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化けの皮

 

 初心者用のダンジョンの一つに来ていた僕ら

 

「あの、四郎さんって言いましたっけ?」

 

「ええ、なんでしょう」


 アンジェリカさんは、気になってきたのだろう。


「あの、あなたはもしかして戦えないのですか?その‥勇者なのに?」


 その失礼ともとらえかねない問いに北條はにっこりと笑える。 


「ええ、そうです」


「そ、そう・・」


 北條の微笑みに彼女は何故か自分が悪いことをしたかのような気分になっているのだろう。

 

、実際に北條は全く戦闘やその補助をしていない。ただ後をついてきているだけだ。

 

 だがすぐに彼は「あっ、そうでした」と慌ててフォローする。

 

「僕の能力は、この前も聞いていたと思いますが、『異世界購入』です。

 僭越ながら申し上げますが、相応の金額さえあれば、かなりの高性能スキルとして使えると思われますから、当然これによってサポートできればいいのですが・・」

 

 その言葉の末には、悲し気な感情が込められている。

 

 彼の申し訳なさそうな気持ちを存分に『表現』しており、思わずアンジェリカさんは「うっ・・!」と罪悪感を覚えたようだった。

 

「私も非常に心苦しいことですが、今の自分のレベルでは、このスキルをうまく扱えないようで・・。非情に換金率が低いのです。

 お荷物になるかもしれませんが、このままもう少し経験値を分けてくださるとうれしいのですが・・」

 

 確かにパーティにいるだけでも経験値はたまるらしいということを聞いていた。


 それに見稽古という言葉にもある通り、見るだけでも戦闘の雰囲気を感じてもらうだけでもためになるはず。


 僕もマージョリーさんを説得しよう。

 

「マージョリーさん。現時点で戦力にならないとしても彼がここに居る意味はあると思います」

 

「わ、分かったわよ。無粋なことを聞いて悪かったわね」


 彼女も納得したようだった。それに対して北條もこちらに駆け寄ってきて、

 

「ありがとうございます優斗さん!私のためにマージョリーさんを説得してくれて!!」


 わざわざ僕の手を握ったのである。


 それに対し、彼女たちは何やら話していた。

 

「…なんか怪しいわよねぇ。やけにべたべたしているというか・・やっぱりあの北條って子、女の子じゃ・・」


「いや、そんなはずは無いと思いますが。引きこもりだったあなたと違い、私はたくさん人を見る機会がありましたからね。ああいう子もいるものですよ?ふふふふ・・」


「ふーん、って、今なんか私のこと馬鹿にした?」


「いやいや」


 ともかく続けて進行を再開する。


 獣型モンスター、蛇型モンスター、スライム型モンスター。僕や彼女たち一人だけでも突破できる程度のものだ。一切苦戦することなく、撃破して先に進む。

 

 その戦闘は、異世界に来てから何百回と繰り返したもの。だからこそ早い段階で分かったのだろう。

 

 ある時、ふと気が付いた。

 

「…あれ?」


「どうしたの?」


 彼女が尋ねる。


 今の感覚に違和感を感じたのだ。

 

「いえ・・」


 今発動したスキルは、『武器生成』。


 飛び道具を射出するために、今まで何度も行ってきた基本スキル。

 

 それが、今何かが違っていた。


「(出しにくい・・?)」


 そう、僕の金属生成メタルクリエイターのレベルは相応に高い。それなのに、何故か微量に発動しにくかったのである。

 

 それが、一回だけならば勘違いだと思っただろう。しかし、その違和感は常に付きまとっていたのだ。


(この感覚、どこかで既視感が・・・そうか)


 この前、レベルが一時的に下がった時の同じ時とまったく同じ。ステータスには表れてはいないが、経験値的なものが微量に下がっているのだろう。

 

 ならば、修練を続けていれば、すぐに取り戻せるはず。

 

「(しかし、何故、今・・?)」

 

 問題は、唐突に何故このような現象が起きたのかということだ。

 

 スキルレベルを下げるモンスターなど遭遇しておらず、そもそもこの程度のレベルのダンジョンで現れるはずがない。

 

「(他に考えられる点としては・・)」

 

 少し心当たりがある。

 

 僕はチラリと後方を見た。

 

 彼はこちらが見ているのを気が付くと、ニッコリと微笑み返す。

 

「(いや、まさかな)」

 

 だが、一応、確かめてみる価値はあるだろう。

 

 たとえそれが、勇者だからと言って、油断はできない。友人の例もあるのだ。

 

 そして、罠を張ってからその数日後のことだった。

 

 

ーーー

 

 

 北條四郎。彼が異世界に来た原因、つまり死亡理由は他殺である。

 

 優斗と同じ原因ではあるが、しかし彼と決定的に違う点。それは恨まれる原因となったのが本人であるということだった。

 

 だが、恨まれる、とは言っても、それはこの現代において、ある意味仕方がないという見方は出来るだろう。彼は何も意図的に恨まれるようなことをしたわけではないのである。

 

 そう、それは、法を犯したわけではない。正当な経済活動。

 

 より正確に言えば経費削減、リストラである。

 

 彼は老舗の御曹司の一人だった。そして当然のことのように、学生の身でありながら、その子会社の一つをこの年で任されていたのだ。

 

 彼の目を見張るべき才能はコミュニケーション能力、つまりカリスマである。

 

 それは英才教育のたまものでもあった。幼いころからプロの人心掌握術を仕込まれていた彼は、ベテランの部下たちをまとめることができたのである。


 だが、しかし、たった一つ問題点があるとすれば、彼は他者と会話するたびにこう感じていたのである

 

「(ああ、面倒くさいなぁ・・)」

 


 本来の彼の性質としては、極度の面倒くさがり屋である。


 経営というその道は、彼自身が選んだ道ではない。

 

 人と交流するのが楽しい者ならばそうでもないだろうが、彼にとって他人の顔を伺うというのは、それだけで精神的な体力を消費したのだ。


 できれば、一日中寝てネットや漫画を見て居たいが、しかし親の威信もあり、仕方なく学校に通いつつ会社に顔を出さなければいけない。

 

 そして、ある日イレギュラーが起こる。

 

 当時社会問題にもなった、海外の大規模な会社の倒産。

 

 それが波及し、その会社が危機に陥ったのである。

 

 四郎が取った経営方針は、大規模なリストラ。


 顔色をうかがう相手を切り捨てるというのは、彼にとって開放感にも似た気持ちだった。躊躇することなく大量の人員を切り捨て、施設も最小限にする。


 しかし、その切り捨てた社員の子供たちは、その時通っていた学校の生徒でもあったのだ。

 

 彼らの復讐計画により、毒殺されたのである。


 そして彼は死亡後、異世界の勇者にスカウト。

 

 その転移後の能力も、彼のその面倒くさがりな性格に合致したものである。

 

 それは自分が苦労、活動せずにして、成果を上げられるユニークスキルだった。

 

 そして転移者の中でも珍しいことだが、彼はユニークスキルが3つもあったのである。


ーーー



 僕が自身の金属生成メタルクリエイタースキルの使い勝手に違和感を感じた、その数日後、

 

 北條四郎は何かを我慢しているかのように顔色が優れないようで、顔にもニキビが少し浮かんでいる。

 

「どうしたの?」


 マージョリーさんが彼に聞くが、ニッコリと無理をした笑顔を作り、


「いえ、何でも、ありませんよ……」


 やはり、僕の思った通りだ。

 

 この数日間、あるタイミングであるスキルを発動していたのである。

 

 もし彼が犯人ならば、何事も起きず、彼を潔白だと信用しただろう。

 

 だが予想していた事態になった。半ば確信し、彼に声を掛ける。


「北條くん、少しいいかな?」


「っ!!」


 彼はビクッと怯えたような顔を一瞬したが、すぐに元の平静さを瞬時に保った。

 

「……なんでしょう?」


「話があるんだ。二人きりで話さないか?」


「……ええ、分かりました」

 

 マージョリーさんとアンジェリカの前では彼も言い出しにくいだろう。


 他の二人に、彼と話がある告げると、ある程度離れた場所へ行き、こう切り出した。

 

「単刀直入に言おう。

 君はスキル奪取系の能力を持っている。

 そして、この数日間、何度もそれを僕に使用したんだ」

 

「……」


「違うかい?」


 突如、彼はガクッとひざをついた。

 

 そして、涙を流しながら、こう返したのである。

 

「……はい、そうです…・・!」


 悲壮感漂うその一言。大人数の同情心を誘ってしまう仕草と口調だった。

 

「何故なら、僕は他の勇者と比べて弱いスターテス…・・!だからこうでもしないと成果を残せないと思ったんです…!!

 だから、つい出来心で……!うっ……」

 

 大多数の人達は、それに対して情状酌量の余地があると感じることだろう。

 

 だが、同類である僕には通用しなかった。

 

 出来るだけ話をスムーズにするため、僕は彼の言葉に挟むように言う。


「ああ、良いよ。それはしなくても」


「……?」


 何のことかわからないのか、北條は一瞬動きを止めてこちらを見た。

 

 何を言っているのかわからないのか、もう一度詳しくいってみる。

 

「その『演技』は、僕には通用しないってことだよ」


「‥‥…!」


 今度は困惑、そしてわずかな恐怖だった。

 

 そして、はぁ・・とため息をつくと、今までの彼のキャラとは全く違った『けだるげな』声で、

 

「……この体の不調や重さもあなたがやったんですか?」


 と尋ねた。

 

「ああ、そうだ」


「……全く、こうなるんだったら別の勇者や兵士につくべきでしたよ」

 

「申し訳ない。だが、君が魔王の手先かもしれないからね。

 とりあえず、弱らせておいた」

 

 彼はめんどくさそうに眼を細めた。


「あーあ、めんどくさいなぁ・・・」

 

 人によっては失礼ととられるかもしれない態度。

 

 だが、今までよりもよっぽどそのほうが自然だと何故か感じる。

 

 とりあえず、僕がこの数日間、種明かしをすることにした。

 

「北條四郎くん、やたら君は僕に接触しただろう?

 最初に君が触った時から、同時に僕の扱う金属生成メタルクリエイターのスキルのレベルが少しずつ下がっていくようだった。

 つまり君は僕の友人と同じように、触れることがトリガーとなってスキルを奪うことができる。ただし、彼と違って少しずつだけどね」

 

 彼は目を半分閉じてそれを聞いているようだった。寝ているのかと少し思ったが、どうやら理解しているらしく、全てを話す

 

「ええ、そうです。

 僕のユニークスキルは異世界購入であることはお話しました。

 しかし、実は三つあったのです。

 その一つがスキル貸与。通貨を消費してスキルをレンタルすることができる。そのトリガーは対象者に触れること。

 レンタルと言っても、レベル1を借りてレベル2にすれば、返すときは自分が上げた分まで返さなくていいので、レベル1が残ります。

 それを使って、誰にもバレずに多くの強いスキルを集めるつもりでした」

 

 なるほど、奪うのではなく借りる。思っていたのと少し違うが、大方予想通りだ。

 

 それともう一つ疑問がある。

 

「きみのステータスを最初に見たとき、そんなスキル貸与なんてスキルは無かったけど、それはどうしてだい?」


「それは、僕のユニークスキルの三つ目、『虚飾』の効果です。自身のステータスや映像を偽ることができます」


 やはりそうか。彼は一時的とはいえ、奪うようなスキルを持っていると言われ、多少の不信感も持たれたくなかったという。

 

「ニキビがあるんですよ。現世に居たときのストレスで出来てしまってね。

 これを虚飾スキルでごまかしていたりもしています」

 

 ユニークスキルは、確か自身の個性を核に使うスキルだという。そのニキビを隠したいという願望もその虚飾スキルを得た原因なのではないだろうか。

 

 そして、今度は北條が僕に尋ねる。

  

「ところで、あなたは僕に何をしたんですか?

 ここ数日体が重くて…!」

 

 そう、彼は今、重力が普段の数倍に感じられていることだろう。

 

 それはこの前、友人に対して与えた、いや奪わせたスキルが原因。

 

 ステータス下降スキルだ。

 

 スキル奪取系統の弱点。それはマイナス系のスキルまで奪ってしまうということ。

 

 彼が僕を触れると同時に、あらかじめ調整しておいたステータス下降スキルを有効にしておくことで、犯人かどうかを試していたのだ。

 

 彼のスキル貸与スキルは、聞いたところによれば、スキルを任意に返すことができるはず。

 

 だが、ステータス下降スキルによってすべてのスキルを無効化したことにより、自力で外すことができなくなったのだ。

 

 そのことを彼に話すと、

 

「ふーん、……で、これを解除してもらうにはどうしたらいいんですかね?お金とか要りますか?それとも何か条件が?」


 けだるげに言う。彼の性格から懇願の演技をすると思ったのだが、もはや演技は通用しないと悟ったのだろう。

 

 話が早くて助かるが、仮に解除するとしても、最低限これだけははっきりさせないといけないことがある。

 

「ああ、その前に、一つ聞きたいことがある」

 

 そして、僕は縮地を発動させ、

 

「…・・?」

 

 北條の首筋に冷たい金属の塊を当てた。


「君は魔王の手下か?」


「っ・・・!」


 殺気を感じたのだろう。ビクッと硬直する。

 

「い、いや…・・、違う。違うよ」


「証拠は?」


「‥‥…」


 思いつかないのだろう。数秒沈黙する。

 

 ならば僕は金属の圧力を高めつつこういった。

 

「証明できないのか?お前は本当は魔王の手下なんだろう?」


「い、いや…!違う!私は魔王の手下じゃ・・・!!」


 北條は本気で怯えた声を出した。心拍数も上昇しているようである。それを聞いて、僕は


「……そうか。だったら」


 僕は彼を開放した。

 

「・・・え?」

 

「申し訳ない。君の本音を聞きたくて少し乱暴なことをしてしまった。

 今のは演技していない声だと感じた。だから、信用する」


 少なくとも、彼が一時的に操られるとか、そういうのでなければ大丈夫だろう。意図的に加担しているわけではないようだ。

 

 それに対し、心底うんざりしたような声で、北條は、


「‥‥…はぁ・・・まったく、あなたって人は・・・」


「それと言っては何だが、お詫びを指せてほしい」


「お詫び?」


 僕は彼にあることを提案した。

 

 

 

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