優斗の冒険者登録(読み飛ばし可)
幕間的な話です。
この話と次の話は、本筋とはあまり関係ないので読み飛ばしても構いません。
具体的にはマージョリーと優斗がイチャイチャするギャグ風味な話です。
「師匠、僕、これから冒険者ギルドに行こうと思います」
「・・・え?」
マージョリーさんは、何やらポカンとしている
だが、何かおかしいことを言っただろうか?
盗賊ダンジョンを後にし、、真っ先にマージョリーさん宅へと戻ると、彼女に今までの経緯を説明した。
マージョリーさんは気を取り直して言う。
「ああ、そうよね。
あなたの友人はもう敵ではないのだから、普通に町に行ってギルド登録できるものね・・」
そうなのだ。一番の懸念である彼の脅威が無くなったのだ。
ならば行かない理由はない。
しかし、それを言った直後から彼女の様子がおかしい。
「・・・へぇ。そう・・ギルドにねぇ」
「・・?」
気のせいだろうか。彼女は目をそらして髪をクルクルといじっている。
何か気乗りしないような様子だ。
「で、でも・・、今日からも戻ってきてこの森のテントで泊まるんでしょ?
だってせっかく作ったものね。使わないのはもったいないわ」
「?」
何を言っているのだろう。
僕はその言葉を否定した。
「いえ、普通に宿を取ろうと思いますけど・・」
そのほうか冒険者としてもやりやすい。
それに友人も町で遭遇するかもしれないのだ。できるだけ生活の拠点は町で行ったほうがいいだろう。
しかし、僕のその言葉を聞いて、マージョリーさんは、
「えぇ・・・!!そんなぁ・・!!」
と、何やら頭を抱えてしゃがみこむ。
「あの・・?マージョリーさん?」
どうしたのだろうか・・。
僕はこれまでの経験を総動員して、その真意を探す。
「あ」
・・そうか。もしかしてマージョリーさんは、素材を集めてくれる人が居なくなることを懸念しているのかもしれない。
うん、きっとそうだ。
僕は安心させるように彼女の肩にポンと手を置く。
「大丈夫ですマージョリーさん。
これからもあなたの獲物は狩ってきてあげます」
それを聞いて、彼女は顔を上げた。
「っ!ほんとう?!」
「ええ。修行にもなりますし。
あなたにはお世話になりましたから」
「~~~!」
少しうれしそうな表情を一瞬見せるが、しかしすぐにキッと口を結ぶと、
「でも、私と会える時間は少なくなるわよね」
「ええ、まあ、そうでしょうね」
それを聞くと、彼女は眉を寄せて何かを考えているようだった。
そして、しばらくして、
「決めたわ!」
彼女は決心したように顔を上げて言った。
「私も冒険者ギルドに今度こそ登録しに行く!!」
「!」
そして、草原。
僕らは二人で町まで歩いている途中だ。
しかし、マージョリーさんの様子がいつもとは違っている。
「・・・」
「本当に大丈夫なんですか?師匠」
「う、うん・・!!大丈夫よ!!」
その言葉とは裏腹に、筋肉の収縮から緊張しているということが理解できた。
でもそれも仕方がないだろう。
彼女は『森から離れられない体質』と発言していた。
だからこそのこの『特殊な衣装』なのだろう。
出発前、しばらく準備をすると言って、再び現れたときは驚いた。
まず目についたのは、全身の色あいだ。
いつもの黒服黒帽子ではなく、ピンクのフリフリが付いたコーディネート。
そう、こういうのを何というんだったか・・そう魔法少女だったか。あの衣装に似ている気がする。
そして、次に変わった点として、彼女は仮面をつけているのである。
顔上半分だけの仮面舞踏会的な奴だ。かなり怪しいが、なんとなく彼女に似合っている気がする。
その姿を僕に見せた彼女は、
「ど、どうかしら・・似合っている・・?」
こういうことを女性から尋ねられた時、
「ええ、似合っていますよ。とても」
と、言わないといけないと何らかの本で読んだ気がする。
その言葉を聞いて彼女は、
「そ、そう・・それはよかったわ」
何故か顔を赤らめ、そして早口で説明した。
「あの・・少し驚いているかもしれないけど、これは私が森から離れても大丈夫なようにする衣装なの。
試作品段階だけど、この衣装を着ないで森の外に出ると、私は・・そう死んでしまうの!!」
「な、なんだって?!」
それは大変だ。
次に彼女は眼を逸らしながら僕に近づくと・・
「えいっ!」
「?」
と、僕の腕に引っ付いたのだ。
どういうことだろうと不思議がっていると、
「そして、こうやって引っ付いているのは、少しでもマナを逃がさないためにやっていることなの・・」
「それなら仕方ありませんね」
正直戦闘の邪魔にはなるのだが、しかしそういったやむを得ない事情があるのなら、致し方ないだろう。
というわけで、僕らは引っ付きあいながら歩を進めているのだ。。
一番の懸念である、途中のモンスターは案外何とかなった。
マージョリーさんの属性魔法で退治したのだ。
彼女の戦闘スタイルは単純明快でシンプル。
「『ファイアエクスプロージョン』!」と、杖を向けると、
ドカンッ!
敵が爆発するのである。
そんな戦い方なので、こんな体勢であったとしても、何ら問題はなかった。
しかし、その道中、ふと疑問が起こる。
「あの、マージョリーさん。
そういえば気になったんですけど、どうしていきなりギルドに登録しようと思ったんですか?」
「・・・っ! それは考えてなかっ・・」
一瞬彼女は動揺したようだったが、しかしすぐに居住まいを正して、
「いえ、そうね・・あなたの雄姿をこの目に刻みこむためよ」
「僕の・・?」
きりっとした顔でこちらを見て言った。
「そう、師匠として、あなたを導く。
そのためなら、ここまでの危険を冒す価値はあると思うわ」
「師匠・・」
そんな価値なんてないと思うが、しかし彼女は僕に期待しているのだ。
まだ僕に教えたいことがあるなんて・・なんていい人なんだろうか。
「ありがとうございます。師匠。
これからも末永くよろしくお願いします」
「っ!
え、ええ!!こちらこそよろしくだわ!!末永くね!!」
そう言いながら彼女は、さらに引っ付いてくる。
しばらくして城壁へと到着。僕らは門番に冷やかされながら城門をくぐり、町と入っていった。
ざわざわと、騒がしい街道。
前に初めて来たときと何ら変わっていない。
「・・・」
僕は平気だが、僕の隣でしがみついているマージョリーさんは大丈夫なのだろうか。
「大丈夫ですか?師匠」
「・・・?」
声を掛けられた彼女は、不思議そうにこちらを見上げた。
「・・・大丈夫みたいね」
ああ、よかった。
「そのアイテムは機能したのですね」
「ええ。そうみたい」
「だったら、僕からもう離れても大丈夫なのですか?」
「え?!そ、そうだけど・・でもちょっとだけだから! あなたの隣にいることで安心できるレベルになるから!!」
そうなのか・・不便。なかなかうまくいかないものだ。
マージョリーさんの衣装が珍しいのか、たまにちらちらと見られることがありつつも、僕らはギルドへと到着した。
「ぎゃははは!!」「おーい!エール持ってこーい!!」
相変わらずうるさいところだ。
ちらちらと冒険者たちに見られるが、何事もなく受付に到着。
お姉さんは一例してスマイルを見せながら
「いらっしゃいませ。新規の方ですか?」
「はい、あの、そうなのですが、ある方にこのサインを見せてくれと言われたのですが・・」
お姉さんに紙を渡す。
「・・!お待ちください」
これは、盗賊ダンジョンで捕虜たちを開放しているとき、ある方からいただいたものだ。
しばらくして、奥へと通され客室で座っていると、
ある一人のやたら筋肉質な男と小さな女の子が表れる。
「やあやあ!お待ちしておりましたぞ!!」
「・・・」
二人とも豪奢な衣装。一人は饒舌で、一人は無口だ。
「あなたたちは一体?」
僕はマージョリーさんに二人を紹介する。
「師匠。この二人は、ジョージ=クジャさんと、その娘のエレナさんです。
盗賊ダンジョンで僕が救出した人の一組で、どうやら貴族らしいです」
僕の紹介に、彼は帽子を取り一礼して謙遜する。
「ふふ、貴族と言ってもランク的には、下から数えたほうが早いくらいですが。
そういう貴女は彼の恋人ですかな?」
「なっ・・!!」
師匠はそれを言われたとたん、軽くジャンプするほど動揺したようだった。
「そんなことは・・ないけど。今のところは・・」
マージョリーさんが僕の恋人だって?こんな偉大な人となんて、釣り合いが取れないだろう。
第一好きではないし。
今度は逆にジョージさんたちにマージョリーさんを紹介する。
「ジョージさん。
この人はマージョリーさんと言って、僕の恩師です。
命を助けてもらっただけにとどまらず、僕を鍛え上げてくれた人なんです」
「ほう・・では、私の恩人の恩人というわけですな!ありがとうございますぞ!」
「え、ええ。どういたしまして」
しかしそれを見ているその娘のエレナは何かしら眉をひそめているようだった。
そして、ジョージの貴族服の裾をくいっと引っ張ってつぶやく。
「おとうさん、ほかのおんながいるなんて聞いてない」
「エレナ!!」
彼は驚くが、依然無表情でエレナは言う。
「それに、いずれ私たちの家族になる人に引っ付く女なんて下品。
早くおいだして」
「全く!恩人の恩人に向かってなんてことを言うんだい!!?淑女としての自覚が足りないぞ!!」
「ふーんだ」
家族のくだりがどういうことなのかわからないが。
とにかく難しい年ごろなのだろう。
「すみませんでした。
何分幼いもので・・」
ジョージさんの謝罪に、マージョリーさんも寛容的に返した。
「いえいえ。小さいから仕方ありませんよ。大人の魅力を持つこの私は許して差し上げますとも。ええ。
そう、優斗にぴったりのこの大人な私ならね」
「むー」
腰を動かして何故か僕に近づくマージョリーさんを見て、何やら不満顔のエレナだが、
「と、ところで、そろそろ本題に入りましょうか」
コホンとジョージは咳ばらいをして、シルクハットを直して言った。
「優斗様・・!私は感激したのです」
眼を輝かせながら彼は僕にぐいっと近づく。
「優斗様が盗賊たちをバッタバッタと薙ぎ払ったあの戦い・・
あれは、屋敷の中で書類仕事をしているだけでは味わえない興奮でした。
ひいては、冒険者の鏡である優斗様、そして勇敢な冒険者たちのためになることがしたい!!」
そう言って僕を指さす。
「それは、具体的には?」
「あなたの雄姿の『彫像』をギルド内に作りたいのです」
「・・?」
彫像・・?
それに何の意味があるのだろうか。
ジョージさん演説風に続ける。
「ああ、それを見て後世の冒険者たちは一様に思うのでしょう。
『このカッコいいイケメン冒険者を目指して自分も強くなろう』と!!
無論、クジャ家の隠し資産を使い、素材は純金一択、一流の職人に作成を依頼しましょう。
ああ、今から完成が楽しみです。しかしどのポーズがいいのか迷ってしまいます・・うーむ」
熱っぽく語る彼の言葉を僕は途中で遮る。
「あの、少しいいですか?」
「む?なんですかな?」
僕の割り込みにも、にっこりと笑ってジョージさんはこちらを見る。
「そんなことよりも、建設的なことに資金を使ってみてはどうでしょうか。
、例えば新人冒険者の育成などであれば、今後のギルドの発展に役立つでしょう」
「なっ・・!?しかし、それだとあなたの名声が・・!!」
「いえ、名声は要りませんし、むしろ嫌がられると思うのです
僕は彼らに最低な人間だと思われているのですから」
ジョージさんはそれを神妙な表情で答える。
「・・そうだったのですか。わかりました。あなたがそこまで言うのなら、その通りにしましょう。
しかし・・」
うつむき、無言になるジョージさん。
徐々にその方は震え出してゆく。
「?」
「うう・・・!!」
よく見ると、彼は泣いていた。
そしてガバっといきなり僕を抱きしめたのだ。
「おおよしよし!!なんて不幸な・・!!皆から嫌われていると思い込んでいるだなんて・・!!」
「!!!???」
「ちょ、ちょま!」
エレナとマージョリーさんは驚愕している。それに構わず彼は言う。
「私をママだと思って存分に泣くといい!この毎日鍛え上げている腹筋でね!!!」
「ちょっとちょっと!!すとーーっぷ!」
マージョリーさんが叫んでも彼はよしよしやめない。
あとから聞いたところによると、貴族にはそういった趣味がある人が多いから気を付けたほうがいいとのことだった。
『そういった趣味』とはどういうことだろうか。
ともかく、彼のこの奇行は、その娘のエレナの、
「おとうさん、キモい」
の言葉で中断されることになった。
色々とひと悶着あった後、普通通りに受付でギルドカードを発行させてもらった。
普通ならば最初はFランクかららしいが、ジョージさんの口添えもあってBランクにしてくれるという。
しかし、油断せず、まずは簡単な依頼から徐々に上げていこうと僕は考えていた。
そしてその手続きの間、
「マージョリー様・・?!マージョリー様ですよね?!!どうしてここに?!」
マージョリーさんの知り合いらしき人が出てきて、
「あ、あんたたちは・・?!優斗!あなたはそこで待ってて!!」
と、何やら遠くのほうでしばらく話し込んでいた。
僕の隣に居なくても大丈夫なのだろうか・・あの様子なら平気そうだけど、
そして、手続きはよどみなく進んで、
「はい、こちらがギルドカードになります。再発行に料金がかかりますので、無くさないようにお願いします」
「はい、ありがとうございます」
と、ギルドカードを受け取ったところで、何者かに声を掛けられた。
「ふふ、ちょっといいかしら」
「?」
振り返る、そこには妖艶な露出度の高い鎧に身を包んだ女冒険者がいた。
「坊や、見たところなかなかやるようねぇ
お姉さんと組まないこと?
私だってこう見えても結構やるのよ?」
そう言って彼女は自身のギルドカードを見せた。
どうやら勧誘みたいだ。
そして、それとほど同時に、別方向からも声がかかる。
「小僧!俺たちと組まねぇか!!先輩としての忠告だが男同士のほうが気楽だぞ!
「ちょっと待ってくれ!そいつは俺たちが目をつけていた新入りだぞ!」
「ふふふ、待ちなさーい。その者は我ら魔法同盟のチームに所属するのが最もふさわしいと存じまーす!」
「俺が!」「私が!」「吾輩が!!」
何やら言い争いが続いている。
そう、チームについても説明はすでに受けている。
注意すべき点として、中には何も知らない新入りに危険な仕事をさせたりという悪辣なチームもある。
だが、判明次第ギルドカードの実績に傷がつき、色が変化するので、主にそれで入るチームを判断すればいいとのことだ。
彼らが見せつけるギルドカードは正常だ。
としたら、試しに誰かと組んでみるのもいいかもしれない。
「で?!あなたはどっちのチームに入る?!(の?!)(んだ!?)」
「はい、では、、」
僕が、適当に選んだチームを指さそうとした、その時である。
「ちょっと待ったー!!」
「?」
僕と彼らの間に割り込んでくる彼女。
マージョリーさんが話しあいを終えて戻ってきた。
そして再び僕の腕をつかむと、
「この子は私と組む予定なの!!
分かったらあっちいって!しっし!!」
冒険者たちは
「ちぇっ、女連れかよ・・」
「ふーん、先約済みかぁ・・仕方ないわね」
「ぐぬぬ・・なんて魔力のオーラ・・ここはひとまず退散!」
などと言いながら去っていった。
「マージョリーさん、あの・・」
「い、いいでしょ?!それとも、私とじゃ不満・・?」
「いえ、不満ではありませんが」
「じゃあ決まりね!」
何か様子がおかしいが、おそらく町に来た影響なのかもしれない。
そう思った僕は師匠の体の調子を鑑み、依頼を受けるのは明日からにして、今日は早々に森へと帰ることにした。
そして、その夜。
僕は木の上の金属製テントの中で今日あったことを思い出す。
あの貴族、ジョージさんは言っていた。
『皆から嫌われていると思い込んでいるだなんて・・!!』と。
どうやらその言葉の通りだ。
そのあとギルドの冒険者たちに勧誘されたのである。
つまり、少なくともあの人たちには嫌われていない、ということなのだ。
あの時、獣人奴隷、ポチを見捨てようとしたのに。
それでも、あの冒険者たちは、僕に好意的だった。
いや、何か違う。
僕は罪深い存在なのではないかという意識がぬぐえない。
その感情はどこから来たのか?
どこから・・
『優斗・・妹を、頼んだわよ』
「ッッッ!」
一瞬、僕はとてつもない量の負の感情に襲われた。
あと少し、記憶を掘り下げていたら、危なかっただろう。
これ以上、考えてはいけない。
おやすみなさい。




