ゆがんだ思いと魔王降臨
時は少しさかのぼる。
それは、友人が死亡する前の数分前のことだ。
「心配しないでぐれ・・ずぐおわるがら・・」
そう言い、友人が、ポチを自らの口の中に非難させようとした時である。
それは、彼によっては思いやりの行動。出来るだけ安全な場所に居てほしいという思いからしたことだ。
だが、だからこそ次の彼女の行動に彼は予想できなかった。
「いやぁあああああああああああああああ!!」
「ボぢッ?!」
素早い動きで逃げ、優斗のもとに行ってしまった。
(なんで・・?!)
混乱した。
一瞬、彼女が裏切ったのかと思う。しかし、すぐさまその考えを取り消した。
きっと彼女は何か勘違いしていたのだ。しかし戦いに特化した頭ではその考えを推し量ることができない。
ただ、信じるしかないという気持ちがだけがあった。
「ボヂィ・・!!がえっでごい・・!!」
「・・・ッッ!!」
それでも、彼女は憎き宿敵である優斗の足元から離れない。
彼は説得を続ける。無理やり取り返そうとすれば今彼女にまでケガをさせてしまうかもしれない。
十分に優斗の反撃を警戒していたと思っていた。
だが平静ならば確実に気が付くであろう頭上のマナの動きに一切気が付かない。
そうこうしているうちに、ドスンッと。何やら巨大なものが覆い尽くすように落ち、周囲が真っ暗になる。
彼は巨大な捕獲箱に閉じ込められてしまったのだ。
「ッッッ!!」
そこは暗黒。普通の堅いだけの物体ならば、その腕力でたやすく引き裂くことができただろう。
しかしそれは、優斗が地球からの知識を基に作り出した、最も強度のある構造の檻である。
特に中からの衝撃には特に強く守るように設計できている。
「おらぁあ!!!」
剣で攻撃してもわずかに少しへこむばかり。一体どれだけ殴れば脱出できるのか。
だが、攻撃するしかない。彼は暗い中、何度も壁を殴っていく。
ガガガガガガガガガガガガ・・・
その暗黒の中で、彼は不安が押し寄せてきた。ここから一生出られないのではないか。と。
そして、どんどんと悪いほうへと妄想を膨らます。
そして考えるのは当然、今起きた出来事。
(なんで・・・っ!!なんでポチは優斗のもとへ行ってしまったんだ・・っ!!!)
そう、優斗は彼が見下していたはずだった只の『優等生』、のはずだった。
しかし、その相手に何度も敗北し、情けないところを見られてしまったのである。さらには力まで奪われて(?)しまったのだ。
彼が元の優越感に戻るためには、彼を殺さなくてはならない。そして自分が優れているということをポチに教え込まなくてはならないのだ。
そして奇跡的に生命奪取によって今までとは比べ物にならないほどの強さを手に入れた。
そのはず・・なのに。
「はぁ・・・」
手を止める。今の自分自身の状況はどうだろうか。
捕獲され、この体たらくだ。
ステータス上ではこちらが勝っていたはずだった。だが、相手は機転を利かせて格上のはずの自分をここまで追い詰めているのである。
そう、認めざるを得ない。直感で彼は思ってしまった。
(あいつは、俺より強い・・っ!!技術が優れているとか、表面的なところだけじゃなくて・・もっと根本的なところで・・!!)
自分が有象無象から奪ってきたグチャグチャの力に対して、彼の力には意思や個性を感じた。かなうとはとても思えなかった。
(どうなるんだ、、俺は、これから、、!)
このまま行き着く先は死か。はたまた監禁されるのか。
どちらにせよ、ポチが奪われることは確実。
(奪われる・・・っ!)
そう考えたとき、、友人は激怒した。
彼は今まで数日間といえど、盗賊として、多くの者の所有物を奪ってきた。命、金品、スキル。
奪った相手はだれしも悲しみ、返してくれと懇願してきた。
だからこそ、彼は奪うものの気持ちがよく理解できてしまう。
そう、盗賊をして彼がやっていたことは、相手を悲しませ、それを見て喜ぶという、完全なる『悪意』。
そして、そんな悪人こそが、奪われるものの負の感情をよく理解しているのである。
その感情は、今まで自分とは無関係だと思っていた。
だが、今や彼は奪われる側。
「・・・許さない」
その憤怒が、彼にパワーを与えた。
「ぐらぁあああ!!!!」
剣を捨てて、拳で内側の壁を殴る。
激痛。
壁の層が一つ破壊される代わりに自身に多大なダメージが入る。が、構うことはない。どうせ再生するのだ。
そして、「ぐあああああああああああああああああああ!!!」
怒りに任せ、脱出した。
遠くのほうにポチがいる。彼女を見て思う。
(そうだっ!!優斗の技がなんだ・・!!俺にはモンスターから奪ってきた力がある・・!!あいつを殺せれば、どんな汚い勝ち方だっていい・・!!)
策を弄する優斗とは対照的に、無策で走り出す。それに対して毒棘の鎖で応戦する優斗。
「ぐっ・・・!!」
(あの野郎・・っ!!まだこんな技を隠し持っていただなんて・・!!)
抗えば抗うほど速度を増していくように思えたその鎖。そして棘には毒が塗られていることを察知する。
まだ毒が回るまで余裕があるが、しかしそのタイムリミットが自信を焦らせた。まるで脱出不可能の蟻地獄にハマっているようだった。
(俺が・・負ける・・・?ポチを取られたまま・・?ここで・・・?)
明確に自身が負けるビジョンが見え始めた。
覚悟していたとはいえ絶望だった。
そう、先ほどまで、力で押していけばなんとかなると楽観的な思考だったことを理解する。
そして
「がは・・がはははは・・・ッ」
笑った。
ここで自身は死に、このまま優斗に最愛の者を取られてしまう。その近い未来に、彼は完全に覚悟を決めてしまったのだ。
そう、その覚悟の行く末は、『自爆』。
彼はドラゴンの炎袋がマナを火属性エネルギーに変換する臓器だと理解している。
ならば、自身のマナと生命力を犠牲にすれば、膨大な爆発力を生み、この周辺一帯を消し炭にできる
そう気が付いた瞬間、彼は自爆の準備を開始した。
自身の意志の弱さも理解していた彼は、迷わないうちに実行に移す
ぐんぐんと熱は上昇していく。鎖がドロドロに溶け、脱出できる段階になってさえ、彼はその自爆までのカウントダウンを止めない。
仮にここで自爆をやめたとしても、もはやマナは平常時の1%にも満たない。彼に勝つことは不可能だろう。
愉快だった。今まであんなに余裕ぶっていた優斗が、必死になっているのが見て取れる。
「(道連れだ・・!!優斗・・!!)」
そして、ついに爆発まで残り数秒と言ったところで・・
ドォオオオオオオオオン!!!
ごくわずかの鋭い痛みとともに目の前が一瞬真っ白になるのを感じた。
「・・・あん・・・・?」
そして、奇妙な感覚とともに、いつの間にか不思議な白い空間にいた。
ここには見覚えがある。異世界に来る前に来た場所だ。
さらには、見覚えのある顔まで現れる。
「やあ。」
人の形をとっているが、禍々しい複数の目、一目で忌避感を覚える存在だ。
それは自身を魔王と名乗る存在。
それは、意外にも気さくな口調でにも彼にこう尋ねた。
「大変だったみたいだけど、元気かい?」
「・・・・」
調子を狂わせるような、気楽な調子で尋ねた。そして、自身がここに居るその意味を半ば確信しながら、
「‥‥俺は、一体どうなった?」
真剣な様子で尋ねる彼に、二やりと笑う
「その様子だと気が付いているみたいだね。
そう、またまた君は死んでしまったのさ」
「・・・っ!」
感じたのは、怒り、それからポチに会えない悲しさ。
これまで魔王から聞いた情報から、無理だと思いつつ彼は尋ねる。
「俺にまだ、逆転のチャンスは、あるのか?」
「ないねぇ。
言っただろう。僕はもう既に余剰のエネルギーを使い果たしている
もしあるならば、最初僕がやったように君の体をあの世界で構成することもできるんだがね
しかし、無いものはない。無理だね」
「・・・」
抗いようのない悔しさもあるが、しかし、彼がそういうのならば何もできない。
無力さを感じつつ、これからポチに再開する機会があるのかが気になり尋ねた。
「俺は・・これから一体どうなるんだ・・?」
「うーん?」
てっきり転生すると思ったのだが、彼は無責任にもこういった。
「知らないよぉ?」
「・・・!!知らないって・・お前・・!」
「言っただろう?僕はよそ者なだって。
消えるのか、はたまた別の世界に行き着くのか。それともずっとこのままなのか」
「・・・っっ」
不安が押し寄せてきた。
ここはただでさえ、文字通り世界の理から外れた場所だという実感があるのだ。
地を踏みしめる大地もなければ、仰ぎ見る空も、色も無い。
まるで、広大な宇宙に一人取り残されたかのような実感を覚えた。
だが、相手の魔王は、そんな彼の心境などどこ吹く風で、
「そんなんことより」
尋ねる。
「どうしたい?ポチを」
「どうしたい・・だと・・?」
「そう、君がもうたどり着くことができないであろうあの異世界。
そこに置いてきた最愛の者
彼女に君は何をどうしたいのかな・・・?」
「どうしたいか・・?」
その瞬間だけ、彼はたった今感じていた恐怖が一切なくなり、本心を口に出した。
それを聞いて、魔王はこの、確実性に欠けるこの計画が、完全にうまくいったことを確信した。
そう、彼はこう答えたのである。
「俺はポチを・・」
――救いたい、
などと言えば、魔王の世界破壊の計画は成らなかったであろう。
だが、彼はこういったのだ。
「『殺したい』・・!!」
憎悪をむき出しにした表情だった。
わざと驚いた顔をして、魔王が尋ねる。
「おーう、それはなぜだい?君は彼女が好きだったはずじゃないのかい?」
「ああ・・っ!そうだな好きだよ!!裏切られたとしてもな!!だけど!!あいつに取られるくらいなら・・!!」
そう、彼は天涯孤独の身だった。それを救ってくれた唯一の少女。彼女にどれだけ救われたことだろうか。
そして『その』癒しの存在に裏切られたのだ。
ポチ事態を恨むことはできない、彼女が自分を虐めてきた親と同じだとは思いたくない。
だが、そのショックには相当なものがあり、そしてもう一つの大きな理由がある。
「俺が愛するポチを、あの優斗に渡すくらいなら・・!!殺してやりたいんだ・・!!」
そう、彼はほかならぬポチを巻き込むと知っていて自爆しようとしたのである。
それは、自身の大事なものを奪われたくないというエゴイズムのためだ。全くポチの幸せを全く考えない。
奪うものが、奪われるものの悲しみを受け止める精神的余裕はないのである。
「そうかそうか・・・。それが君の本心なんだねぇ・・」
魔王はまじめぶった顔でその言葉に相槌を打ちつつ、内心哄笑した。
(ふふふ・・まさかダメ元で育てていたいくつかの種の一つが、ここまで成長するだなんてねぇ)
そして、それをおくびにも出さずに、ふーっとわざとらしくため息をつき、
「そうか。だったら
僕はその望みをかなえる手伝いをしてあげようじゃないか」
「・・っ!」
藁をもすがる勢いで彼は顔を上げた。
そう、今や彼は膨大なステータスどころか肉体さえないのだ。ポチを確実に『殺す』ためには、魔王の言葉に従わざるを得なかったのである。
彼は真剣に言葉を返す。
「・・・どうすればいい?」
。魔王は胡散臭い笑顔を見せ
「なあに簡単さ」
そのための方法を伝えたのだった。
そして・・
――異世界に混乱を巻き起こす原因となったその人物。
――魔王に異世界侵略のために選ばれ加護を得た者。
――そして、優斗にとっての唯一の友人。
かの人物はこの世界から、完全に消失する。
いや、上書きされるといったほうが正確だろうか。
彼が魔王の言う通りにその後に行ったことは、自らのユニークスキルの発動。つまり、生命奪取を魔王に対して使うことだった。
それによって、本来長丁場で行うはずだったはずの魔王降臨の儀式は、ものの二か月で成ることとなったのである。
ーーー
「私が魔王です」
「っっ!!!」
その言葉を聞いた途端。僕は思い出していた。
本来魔王とは長い時間をかけてこの世界に降臨するものだと聞いていた。だが、神様からその情報を得てからまだ二か月程度しか経過していない。
そう、おそらく、友人は何らかの魔王の復活の儀式に加担したのだ。
「・・・っ」
アンジェリカとポチは、身がすくんで動けないようだ。
この中で唯一僕だけがかろうじて動くことができる。呼吸法による精神トレーニング。冒険の中で何度も強敵と相対した時の経験が功を奏したのだろう。消耗により全力とはいかないまでも、一応戦うことができた。
本音を言えば、今すぐ逃げ出したい気分。それでも僕は金属生成を使用する。
この局面において、たとえ逃げることが最善の手段だとしても、その前に、最も安全と思われる遠距離攻撃手段を試していくべきではないだろうか。
そう、魔王と自称したとは言え、そのマナは弱弱しい。
神眼による鑑定も以下のようだった。
ーーー
名前 魔王
生命力 10
最大マナ 10
力 10
持久力 10
魔法操作 10
敏捷 10
幸運 -∞
(10が平均的な成人の値)
スキル
無し
ユニークスキル
|%!!&@@$&&&%(鑑定不能)
世界を食らうもの(破壊するなどと言った条件を満たしたときに世界をエネルギーとして食らうスキル。世界を捕食する厳要注意異界人しか持たない。万が一このスキルを持つものを見かけたらしかるべきものに報告されたし)
ーー
そう、この抗いようもない嫌な感覚とは裏腹に、それはスキルを別にさえすれば最弱と言ってもいいステータス。
友人とは比べるべくもない。普通なら鎖で瞬殺できる強さなのだ。
相手は魔王。まさかほおっておいて、このまま弱り切って死ぬということはあるまい。ここで十中八九逃がしてしまっては力を蓄えられるだろう。
そうだ。僕は感情に揺られていた自身の心に活を入れて決意する。ここが唯一のチャンスかもしれないのである。
あえてこの嫌な予感を無視し、先ほどと同じように鎖を生成。
そしてその体に絡みつかせる。
完全に棘は食い込み、捕らえたはずだった。
だが、しかし―
「中々やるねぇ。でも・・」
ずもも・・っ!と。
その体が変形した。
具体的には、鎖のごくわずかな隙間から押し出すように出てきたのである。それはまるでところてんを押し出す器具を全方位にしたようだった。
「・・・っ!!」
まるでおぞましいものとなった友人、いや魔王は、その細長く分離した一つ一つをそれぞれ動かして、放射状に逃げようとする。
その肉片はかなりの機敏な動きだった。指先ほどしかない大きさだが、どうやら生きているように動いている。ただ普通に動くだけではない。肉片が他の肉片を弾き飛ばすなどして、どんどんと高速で周囲へと散っていく。
「っ!!」
油断した。俊敏が少ないとはいえ、モンスターの中には転がるなどして高速で移動できるものもいることを失念していた。
このままでは逃げられてしまうだろう。僕は瞬発的に鎖をナイフに変えて、その一つ一つを追撃する。
それ以上細かくすると、生物としての自我を保てなくなるのか、ナイフがヒットした肉片はそのままピクピクと動かなくなり砂となって消滅していく。
だが、いかんせん数が多い。僕は急いで液体金属で周囲一帯を覆いつくし、できるだけ多くの肉片を仕留めようとした。
だがマナもだいぶ消耗しているのだ。その量には限りがある。できるだけ全てを死滅させようと努力したのだが。
その時になってアンジェリカは、恐る恐る僕に尋ねてくる。
「ゆ、優斗様・・魔王は・・・?」
「・・・逃がしてしまった」




