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勇者として



 


「何今の動き・・!! あの数の触手を難なくかわすなんて・・!!」


「お前、俺以上の実力者だったのか・・?」


 勇者というだけあって、針のムシロのこの地帯を難なく歩いて駆け寄られ、僕は三人に囲まれていた。

 

 彼らがたった今、僕が戦っているところを見たからなのだろう。

 

 しかし、そんなことよりも、今は北條君や彼らを連れて、皆のもとに戻ることが先決だ。

 

 とりあえずこの場は周囲のモンスターに対処しつつ、金属生成で足場を作り上を目指していく。

 

 モンスターたちの迎撃をしながらゆえ、最速で戻ることは難しかったものの、

  

「優斗!!大丈夫?!」「優斗様!!」「勇者どのも無事なようですぞ!!」

 

 救援も来たあとは楽にダンジョン外に戻ることができた。

 

 

 

 そして、

 

「うぅんん・・?」

 

 北條君がやっと目を覚ました。今はダンジョンから帰還し、城の中。治療師に一応見てもらっているが、何ら問題はなかったらしい。

 

 普通なら命に別条がなく一安心、

 

 と行きたいところだが、

 

「やっと起きたか・・」


「っ!!」


 彼の周囲は勇者三人、東堂、南雲、西園寺に囲まれていた。その剣幕は誰がどう見ても険しい。

 

「な、なんでしょう・・?」


 これにはさすがの彼も顔を引きつらせるしかなかった。

 

 西園寺が顔を近づけて腰に手を当てて言った。

 

「なんでしょう、じゃないでしょ?!!何よさっきのあんたの行動!!」


「北條くん、実は悪い子だったの・・?!」


「チームの要が先ほどのような協調性をないがしろにするようなことをするなんて、勇者の風上にも置かないやつだな!」

 

 少し責めすぎな気はするが、しかし当然と言えば当然だろう。

 

 彼らは北條君が原因で崖の下に落下してしまったのだ。

 

 不審に思うのも無理はない。

 

 対し、北條君は

 

「・・・・・」


 うつむいて何も反論する気はないようだった。

 

 そして、、

 

「ッ!」


 だっ!と。


「あっ!ちょっと!!」

 

 彼は脱兎のごとく駆けだしてしまった。それに反応し三人は追いかけようと踵を返す。

 

 彼のスターテスはスキル特化であり、速度において他の勇者三人と比べるまでもなく低い。

 

 すぐ捕らえられるだろう。

 

 だからそれに対し、僕は、

 

「待ってください!!」


 彼らの前に立ちふさがった。

 

 北條君の肩を持つという意図もある。

 

 だが、彼はなんだか様子がおかしかった。

 

 いつもの完璧なコミュニケーション能力を持つ彼ではない。

 

 そう、このままの彼の態度次第ではパーティ崩壊という最悪の事態も見こさなければならないのだ。

 

 その前に何とか僕が説得しなければ。必死に語り掛ける。

 

「君たちが彼に対し憤りを感じるのは分かる。しかし、、」


「あなたはどいてください!!」


「ほーじょーくんが敵かもしらないんだよ?!」


「そうよ!!少なくともあいつから事情を聴きださない限り、私たちは納得しないわ!!」


「・・・・っ」


 きっと今の北條君は、まともな会話ができない。

 

 ゆえに、僕ができることは、事情を説明することだ。

 

 「北條君の奇行・・それには理由があるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことはあいつ・・北條さんのスキルを借りていただけなのか・・」


「北條くん、そんなこと一言も言ってなかったよね」


「さも自分のスキルの応用みたいに話していたけど、あなたのスキルだったなんて」


 できるだけ僕は柔らかい表現で今までの事情を説明したつもりだった。

 

 しかし彼らの表情はけっして芳しくはない。何やら失望したような感覚を受けた。

 

 それに対し、僕はすかさずフォローを入れる。


「いや、違うんだ。貸与スキルは僕も納得の上で、、」


「でも、北條のせいで今日みたいなことになったんですよね」


「それに、貴方にまで迷惑をかけて、本当に最低ね」


「・・・っ」


 ダメだ。取りつく暇もない。

 

 こんな時、前までの北條君ならば乗り切れていたのだろうか。自分のコミュニケーション能力の不甲斐なさを実感する。

 

 だが、まだパーティは解散したと決まったわけじゃない。焼け石に水だとしても、彼らを説得し、勇者パーティを再度復活させなければ。

 

 だが、言葉を選ぼうとしたとき、

 

「北條のことよりも、貴方の名前を聞かせてほしい」


「え?斎藤優斗ですけど・・」


 いきなり名前を尋ねられ、思わず答えてしまった。

 

 それを聞き、彼らはずいっとこちらに顔を近づけてきた。

 

「え・・?」

 

 いきなりの不可解な行動。

 

 目を輝かして彼らは話題を別のほうへとシフトしてきたのである。

 

「すごい!!すごいです。さっきの攻撃・・!!」


「俺たちから見ても高水準の立ち振る舞いでした・・


「目で追うのがやっとだったよねー!!」


「???!!!」


 いきなりどうしたんだ?

 

 どうやら彼らは僕を称賛しているらしい。

 

「あなたも勇者なんですか?!」


「えっと、転移者であることは同じなのですが、、」


「ステータスを見てもいいか?あれほどの動きができるスキルを見ておきたいんだ」


「う、うん・・」

 

 色々な質問を投げかけられ呆気に取られていた。

 

 もはや北條君のことなど、まるで眼中にないかのようである。

 

(やってしまった・・)

 

 ここからいくら説得しても、彼らは北條君をパーティメンバーとして再度向かい入れるとは思えない。

 

 このパーティは北條君の役割あってこそ成り立つ。彼無しではパーティ崩壊は免れない。

 

 普通ならば解散でおしまいだが、彼らは勇者。なんとか元の鞘に収まってくれないだろうか。

 

 そう思索を巡らせつつ、勇者たちに応じていたのだが、

 

 ある時、意を決したように東堂がこう尋ねた。


「斎藤さん・・!!今、入っているパーティってありますか・・?」


「え?うん、一応、そこの二人と組んでいるけど・・」


 指で指し示すと、露骨にがっかりしたような表情になって彼らはひそひそと相談していた。

 

 そして、意を決したようにこちらに向き直り、

 

「あのっ、できれば俺たちのパーティーに入って・・」


「え?」


 予想もしなかったことを告げたのだ。


「いや、あなたのパーティに俺たちを入れさせてください!!」

 

 三人ともは同意見のようで、こちらを熱意のある目で直視する。

 

「えっと・・」

 

 それを黙って見ていたマージョリーさんは、

 

 

 

 

 そのいざこざの後。

 

 僕はある場所へと向かっていた。

 

 それは無論、北條君の部屋だ。城の人間に場所を教えてもらい、ドアをノックする。

 

「・・・」


 しばらくすると開いた。

 

 彼は何やら髪や服が乱れている。

 

「何の用ですか・・?」


 話し方や表情も含め初対面とは全く違う印象だった。


 カリスマ、あるいは活力のようなものが消え去っているように感じる。

 

 そんな彼に少し驚きながらも、平静を装いまずは一番聞きたかったことを尋ねた。

 

「今日の暴走のことだけど、あれってスキルが原因なんだろう?大丈夫?」


「・・・そう、ですね。それについては大丈夫です」


「と言っても、何か様子がおかしいように思えたけど」


「あれは、、ただ、スキルからくる疲労を、この世界の特殊なポーションや、元の世界の栄養ドリンクなどでごまかしていたからです」


「なるほどそれで・・」


 栄養ドリンクはカフェインが大量に含まれており、ドラック並みに有害だともいわれているのだ。それと合わせこの世界のポーション。飲み合わせの悪さから、突然のパニック発作が出てもおかしくはないだろう。

 

 最悪の場合、魔王が関わっているかもしれないと危惧していたのだが、それならば納得できる。

 

 彼も後悔しているようで、うつむいて言った。

 

「すみません・・ただ、僕は皆に弱いところを見せたくなくて・・

 元の世界でもいつもそうやって生きてきましたから・・」

 

 後に知ったことだが、彼は元々社長として一人で多くの者に対し弱みを見せられない立場だったらしい。

 

「いや、良いんだ。もう終わったことだよ。

 それよりも、勇者パーティのことなんだけど・・」


 そう、大事なのはこれから。元のメンバーで勇者パーティを再結成することである。

 

 今北條君は他のメンバーに不審に思われている。だが、時間をかけてまた信頼を取り戻していけばまた一緒に戦うことは不可能ではないはずだ。

 

 僕がここに来たのはそのための計画を練るためでもあった。

 

 しかし、彼は


「それについてですが、、あなたに一つ頼みたいことがあります」


「頼みたいこと?」


 予想外のことを告げたのだ。


「ええ、その、僕の代わりに勇者パーティに入ってやってくれませんか?」

 

「・・・!」


 まさか、北條君からもそんなことを言われるだなんて。

 

「お願いします。

 僕はもうだめなんです。一度信頼を失ってしまったら、もう合わせる顔がないんです・・」

 

 彼の声色は完全に鬱が入っているようだ。

 

 完全に失敗が尾を引いている。だが、そう簡単に諦められては勇者パーティが解散に陥るのである。

 

 僕は励ましの声を掛けた。

 

「そんなことはない。失敗は誰にでもある。まだ信頼は取り返せるはずだ。」


「でも、、もう何もかもが面倒くさいんです。

 一度崩れた信頼を取り返すには、今まで以上に頑張らないといけない・・それがどうしようもなく嫌なんです」

 

 そう、しばらく話しているうちに、なんとなく見えてきた。

 

 きっと彼は今まで失敗したことがないのだろう。常に最小のコストで最善の手を選び、成功して信頼を得てきたのだ。

 

 だからこそ、一度の失敗で全てを諦めてしまう。

 

「貴方の金属生成のスキル・・あれを習得しようとしたときに気づくはずでした。世界にはあなたのような才能あふれるものがいるということに・・だったら勇者はあなたのほうが適任に決まっています。僕はもう誰とも会いたくないのです」

 

(彼はもうダメかもしれない)


 だったら、残る手段は僕が北條君の代わりに勇者たちと魔王を倒すしかない。

 

 だが、思い出すのは、神様から言われたある言いつけだ。

 

(神様から魔王討伐に参加してはいけないと言われている・・)


 だが、王様にはこう言われていた。


『それに、神に何と言われようと、魔王討伐をするかどうかは貴公自身がするべきだ』


 確かにそうかもしれない。マージョリーさんやアンジェリカさんからも、自分の好きなように生きろとといつも怒られている。

 

 だったら、僕が望むのは魔王を自分の手で倒すこと・・。

 

 逃がした魔王を誰か他人に討ってもらうというのは何か気分が悪いものがあり、何より友人の仇を取っておきたいのだ。


(僕は、手を引くつもりでいたが、、)


 それに、北條がリタイアするとなれば、あのパーティは解散してしまうことになる。

 戦力や成長性を考えれば、それは惜しい。


 少し迷ったが、ようやく決断した。

 

 いや、最初からこうするべきだったかもしれない。

 

「そうだね。わかった」

 

 僕は保留にしていた問題に答えを出した。

 

「僕は、、やっぱり魔王討伐に参加することにする」


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