救出と賛美
ドンッ!!
足場が崩された不安定な中、なんとか北條組んを助けようとしたものの、何故か彼の金属生成が発動したのだ。
その触手の一つの衝突。
僕らはダメージこそ軽微なものの、空中ということもあり吹っ飛ばされた。
「なっ、、何を・・?!」
突然の攻撃。その液体金属は、彼の周囲を不気味に蠢いている。
彼に攻撃の意志はないようだ。
それに、何か様子が変だった。
「う、ううううう!!」
(苦しんでいる・・?)
北條はその場でもがいている。まさか、合わないスキルを使い続けた副作用か・・?
一瞬、魔王の仕業かと疑ったのだが、しかし、こうなるのならば無理やりにでも止めるべきだったのだろうか。
しかしそれだとなぜ突然?朝は全く平気そうだったのに・・。
(いや・・そんなことよりも!)
今はこの場を何とか解決するのが先決。
空中で僕は残りの勇者たちに振り向かずに言う。
「君たちは逃げてください!!飛翔魔法やスキルを使えば切り抜けられるはず!!」
「っ!」
それで気が付いたのか、南雲の天使化を発動。
「た、助かった・・!」
彼らが一息ついたのを確認すると、僕は瓦礫に足を付ける。空中でそれを蹴って北條君のところへと向かうつもりだった。
その時、西園寺が叫ぶ。
「ちょっと、あんたあんなのを倒すつもり?!?」
「いえ、助けに行くんです!!」
そう言って瓦礫を蹴って今や液体金属の塊のようになった彼のもとへ跳んで行く。
彼をほおっておいたら、ダンジョンの奈落に一人で落ちてしまうのだろうし。自分の液体金属の暴走で自滅してしまう恐れがある。助けに行くしかないのだ。
僕の金属生成のレベルは4、たいして彼はレベル7。圧倒的ではないにしろ、確実なアドバンテージの差がある。
だが、できるはずだ。自分には考えがあった。
その時、背後から飛翔音が追随してきた。
「ちょっと待ってくれ!!」
「!!」
そこには天使化、飛翔魔法、そして跳躍によって空中を飛んでくる勇者三人。
「あなたじゃアレを倒せないわ!!」
「あいつの奇行は、俺たちが止める!!」
「私たちに任せといて!!」
そう言って、液体金属の塊に向かって彼らは飛んでいく。
「なっ・・!!」
そう、僕は瓦礫を蹴った時の慣性や、多少の風魔法によって空中を進んでいる。
しかし勇者である彼らのほうがこの状況において素早く動くことができるようだった。そのまま北條君のところへと向かっていく三人。
「待ってくれ!!北條君は僕が何とかする!!」
そう、今の彼に最も相性がいいのは僕なのだ。その理由を説明する前に、彼らは北條へと攻撃を開始する。
「おい!!北條!1お前どうしちまったんだよ!!」
彼は金属をいなしながら、生身の部分に斬撃のオーラを飛ばし、
「見損なったわよ!!『ファイヤーボール』!!」
西園寺は魔法を飛ばし、
「今祓ってあげる!!『ホーリーキャノン!!』」
同じく南雲も浄化魔法をかけた。だが、、
カキィンンッ!!
「なっ?!」
無意識の防御反応から、完全に液体金属の中へと姿を消した北條。なすすべもなく攻撃は遮断され、そして逆に金属が彼らを襲った。
「「ぐっ!!」」
同時に吹っ飛ばされる。それを僕は金属生成でキャッチ。レベルが低いが、何とか液体金属に特化させたことでギリギリ保護することができた。
そして同時に、
「っ!」スタっと
針が敷き詰められた地面に到達した。
そう、このダンジョンの奈落の底だ。そこはモンスターも散見しているのはもちろんだが、地面に鋭い棘が生えている。
だが、僕は勇者たちを金属生成の膜でカバーしてノーダメージ。僕も足裏に金属の足場を作りだして着地した。
「くっ、不覚を取ってしまった」
「助けられてしまったね・・」
「あ、ありがとう」
「いや、今はそれよりも、、」
僕はそれを制し。目の前に意識を集中させる。
「今は彼をなんとかしないと・・」
今や彼は液体金属の塊と化している。そして周囲を無差別に攻撃してモンスターが餌食になっている。
「え、ええ、そうね・・」
「でもあいつ、、一体急にどうなっちまったんだ・・?」
「もしかしたら、僕のせいかもしれません・・」
「えっ」
驚いた一行のようだったが、しかし今は詳しく話している時間は無い。
「だから・・僕が止めます」
目の前には液体金属が無重力の中にいるような形をしている。
その中には北條君がいる。能力が暴走しているのだろう。その見慣れた銀色の液体は、タコの触手のように周囲に近づいてきたモンスターに反応して蹂躙していた。
液体と言っても、それはまさしく質量、重量の塊。その衝撃はモンスターの堅い皮膚を破るには十分と言えた。無論、防御力も高い。
そして、それに対して僕は、、
「ッ!!」
縮地。異世界に来てからの修行の成果で、初速も速度も今までの比ではなくなっている。
しかし今は彼は暴走状態。いくら急速に近づき、不意を突こうと意味がない。彼は、、いやそれは近づくものを無意識に反応して攻撃しているだけだ。
加えて縮地とは、通常の移動方法ではない。いうなればロケットの弾丸に自身が成るようなもの。目的の地点につくまで、急速な方向転換は難しい。
ゆえに、目の前に僕の動きに反応して伸びてくる金属の触手をよけることは通常なら困難。
だが、それは、通常の縮地ならというだけのこと。
「(サイドステップ!!)」
縮地の移動中、地面を横方向に蹴る。これは超速で移動する岩を蹴るようなものだ。足を痛める原因にもなりやすい。
だが、鍛錬の結果、ほぼ実践レベルにまでこれを使いこなすことができるようになった。来ると分かっている攻撃ならば縮地中でも難なくよけることができる。
そして、接近し、、武器生成で武器を生成すると、切り裂く。
金属の塊があっさりと、斬撃の形にえぐれる。
「なっ?!」
背後から驚愕の声が聞こえるが、しかしこれは別に特別な攻撃をしたわけでない。
先日、友人との戦いにおいても使った、鎧貫き。いや、名前を付けるまでもないスキルともいえない単なる金属操作だ。
そう、彼の金属生成で生み出したこれは、僕の能力から生まれたもの。ならば触ることでそれを解除することができるのである。
だが、その間にも、金属の別の触手が視野外から近づいてくるのを空気圧で感じる。僕はそれを全て回避、無効化しつつ、本体に攻撃していった。
「うぉおおお!!!」
一撃、一撃と少しずつ削り取っていき、体積を減らしていく。少しひやひやした場面もあるにも関わらず、確実に入れていくが、全く金属の容量が減っていかない。
(そうか・・自分のスキルレベルが低くなっているから・・!!)
相手のほうがスキルでは高レベル。消滅よりも増えるほうが大きいのだろう。このままではじり貧。どうする・・?
考えろ。金属の触手を横方向に弾き、ジャンプで触手を避け、触手を足場に攻撃していく。まとめて攻撃できるように武器も徐々に成型していく。
「いや・・」
そうやっているうちに、事態が好転してくるのが分かったのだ。
避けつつ攻撃を入れていくうちに、慣れてきた。
回避だけではない。そう、攻撃、金属生成のスキル。
極限状態で連続で使いこなすことによって、スキルレベルが徐々に上昇してきたのだ。
そう、たかがこの数分の間、レベルが上昇してくるのを感じる。ドンドンと削除のほうが優勢になり、徐々に北條君の姿が露になってくる。そしてついに、
「ごめんっ!」
ドンッ!と、腹に掌底を当てて軽く吹き飛ばした。それで気絶したのか金属の動きが完全に止まる。
(良かった・・止まった・・)
ホッと安堵する。
いや、緊急事態とはいえ、手を加えてしまった。ポーションを飲めばこの程度なら平気だろうが、早く手当したほうがいい。
そうやって処置をほどこしていると、いつの間にか背後から勇者三人が近づいていることに気が付いた。
彼らはこちらをじっと見ている。表情からしてどうやら緊張しているようだ。
そうか。彼らはきっと彼のことが心配に違いない。安心させるために落ち着いて話す。
「大丈夫。彼は何の外傷もないみたいだよ」
「・・・・」
だが、彼らの次の言葉は、僕を驚かせた。
「そんなやつのことはどうでもいい」
「え・・・?」
彼らは北條君のことを心配しているわけではなかったのだ。
「そんなことよりも、今までの無礼、失礼した」
「あなたやるわね!!!」
「今の何!?すごーい!!」