金属生成(メタルクリエイター)Lv1
ーー
名前 名もなきブラッドゴブリン
生命力 100
最大マナ 10
力 130
持久力 20
魔法操作 10
敏捷 150
幸運 0
(10が平均的な成人の値)
スキル
チームワークLv1(集団で戦闘することに長ける)
鋭い嗅覚Lv7(嗅覚に補正)
毒生成Lv2(毒を生成する)
初期武器装備Lv2(生まれたときから武器を装備している)
解説
強さによってヒエラルキーを形成するゴブリン型モンスター。下の者は基本的に上の者に服従するが、下克上でリーダーが交代することもある。
血に含まれる微弱な毒は、毒として機能することはないものの、ブラッドゴブリンが強く反応する特徴的なにおい発する。それを嗅いだブラッドゴブリンはその場所におびき寄せられる性質があり、それが異種族だった場合、その対象が死ぬまで執拗に追いかけ攻撃する習性がある。
。
ーー
なるほど・・神眼、再度感じたがこのスキルはかなり使えるようだった。
解説にある、血を浴びせた異種族を追いかけるという習性。これを知ることによって血が出る攻撃方法は危険だということを事前に知ることができた。
そしてそれだけでなく、スターテスの値も役に立つ。
この俊敏の値。僕と比較すると3倍も差がある。つまりこれだけ見れば走って逃げ切るのは不可能だということが事前に理解できるのだ。
この情報が無ければ、僕は身体強化の力を過信して余計な体力を使ったことだろう。
そして、走って逃げきれないということが分かれば、とるべき行動が分かる。
そう、僕の近くに安全だと推測できる避難場所が一つあるのだ。
上空、つまり木の上。
彼らの指は短く3本しかない、明らかに枝を掴むようにはできていない。彼らは木登りが苦手ではないかと推測したのだ。
ジャンプで無理やり登ろうとしてくるかもしれないが、その時はもっと上の枝に登って逃げればいいだろう。
僕はこの選択が最も妥当と考え、足にぐっと力を込めた。
その時である。
先頭のブラッドゴブリンの一匹が、よだれをたらし目が血走らせながらこちらへととびかかってきた。思ったよりも俊敏な動きで少し不意を突かれる。
「!」
だが、瞬時に意識を集中させ、冷静に対応する。
無構えの自然体から拳を振りぬいた。鼻先に直撃する。
「コブゥ?!」
油断、していたのだろうか?驚くほど簡単にクリーンヒットし、大柄な体が僕の足元に転がった。
それを見て他のブラッドゴブリンの個体たちはビクッとなった。明らかにおびえているようだ。
体も一番大きいし、今倒したのは群れの長だったのだろうか?
しかし好都合だ。今のうちに再びジャンプしようとしたのだが・・
長が倒れたというのに、物怖じしないブラッドゴブリンの個体がいた。
彼は長が倒れると同時に直進して・・そして、
「ゴブッ!」
「!」
驚くほどあっさりと
首をたたき切った。
「ご、ごぶ・・」
そう、僕のではない。
僕の足元に転がったこの長を、仲間のブラッドゴブリンが攻撃したのだ。
ぶしゃぁあ!と血しぶきが舞い、とどめを刺すかのように彼は自らの剣で追い打ちをかける。
「ゴブっ!ごぶっ!」
「???」
僕は混乱した。
なぜ仲間を殺したんだ?
多少の疑問が残った。
が、しかしこの事態においていつまでも動きを静止してもいられない。その隙に僕はジャンプして枝に掴まり、上のほうへと登っていく。
「ゴブゴブ!!」
少しして下を見下ろすと、彼らはこちらを見て吠える。
だがそれだけだった。登ってこれないようで見上げるのみである。
幹のほうにも登ろうとして失敗しているさまが見て取れた。
どうやら僕の目論見通り、彼らはここまで登ってこれないようだった。
「ふう・・とりあえずは安心」
だけども。すぐに少し気になることが起きたことを思い出す。
僕は下に転がっているブラッドゴブリンの長の死体を見て不思議に思った。
どうして仲間を殺した?それもこの土壇場で・・・?
僕は神眼を使用して、長と、長を殺したと思われる個体を見てみる。
なんら異常のないスターテス。個体自体に原因があるとは思えなかった。
だが、何の気なしに解説の項目に目を通したときピンときた。
「そうか、この血液をかけるために・・!」
解説にはこう書いてある。
ーー
血液には、ブラッドゴブリンが強く反応する特徴的なにおいを発する。
(省略)
その対象が死ぬまで執拗に追いかけ攻撃する習性がある。
ーー
そう、彼らは僕を確実に殺そうと、わざと仲間を殺して血液を付着させたのである。これによって万が一僕逃げられても、匂いで追跡できるということか。
僕は感心した。獣と侮っていた節があったのかもしれないが、これがモンスター・・。
仲間を切り捨てるという残酷な行動すらいとわないということなのか・・!
そんな彼ら相手に、ここでこうやって避難できているのは幸運だったかもしれない。
しかし、どうするか・・・。
僕は周囲を見渡す。
そう、比較的木が密集していないところを拠点にしたのが悪かった。
身体強化しているとはいえ、ここから一番近い木でも届かない位置にある。この木から移動することは難しそうだ。
一かバチか全力で飛んでみるものいいが、落ちたら即ブラッドゴブリンに食べられてしまう。リスクが大きすぎるだろう。
もしくは、ここでずっと待機してブラッドゴブリンがあきらめるのを待つか?
いや、解説には、対象が死ぬまでという文言があったし、地上の彼らの興奮度を見るに諦めてくれそうにないと推測できた。
ここで僕に金属生成のスキルがあれば、この危機を脱することは簡単だっただろうが、
しかし、ないものはしょうがない。あるもので解決するしかないか。
僕は二つあるスキルのうち、まず【神舌】を使って地上のブラッドゴブリンに話しかけようとしてみた。
「ゴブゴブ!」
「ゴブゴブゴブゴブ!」
・・だめだ。しばらく真似して吠えてみてもなんて言っているのかわからない。説明文にもある通り、言語を持たない動物には通用しないみたいだ。
続けてもう一つのスキル、【神眼】を使い、周囲を観察してみる。
一応、すぐ近くに食べられる実はいくつかあった。あれをとることができればここで何日かは生活できるかもしれない。
が、しかし実際取れる手段がない。そして脱出に使えそうなものも見当たらなかった。
【神眼】【神舌】がダメとなると・・他に何も残っていなかったはずだが・・
「スターテス」
行き詰まりを感じつつ、僕はとりあえず、今の自分のスターテスを確認することにした。
と言っても、昨日と同じく、神舌と神眼のスキルがあるだけだろうが・・。
ーー
名前 斎藤勇斗
生命力 30
最大マナ 30
力 20
持久力 30
魔法操作 30
敏捷 50
幸運 70
(10が平均的な成人の値)
スキル
神舌(全ての言語会話可能
神眼(あらゆるものの鑑定が可能
ユニークスキル
金属生成Lv1
ーー
そう、何度見ても、変わりないのだが・・
「・・って」
え?僕はもう一度情報板を見直した。
ーー
ユニークスキル
金属生成Lv1
ーー
どうやら見間違いではないようだ。
金属生成が、復活している?
昨日、友人の技能奪取によって空白になっていたはずなのに・・。
それにもう一つ気になる点がある。スキルの表記が元のと違っていたのだ。
「Lv1・・?」
とりあえず情報板にあるということは、実際に使えるのだろう。僕は手に力を込めてスキルを使用してみた。
すると・・
にゅるにゅる。
表示通りユニークスキルは使うことが出来た。
指先から液体金属が生み出されていく。しかし少量。
LvMAXの時に使ったときは、まるで蛇口をひねるように出せ、その操作も微細に行えた。
それと比べ、今は指先から、使い切る寸前のマヨネーズのように出しずらく、その操作も大まかなものとなっている。おそらく、Lvというのは熟練度の意味で間違いないのだろう。
しかしなぜユニークスキルが復活したのか、それは謎だ。何か偶然が重なりこうなってしまったのか?
どちらにせよ、福音であることには変わりない。そうこのスキルを再び得たことで、希望が見えてきたのだ。
「・・よし」
まず僕はこの金属生成を使ってある道具を作り始める。
まずは指から液体金属を出して、棒状の形を作ろう。
そう、本能的に理解していたことだが、この金属生成は、液体金属を固めて金属製の道具を作ることができる。
しかし、Lv1ゆえにエネルギー効率が悪く、思ったよりも作るには体力を消耗する。
だがしかし適度な休憩と呼吸法やストレッチで、できるだけ集中力を維持しながら作業を進めていった。
数時間が経過し、そしてついに、
「できた」
時間はすでに早朝から昼頃まで進んでいた。
完成したのは柄が異常に長いさすまたである。
この長さを維持するために、強度と軽さを同時に意識して作るのが実に難しかった。
だが、この長さならば届くはずである。
そう、これは遠くの木の実を採取するための道具なのだ。
さっそく僕は全身の筋肉を使い、それで木の実を届くように伸ばしてゆく。折れるか心配だったが、なんとか大丈夫みたいだ。
「ゴブゴブゴブゴブ!」
地上のブラッドゴブリンはそれを見て警戒して吠えているが、無視して行動を進めていく。
そして先端のY字状の部分で木の実を挟み込むように持っていき、そして・・
「むんっ!」
僕はその状態から液体金属を動かす要領で、先端の二つに分かれた部分を閉じる。
できるだけそこだけを動かしやすいよう柔らかくしているとはいえ、力技だ。
固定された金属を動かすと、どうやら精神エネルギーのようなものを消費するらしい。
だが、その甲斐あって遠く離れた位置から木の実を手に入れることに成功した。
「よし」
達成感を感じる。
ようやく木の実一つを手に入れることができた。
すでに安全は確認しているが、一応食べる前に神眼を使用しておこう。
鑑定。
ーー
名前 名もなきミルクミの実
生命力 10
最大マナ 10
スキル
なし
解説
この世界で一般的に広く食べられている木の実の一つ。
栽培もされており安価で買い求めることができる。
体積に対し栄養価が高く比較的保存がきく。
一般的な品種の数千倍もする高級品種もある。
ーー
うん、大丈夫だ。食べられるようである。
というわけでいただきます。
指でクルミくらいの堅さを持つ殻を割り、口に入れる。
「・・・うん、うまい」
少しの苦みとともにクルミに似た触感が口の中に広がる。コクが強くミルクのような後味が好印象だ。
朝から何も食べず空腹だった体にエネルギーが満ちていくようだった。
むろんデリシャードの実よりかは味は落ちると言わざるを得ないが、素朴な味わいでこれはこれで良い。むしろ野生の木の実なのにこんなに美味しくていいのかとも思える。
しかしあえて苦言を呈するならば、その小ささについてだ。
じっとしているだけならこれだけでも足りる。だがブラッドゴブリンに抵抗するためのエネルギーが必要なのだ。あまりにも少なすぎる。
幸いミルクミの実はこの周囲の木に無数に成っていた。
続けて、このマジックハンドもどきを利用する。
採取して、食べてのサイクルを繰り返していった。
のどが渇いたときはこの木の葉を神眼で確認しつつ口に含んで噛んでゆく。苦いし水の量も少ないが致し方あるまい。
繰り返していくうちに、道具の扱いにも慣れ、金属生成の扱いもスムーズになっていく。
そして、無心にそれを続けていくうちに日が暮れ・・
「もうこんな時間か」
空を見上げればすでに日が落ちかけようとしている。
すでに腹は満腹になっていた。なので金属生成で籠を作り、食料を貯めている。
そろそろ良いだろうと僕はスターテスを確認した。
「スターテス」
ーー
名前 斎藤勇斗
生命力 30
最大マナ 30
力 20
持久力 30
魔法操作 30
敏捷 50
幸運 70
(10が平均的な成人の値)
スキル
神舌(全ての言語会話可能
神眼(あらゆるものの鑑定が可能
ユニークスキル
金属生成Lv2
ーー
「よし」
狙い通りだ。
金属生成がLv2へとレベルアップしている。このマジックハンドもどきを使用し続けた成果だろう。
試しに改めて金属生成を使用してみる。
すると、今は新品の絵の具ほどに金属を生成しやすくなっていた。操作性も高くなっている。
そう、僕は金属生成を利用していたのは、食料調達のためだけではない。スキルの訓練も兼ねていたのだ。
今の一番の目標はここから脱出すること。そのためユニークスキルのレベル上げがカギになってくるだろう。
しかし、今日はもう遅い。そろそろ寝床の準備をしないといけない。
僕はベルトのように腰回りに金属を巻いて、手錠のように木の幹にもつなぐように巻いてゆく。
そして座布団のように金属の板を作り、幹を背もたれにして座った。
そう、簡易的なものだが、今日の寝床はこれだ。
落下を防止しつつ座って眠ることができる。今日はこの姿勢で眠ることにしよう。
「ん、・・そうだ」
ふと閃いだ。
葉っぱをできるだけ隙間なく囲う金属の容器をいくつか作り出す。
「・・・このくらいでいいか」
そう、これは葉から出る水蒸気を集めるためである。
朝になれば水が溜まっているはずだ。これで葉を食べなくてものどを潤せるはずである。
というわけで今日の活動はこれで終わりだ。
僕は睡眠状態に入るために思考を停止し、ゴブリンの鳴き声をBGMにしながら何も考えないようにした。
おやすみなさい。
そして、
「ゆうと・・ゆうと!」
不思議な空間で誰かが僕を呼ぶ声が聞こえた。
意識が覚醒する。
「ここは・・・?」