共同開発
そして、魔王捜索の旅が開始して、、だいたい一か月がたった。
周囲の草原や森、ダンジョンをめぐりつつも、村をいくつか見て回る。
結論からいえば、魔王は見つからなかった。
しかし、ダンジョンボスなどと言った強いモンスターたちと戦った経験は残る。
平均レベルも上昇し、パーティの連携もさらに上達した。
さらに、僕は新しい道具の生成を行っていた。
例えば、、
「それにしても、この金属の馬車?、すごいわね」
僕たちが乗っているのは、既に出発からレンタルしてきた馬車ではなかった。
東堂が、キラキラとした目でこちらを見ている。
「まさか、魔石で動く魔道具を作り出してしまうだなんて、すごいですよ優斗さん!」
そう、これは元の世界でいう自動車のようなものだ。
夜の休憩時間を利用して、少しずつ作り上げたのである。魔石を原動力にして動く。
その速度は馬車よりも早い。輪っかの乗り物と匹敵する速度なのだ。
さらにはサスペンションにより馬車特有の振動が少なく、音も小さい。
まさに僕らの旅にピッタリの乗り物と言えた。
これからはこいつで快適に移動できるだろう。
その銀色のツルツルしたフォルムはなでて、西園寺は魔力を目に集めながら言った。
「何やら複雑な魔法陣が使われているみたいだけど、、あなたにそんな才能があっただなんてね」
「もしかして、攻撃力以外なら私以上なんじゃないの~?」
南雲はそう言って小突くが、しかし少し彼女は勘違いしているようだ。
「いや、買いかぶり過ぎだよ。こんなものを誰の助けも借りずに作れない。
魔法陣についてはマージョリーさんのおかげだよ」
しかしマージョリーさんは首を振る。
「いえ、私がやったのは、優斗が貰ったあの武器を解析しただけだけどね」
そう、彼女に王様から貰った武器を一部解析してもらったのだ。
あの武器はいわゆるオーパーツのようなもので、高度な魔法が使われているのだ。
その機能の一部を組み合わせ、エンジンを魔石で動かすことに成功したのである。
彼らはこの乗り物をいたく気に入ったらしく、褒めることをやめない。
「でも、それにしてもすごいですよ優斗さん。
これだけのものを一か月程度の旅の片手間に作り出してしまうだなんて、人間業じゃありませんよ!」
「そう言ってもらえてうれしいよ。でも、、」
いい機会かもしれない。
僕はこの車の開発の経緯を伝えることにした。
「実は、もう一人協力者がいるんだ」
「え?誰誰?!」
「えっと、君たちにとってもよく知っている人なんだけど・・」
その時である。
グォオオオオオオ!と、
移動する進行方向から、威圧感とともに鳴き声が聞こえた。
「・・・っ!」
「敵か!!」
モンスター、旅をするものならば、常に警戒しておかねばならない存在。
森やダンジョンなどと比べそこまで多くないとはいえ、無論旅道にも出現する。
キキーッ、と車が急停止した。
「よし来た!行くぞ皆!」
「私もやるー!」
「はいはい」
さっそく勇者たちが車から降り、対応しようとしたのだが、、
「ちょっと待って」
僕は彼らを手で制した。当然きょとんとした顔で尋ねられる。
「?どうかしましたか?」
「この程度なら、、この車に搭載されたあの機能で片が付くと思う」
「あの機能?」
僕は腰からあるものを取り出して
「頼めるかな」
「……!」
『彼』も理解した。
するとともに、僕らが乗っているその車のサイドがパカッと開いた。
「っ?!」
そして、中から小型犬サイズのものが空中へと飛び出したのである。
ウィイイイイイン
「うわっ!!なんだ?!」
それは、小さな風きり音を鳴らしながら、モンスターの方向へと前進していく。
ガウウウウウ?!
見たことのない物体なのだろう。
獣型モンスターはそれに対し戸惑っているようだ、
「あれは・・ドローンか?!」
そう、東堂の言う通り、これがこの乗り物に付属している武器、ドローン。
風きり音を出しながら、モンスターの爪の射程内に入らず、その外側から
パァン!!パァンパァン!!
と、青白い魔法球を放った。
そう、ドローンには、初心者が使う属性魔法の杖、マジックワンドが搭載しているのだ。
その一つ一つは小さいものだが、数の暴力。
塵も積もれば式で確実にモンスターにダメージを蓄積していた。
それを見てパーティメンバーたちも様々に感想を言う。
「合理的だ。開けた場所なら汎用性が高く対応できるな・・」
「異世界で一からあんな機械を作れるものなの?!」
「すごーい!!今度乗れるやつ作ってー!」
色々と褒められているが、その機械も、『ある人物』と協力して作り出したものだ。
(よし、いい感触だ)
そう、僕たちは勇者三人に内緒で、ある計画を立てていたのだ。
「(マージョリーさん、アンジェリカさん)」
「(ええ、いいんじゃない)」
「(今がぐっとたいみんぐですよ!!)」
視線を投げかけると、彼女はそう目くばせした。
今が好機だろう。
「皆!この機械を気に入ってくれましたか?!」
「ああ!」「良いと思うわ」「やばくなーい?!」
続けて、彼らにとって驚愕の事実を口にする。
「実は、この機械は、北條四郎君が作ってくれたものなんだ!」
そう、これらの車、そしてドローン。
それの大本のパーツは、北條四郎のユニークスキル、『異世界購入』によって取り寄せたもの。
一か月前、魔王討伐のために王城から出発する前日のことを思い出す。
直接、北條君と話をしたとき魔王討伐に参加することを決意した後。
部屋から出たときだ。
「少し待ってください」
「?」
「えっと、、これを見てほしんです」
彼は懐からアイテム袋を取り出した。
それは、僕ら冒険者が誰でも常識的に持っていると言ってもいいアイテム袋だ。
人は入れないものの、見た目よりも多くの者が入る魔法の荷物袋。
何だろうと思っていると、彼は頭から袋をかぶり、、
アイテム袋の中に入っていったのだ。
「!!」
確か、それはヒトは入ることはできないはずじゃ。
驚いた。特殊な袋なのか、それともこれも彼のスキルなのか?
北條君は、袋から顔を出して言う。
「こういう風に、異世界購入スキルの応用で、自分自身がこの中に私が入ることができるのです」
「すごいな。そういうことができるのか」
「ええ、購入したものを管理するためなのでしょう」
「戦いにも応用できそうだな。待ち伏せや回避とか・・
でも何故それを僕に?」
彼は戦いには参加しないはずでは?
どうしてその能力を僕に話してくれたんだろう?
彼は少し迷ったようにしたがとうとう口にする。
「私を、、このアイテム袋ごと、連れていってください」
「!」
「私もあなたの戦いを見届けたいのです・・!
戦うことはできないかもしれませんが、、私の能力はサポートに特化しています!!
ずっと引きこもっていますから邪魔には成りません!!」
「北條君・・」
確かに、彼がアイテム袋の中に入っていれば、被弾することはない。
それに、彼がいつか復帰すれば、戦力アップも見込めるだろう。
打算ありではあるが、勇者仲間として、これは断らない理由が無いだろう。
「分かった。協力してくれてうれしい」
「あ、ありがとうございます!」
一応このことは勇者たちには伝えず、マージョリーさんとアンジェリカさんにのみ伝えてある。
「いいんじゃない?彼のスキルはかなり個性的って聞いてるわ」
「私は、異世界購入スキルで他の銃を試してみたいです!」
と 彼女たちも、喜んでくれた。
しかし、意地が悪いかもしれないが、このことを勇者たちには伝えていない。
色々と彼らは北條君に対してよくないイメージを持っているからだ。
反対される可能性も高い。
変に伝えて何か口論に発展しても良くないだろう。
だが、だからと言って、ずっと彼のことを秘密にしているのも良くないと思っている。
彼のことを明かすには、もっとタイミングというものがあるはずだ。
その打算も含め、道中、北條君と色々と戦闘用などの道具について共同開発を行ってきたのである。
そうして完成したその成果をみんなの前に見せれば、彼らの評価も逆転するのではないか。
そして、実際の結果は、、
「まじかよ・・北條四郎、まさかあいつがこんなものを・・」
「ふん、腑抜けかと思っていたけど、、少しは役に立つようじゃないの」
「すっごーい!!!」
彼らは自動車やドローンを見て驚いていた。
(よし、良い感触だ)
そう思い、僕は懐からアイテム袋を取り出す。
そして勇者たちにばれないように中にいる彼に呼び掛けた。
「(聞いているかい?北條君)
「は、、はい・・!!
「(君は勇者たちから好き勝手言われたかもしれないけど、
彼らはこんな風に、気まぐれなだけ何だと思うよ?」
「…ありがとうございます」
(よし、北條君のほうも心なしか声が明るくなっている気がする)
ファーストコンタクトは最良とも言っていいだろう。
だが、後から考えるとそれは早計だったみたいだった。
「…でもさー」
勇者、西園寺が少し考えるそぶりをして口を開いた。
「本当にこれ、あいつが作ったの?」
「……え?」
一瞬、不穏な気配を感じたが、きわめて冷静に対処する。
「もちろんそうだけど・・」
東堂はそれに対し、
「おい、西園寺。それはどういう意味だ?」
「いやー、これって普通の機械じゃないでしょ。魔法の道具が組み込まれている。あいつのスキルはモノを売り買いできる能力で改造できるかどうかは別だし、、」
「そう言われてみれば・・」
「つまり、もしかしてだけど、、北條はそのパーツを買っただけじゃないわけ?」
「それは・・」
咄嗟に、「違う」とは言えなかった。事実半分くらいは彼女の言うその通りだからだ。
「優斗さん、まさか北條の野郎に頼まれたんですか?」
「っ!」
「あいつならやりかねないわね・・」
「・・・・」
ダメだ。作戦が逆効果なような気がする。
やはり悪名というのは中々洗い流せないものなのか?
だが、ただ彼の役割は異世界購入だけではない。
「あのドローンを操作しているのだって北條君が・・」
その時である。
「・・・もういいよ」
「っ!!」
アイテム袋から、感情が無くなったかのような声が聞こえた。
そして、ドローンの発射音が止まり・・
バキュンッ!
「っ!」
頭の中で危険信号が聞こえた。
そして僕は瞬時に動いた。
手を前にかざす。
そして手のひらから液体金属を生み出し、この車を金属で瞬間的に包み込んだ。
カギゥン!!
「なっ!!」
「ど、どうしたの?!
「今、ドローンから私たちに攻撃が・・それを優斗さんが防御して・・!!
「大丈夫?アレ、不良品じゃないの?」
「……そうみたいですね」
まずいことになりそうだ。
このドローンは、北條君が操作している。自動操縦にはまだ技術が足りないからだ。
だが、そうするべきではなかったかもしれない。
きっと彼は今、勇者たちの言葉によって憤慨したのだ。
無論、彼は少し小突くつもりだったのかもしれない。
勇者たちのステータスから、この程度の攻撃くらい当たっても問題はないからだ。
しかし今の攻撃によって、、
「優斗さん、今、あのドローンは北條が操作しているって言ってたよな」
「まさか、今乗ってわざと・・?!」
「サイテー」
皆の心証を悪くしてしまったようだ。
「……申し訳ない」
こうなったら下手な言い訳など逆効果だろう。正直に僕は頭を下げた。
「ちょ、ちょっと!あなたは悪くないですよ!!」
「‥‥」
アイテム袋の中の彼にも、悪いことをしてしまった。
こんな作戦、実行するべきではなかったかもしれない。