勇者召喚
当日、普段通らない道を通り、王城へと到着した。
僕らは招待状を見せて門番に通してもらう。
「しかし・・何年もこの付近で生きていたけど、王城に来るのは初めてだわ」
「私もだ。一体どんなものを見せてもらえるのか楽しみで仕方がない」
僕らの声が足音とともに反響する。
磨かれたタイルの長い廊下。天井も高い。まさしく城と言った威厳を外見だけでなく内部も兼ね備えている。
ところどころにそれだけで歴史を感じさせる調度品や絵画がいくつも並んでいた。
そして突き当りの大広間に到着。扉があり両脇を兵士が固めていた。
僕らを確認すると、ギギィ、と。兵士たちが開ける。
「優斗様と、その仲間のおなーりー!!」
ざわ、ざわ・・
多くの貴族たちの視線がじろじろと突き刺さる。
その奥に王と思われる人物と、その姫や王妃がいた。
無言で道が開く。レッドカーペットがあり、進んでいけということなのだろう。
通り抜け王の前に来ると、彼は威厳たっぷりに告げる。
「よくぞ来てくれた。優斗殿」
「お招きいただき感謝します」
「そうかしこまらなくてもよい。今日は貴公のために開いた式典だ。存分に楽しんでほしい」
そして、ぱんぱんと手を叩くと、横から従者があるものを差し出してきた。それは、横長の箱である。
「これは・・?」
「これはこの国の宝物庫から見繕ってきた宝の一つである。
魔王を半殺しにした功績としてこれをあなたに贈ろうと思う」
礼を言ってその箱を開けると、そこには剣があった。
ただの剣ではない。持ち手が大きく、触るとところどころ液晶のような部分が光っていった。
一言で言うならば、機械仕掛けの剣と言ったところだろうか。
王は説明する。
「それは、かなり強力な武器で、どうやら古代の、もしくは異世界の武器という説がある謎の多い武器だ。マナを与えながら振るうとレーザーのようなものが射出されるし、切れ味も申し分ない。
噂によれば貴公は、絡繰りについていろいろと研究しているようなのでこういった剣を遅らせてもらった。満足していただけたかな?」
「・・・・」
僕はその返答に遅れたのは、その剣に魅了されていたからと言っていいだろう。
「ちょっと優斗!」
マージョリーさんたちに服の裾を引っ張られてやっと気が付いた。
「はい。ありがとうございます」
「その様子だと気に入ったようだな。それと、もう一つ、これは職人に特注で作らせた紋章だ。芸術的な価値もさることながら、これを提示することによって特定の特権を行使することができる。報酬も満足できる数字を貴公の口座に振り込んでおいた。
しばらくの間はパーティーを存分に楽しんでほしい」
色々と貰ってしまったが、良いのだろうか。
いや、良いのだろう。こっちは庶民的価値観だが、相手にとってはこんなものはしたがねにすぎないに違いない。
気にせず僕らはそのあとの飲食や出し物を楽しんだ。
そして夜はふけ、その巨大な窓から巨大な月が差し込んだ時間になったころ、もう一つのメインイベントが開始されたのだ。
「では、そろそろ時間だ。
始めるとしよう」
そう、勇者召喚。
術師と思われるローブを来た人たちが大勢、中央の魔法陣の周りに集まった。そして呪文を詠唱し始める。
それと同時に、魔法陣が光り、同時に月の光も一層眩しくなってくるように思える。
僕は小声でマージョリーさんに尋ねた。
「マージョリーさん・・魔法陣は良いとして、月があんなにも大きく見えるのはどうしてでしょう」
「ああ、あれは儀式を必要とする大魔法ね。
特定の上位召喚などと言った魔法には、月が出ているタイミングが合わないと発動しないものが多いの。
それは、月はこの世界のスキルシステムを管理する装置の一部だからと言われているわ」
なるほど、だからこの日を選んだというのもあるのか。
「〇’&&$’&%’&・・・」「&%%%$&%$&%・・・」
ギュィイイイイイイイイイイイン!!!
話している間にも、術師たちの呪文は一層激しくなり、その光が眩しいくらいに大きくなり、そして突然。
「!」
消えた。
そして、先ほどにはないものがその魔法陣のうえにはある。
そこに立っているのは、4人の人影だった。
そう、それがまさしく勇者なのだろう。
「・・・ここが異世界、というやつか。」
まず言葉を発したのは、長身の美形である。
彼は上等そうな制服をピシッと着こなしており、髪型もきっちりとしていた。清潔そうな外見である。
「神となのるあいつが言っていたことは、本当だったんだな。
となると、お前らは王族たちか。
自己紹介しておこう。俺は東堂修一。太陽が昇る方位の東の堂と書いて東堂だ。まさしく俺にぴったりの名前だ。
安心すると言い、俺にかかれば一つの世界くらい救うのは簡単という他ない」
何という自信だ。それに意気込みだけでない。鑑定で調べたところによると、来たばかりなのに最初からかなりの高ステータスだ。これは期待が持てる。
だが、しかし、それに横入りを入れてくる同じく勇者の女子。
「ふんっ、何かナルシストっぽいんだけど」
「・・何だと?!そういうお前は誰だ!!」
彼女は何やらセーラー制服を改造したかのような服を着て、茶髪に褐色。俗にいうギャル的な外見の女子高生。
「私は西園寺二愛・・・方角の西に公園の園と寺と書いて・・っていうか、なんなわけ?いきなり事故にあったと思ったら、お前は死んだなんて言われて、どこここ?
皆、どうして平然としているのか分からないだけど、順応できるわけないっつーの!!」
相性が悪いのだろう。東堂は初対面にも関わらず腕組みをしてふんぞり返り嫌味を返した。
「ふん、これだから下品そうな女は・・!」
「・・あぁん?てめぇなめてんのか?」
彼女たちは何やら協調性に問題があるように見える。
が、確かにいきなり異世界に連れられたとて、混乱するのも無理はないだろう。
同じように、鑑定でギャル風の女子・・西園寺さんのステータスを見てみると、自信たっぷりの青年、東堂に勝るとも劣らない恵まれたステータスだ。魔王を倒すために強力的になってくれるといいのだが・・。
そして、先ほどから周囲をきょろきょろと見渡していた、背の小さいツインテールの女の子が続けて「わぁっ!」と発言する。
「なにこれなにこれ!!あ、あたしは南雲亜三。南の雲と書いて南雲だよっ!!まさか体感型ゲームとかと思ったけど、すごいすごーい!!まさかVRゲームとかそういうやつ!?はやりのVチューバーに私もなっちゃったわけー?!!」
南雲亜三と名乗った、子供っぽい彼女は落ち着きがなく、大声で人に近づいて発言する。たった今喧嘩していた東堂と南雲からも眉を顰められているようだった。
「ぐっ!!なんだこいつは?!」「ちょっと!うるさいんだけど・・」
子供みたいな体格で、一見戦いに向かなさそうに見えるものの、南雲さんを鑑定で見てみるとやはり二人と同じくらいの高いステータスだ。その元気さも相まって高い戦力になってくれるかもしれない。
だが、個々の能力が高いとはいえ、チームワークは最悪のようだ。彼らが言い争いをしているのを呆然と僕らは眺めているしかなかった。
「ねーねー。君たち付き合ってんのー?!!」
「はぁ?!何言ってんのよ!?」
「だってなんか仲良さそうだったしー?」
「ふん、俺様がこんな下品な女と付き合うなど言語道断ありえん!!そんな失礼なことを言うのはこの口か!!」
「むがが・・」
「ちょっとぉー!女子に乱暴するのは無しなんですけどー」
「うるさい!まだこいつはしょんべんくくさいガキだろうが!!」
「あっ、私高校生だよー!」
「なん・・だと・・?」
などと言い争っている。だが、三人しか自己紹介が住んでいない。最後の一人がまだだ。
最後の勇者はその争いに興味が無いらしく、小さくあくびをしている。
それを見かねて、王様がやたら腰を低くして言った。
「あの~口を挟むようで申し訳ないが、とりあえず最後の勇者の自己紹介も言わせてくれないかの~」
「え?」「ん?」「もが?」
「・・・!」
彼はきょとんとしたが、すぐに目を開けた。
最後の一人は、まるで女の子に見える顔立ち。
だが、制服から見るに男子なのだろう。彼は無表情から一変、にっこりと人懐っこいような表情をして、勇者を含む周囲の人の視線を集めた。
その瞬間、完全に彼は周囲の見ず知らずの人人の信頼を集めたたと言ってもいいだろう。息をのむ声が聞こえた。
「ああ、すみません。自己紹介が遅れました。
私の名前は北條四郎。北のしのと書いて北條です。神様と名乗る者によれば、この世界を救うことになっているみたいですね。
不束者ですが、これからよろしくお願いします」
その丁寧な物腰に、この場にいるほとんどの人間が、こう思ったことだろう。
(ああ、彼がこの勇者のなかで一番まともな人だな)と。