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3度目の再会


 

「シャイニングスピア!!」


 その一撃は、完全に鎧の隙間をついたはずだった。

 

 人間なら、急所。

 

 即座に即死にはならないとはいえ、回復するまでほぼ戦闘続行不能になる。

 

 そしてその隙を狙い、連撃で息の根を止めるはず、だった。

 

 しかし

 

「・・?!」


 違和感。

 

 捕らえたはずなのに、剣を押しても引いてもピクリともしない。

 

 彼女が攻撃した部位。

 

 その鎧の中にあるものがあった。

  

 牙。

 

 何故か足の肌に乱杭歯の顎があり、その剣をはさんでいたのだ。


「~~~!!」


 それを確認し、冷静から、忌避感と恐怖へと変化する。


 その一瞬の硬直が命取りだった。

 

 即座に剣を捨てて逃げようとしたが、

 

「ぐっ!!!」

 

 その前に体をその巨大な手で捕まれる。


 万力のような握力。


 指が密着し、抜け出そうと思わせることすらさせない。

 

 獲物を捕まえ、怪物は

 

「(そういえば、まだ人は食ったことがなかったな・・

 腹の足しにもならないと思うが、試しに食ってみるか)」


 そう思い、その恐ろしい牙の生えた口を開けた。


「「リーダーッッッ!!!」」


 彼女を口元に持ってくる。

 

 実際には、数秒の出来事だっただろう。


 しかし彼女はそれがスローモーションのように感じられた。

 

(食われる)

 

 その事実を否応に実感させられる。

 

 アンジェリカの今の心境は、意外にも恐怖ではない。

 

 それを通り越して、逆に何も感じなかったのだ。

 

 ゆえに、冷静に今自分がなすべきことを実行。

 

 驚愕の表情で見守っている仲間たちに告げる。

 

「何をグズグズしている!!今のうちにお前たちは他のSランク冒険者にこのことを伝えろ!!」


「っ!」


 その命がけの叱責に、彼らも悔し涙で逃走していった。

 

「ごめんなさい!!リーダー!」「くそっ!くそっ!!」


 それを見て、わずかに笑う。心底彼らが無事に生きることを願った。

 

 そして覚悟を決め、


(この私もここまでか・・)

 

 永遠とも感じる自らの終末を待つ。


(しかし、こんなに早く死ぬなら、恋人の一つや2つ作っておくんだったな

 まあ、手遅れだが。ふふっ)


 


 だが、その前に、

 

 ドォオオオオン!!

 

 爆発音とともに衝撃。

 

「う・・が・・?」


 怪物は首をかしげた。

 

 いつの間にか、その指が一本もげている。

 

 続いて、

 

 謎の『液体金属』が冒険者を包み込む。

 

「なっ・・!!」

 

 だが、アンジェリカにとって敵ではないようだ。

 

 即急にその手から外れさせ、風前の灯だった命を救った。

 

「あなたは・・!!」


 そして、自らを助けた冒険者を見る。

 

 アンジェリカは彼に見覚えがあった。

 

「確か最近最速でSランクになった‥」


 そう、斎藤優斗。


 彼は剣を構え、敵から目線を外さず、その手を取って立ち上がらせた。

 

「危ないところでしたね。

 大丈夫ですか?」


「っ・・!!」


 やっと助かったという実感とともに手のぬくもりが彼女の心をいやした。


 助けたことは数多くとも、助けられたことは久しぶり。

 

 新人の頃を思い出し、思わず腰を低く答えてしまう。

 

「申し訳ございません・・!!

 独断専行であのモンスターを倒そうとしたんですが。逆に返り討ちにあってしまって・・!!」

 

「分かりました。見たところ見たことのないモンスターではないようですね。

 ここは僕に任せて、あなたは他の冒険者にこのことを知らせてください」


「・・・」


 しかし、彼女は動かない。

  

 そう、目の前には2か月でSランクにまで上り詰めたとはいえ、自分よりも若い新人冒険者がいるのだ。

 

 彼の力を信用していないわけではない。

 

 が、しかし脳裏に先ほどの圧倒的絶望が思い浮かぶ。

 

 いくら彼が強いと言っても、一人でこの怪物と戦うというのは、無理が過ぎると感じた。

 

 せめて、二人。


 お互いに隙を作って攻撃すれば、わずかに勝機がある。

 

 そう感じた彼女は、この危機的な状況下において提案する。

 

「優斗、いえ優斗様!! 私にも援護させてください!!」


 その眼は真剣だった。


 一度死の淵に立って恐怖を克服したのだろうか。。

 

 そう、最初の震えはもうなく、俄然やる気になっていた。


 それを見て優斗は。


「分りました。でも無理はしないで、いざとなったら逃げてください」


「はい!」


 そうはいいつつも、いざとなったら自分が身代わりになろう。そう彼女は決意する。


 そして、さっそく優斗たちは剣を握りなおして、

 

「行きますよ!!」


「ええ!!」


 彼らは気合を入れるとともに向き直る

 

 が、当の怪物は、驚いていた。


「・・・・・っっっ!!」


 怒りに身を震わせていたといってもいい。同時にやっと殺せるという歓喜の震えも多分に含まれていた。

 

 そうと知らず、対する優斗は、その正体に気が付く。

 

 まずいつもやっているように、神眼で相手の力量を図ったのだ。

 

「・・これはどういうことだ・・?」


「どうしました?優斗様?」

 

 アンジェリカが尋ねるが、彼はある奇妙な事実を発見した。

 

 名前の欄に注目する。

 

「このモンスターが、僕の友達と、同じ名前・・?」


 異世界にともにきた、自身が現世において死亡した理由。

 

 魔王の加護を受けた世界の敵。

 

 そう、その彼は、確か二か月前に逃がして以来、行方不明になったはずなのだ。

 

(いや、これは何かの間違いだろう)


 おそらく何かの間違いでデータに誤りができたのか、それともただの偶然なのか。

 

 しかし、嫌な予感はぬぐえない。

 

 よく見ると、そのモンスターも、こちらを睨み、怒りに体を振るわせているようだった。

 

 その姿は完全にモンスター。なのに、その表情は人間らしさがあり、同時に見覚えがある。

 

(そんな・・まさか・・?!)


 他人の表情を1ミリ単位で記憶している彼にとってすれば、それで自らの友人と特定することなど簡単なことだ。

 

 しかし理屈ではわかっていても、まるで感情が追い付かない。

 

 大体この短期間で、別の生き物の体になれるものだろうか。

 

(ありえない)


 だが、彼には分っている。魔王の加護というおぞましいものを受けている。

 

 それを裏付けるかのように、その異形は人の言葉で叫んだ。

 

「ゆうどぉおお・・っ!!ごのおれざまをおぼえているがぁ・・!!」


「っ!」


「しゃべった?!」


 アンジェリカも驚いていた。


 その口調。言葉。顔の作りは違うといえど、まるであの友人とそっくり。

 

 いや同一人物と言ってもいいだろう。


 だが、理性がそれを拒絶し、質問をする。

 

「本当に・・君なのか・・?!」


「そうだ・・!!」


 カナリアのように音を記憶しているわけではない。会話が成立してしまった。


 ただのモンスターとは全く思えないその振る舞いに、自然に質問が口を突く。

 

「どうしてそんな姿に・・?」


「おまえをごろそうとこの数か月おれはもんずたーをぐらった・・!!

 ぞしたらおれはづよくなっだ!!」


 それが本当なら、と優斗は考える。

 

(そうか、やはり魔王の加護によって・・)


 技能奪取スキルスティール以外にそう言った能力を与えられていたのだ。


「そう、ずべてはボチのために・・!!!

 だがら、おまえ・・ごろす!!」


「・・・」


(そうか、本当に、君なのか)


 ようやく確信した。


 もはや彼は人間じゃない。

 心までモンスターと化している。

 

 もはや手遅れ。こうなる前に捕獲しておけばよかったが、しかし後の祭りだろう。

 

 そう、今できることはたった一つ。

 

(やるしかない)


 そう考えた優斗の目は無表情。

 

 戦闘モードになった。

 

 場合によっては、殺すかもしれない。その殺気に相手も気が付いたのだろう。

 

「ガァルルあああああああああ!!!」


 咆哮する。


 並みの冒険者なら腰を抜かすだろうが、優斗は微動だにもしなかった。


 この2か月の戦闘経験が、自らより強いモンスターへの恐怖のいなし方を教えてくれていたのだ。

 

 咆哮に一瞬だけ戦意を喪失しかけたアンジェリカも、彼のその姿を見て、頼もしく感じた。

 

(なんて胆力だ・・!この奇妙なモンスターと、何か因縁があるようだが、

 この人を生かすためなら、命も惜しくない・・!!)

 

 そう思いつつ、剣を握りなおした。


 

 

 この時、


 優斗と、その相対する怪物は、知ることもないだろう。

 

 両名のどちらかがこの戦いで死ぬことになるということを。

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