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一人きりの生存戦略

「さて、と」


 あたりに広がる静寂。彼はもういない。


 そのことに若干の物足りなさを感じた。普段、僕は周囲に対して気を使って生きているからだろうか。


 もし今、友人がいれば、僕のユニークスキル、金属生成メタルクリエイターで巨大な金属の足場を作り、上空から俯瞰して町を見つけるということができただろう。


 それに神様が言っていたこの世界特有の猛獣、モンスターに襲われるかもしれない。僕のユニークスキルなら撃退も簡単だったろう。


 スキルが友人の手に渡ったことにより、僕の若干生存率は下がったかもしれない。が。


 しかしないものはしょうがないし、それによって友人の生存率が上がるならば、それはそれで人助けをしたということになるだろう。ああ、『良いことをすると気持ちがいいなぁ』。


 まあともかく、僕は僕であるものを使ってこの今を生き延びなければならない。


 あるもの、といえば・・「スターテス」。


 僕は先ほど見た透明の情報板を再び呼び出す。


ーー




 名前 斎藤勇斗




 生命力 30


 最大マナ 30




 力 20


 持久力 30


 魔法操作 30


 敏捷 50


 幸運 70




(10が平均的な成人の値)




スキル


神舌(全ての言語会話可能


神眼(あらゆるものの鑑定が可能




ユニークスキル


○○○○




ーー


 やはり先ほどと同じように、ユニークスキルの項目が空欄になっている。


 だが、失ったものばかりではない。残っているスキルが二つもあるじゃないか。


 【神舌】と【神眼】。


 【神舌】は異世界から来た僕らにとって確実に必要なスキルだ。これがなければ手ぶり身振りで他人と『コミュニケーション』しなくてはいけない。それは難易度が高いし状況によっては命の危険も伴う。独自のタブーがある可能性もあるからだ。知らずに踏み込めば互いに損にしかならない事態に陥るかもしれない。


 しかしこの【神舌】のスキルのおかげでその手間はゼロ。


 そしてもう一つの【神眼】スキルも高い汎用性を誇るであろうということはすでに感覚的に知っていた。


「こう、、かな?」


 【神眼】を発動させる。眼が神聖な気を纏い、何か別のものになったという感覚があった。


 そして近くの岩を見てみると、


ーー


 名前 名もなき岩


 耐久100→50


 スキル

 無し


 解説

 一般的な石。魔力がほぼゼロに近い量含有している以外はどの世界でも変わらない。


ーー


 スターテスを表示させたときのように、半透明な文字が表れてその詳細をあらわにする。


 耐久が少なくなっているのは先ほど岩を破壊したからであろう。


 また別のものを見てみる。



ーー


 名前 名もなきパープルススギ


 生命力 200

 最大マナ 150


 スキル

 成長

 光合成

 水吸収

 毒生成


 解説

 春になると紫の花粉を飛ばす種類のススギ

 花粉には若干のしびれ成分と魔力を含むが、極端に数が多くない限り問題ではなく、むしろ健常者にとっては魔力の源になる場合もある。

 花粉は薬の素材になることもある。

 

ーー


 解説・・そういうものもあるのか! これを使えばもしかして簡単にお金を稼ぐこともできるのではないか。掘り出し物を見つけるためにこれを使えば最悪働かなくても生活ができそうである。


 そして夢中になって色々なものを見てみた。やはりこの神眼で鑑定できないものはないみたいだった。


「すごい・・これならこの森で一応生活することはできる・・!!」


 そう、試しにそこに生えていたキノコを鑑定してみると。


ーー


 名前 名もなきタケマツモドキ


 生命力 10

 最大マナ 130


 スキル

 擬態

 猛毒


 解説

 タケマツと呼ばれるキノコに擬態する猛毒のキノコ。

 ほとんどの獣には通用しないが、ごくまれに誤って食べた生物の死体を栄養分にする。

 薬の材料として使われることもある。


ーー


 それは見た目完全にマツタケである。おいしそうに生えているが毒が入っているらしい。

 キノコは毒入りとそうでないものの見分けが難しいと聞いたことがあるので、普通ならば空腹であっても口にするのは遠慮したいが、しかし今の僕には神眼がある。


 危険なキノコでも確実に食べられるものと食べられないものを区別することができるのだ。これなら空腹で死ぬという事態は回避できそうだ。


 食べ物を探すために、周囲を見渡しつつ少し歩いてみる。


「! あれは」


 するとさっそく発見した。


 ヤシの実のような美味しそうな実が地上から10メートルほどの、妙な形をした高い木の場所に成っていたのだ。


 普段なら気が付かないだろうが、身体強化か神眼の影響なのか、視力も強化されているようである。


 当然、鑑定。


ーー


 名前 名もなきデリシャードウッドの実


 生命力 500

 最大マナ 3000


 スキル 

 成長

 氷生成


 解説

 高級食材として知られるデリシャードの実。

 果肉がスキルによってシャーベット状になっておりほどよい甘さと触感が絶品だといわれている。

 しかしデリシャードの実は高い場所に成り、枝の付き方も登りにくい複雑な形をしている。よって食べられるのは飛行のスキルを持つ生物の実に限られ、できるだけ遠くの場所に種を飛ばすことができるようである。


ーー


 どうやら食べられるようだった。それも高級食材。


 そして確かに。妙な枝の付き方をしていると思った。


 その木の枝は、ジャングルジムのように直角に曲がっていたり、ネズミ返しのように板状になっていて、登るもののゆく手を阻むようであった。


 しかし僕は確信があった。自分なら取ることができるんじゃないか?


 ハイスピードの駆け足ですぐそばまで近づく。近くで見るとかなり太い幹だ。


 そしてジャンプして地面から一番近い枝につかまろうとしてみた。一番近いといっても2m近く距離がある。が・・


 跳躍。まるで羽が生えたかのように錯覚した。


「やはり・・!」


 確信通りだ。僕は見事枝を掴んでするするとよじ登る。


 転移した時から感覚的に理解できたことだったが、筋肉を強く意識でき、どう動かせばどう移動できるのかということがわかるのだ。さっき駆け足でこの場所まで来た時だっていつもよりも数倍のスピードで走れた。


 そして、今やったように地面を蹴ればゲームのキャラのように身長よりも高くジャンプすることも可能。現実離れした感覚だが、これなら目的の果実を手に入れることができるだろう。


 さっそく器用に猿のように登っていく。行き止まりみたいになっている場所もあるが、あらかじめ枝の位置を把握しておけば難しいことではない。


 僕はするするとゴールにまで近づいて行った。こういうパズルや計算問題は得意なのだが、異世界でも役に立って良かった。


 そして迷路としての複雑さだけでない。危険なトラップもあった。やけに一部分だけもろくなっている部分もあったが、今の僕ならば枝の感触を感じて事前に察知することもできる。


 そして・・いよいよ。


 すぐそこに目的の果実がある。遠目からでは分からなかったが意外と大きい。バスケットボール大ほどだろうか。


 ここまでくるのに15分ほどかかってしまった。なかなかの難易度である。人以外の獣には到底たどり着けないだろう。


 達成感とともに手を伸ばす。が、


 ちょうどキラリと反射した光を感じて


「っ!」


 慌てて手を引いた。よくみてみると、その果実の周囲の葉が鋭利な金属製の棘になっていることに気が付いたのだ。焦っていたらあと少しで大惨事になっていたことだろう。


 そういえば・・僕は迷路を解くのに夢中になって、使うことを忘れていたスキルを発動させる。


 鑑定。


ーー


 名前 名もなきデリシャードウッドの棘の葉


 生命力 10

 最大マナ 15


 スキル

 刃物生成


 解説

 デリシャードウッドの実の下側にしかついておらず、枝を登ってきたものから実を守る役割を持っている。

 しかしその攻撃性は致命傷にはならず、いやがらせ程度であろう。しかし木登りが得意な小動物。再生力やポーションのスキルを持たない生物には十分に脅威になる。


ーー


 やはり。鑑定を使っていれば事前に脅威に気づけたのだ。


 危ない危ない。少し強化した体であると神様は言っていたし、多少の切り傷なら再生するかもしれない。が、慢心は危険だ。万が一ということもある。


 僕は気を引き締めた。今は運よく気が付くことができたが、しかし今後もこういった命の危険はいくつかあるだろう。鑑定する癖をつける必要がある。


 ここまでくる途中のトラップもこれを使うべきだった。生命力を見ればどこが痛んでいるか、折れやすいかがわかるからだ。


 そして、このスキルを最大限利用することはもちろんだが、それに依存しすぎるのもよくない。


 例えばあの動かない、思いだけの無害なステータスを持つ岩だって、上から降ってくれば十分に脅威になるのである。かつ、神眼を無効化するスキル、ステータスを詐称するスキルだってあるかもしれない。


 僕は生存率を上げるために、この教訓を刻み込んで反省した後、そして僕は慎重に棘の葉をよけて実をゲットした。


 そして枝を降りてさっそく食べてみる。


 表面の殻は堅かったが、しかし強化した体では割ることができた。近くの岩に何度も打ち付けてヒビを入れ、あとは流れで半分に割った。


「わぁ・・」


 ひんやりとした空気、そして上品な甘い香り。これを手に入れるために少し運動したからか途端に空腹を感じた。


 さっそく実食する。


「いただきます」


 シャーベット状になった果肉を口に入れる。


 うん、これは美味しい・・。


 濃厚な甘さ。それでいて口にべたつかない。口に入れてざらざらとした触感とともに自然に口の中で溶け、後味がさわやかだった。矛盾するようだがスウィーツと天然水の両方の性質を持っているかのようである。


 自然の恵みに感謝したくなるほどの美味しさ。まあ感想はここまででいいだろう。僕は無心になって食べ始めた、


 シャクシャクシャクシャク。


 半分ほど食したとき、ハッと我に返った。


 慌てて周囲を警戒する。危なかった。多少とはいえ周囲を警戒するのを怠っていた。先ほど腕をケガしそうになった時に反省をしていたのに、この果実には食すものを虜にする魔力でもあるのだろうか。


 ・・いや、果実のせいにしてはいけない。目先の果実に気をとられるなど、僕もまだまだだ。


 そう、少しの油断が命取りであるということを常に意識しなければならない。それに・・


 僕は上空を見上げた。


「危ない危ない・・もうこんな時間だ」


 少し空が薄暗くなっている。暗くなる前に早く今日の寝床を作らなければならない。食べるのに夢中になりすぎていたら手遅れになっていたことだろう。


 というわけで果実は殻で蓋をして明日のご飯のためにとっておこうと思った。シャーベット状の果肉が溶けるかもしれないが、致し方ない。


 そして僕は当たりを周り、薪やテントの作成に必要な、手ごろな枝や葉をさがして折ってゆく。


 ちょうど木が比較的密集していない場所があった。その中心にある木の下を拠点にすることにしよう。


 僕は事情があって偶然野宿の方法を知っていた。小学生くらいの大昔の記憶だが、運よくその方法は覚えていたみたいである。適当な枝や大きな葉っぱなどを神眼で安全を確認しながら確認しながら集め、組み立てる。


 身体強化のおかげだろう。思ったより短時間で屋根つきの即席テントが完成した。


 そして、枝を両手で持ちすり合わせ、もう一つの枝に摩擦熱を与えてゆく。


 火を起こすのだ。こちらも簡単に達成できた。難しいとされている方法だが、さすが大人二人分のスターテス。一瞬でつけることができた。本当に身体強化様様である。


 続いておがくずで火を広げながら、十分に薪を与えたので、これなら明日の朝まで持つだろう。


 大きな葉を敷いたテントの中で横になるとさっそく僕は眠りについた。


 おやすみなさい。


 鳥の声や葉のこすれる音が聞こえ、日の光は次第に落ちてゆく。


 僕は何も考えないで横になって自然に眠るのを待っていた。


「・・・・?」


 そして、少し違和感。

 

 と言ってもいいかわからないが、いつもよりも何故か気分がいいことに僕は気が付いた。これほど安らかに眠りにつくことは久しぶりである。


 適度な疲労と、そして美味しいものを食べたからだと、その時の僕はそう思っていた。


 そして完全に眠りに落ちる。睡眠中、申し訳なさそうに誰かに話しかけられた夢を見た気がするが、よく覚えていない。







 チュンチュン、ピーヒョロロロロ


 早朝、特徴的な鳥の鳴き声が聞こえ、ちょうど朝日が昇り始めた。


 一見平和な朝・・であるが。


 その時、異世界にきて初めての、命の危機に直面する事件は起こった。

 普通ならまだ眠りこけているころだが・・。


 ガサッ


 物陰からかすかな音がしたことを僕は察知し起床した。


 直感。危険信号が頭の中を支配した。何か嫌な予感がする。


 僕は素早くテントを出て周囲を見渡した。


 すると、そこには――


「ゴブブゥ」「ゴブブゴブ」


 草むらの向こうにいたのは、人間の子供にも似ているが、赤色の肌をした節くれだった生物。

 

 手に手にこん棒や剣などを装備している。数十匹はいるだろうか。


 朝の太陽が昇る直前のかろうじて周囲が見渡せる闇の中、眼光だけが光っていた。


 やはり、懸念していたことが起こった。モンスターとの遭遇である。

 ユニークスキルのない僕にこの状況を打破できるだろうか?


 とりあえず僕は瞬時に鑑定を発動した。



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