰だか瞬間的に判断できた。
続いて、、その相手は連撃。
「ガるっガるっ!がるっ!!」
ガキンガキンガキィイイン!!
一撃一撃が見事な攻撃だ。
振り返りつつ剣で受け止めながら、両者同時に落下。
そのまま地上の建物の屋根の上へと着地。
目の前にいたのは、まごうことなき僕の弟子、、
「ガルルウルルルルルルルルッ!!!」
ポチだった。
僕とポチは、建物の屋根の上でにらみ合い、対峙していた。
その間にも魔王は逃げていくのだろう。
だが、魔法は中断されたものの、多少のダメージを魔王に与えることができた。
今ので、このまま追跡していけば、確実に取れるだろうという実感ができている
問題は、目の前の彼女だ。
最初、ポチは洗脳されているのかと最初は思った。
「・。。。」
「ガルルルルルr・・!!」
だが、そうではないようだ。
背後を振り返りその表情を見てみると、そこには確かな覚悟と気迫あった。
はっきりとした意識を感じる。
もし魔王が洗脳を施しているのなら、こんな表情にはならない。
つまりこれは彼女が自身の判断で行っている妨害。
(そうか、、彼女は奴が魔王だと知らない・・?)
そう思い、手短に告げる。
「突然びっくりしているかもしれないが、彼は魔王。
僕はあいつを倒さないといけない」
「っ!!」
その言葉に対し、彼女は一瞬わずかに動揺するも。
「ガルルルルル・・!!」
「なっ・・!」
そんなことは分かっているという風に、依然、彼女は低い唸り声をあげていた。
きっと気配から彼女は奴が魔王だと理解していたのだろう。
そのうえで行動を共にしていたのだ。
その理由は、、考えるまでもないだろう。
(分かっていながらなお・・!!)
ならば少し脅かしてみる。
「・・これ以上邪魔するっていうのなら、冗談じゃ済まさないよ?」
「っ!!」
一瞬の余談もゆるさない冒険者ならば当然のごとく身についている危険予知。
それを利用して戦いの意思を持つことで彼女だからこそ冗談ではないことが伝わるであろう。
彼女は一瞬の迷い。
だが、すぐさま、戦闘態勢になったということが気配で分かった。
「そうか、、それじゃあ、、戦うしかないようだね」
魔王は僕らから遠ざかるのを気配で察知できる。
これ以上の問答など時間の無駄だろう。
「良いんだね。命の保証はないよ?」
「ガるっ!!」
戦うしか手段はない。それがたとえかつての仲間だったとしてもだ。
そして僕は懐からあるものを取り出す。
後にして思えば、それがこの状況を解決するための最良の手だった。