北條四郎の暴走
それは、ちょうど最後の日に訪れた。
いつもの勇者四人と、付き添いの兵士数人の集合時、僕は彼らに告げる。
「あの、約束通り、今日で勇者たちの付き添いは最後になります」
それを聞いて兵士たちは残念そうな顔をして思い思いのリアクションを取った。
「え?!もうですか?!」
「もう少し付き合っても・・いえいっそのこと、騎士団に入りませんか?!」
「おい、よせよ」「でも・・・」
あらかじめ数日前、彼らに言っていたことだ。
最初は心配だった北條の金属生成のスキルだが、しかし彼も慣れてきたのか、余裕の表情を見せる。
そのスキルレベルを上げることは出来ずとも、高レベルのスキルを使いこなしていることには変わりないのだ。
そして、もはや北條四郎の存在は、もはやチームにとってなくてはならないものとなりつつあった。
もう僕らが心配する必要はないだろう。ここからは勇者四人、彼らだけで魔王を倒すことになる。
兵士たちは残念そうにしてはいたが、しかしそれ以上引き留めることはしなかった。
年配の熟練者が、若い兵士の肩に手を置いて首を振る。
「おい、お前ら。いつまでもこの方を引き留めておくわけにもいかないだろう」
「まあ、そうだよな。すいません。なんか貴方といると自分にまで自身が付いてくるっていうか、、」
「いえ、そんな・・」
どうやら、兵士たちはそれほどまでに僕らに対して好意的だったようだ。
しかし勇者四人は彼らとは対照的である。
勇者四人にも別れの挨拶をしに声を掛けたのだが。
「ん?ていうか、まだいたの?っていうか、いつでも離脱してくれて構わないけど」
「ああ、兵士たちも帰って大丈夫だと思うぞ。なんせ俺たちのパーティは無敵だからな」
その冷たいととらえかねない言葉に、マージョリーさんたちが少しばかり愚痴を言う。
「・・・もう、失礼するわね。せっかく私たちが付き添ってやってるっていうのに」
「まあ、生意気なのが新米の常ですからね。ただ優斗様のことをそんな扱いにされるのは少し憤慨ですが・・」
しかし、彼女たちはそう言うが、僕はほぼ何もしていない。彼らにそう言われるのも仕方ないだろう。
それとは対照的に、北條はというと、
「そうそう!!特に北條ちゃん! あなたが居れば百人力だよねー」
「ああ、これからの頼むぞ!!四郎!」
「そうね」
「そ、そうかな・・?」
彼は日々の冒険によって少し疲労していたが、しかし褒められたことに少し気をよくしたようだった。
ともあれ、彼らが良い雰囲気で魔王討伐にいそしんでくれれば、何も言うことはない。
仮にも勇者だ。あとは自身で成長していくだろう。
そしてそのまま馬車に乗って彼らとの最後のダンジョンへと向かう。
偶然だが、ついたところは僕にとっても思い出がある場所だった。
「ここは・・」
少し驚いていると、兵士が簡単に解説する。
「ここは最近できたダンジョンみたいです。
なんでも盗賊が住処にしていたとか。」
「足場が迷路上の崖に成っているので気を付けてお進みください」
そう、ここは友人が盗賊をしていたと聞き、潜入したダンジョンだった。
あの時は半ば裏技的な方法で潜入したものだが、勇者との最後のダンジョンがここになるなんて、こんな偶然もあったものだ。
いや、しかしそんな事より、先ほど彼らが言ったように、このダンジョンは道が崖になっているはずだ。
確かにこの数日での彼らの戦闘を見る限り、この中級クラスのダンジョンは攻略可能だとは思う。
今や勇者パーティにとって、初級ダンジョンはかなり物足りないくらいだった。個々の力が強い上に、今やチームワークも整っているからだ。
だが、崖というギミックは、少し気を抜けば転落する可能性があり、そうなるとチームが分断される。彼らのステータスからして落下の衝撃で即死はしないと思うが、しかしどちらにせよ転落先で囲まれて叩かれると生死の危機に陥ることは明白。
気が抜けないダンジョンであるということは言うまでもない。
だが、今の勇者パーティは、かなり安定している。金属生成のスキルがいい具合に緩衝役として役割を果たしていた。そのおかげでチームの雰囲気はかなり良好と言える。
北條の不調が唯一の気がかりだが、しかし最近ではそれほど調子の悪いような様子は見せなかった。むしろ生き生きと、調子が良いようにも思える。
おそらく、あの不調はなじむまでの一時的なものだったのだろう。
「じゃあ、行くか!!」
「ええ!」「はい!!」「うん!!」
そうして勇者たちは入っていき、その後ろから僕たちも追従していく。
「ライトエリア!!」
「ダッシュスラッシュ!!」
「ファイアーボール!!」
地形が地形だけに、連携が悪ければ、奈落に真っ逆さまだろうが、しかし彼らは元気よくモンスターを倒していく。
「いい感じだな」
「ええ!!この調子で足引っ張らないでよ!!」
「お前にその言葉そっくり返すぞ!!
北條がいなければここまでうまくできないだろっ!!」
「それはあんたも同じっ!!」
そう言って、仲が悪い二人は罵りあいつつも存分に持ち味を出している。
それは北條のサポートによるものだろうということは見ているだけで分かった。
スケルトンやゾンビ、獣などの高体力のモンスターは東堂、小粒で大量の蝙蝠型モンスターは西園寺と南雲が主に処理している。
そしてチームのかなめである北條はその処理をすり抜ける、ネズミやヘビ型の中型高速モンスターを的確に処理していっていたのだ。
もし彼がそれを処理できなかったら、西園寺が魔法を連打して味方に直撃するだろうし、東堂も高体力モンスターの処理を存分に行えなかっただろう。
(これなら、どんなにレベルの高いダンジョンも対応できるな・・問題は、北條が抜けると途端に連携が壊滅的になるということだが・・)
しかし、僕は首を振る。
(それはどのパーティにも言えることだな)
何故なら、パーティというのは、互いの欠点を補うというのが一番の目的で組むものだからだ。
僕は、これまでの間、色々なスキルの習得を試したりもしているのだが、それで理解したことは、自分でも覚えが悪いスキルというのはたくさんあることが分かった。そしてそれはおい大勢に言えることなのだろう。
その点、自分の得意分野だけを伸ばすことだけを考えるというのは賢い考え方だ。
つまり、全員があらゆる状況に対応できる必要はなく、チームとして全ての状況に対応できればそれでいいのである。
そういった意味で、このパーティは理想的ともいえた。
僕は思わず、北條の師匠として呟く。
「よくやってるなぁ北條くん・・さすが勇者だ」
しかし、それを聞いたマージョリーさんたちは不満そうに言う。
「そうかしら?優斗のスキルがすごいだけじゃないの?」
「そうですよ。彼にあなた様のスキルを貸さなければあそこまでの活躍はできないですよ!」
「そうかな・・?」
金属生成のスキルは、高性能と言えども、その分それを使いこなすことも難しいはずだ。それでもあそこまでできているのは彼が勇者だからだろう。
「まあ、どっちがすごいっていうのはこの際置いておくけど、でも、優斗はそれでいいの?」
「貴方様にもデメリットがあるんでしょう?」
「ああ、そのことについてですか」
北條のスキル貸与のスキルは、当然だが一時的とはいえ元所有者のレベルがその分減少する。
もし金属生成のスキルが勇者として必須なのだとしたら、返してもらえるのはいつになるかわからない。
だが、それも再び上げていけばいいだろう。現にLv7を貸して、僕の金属生成Lv3だったのが、既にLv5にまで上がっていた。
僕がそういうと、やれやれという風に二人が首を振る。
「また優斗は・・甘いわねぇ。スキルは自分の財産だっていうのに」
「自分あってこその弟子だと思うのですが・・まああなた様がそういうのなら納得しましょう」
気持ちは分かるが、これも魔王退治のため。
神様の言う通り、僕は魔王退治に参加してはいけないのだ。
まあ、既にスキルを貸している時点でそのことを破っているような気がするのだが、それは解釈しだい。
スキルを貸す程度では、魔王対峙に参加したとは言えないと僕が考える。
そして、、矛盾しているようだが、僕の友人を殺した張本人ともいえる魔王を、、自分の手で倒したいというのもまた事実。
だが、北條が僕のスキルを使って倒してくれるのならば、必ずしも直接手を下さずとも納得できる。
「僕は、魔王に因縁があるんです。だから、スキルを使ってもらうことでけじめをつけられると思うんです」
「・・そうだったわね。あなたは、友達を・・」
「そうなのですか・・出過ぎた言い方をして申し訳ありませんでした」
ともかく、二人とも分かってくれたところで、引き続き後方から勇者の後を追っていった。
北條、彼は最初はパーティの後方から付いてくるだけだったのに、今では一パーティのかなめとして活躍している。
これが北條といる最後のパーティになると思っていたのだ。
だが、、問題は起こってしまった。
ドンッ!!と。
「?!」
ちょうど下方から音がして、驚く一行。最初に反応したのは、フィジカルの高いステータスを持つ東堂だった。
「なんだ?!今の音は・・?!」
だが驚いている暇はなかった。
道が崩壊していったのである。
「っ!!なっ!!」
「何よこれ!!」
「キャァアアアアアア!!」
それを見て、後方からの僕は動き出した。
対して、少し迷った東堂は、「チッ!」と悪態をつきながらメンバーを抱え込んだ。
「キャッ!!な。、何よ!!」
そしてそのまま道に戻るつもりなのだろう。
しかし一人ならともかく、3人を抱えて自由落下する瓦礫を蹴るのは、いくら勇者といえども難しいようだった。
唯一、彼らだけで助かる方法があるとすれば、南雲の天使化のユニークスキル。あるいは、魔法使いが覚えることができるフライやウィンドの魔法。
あれは飛行能力があったはずだ。その能力がどのくらいの積載量が可能かわからないが、彼女たちが咄嗟にスキルを使えれば難なく道に戻れただろう。
しかし彼女たちは、今、突然の事態とともに、東堂に抱えられてパニックに陥っている。
「むぎゅー!く、くるしい!!」
「ちょ、ちょっと!!離しなさい!!」
しかし、その間に黙ってみている僕ではない。
縮地。それを使い、何とか後方から彼らのもとに到着した。
低レベルの液体金属で彼らに巻きつける。勇者のステータスならしがみつくことができるはずだ。
「捕まって!!」
「! あなたは・・!!」
僕ならばレベル4にパワーダウンしていると言えども、金属の命綱を作り出して地上に帰還することができただろう。
しかし、その時僕は見落としてしまっていたのだ。
つい直前に目撃した、『道の崩落の原因』について、頭の片隅にでも留意しておくべきだったのである。
「う、うう・・」
「・・?」
そのうめき声は北條だった。
崩落の原因は知っている。それは彼だ。
そう、つい数秒前に見た光景。それは彼が操る液体金属の触手が、崖下から上がってくるモンスターを倒し、そしてそのまま勢いあまって道まで破壊してしまったのだ。
それは瞬間的に「まだ完全に金属生成を使いこなせていなかった」と判断していた。直前まであれだけスキルを使いこなしていると評価していたというのに。
そう、つまりどういうことかといえば、、明らかに不審な行動をしていた彼に対し、全くの『無警戒』だったのだ。
その『油断』を突かれる。
「うわぁあああああああああ!!!」
「な・・っ!?」
北條四郎の操る液体金属が、僕らを襲ったのだ。