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二度目のエンカウント



 

 

 

「はぁっ・・!はぁ・・!!」

 

 獰猛な目、それは殺意しかしらないような目だった。

 

 一般人ならば見ただけで震えて動けなくなるほどの猛獣。

 

 ダンジョンにて、それに彼女は対峙していた。

 

「くっ!!」


 先ほどから彼女が避けているのは、飛んでくる爪。


 それは一撃かすっただけで致命傷をもらうほどの毒がある。

 

 その鋭く、風のような攻撃を回避できる冒険者は多くはない。

 

 縦横無尽に動くその攻撃の一つを、彼女はそれを伏せの状態でしゃがんで回避する。

 

 紙一重の回避。高いステータスと集中力が無ければこの一撃で多くの者は沈んでいただろう。

 

 そして同時に一瞬も警戒を緩めることなく反撃のチャンスをうかがっていた。

 

(いける・・?!いや・・!)


 目の前の凶悪なモンスター。全身兵器のドラゴンは、顔を上に向けてための動作を作った。

 

(ブレス・・!!くる!!)

 

「ぐぉおおおおおおおおお!!!」


 その嵐のような叫び声とともに竜巻のブレスが周囲一帯を覆った。

 

「くぅ・・!!」

 

 反射的に最も安全な斜め前の方向へと飛び出す。

 

 それでもその風のブレスは斬撃の属性があり、細かい切り傷を数多く彼女に残した。

 

 だが、この死亡ぎりぎりの決死の回避行動は、同時に彼女にチャンスをもたらす

 

 普通ならばこの死角にたどり着くことは困難だっただろう。

 

 恐怖を超越したその回避によってたどり着いた致命的な隙に、彼女は獣人としての本能で到達する。

 

 そして、、

 

「ガるっ!!」


 一瞬獣のような獰猛な唸り声をあげて、彼女は空中で体感をひねり、ドラゴンの首元へと着地する。

 

 即座に首に牙を突き立てた。

 

「ぐぉおおおおおおお!!!


 ドラゴンはそれを振り払うように動かす。数秒文字通り食らいついている

 

 が、とうとう根負けして彼女は放り出された。

 

 ダンジョンの端に激突寸前に体制を立て直し壁に着地。

 

 そして、同時に富んできた爪の攻撃を回避、同時に着地した。

 

「!!」


 その瞬間、彼女は手ごたえを感じる。

 

 理由は、今のドラゴンの爪の攻撃が先ほどと比べて鈍かったということだ。

 

(効いている・・!確実に・・!!)


 そして再び彼女は一撃でも貰ったら即死の爪撃の中を動き回る。

 

 ドラゴンにもダメージが溜まっているとはいえ、それは普通ならば、精神力を多大に消費するものだ。

 

 だが彼女はそれでも必死に戦い続けている。

 

 いや、今だけではない。

 

 そう、彼女はここ数か月、ずっと自身の身の丈に合わない、高レベルダンジョンやボスに挑戦していた。

 

 無論彼女は生粋のバトルジャンキーでもない。

 

 それなのになぜ彼女はこうまでして戦っているのか・・・。

 

 その答えは単純明快だった。

 

 彼女と同行している彼が、そうしろと命令したからである。

  

 『奴』は、そのボス部屋の入り口付近で、壁に背をもたれたたずんでいた。

 

 そしてつぶやく。

 

「うん、いいね。あと少しだよ」

 

「はい!ご主人様!!」


 獣人の敏感な聴覚は、その言葉を聞き取り、彼女は元気よく返事をした。

 

 そう、彼女、元奴隷の獣人ポチは、『ご主人』ともに冒険者をしていたのだ。

 

 優斗の友人。

 

 数か月前、怪物のまま死んでしまったはずの彼は、

 

 不気味にほほ笑んだまま彼女と行動を共にしていた。。

 

 

 

「今日はとても強いモンスターを狩ることができましたね!!」


「うん、そうだね。ご褒美になでなでしてあげよう」


「えへへ・・」


 彼らは外側から見れば仲睦まじい光景だった。

 

 

 しかし、ポチは気が付いている。

 

 頭の片隅に気が付いている。

 

 匂い、あるいは魔力など、信号は多く発せられていた。

 

 獣人故、そういった感覚に鋭敏な彼女が気が付かないはずがない。

 

 だが、、それは彼女にとって都合の悪い真実。

 

 欲しいものは元の平穏な生活。

 

 ご主人様とともに会話し行動すること。

 

 既に彼女は孤独な生活を嫌というほど経験していた。

 

 この数か月。胸のもやもやが無くなることはなかった。

  

 あの生活に戻るくらいなら、この違和感を隠し通している方がよい。

 

 そう無意識に計算していたのだ。

 

 

 

 だが、時たま主人の不審な行動に不安になることがあった。

 

 それは、夜のこと。

 

 いつものように、彼女は床で寝ている。

 

 時は丑三つ時、ふと、何の突拍子もなくベッドで寝ているご主人が起きた。

 

 そしてどこかに行ってしまうのである。

 

(なんだろう・・?)


 最初はあまり気にしていなかった。

 

 トイレにでも行ったのではないかと思っていた。

 

 しかしその翌朝驚愕する。

 

「ん?なんだい?」


「い、いえ・・!なんでもありません!!」


 急いでその表情を隠した。

 

 脳内で不審なアラームが警報を鳴らす。

 

(血の匂い・・!それも人の・・!!)


 一発や二発殴っただけじゃここまでの匂いにはならない。

 

 まさしく全身に浴びたように彼の全身から鉄の匂いが漂っていた。

 

 動揺して思わず聞いてしまう。


「あの、すいませんご主人様、昨日の夜、どこかに出かけましたか?」


「・・いや、どこにも行っていないよ」


 『ご主人様』は平然としている。

 

 それはその日のことだけじゃなかった。

 

 それから数日おきに、彼は夜にどこかに出かけ、翌日血の匂いがするということが起きたのである。

  

 恐ろしかった。

 

 だからこそ、

 

 別の丑三つ時。

 

 むくっといつものようにベッドから脈絡なく起き上がるご主人。

 

 それに対し、勇気を出して声を振り絞る。


「あの、、」


「!……なんだ。ポチか」


 ご主人様は振り向く。


 その顔を見て、彼女が抱いた感想。

 

 人の形をしているにもかかわらず、人らしさが一切消えていたのである。

 

 まるで肉のミンチを加工して人型にしたかのような、人ならざるものにしか出せないオーラ。

 

(殺される・・!!)


 そう気配から察してしまう。まるで化物と鉢合わせしたかのような感覚。

 

 だが、その恐怖とは裏腹に、ご主人はベッドへと戻っていく。

 

 「いや、何でもない」

 

 そして、何事もなかったかのように寝てしまった。

 

(な、なんだ・・!良かった・・!やっぱりトイレか何かだったんだ・・!!)


 そう意識の上では安心したポチ。

 

 だが、そう感じているのならば、その体の震えはどう説明するのだろうか。

 

 本当は分かっていた。

 

 この人間は、元のご主人様ではないということに。

 

 世にも恐ろしい何かになってしまったということに。

 

 ずっと気が付かないふりをしていたのだ。

 

 



 ーーーーーーーーーー




 

 そしてーーー、ポチと優斗一行は出会う。

 

 

 優斗たちが、ポチの止まっていた黒の蝙蝠亭を発見し、合流しようと入り口すぐの食堂で待機していた。

 

 ポチはその日も同じことをしたところだった。

 

 普段と変わりなくドラゴンなどの強モンスターの素材をギルドに売る。

 

 彼女はまだ何も知らずにパートナーに嬉しそうに語り掛ける。

 

「今日もたくさん強いモンスター倒しましたね!ほら、こんなにお金もたくさん!!」


「よくやったぞポチ。それでこそ俺の奴隷だ。エネルギーも順調に回復しているぞ」


「えへへ・・!私がんばりますっ!」

  

 弱い彼女の精神は、今日までそれに頼るしかなかった。

 

 それは偽りだとしても、幸福な時間。

 

 

 

 だが、唐突にその終わりはやってくる。

  

 話ながら宿へと帰ってきた二人。


 そしてガララ、と。

 

 彼女は自ら宿の扉を開けた。

 

 同時に宿の主人が彼女を見つけ、

 

「おっ。、帰ってきたか」


「?」

 

 始め、主人の反応がいつもと違うことに気づく。。

 

 彼はここ最近いつも調子が悪そうに突っ伏していたのだ。

 

 だが、今は何故かいつもより元気そうだった。

 

 彼は多少けだるそうにも背後を振り返り食堂の机のほうに威勢よく声を掛ける。

 

「おーい!帰ってきたぞ」


「・・・!!」


「お前らの知り合いって言う期待の新人の到着だ」


 そこで初めて気が付いた。


 何となく懐かしい匂いはしていた。

 

 だが、数か月ぶりの再会。

 

 すぐには彼とは気づかなかった。

 

 その時初めて奥に居た一行に気が付く。

 

「・・!!」

 

「ゆ、ゆうとさん・・!!」


 本人と目が合う。

 

 優斗を視界から外してはおらず、瞬きもしていない。

 

 だが、それでも、

 

「っ!?」


 姿が消えた。


「(・・・いや・・?!)」


 すぐに思い直す。彼の熟達したスピードを。

 

 今は戦闘状態ではない。


 しかし持ち前の獣人の洞察力で以てして、残像を捕らえていた。

 

 姿が消えたのではない。優斗は超高速で移動したのだ。

 

 そして、その軌跡がどこへと行ったのかも同時に察知する。

 

 一瞬の風のような姿の残像が、自分の横を通り過ぎ、

 

 そして、、

 

 自らのご主人へと迫っていく。

 

(なっっっ?!??!!!) 


 咄嗟のことゆえに、一瞬遅れてやっと認識できた。

  

 完全に『命を取る』ためにやったのだ。


 再開してから言葉を一言も交わさずに殺そうとするというのは、いささか文句の一つもつけたくなる気分ではある。

 

 しかし無理もないだろう。彼女の主人はそれだけのことをしでかしたのだ。

 

 問答無用で殺されたも文句を言えない立場に彼女と主人はいる。

 

 だが、問題は彼女はどうするかだ。

 

 つまり、今、優斗が主人の敵に回ったこの瞬間、

 

 ポチはいったいどちら側につくのか。

 

 優斗も自信を救ってくれた恩人であり英雄、、たいしてご主人様はただの犯罪者。・・。

 

 いや、判断するまでもなかった。

 

 彼女は自らの主人に付くために加勢するつもりだった。

 

 ポチはそう瞬時に決意すると、すぐさま振り返る。

 

「ご主人!!!!」

 

 だが、しかし、振り返った先に、ご主人も優斗の姿も見えない。

 

「(消えた・・・?!いったいどこへ、、)


 その数舜の迷いは、彼らの戦いのスピードにおいて、致命的なタイムロス。

 

 獣人とはいえ、常に匂いに気を付けているわけではない。


「(においを追うんだ!!)」

 

 と、気が付いたころには、既に周囲にご主人や優斗の匂いの残滓しか残ってはいなかった。

 

「ご主人様っ!!」


 すぐさま四つ足になって匂いの残滓を追っていく。

 

 地面を蹴り、建物の屋根へと一足で飛んだ。

 

 そこで初めて他のメンバーたちは行動を開始した。

 

 ちょうど食事をしていた東堂が、スプーンを投げ捨てて叫ぶ。


「皆!!あいつを追え!!」


 それに対し、あまりにも悠長に西園寺が尋ねる。

 

「え?ちょっと何事?」


「良いから!!」


 と、ここで彼女はこの場で最も頼りになるであろう彼に指示を仰ごうと横を向くが、


「って、優斗さんもいない?!」


 魔法使いよりも瞬発力を求められる近接系の職業のほうが速度をとらえる力が高い。

 

 近接剣士職業の東堂が、すぐさま今起こったことを理解して周囲に行動を喚起させる。


「あの子の後ろにいた奴が魔王だ!!

 優斗さんはあいつを倒すために飛び出していったんだ!!」

 

 それに対して、すぐさま動いたのはマージョリーとアンジェリカだった。

 

「そのようね・・!!行くわよ!あんたたち!」


「くそっ、私としたことが、、!!街中とはいえ完全に油断していた!!」


 追随して、ドタバタと勇者たちも少し遅れで蝙蝠停を後にする。

 

「・・・一体なんだ、あいつらは・・」


「色々あるんでしょ」


 宿の主人に対し、その娘が軽く言う。

 

 が、しかし、この事件は彼女が思っているよりもずっとギリギリな戦いだったのだ。



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