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蝙蝠亭での聞き取り

 

 

「ふぅ、やっと次の町が見えてきたな」

 

 僕らはとある小国に来ていた。

 

 そこは、この旅で訪れた他の国とあまり変わったところがない。平凡な都市だった。

 

 しかし、それを見た瞬間、第六感が警告を出す。

 

「‥‥…?」

 

「どうかした?優斗?」


 僕の不穏な表情に気が付いたのか、マージョリーさんが尋ねる。

 

「いや、気のせいかな?今何となく嫌な予感が、、」


「まさか…!!魔王の気配?!」


「なんだと?!」


 その彼女の言葉に、他のパーティメンバーも色めき立った。

 

「各自警戒態勢に入れ!」


「りょーかい!!」


「背中は任せたぞ!」


 何やら大事になっているが、そんな彼らを静止する。

 

「いや、ちょっと待ってください。特に理由は無いんです。邪気も特に今は感じませんし、、

 何となく危険が迫っている気がするってだけなんです」


 しかしマージョリーさんは一向に険しい表情を解かない。


「いえ、優斗は普通の人じゃないわ。こういう時の彼の勘は当たるのよ。

 案外あの国に魔王がいるかもしれないわよ」


「ですが、、、」


 杞憂の可能性もありうるのだ。


「もー!どっちなのよー!!」


 南雲はじたばたと手足を動かすが、マージョリーさんは言う。


「……だったら、一応この村はいつもよりも長く滞在しておきましょう。いいわよね?」


「賛成!!」


 要らぬ心配をかけてしまったかもしれないが、この時の直感はのちにして思えば勘は当たっていたのだ。

 

 このあと数時間後に激闘が始まるなど、予想していなかったのである。





 その後、何事もなく無事入国を済ませ、町の中心通りを歩いていた。


 店が多く並び人々が行きかっている。


 夕焼けで染まり、これから夜の顔を覗かせようともしていた。


「優斗、魔王の気配を感じる・・?!」


「いや、感じない」


 もしかして、一か月の疲れがたまっていたのだろうか。

 

 だが、まだ危機感は残っている。

 

 ともかく、今日はもう夕暮れだ。宿をとりたい。

 

 僕はすぐ近くにいた八百屋の主人に近づいて、品物をいくつか手に取った。

 

「あの、すみません。これとこれください」


「あいよ!アボガドロとゴリゴリンで1800ゴールドね!」


 それらは異世界特有の果実でだいたい元の世界でもおなじみの果実にどことなく似ている。

 

 僕は自分のアイテム袋から硬貨を取り出して手渡した。


「どうぞ」


「1800ゴールドちょうどね!!」


 威勢よく愛想も良い。この人なら快く教えてくれるだろう。

 

 そう思い僕は尋ねる。


「ところで、、ここらで一番いい宿はどこですか?」


「そうだな!!それは黒の蝙蝠停かな!!

 飯もうまいし、ベッドもふかふか!!風呂もある!」

 

 風呂、この異世界にも風呂はあるが、全ての宿にあるわけじゃない。

 

 それを聞いて勇者たちは喜びの声を上げた。

 

「おー!!風呂もあるのー!?」「良さそうだなそこにしよう」「冷たい水浴びしなくていいわね」


 それを聞き八百屋は機嫌よさそうにした。

 

「おう!俺の知り合いの宿だからよ!!」


「それでは、どうもありがとうございました」


 ちなみにこのやり取りは、この旅においてルーチンワークとなっていった行為。

 

 宿と一言で言ってもピンきりだが、夕方で早く宿を取りたいときもある。


 そういう時はお金を払ってお店の人に聞くというのが手っ取り早い。

 

 他にも宿の情報が欲しい冒険者は山ほどいるからだ。相手にとっても良い小遣い稼ぎになるのだろう。


「それじゃあさっそく行こっか!」


 そう言われて、僕たち一行はその場を後にしようとした。

 

 だが、後ろから八百屋とは別の人の声がかかった。

 

「おい、ちょっと待てぃ」


「?」


 振り返る。その声は、隣の魚屋の主人の声だった。

 

 ぶっきらぼうに僕たちにこういう。


「今、蝙蝠停は評判が悪いぞ」


「おい!バカ!何言ってんだよ!黙ってろって言ったろ!!」


「俺は嘘はつけねぇ」


 八百屋が慌てて否定している。焦り方からして何か隠していることがありそうだ。

 

 それに対し西園寺は厭味ったらしくいった。


「なーに?おっさん。私たちを騙そうとしていたってわけ」


「そ、そんなことないぞ!!蝙蝠停はいい宿だ!多分な!!」


「なーんか怪しいわねぇ」


「蝙蝠停はやめておきますか?優斗様」


 アンジェリカたちは僕に尋ねた。


 だが、僕は行くか行かないかよりも疑問に思っていることがある。それは動機についてだ。


「いえ、でもなんで見ず知らずの八百屋が、我々を騙す必要があるのですか?」


 正確な情報を調べておく方が、長期的に見て儲かるはずなのだ。信用が揺らいでは商売もできないだろう。

 

 そのことを言うと皆納得して八百屋に向き直った。


「確かに、どういうことなの?八百屋のおっさん」


「う・・・わ、分かったよ」


 大勢に睨まれて、八百屋は白状する。


「実は、、俺の友達って言ったが、最近経営がうまくいかなくて困っているらしいんだ」

 

「それは、自業自得じゃないの?」

 

「いや、違うんだ。それが原因が全く分からないらしい」


「はぁ?どういうことなの?」


 その時、僕は何となく先ほど感じた嫌な予感が反応したように思えた。


「……何か引っ掛かります」


 そのことを調べなければならない。僕はそう感じたのだ。


「優斗殿、それでは・・」


「ええ、今日はそこで泊まりましょう」








「ここが黒の蝙蝠停か」


 八百屋に教えられた道の通りに進む。

  

 大通りから少し離れたところにその宿はあった。八百屋から十分もかからないだろう。

 

「少しさびれているけど、隠れた穴場って感じね」

 

「とりあえずは言ってみましょう」


 扉をガララと開ける。

 

 すると、大抵は威勢のいい主人や娘が出迎えてくれるものだが・・

 

「はぁ・・・」


「……?」


 そこにいたのは、カウンターに突っ伏している主人と、だるそうに床の掃除をしている従業員の女の子だった。


「あ、あの~」


「あっ!!いらっしゃいませ!!」


 彼女は小走りするとカウンターの大人を揺り動かす。


「ちょっと!お父さん起きて!!」


「むにゃむにゃ・・はっ!」


 彼は僕らを見て顔を輝かせた。

 

「今月に入ってこれは、、初めてのお客だ・・!」

 

「良かったわね!!六人の冒険者のお客様よ!!」

 

「さあどうぞ歓迎しますよ。何泊のご予定ですか?」


「はい、、とりあえず一週間分で、、…」


 僕はお金を払いながら、気になっていたことを尋ねた。


「ここに来る途中、八百屋さんに聞いたのですが、この宿、最近経営不振みたいですね」


「ん?ああ、あいつに聞いたのか。

 そうなんだよ。あるときを境に、急に俺の宿に客が寄り付かなくなって、、」


 その娘も横からそれにこたえてくれる。


「そうなのです。理由を聞いてみたのですが、何故か疲れが取れないとか嫌な感覚がするからとかで、、」


「そういえば、俺たちもここ最近毎日憂鬱だよな。

 ひょっとして、商売敵のデマとかじゃないのか?」


 どうやら八百屋が言っていた通り、この宿に何か異変が起こっているらしい。

 

 その原因を探るために月並みに彼らに聞いた。

 

「最近、何か変わった出来事はありませんか?」


「無いな。だが、考えられるのは十中八九魔法や魔道具だろ?

 別にそんなことをした覚えは、、おいお前、最近お小遣いで何か変な置物とか買ったか?」


「そんなことしないわ。部屋もいつもと変わりないわよ。ベッドメイキングや掃除もちゃんと完璧にしているわよ」


「そうか、お前がそういうなら・・」


 彼らの話を聞くに、部屋のレイアウトが原因ではないらしい。

 

 だが僕はもう一つの有力な可能性を提示する。


「では、、何か不審なお客は止まりませんでしたか?」


「不審、不審か……ん?待てよ?」

 

「お客・・あ、そういえば、、!」


 彼らは何かに気が付いたらしい。

 

「どういったお客で?」

 

「いや、違うんだ。不審というには違うと思うんだが、変わった人、、というより有名人かな」


「有名人?」


「今、この宿に、今噂の冒険者が泊っているんだよ」


「噂の冒険者・・?」


「それって、、」


 それを聞いていた南雲が前に出て、無邪気に聞いた。


「それって私たちや優斗くんよりも!?」


「ん?お前ら有名人なのか?」


「・・・!」


 それと同時に、、宿の娘が口を押えた。

 

 今気が付いたという風に目を見開きながら

 

「あなたたち、、もしかして勇者なの!!」


「そうだよ~!えっへん」


「それに優斗って、もしかしてあの、、」


「お前が優斗か?!あの魔王殺しの・・!!」


「ええまあ、、」


 僕はあいまいにうなづいて置いた。それよりも今は彼らに話を聞くことが先決だからだ。


「その話はあとでしますので。

 それより、その有名人っていうのはいったい・・?」


「いや、あんたや勇者さまよりも有名ってことではないんだ。世界を救うとかそういうわけじゃなくて、あの子は一般冒険者でしかない。

 ただ、そいつはかなり年端もいかない子供なのに総統強いって話なんだ」

 

 それに娘も同意する。 

 

「若いのにドラゴンまで狩っているって話らしいわよ」


「ドラゴン、、確かにそれは強いですね」


 低位のものならば、僕らのパーティならば誰か一人でも狩れるだろう。とはいえ、それは百人に一人いるかどうかの稀少な冒険者だ。

 

 それが子供というのならなおさら有名になってもおかしくはない。天才と言ってもいいだろう。

 

「その冒険者がこの宿に泊まっている、と」


「ああ、最初は宿に拍が付くかと思っていたんだが、、だが、、」


 宿の主人は信じたくないという風に目をそらしていった。


「そう、確かに、あの子が宿に泊まってからおかしくなり始めたんだ」


 それに反対するかのように娘が言う。


「え?でも彼女は、そんな悪そうな子じゃなかったような…」


 二人は困惑しているが、主人のほうがしばらく考えて

 

「でもよ、実際それしか原因は考えられねぇぜ」


「うーん、、」


 しばらく彼女は考えた後、


「いえ、待って、、!おかしくなったのは、正確にはあの子が男を連れ込むようになってからだわよ!?」


「た、確かに、それにあの男・・かなり胡散臭い笑顔だった・・!!」


「もしかして、、俺たちの宿がこんな風になったのは、」


「あの獣人のツレのせいだってことか!?」


 結論が出たみたいだ。

 

 しかし、僕は彼が言ったそのひと単語がやけに気になった。


「……獣人?」


 年端もいかぬ子どもの獣人、そしてドラゴンを狩れるほどの実力の持ち主。

 

 この情報から、瞬間、僕はある人物の顔を思い出していた。

 

「もしかして、その子、自分の名前をポチって名乗ってませんでしたか?」


「ああ、そうだけど、、」


「「っ!」」


 僕、マージョリーさん、アンジェリカが同時に表情を驚きへと転じた。

 

「あの子、ここに来ていたの・・?」


「私たちの拠点からずいぶん遠いところですが、、何故ここに・・?」


「なんだ、知り合いだったのか?」


「ええ、僕の弟子なのですが、、」


 嫌な予感がする。その正体の尻尾をついに見つけたようだ。

 

 不穏、だがたどらなければならない。


「でもそんなことより、もう一人の男の名前を教えてください」


「ああ、そいつは確か・・」


 そして主人の口にした名前は・・・

 

 

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