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新メンバーの加入

 

 

「あの、すいません」


 僕に声を掛けてきたのは、勇者の一人の意外な人物だ。


「あなたは・・北條四郎さん?」

 

 彼は元の世界での商品を取り寄せる能力を持っているはずだ。

 

 そんな彼が僕に何の用なのだろうか。

 

 にっこりと、屈託のない表情をしてこういった。

 

「僕の名前は・・ああ、もうご存知ですよね?北條と申すものです。

 違ったら申し訳ございません。周囲の人たちから聞いたのですが、あなたも私たちと同じ転移者なのだとか・・」

 

「ええ、そうです」


 年相応とは思えないほど丁寧な物腰。そして気品。慇懃ではあるが、一切無礼とは感じさせない。


 まるで一流ホテルマンと対応しているようだった。


「何やらあなたはあの魔王の完全復活を阻止したとか・・信じられません。

 そしてその実力も相当なものだと聞いています」

 

「ありがとうございます」


 そう答えつつも、心の片隅で彼に対し多少の違和感を感じる。

 

 だがそれを考える前に彼は至近距離まで近づいてきた。


「ほ、本当ですか?!」


「・・?」


 なんだろう。長く戦闘を続けていた冒険者ならばわかると思うが、普通ならその戦闘経験から他人の接近に対し多少なりとも反射的に警戒を抱くものだ。


 だが、この時、彼にいきなり接近されたというのに、まるで緊張を持たない自分に気が付く。


 彼の弱弱しいステータスのおかげなのだろうか。


 むしろ一種の保護欲さえ感じさせるほどだった。


 そして彼は僕の手を掴んで、完璧なタイミングで こう言い放った。

 

「あの・・、初対面で図々しいと思うかもしれませんが、お願いがあります!!」


「なんでしょう?」


 さらには顔を接近させ

 

「僕を・・ッ!」

 

 うるうるとした目で見、そして同情を誘うような声でこういったのだ。


「僕をあなたのパーティに入れてください!」


「な、なんですって!?」「なんだって?!」


 驚いたのは、僕ではなく、両脇に居るマージョリーさんとアンジェリカだ。

 

 特に大きく反応したのはマージョリーさんで、バッと無理やり彼の手を僕から外して、間に割り込む。


 そして彼女は突き放したような冷たい声で言い放った。

 

「一応彼のパーティメンバーとして聞くけど、加入したい理由を教えても貰えるかしら?」


「あ、あなたは・・」


「そんな可愛い顔しても無駄よ!!

 もしかして優斗にちょっかいかける気じゃないでしょうね!」


 彼女は裏切りを警戒しているのだろうか。何故か必要以上に殺気を出し、じろっと彼女は北條を睨みつける。

 

 そこまでする必要はないかもしれないが、彼女もパーティを思っての行動なのだろう。

  

 だがそれに対する彼は、その殺気を気にも留めない。


 いや、泊めないどころかむしろ彼女の手を掴んだのだ。

 

「えっ?!な、何?!」


「あなたは、『あの』マージョリーさんですよね!!あの、優斗さんの強力な片腕と呼ばれている!!」


 一切不快な感情を露出させず、むしろ喜色の表情で応える。


 先ほどまで殺気を放っていた彼女を、逆に狼狽させた。


「え?えっと・・そうだけど・・」

 

「いやー、昨日王城でお聞きしました! あなたは伝説にまでなった魔女なのだと!! お会いできて光栄です!! 確か優斗さんとお似合いだとか噂されていたのですが、本当なのですか?!」


「そ、そんな・・お似合いだなんて・・・」


 ついには懐柔されたような形になってしまったのだ。

 

「あの、マージョリーさん?」


 何か話の腰が折れているような気がしたので、声を掛けると、彼女は気が付いておっほんと咳払いして話をつづけた。

 

「と、とにかく!なんで私たちのパーティーに入りたいのか!!ちゃんと理由をいいなさいよね!!」


「あっ・・!すみません、そうでしたね。脱線して申し訳ありません。

 実は私、見ての通り戦闘向きのステータスではなく補助役なのです

 ですから、できれば他の凄腕の冒険者と同行したいと思って…」

 

 確かに彼の言う通りだ。

 

 四人バラバラに訓練するという案を出したのは僕だが、その後、後衛タイプの勇者は一人で戦いづらいだろうと気が付いたのである。

 

 まあ、この国が兵士などのお供付けると思って問題が無いとしていたのだが、彼は僕らのパーティに入りたいらしい。

 

「そう!できれば人々の間で英雄とも呼ばれているあなた様のパーティに入りたいと思ったのです」

 

 まあ、本人が希望するのならそれもいいだろう。

 

 承諾することにした。

 

「いいですよ」


「本当ですか!!」


 北條は満面の笑みを浮かべるがマージョリーさんは不満げな顔だ。


「まあ、あなたがそういうのならいいけどさ・・」


「まあまあ、いいではないですか。マージョリー殿」


 対するンジェリカは特に反対していないらしく、彼女を宥める。


「というか、マージョリー貴方勘違いしてはいないか?

 北條殿は男の子だぞ」

 

「え・・?!嘘・・?!」


 それが信じられないのか、じーっと彼を凝視して、「えぇ・・分からないわね・・」と呟いている。


 と、続いてアンジェリカは、マージョリーさんにこそこそと話している。

 

「それに、よく考えてください。美少年同士が接近しあうって、なんだか興奮しませんか・・?ふふふふふふふ・・!」


「アンジェリカ。今まであなたと気が合わないと思う場面は多々あったけど、今はかなりそう思うわ・・。

 まあ、男の子同士なら別にいいけどね・・。ライバルになり得ないし」

 

「そうでしょうそうでしょう」

 

 よく話している内容は聞こえないが、ともあれマージョリーさんも最終的に納得した。

 

 ともあれ、四人の勇者のうちの一人、北條四郎。彼が僕らのパーティ入ったのだった。


 久しぶりのパーティの新メンバー。慣らしが必要と考え僕はみんなに提言する。


「それでは、新しくチームメンバー、北條くんも入ったことですし、最初は簡単な場所で依頼を受けることにしませんか?」


「賛成!!」「了解」「はい、依存ありません」


「それでは、明日は城門で待ち合わせましょう」


 打ち合わせをして彼と解散する。僕らは泊まり慣れている宿に戻り、彼はしばらくは城で過ごすことになるだろう。


「しかし、、彼はどのような戦い方をするのでしょうか」


「そういえば聞くのを忘れていましたね。おそらく遠距離攻撃や補助薬だとは思いますが・・」


「まあ、それは明日ゆっくり聞けばいいわ」


 僕は明日に向けて二人と会話しつつ歩きながら頭の中で戦いのシミュレーションをする。


 しかし、その時頭の片隅で引っ掛かっていたことがあることに気が付いた。


 前述していた通り、彼は少し何か違和感があるのだ。


 それは、マージョリーさんも感じていたことなのだろう。彼女は会話の合間にこういった。


「それにしても優斗。あの北條って子。少しおかしいと思わない?」


「・・あなたもそう思いますか?」


 アンジェリカはその会話を聞いて、不満げに言う。


「二人とも!北條殿が信用ならないというのですか?!新しいメンバーですよ!?」


「いや、そうじゃない。信用していないわけじゃないんだ。

 ただ・・」


「・・・ねえ?」


 マージョリーさんも同意してくれる。


 そう、信用しすぎているのだ。


 たった数分の会話のうちに、僕らは彼に対して好感を抱きすぎているのである。


 そして、それだけではなく、何か彼の挙動に心当たりがある気がするのだ。


 しばらく考えていて気づく。それは灯台下暗しだった。


 北條四郎、彼が行っていた動作は、


「そうか・・僕と『同じ』なんだ・・」


(そう、彼は、心の底から湧き出る、自然なリアクションを取っているのではない。

 彼の挙動は、全て訓練し、計算されつくしているものなんだ)


 僕も普段そういう態度をとっているから分かる。あの喜びの表情、困ったような表情は、どこかマネキンめいた作り物感があるのだ。


 しかしそれは同類である僕や、偉大な魔女であるマージョリーさんが直感でかろうじてわかる程度の感覚。


 潔く負けを認めるが、僕よりも彼のほうが、『出来』が良い。


 何の出来かというと、それは、人の心に巧みに入り込み、信頼を勝ち取って取り入るための、技術だ。


 おそらく北條は他者の心理をよく知ろうとしているのである。僕が他者の気持ちを感じないようにしているのとはかなりの差があるだろう。


 無論、確証は出来ない。が、この時僕はそう直感したのだった。


「『同じ』?同じってどういうことですか?」


 アンジェリカが不思議そうな顔をして尋ねるが、このことは言わないほうがいいだろう。


 仮に彼が僕と同類だからと言って、戦闘に支障が無ければそれでいいのだ。


 この気づきを放すことで、パーティの雰囲気を悪くしたくはないのである。


「なんでもありませんよ。アンジェリカさん」


「そうか・・?それならいいのだが・・」


 しかし結果的にこの気づきは、近いうちに彼女にも知られることとなる。


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