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ポチの育成 後半


 そして、次の日、僕はポチをある場所に連れてきた。

 

「ここは・・」


「武器屋だよ」


 そう、剣がダメならばいくらでもやりようがある。

 

 重たい武器が苦手なのなら、小型の武器、例えば小型ナイフとか、何だったら僕の銃をあげてあってもいい。

 

 だが、その前に、彼女が使いやすい武器の傾向を見極めておこうと僕らはここにやってきた。

 

「むー。優斗様・・本当に剣はダメなんでしょうか・・

 もっと訓練すれば、上達するのではないでしょうか」

 

 アンジェリカは不満げだが、それをマージョリーさんがたしなめる。

 

「あのねぇ・・人には得手不得手ってのがあるのよ。魔法の属性だって、人によっては全く使えないものがあるんだから」


「しかし剣はすべての武器の基本で・・」


「まあまあ、アンジェリカさん。剣の訓練は継続しておくとして、他の道も探してみましょうよ」


「むう、優斗様が言うなら・・」


 彼女を説得してようやく店内に入る。


 そこには当然だが壁に掛けられた数々の種類の武器。


 物々しい店内ではあるが、ちらほらいる冒険者の顔は何やら楽し気だ。

 

 ここは、武器の質もそうだが、種類も豊富とふれこみの武器屋であり、他の武器の使い勝手を見たいという冒険者に一定のニーズがある。

 

 奥に、店番をしている青年が暇そうにしていた。

 

「らっしゃっせー」


 ポチを指示して、僕は尋ねる。


「あの、この子にあった武器を探しているのですが・・」


「ああ、だったら勝手に店内の武器を触ってもらって構いませんよー」


 いつものセリフなのだろう。言い慣れた様子でそう返すので、その言葉に甘えて僕らは店内を物色することになった。

 

「これはどう?」


 マイナーな刃の形をした武器を彼女に渡すが


「うーん、だ、大丈夫です!!」


 ぶんぶんと素振りをするポチ。どの武器でも元気よく返事をするが、しかし、僕とアンジェリカは首を振った。

 

 その体のバランスからして、通常の剣の二の舞になることは間違いない。

 

 そうやって、ある程度持たせてみて、分かった傾向があった。

 

 巨大で重い武器を持つことで体のバランスが悪くなっているのは確かなようだ。小ぶりな武器のほうが全身が安定している。


 そして、たくさん持たせてみてもう一つ分かったことがあった。彼女はどうやら何かを握ることが難しいらしい。

 

 彼女はどうやら指の長さが普通の子に比べて少し短いようだった。それが原因なのかもしれない。獣人としての特徴なのだろうか。


 それらの条件から、最も彼女に会っていると思う武器を見繕う。

 

「ポチ、これはどうかな?

 試着してみて」


 僕が差し出した武器、それは金属でできたグローブ上の武器、籠手である。

 

「分かりました」

 

 装着。


「!」


 つけてみた彼女自身もわかったのだろう。


 グーパーする。

 

 そしてシュッシュッシュッと。彼女はジョブを空中に繰り出した。


 その重さは結構あるが、元々筋力は足りていたのだ。彼女にとってはむしろ軽い程度の武器である。問題は形状。重心に近い位置に重さが追加されたkとで、安定しやすいようだ。

 

 続けて移動しながら、彼女は突きを繰り出していく。


 受付の青年もそれを肘をつきながら見てピュー♪と口笛を吹く。

  

「優斗様・・これは・・」


「決まり、だね」


 こうして、ポチのメインウェポンが決定した。

 

 

 

 

 

 

 そして、それから数日間、その籠手を使った拳攻撃を主軸としたトレーニングが開始した。

 

 籠手は剣と比べて射程は小さい。しかし、使い続けるにつれ、それは無視できる程度の差でしかないということが分かった。

 

 なぜなら彼女のスピードが早く、射程の差を物ともしなくなったからである。

 

 射程が短ければ、近寄って殴ればいい。そういうことだ。


 そして、そのスピードをさらに高めるために僕が教えた技術。


 それがこれだ。

 

「じゃあ、もう一度やってみて」


「はいっ!!」


 彼女は一瞬地面に手を付けると、その場から一瞬消えた。ように感じた。

 

「・・っ!!」


 一陣の風。マージョリーさんたちには、それが通り過ぎたように思えたことだろう。


 気が付くと僕らの立っている場所を過ぎたところにポチはいた。


 思わずアンジェリカが息を飲み、マージョリーさんがつぶやく。

 

ハヤい・・!!」


 そう、縮地。

 

 それでさえ、彼女は自分なりにマスターしてしまったと言ってもいいだろう。


 ただ、僕と違うところは、地面に手をついているということだ。

 

 二本足よりも4本足のほうが安定するということは言うまでもない。そうその手法は、縮地の不安定という弱点をカバーするもの。

 

 だが僕はそういった方法を取らない。発動までの時間が遅くなるからと、手に持った武器を落としてしまうというデメリットがあるからだ。

 

 しかし彼女に限ってはどうやらそのほうがいいらしい。


 獣人だからなのか、彼女は二本足よりも四本足のほうが早く動けるようなのだ。

 

 それに籠手ならば、手を開いても武器は落ちない。

 

 それも含めて、改めて彼女にあった武器を与えてよかったと感じる。

 

 一方アンジェリカは、ふう、と一息をついて、こういった。

 

「優斗様、私は剣術が冒険者にとって一番大事なスキルだと勘違いしていました。

 ですが・・ポチ、彼女のような逸材もいるのですね。

 これからは、他人に剣を教えるときは、それがその人に会っているのか、よく考えてみようと思います」

 

「・・・そうかもしれないね」


 弟子を取ることで、その師も成長するというのが最も理想的な師弟関係だと、どこかの本で見たような気がする。

 

 アンジェリカにとっても、これは自身を成長させる出来事だったに違いない。

 

 そして、その後、拳術を訓練する傍ら、マージョリーさんが魔法を彼女に教えようとした。


 そう、あの僕が魔法を身に着けたきっかけになった、あのワンドだ。


 しかし、


「う~んっ!!」


 何度練習しても魔法が発動する様子はない。ポチはあまり魔法が得意なほうではないらしいということが分かったのだ。マージョリーさんがコツなどを教えるもダメである。

 

 とはいえ、全くの無駄だったのかと言えばそうではない。


 訓練を終えたある日の夜、彼女はマージョリーの部屋のドアを開けた。

 

「マージョリー様・・!!なんか・・私・・体が熱くなってきました・・!!」

 

 魔法を使おうと、本人の自主的な練習の最中だったらしい。

 

「これは・・」


 マージョリーさんほどの魔法使いならば、他人の魔力の流れを見ることなど、基本中の基本だ。彼女によると、ポチの体の中で、魔力の流れが起きていたという。

 

 いわゆる、暴走に近い状態。普通、そうなる前に、体の魔力がワンドにわたり、魔法が発動するらしいのだが、ポチにとっては、体の魔力を外に出すことがかなり苦手らしく、体の中で動くのみにとどまっているらしい。

 

 それを見て、マージョリーさんは、ピンと来たという。

 

「もしかして・・ポチ、あなた・・!!外に出ましょう!!」


 そして、宿屋の少し広めの裏手に出ると、


「あれをやってみなさい!!」

 

 そう、ポチに縮地をしてみるように頼んだ。

 

 すると、

 

 ブォンッ!

 

「っ!!」

 

 今までと比にならないくらいの速度が出たのだ。

 

「やっぱり・・あなた、攻撃魔法よりも、身体強化の魔法が得意なようね・・!!」


 身体強化。それは普通の攻撃魔法と違い、体の外に出さないタイプの魔法だ。

 

 というか、それはほとんど、この世界の戦士たちが気やオーラと呼ぶものなのだが、一流の魔法使いはそれを使いこなすものも多いという。

 

 確かに彼女の戦い方には、この魔法のほうが相性が良いだろう。

 

 しかし、目を細めてマージョリーは言う。


「でも、少し粗さが目出すわね・・

 毎日私が補助するからその感覚をつかみなさい」


「は、はいっ!!」


 それ以来、拳術に身体強化の魔法を加えた、両主軸とした訓練の日々を送った。

 

 数年かけてゆっくり育成していけばいいと頭の片隅に思っていたが、しかしやっているうちにスポンジのように成長していくポチを見て、僕らも熱が入ってしまう。


 彼女の成長ぶりは凄まじい。いや、元々ベースとなるステータスはある程度完成されていたのだ。後はそれを使いこなすだけだったのかもしれない。彼女に負けじと僕らも自身のトレーニングを欠かせなかった。


 その甲斐あって、わずかな期間でポチはそこら辺の冒険者にはかなわないほどの力を手に入れたのである。

 

 そして、ついに・・

 

「ブヒッ!ビヒヒッ!!」


 当たりを素早い動きでほんろうする巨体。それに何ら心を惑わせることなくたたずんで構えるポチ。

 

 そして、ある刹那。

 

「たぁっ!!!」


「ブヒッ!!??」


 細い腕から放たれる弾丸のようなパンチ。そして宙に舞う巨体。

 

 カウンターぎみに放たれたそのパンチは、完璧なタイミングだった。相手の気配を正確にとらえている証拠だろう。

 

 その瞬間、それを見守っていた二人は喜びの声を上げた。


「よしっ!!」「やったわ!!」


 とうとう、一般的な冒険者が数人がかりで必死に倒すはずのオークを、簡単に倒して見せたのである。

 

 この調子じゃ、低級のドラゴンを一人で倒せるまで、少しもかからないであろう。

 

 ポチの喜びをたたえあう僕らだが、モンスターを倒せて嬉しいことは、彼女が自立して冒険者としてお金を稼げることだけではない。

 

「これで、安全に彼女は生活できるはずですよね」

 

「ああ!この子が奴隷商人に売られる危険はほとんど無いと言ってもいいはずだ!」


「こんなに短期間でつよくなるなんて・・!やっぱりこの子も天才ね!!」

 

 彼女が訓練を開始して、わずか1か月後のことだった。

 

 そして、あれから1か月ということは、あのイベントがある。

 

「まあ、それはそれとして、そろそろアレが始まるころですね」


「え?何がですか?」


 彼女たちは忘れていたようだが、当然当事者である僕は忘れてはいない。


 例の表彰式、そしてそれと合わせて行われる勇者召喚の式だ。

 

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