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ポチの決心

 翌日、僕が宿泊していた宿屋に、一人の兵士が尋ねてきた。

 

「あなたが優斗さんですね?」


「はい、そうです。そういうあなたは・・?」


「私は王から遣わされたものです。先日のあなたの功績について表彰パーティを行うので、一か月後、王城へお越し下さい。これがその招待状です」


「それはそれは・・」


 ギルドの受付が言っていた通り、わざわざ仰々しくも式典が行われるようである。

 

 しかし、一か月後。少し遅い気がしないでもない。何か準備があるのだろうか

 

 そのことについて聞いてみると、

 

「はい、優斗様の業績をたたえると同時に、勇者召喚式を同時に執り行う予定ですから、その準備です」


「勇者召喚式・・?」


 そう、それは昨日の夢でストラ神が言っていた召喚のことだろう。彼女が言うところには、各国の王族たちは魔王陣を生成し、各自そこに転移者体を生成するのだという。そこから召喚された転移者は、使われたエネルギーや魔法陣の質によって多少の成長ボーナスを獲得できるらしい。その程度かかるのは仕方ないといえよう。


 と、その時僕は気が付いた。


(これに出席するということは、彼女たちの意志に反することなのだろうか?)

 

 彼女が言っていた言伝を思い出す。『魔王討伐にはかかわるな』、と。

 

 普通に考えれば、僕を危険な眼に合わせないようにという配慮だろう。


 だが、何か気になるのだ。なぜこの世界で一番偉い神様が、僕の安否を気にする必要があるのだろうか。


「・・・」


 少し考えたが、


「これが、その招待状です」


 兵士の言葉にすぐに気を取り直す。何を悩んでいるのだろうか。

 

 式に出席するだけだ。その程度なら平気なのは分かりきったことである。

 

 僕は兵士をねぎらいつつも招待状を受け取った。


 招待状をアイテム袋にしまうと、僕はこれからどうするかの予定を再確認する。


 一か月後式典に参加するのを忘れないようにすること、そしてさらなる高みに上るために修行するのは当然だが、もう一つやらなければならないことがある。

 

 それはポチの戦闘訓練だ。


 昨日の事件の後、僕らで話し合った今後の方針。


 奴隷商人から少しでも安全にするために彼女を鍛えなければいけない。

 

(とりあえず、朝食を済ませた後、マージョリーさんとアンジェリカとともに、ポチを連れて弱いモンスターのいる草原まで行こう)

 

 そろそろ宿屋が提供する朝食の時間だ。


 隣のポチがいる部屋に僕はノックする。

 

「ポチ。朝ごはんの時間だよ」


 シーン、と。いくらノックしたも返答はない。

 

「ポチ・・?ポチ?!」


 何か胸騒ぎがした。

 

 ドンドンと叩いて大声を出しても何ら返答はない。


「優斗様?」「どうしたの?」

 

 既に起きた居たのか、その物音に反応してマージョリーさんとアンジェリカが姿を現した。

 

「ポチが起きないんだ。何か嫌な予感がする」


「・・寝坊?」


「かもしれないけど、でも」

 

 悪いとは思いつつも、金属生成で鍵開けを試みる。奴隷の首輪よりも単純な作りだ。


 ガチャリと簡単に錠は外れてドアを開くことができた。

 

 そして、見たものは、

 

「・・・っ!」「ひぇっ!!」「そんな・・」


 床に倒れている彼女。そして赤く汚れた床。


 そこにあったのは、体には無数の傷が見える、ポチの姿だった。

 

 彼女は気を失ってうなされて居る。

 

「ポチ!!これを・・!!」


 僕はアイテム袋からポーションを無理やり飲ませた。

 

 瑕は見る見るうちに治っていく


(しかし一体だれが・・?)


 部屋に敵の気配はないようだが。

 

 ポチが目覚め、その傷のことを尋ねる。

 

「いえ、その、これは・・」


 しどろもどろになるが、僕らは真剣に彼女を見つめた。


 彼女が犯人を庇う義理ないはずだろう。数十秒間待って、彼女はようやく口を開いた。


 しかし答えたのは、意外な言葉だった。


「自分で、やったんです」


「「なっ・・?」」


 僕らは驚愕した。


 先ほどの体の傷は命には別状はなさそうとはいえ、並大抵のものではない。


 それを自分の意志でつけるというのは、よほどの事情があるのだろうか。思わず尋ねる。


「ど、どうして?」


「・・・・」


 しばらく彼女はうつむいて黙っていた。


 言いにくいことのようだが、彼女の保護者である以上、こんな危険なことを見過ごすことはできないだろう。

 

 根気よく待っていると、ようやく彼女は口を開いてくれた。

 

「寂しかった、からです」


「寂しかった・・?」

 

「ご主人様が、いなくなって、その、いつもご主人様は私を殴っていたから・・」


「・・・っ」


 なんというか、友人は信じられないことを彼女にしていたようだ。


 こんな小さい子に暴力をふるうだなんて。きっとあの魔王の影響だろう。

 

 僕は安心させるように肩に手を置いて、語り掛ける。


「君の主人は魔王に操られていたんだ。それは彼の意志じゃない。

 だからもう自分を殴るべきじゃないんだ」

 

「いえ、いいんです」


 続けて少しずつ彼女の言葉を聞き出していった。そしてあるとき堰を切ったのだろう。


 ぽつりぽつりと少しずつ彼女は感情を吐露してくれた。


「それに・・あの時、ご主人様に食べられそうになった時、私はおとなしく食べられるべきだったんじゃないかって・・。そうすればご主人様は今も生きているかもって・・だから、後悔していて・・」


「・・・」


 そうか。あの戦闘の間際。彼女は生存本能からつい逃げ出してしまった。

 

 だが、そのことが今も彼女を苦しめているんだ。

 

 しかし、彼女が死ぬことが本当に友人が望んだことなのだろうか。

 

 

「いや、少し違うような気がする」

 

「え?」


 僕は励ますというよりも、事実を再確認するように言った。


「君はモンスターよりも弱いし、マナ量も少ない。だから彼があの局面で君を君を食らったところで、彼が得られるエネルギーは少ないだろう」


「え・・・?」


「つまり、回復や強化目的だとしても、わざわざ戦闘中、隙をさらしてまで君を食べようとすう理由がないってことさ」


 そう、彼は怪物化していたからと言って理性がはっきりしていた。

 そのことが分からない奴じゃない。

 

「もしかして、彼は君を食べるためじゃなくて、守るために口に避難させようとしていたんじゃないかな?」


「避難・・・?」


「そう、君の安全そうな住処を僕が破壊した後に、彼はあの行動を取った。

 ということは、君を生かすために、最も安全そうな口の中に入れるという選択を取ったというのが、いちばん合理的な理解だと思う。」

 

「私を、生かすために・・?」


 ポチは目を見開いていた。そんなことは全く考えていなかったという表情だ。

 

 そして、「うわぁあああああああああ!!!」

 

 泣き叫んだ。そして、突然

 

 ボガッ!ボガッ!と。

 

 自分を殴る。

 

「「ッッ!!」」後方から二人の息をのむことが聞こえてくるようだった。

 

「・・・・」


 そう、思い出したのだろう。彼が守ろうとしたときに、自分がどんな行動を取ったのか。ポチは彼の行為を突き放したのである。ゆえの自傷。

 

 だが、その行動はナンセンスだ。

 

 僕は彼女の腕をつかんで自傷を阻止した。

 

 この年齢でなんて凄まじい力だ。だが、多少レベルが上がり力も上がった僕にはまだほど遠い筋力でもある。

 

 彼女は吼えた。

 

「っ!!放してっ!!」


 しかし僕はそれに全く動じず語り掛ける。

 

「そう、君は勘違いしたいた。だから君はもう自分を殴るべきではない。彼がせっかく守ろうとした命を無駄にするべきではないからね」


「・・・・!!」


 凄まじい力がしなしなと弱まっていく。そして、

 

「だったら、どうすれば、いいんですか・・」


「簡単だ。生きるだけでいい。

 僕たち三人で君が他人から命を奪われないように、冒険者として訓練してあげるから」

 

「そうよ! 私の修行についてこれるならの話だけどね!!」


「私も優斗様がそう命じるなら、剣の相手をするのもやぶさかではない」


 二人もその言葉に応じる。そしてとどめとばかりに僕は少し卑怯な言葉を放った。


「それとも、君は主人の、君を生かしたかった意向を無視して、自分勝手に死ぬつもりなのかい?」


 その言葉にぴくんとなった彼女は、

 

「・・優斗様、私・・・」

 

 少し考えてからこういったのだ。


「冒険者に、なりたいです・・」

 

 そして、今日から1か月間続く、ポチとの訓練の日々が始まったのだ。

 

 

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