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ネズミ

 

 それとほぼ同じ時刻、

 

「お頭・・!本当にあの精鋭たちがやられちまったんですかい・・?!」


 驚愕の表情の盗賊たち。

 

 ダンジョンの入り口まで獣人奴隷とともにワープした彼は、仲間の盗賊たちに今までのあらましを説明した。

 

 もちろんすでにワープクリスタルは破壊している。

 

「ああ・・!!あいつはやばい・・!!いいから早くここから逃げるぞ!!」

 

 必死な表情のボスを見た盗賊たちはそのことを冗談と笑い飛ばすことはできなかった。


「お頭たちが逃げるなんてよっぽどの強敵だ・・!

 おい皆!ずらかるぞ!!」

 

 そうしてぞろぞろと奪ってきた馬車に乗り込み出発する一団。

 

 むろんこの人数。

 全員は無理だ。

 

「待ってくれ!俺も載せてくれ!!」


「ダメだ!入りきらん!お前は走って逃げろ!」


「そんな!!」

 

 盗賊特有の味方の切り捨てはスムーズに行れ、そのボスと最小限の手下たちはこのダンジョンを後にする。

 

 十分に距離はとった。

 

 優斗は追い付けないとようやく認識し、彼は一息をつく。

 

「やっと逃げられたか・・しかし、一時はどうなるかと思った」


 そして、彼はこの瞬間、言ってはならないことを発言してしまう。

 

「盗賊を再開するまで、しばらくスキルレベルを上げないといけないな・・」


 それを目ざとく聞きつけた近くの盗賊が彼にそっけなく尋ねる。


「?お頭。それはどういう意味です」


 自分が墓穴を掘っているのも知らずに彼は口を滑らした。


「ああ、奴の能力だ。あいつは人に有害なスキルを送り付ける能力があるクソ野郎。

 おかげで全てのスキルレベルが1に戻ってしまった。スターテス値も下がってやがる・・くそっ!」

 

「へぇ・・お頭が・・ねぇ」


 彼は、ニヤリと口の端を上げたその話し相手に気が付いていない。


「ああ、そうだ。

 だが、技能奪取スキルスティールでスキルを奪えばまだやり直しがきくはず・・」


 そう放しながら思いつき、さっそくその盗賊に鑑定をかけた。

 

ーー


 スキル

  拳波Lv3(拳圧を飛ばすことができる)


ーー

 

「(おっ、こいつ良いもん持ってんじゃん)」

 

 その中にほしいスキルがあることを確認した彼は、それを奪おうと決める。

 

「だから、ありがたく思え。

 お前のスキルをいただいて置こう。」


 さっと相手に触れ。


「『技能スキル』・・」


 発動しようとした。

 

 その瞬間、

 

 ボゴォっ! 


 頬の痛み。

 

「え?」



 彼は何が起こったのか理解できない。

 

 そう、殴られたのだ。

 

 ほかならぬ、今スキルを奪おうとしていた相手に。


 そのことに気が付き、彼は一気に怒りをほとばしらせる。

 

「(こいつ・・っ!)」

 

 この数日間、ボスとして培ったどすの利いた声で言う。


「お前、誰に何をしたかわかってんのか?

 ボスを殴るってことが、どれだけ重たいことなのか、これからじっくり分からせてやってもいいぞ・・!!」

 

 指の骨をぽきぽきと鳴らす。


 そう、これで大抵の相手は震えあがった。

 

 だが今は・・


「ははっ。そりゃもちろん、クソ雑魚のあんたにでしょ?」


「・・え?」


 ちっともビビることなく、むしろ挑発的な態度で返された。

 

「みんな!聞いたか!!ボスは雑魚化したらしい!

 今までの恨みを晴らすチャンスだ!!」

 

「あ、いや・・っ!!」

 

 その時、彼は自分が犯した失態を理解した。

 

 今までこいつらは自分に従順だった。

 

 しかしそれは、何の恩義もあるわけじゃない。強さに従順だっただけだったのだ。

  

「おい!それは本当か?!」「ああ、今鑑定してみたけど、マジだ」


 情報は瞬く間に馬車内を伝達し、彼は屈強な男たちに囲まれる。


「くそっ!!何が不満だ!!誰がここまでこの盗賊団を大きくしてやったと思っている!!恩知らずどもが!!」


 盗賊たちは内心では嫌々だったのだ。才能だけのポッと出の若造にリーダを任せるなど。


 その彼は、精一杯威厳をかき集めながら叫んだ。


「このボスの言うことが聞け・・ぐはっ!!」


 それが最初の一発だった。 

 

 

 

 そして、その夜。


 盗賊たちの別の拠点。


 何かがぶつかり合う音が洞窟に響き渡った。

 

「ケケケ、ほら飲めよ」


「う、うう・・くそが・・っ!!ただじゃおかねぇ・・!!」


 盗賊団のボスから一転。下っ端に凋落した彼は、盗賊たちにポーションを進められていた。

 

 その顔には数々の生傷があるが、それを飲めばたちまち全快することだろう。

 

 どんな瑕でもたちまち治ってしまう生命ポーション。


 その素晴らしい薬すら、拷問に使用するのが盗賊たちだ。死なない程度に痛めつけ、回復させを繰り返すということ残虐な行為である。


 人を害して喜びを感じるような連中が好きな拷問方法。

 

 それを受け、彼の心はすでに折れかけていた。

 

 嫌だったスキル封じの腕輪すらされているのである。

  

「くそ・・くそ・・!!」


 そう言って言いながら、彼は素直に盗賊から渡されたポーションを飲むしかない。

 

 最初のころは飲むのを抵抗し、無理やり飲まされていたのに。


 もはや歯向かう気力はつきかけていた。

 

 それを見て盗賊たちがつまらなそうに言う。

 

「おい、最初のころの威勢はどうした?そんなに俺たちのポーションが飲みたいのか?」


「掛かって来いよ。元ボスさん。いや、弱虫さんとでも言っておこうかな」


 ガハハハッハハ!!と、


 嘲笑されても、「ぐっ・・!!!」


 もはや言葉を返す余裕すらない。


 それを見て現在のお頭、拷問が好きなその盗賊はある判断を下した。


「くきき・・そろそろ、あいつを使うか。おい!あいつをもってこい!!」


「へいお頭!!」


 そう言って連れてきたものは、耳と尻尾のある彼女。


「ご主人様!!」


 あえて今まで彼と引き離していた獣人奴隷のポチだ。

 

 それにピクリと彼は反応する

 

 それを目ざとく注意してみていた拷問のプロは言った。

 

「ふひひ、やっぱり自分の女には反応するか・・思った通りだ」

 

 その盗賊は、拷問が趣味。その経験から、対象の心を折る材料を小出しにすることで、自らの愉悦を満足させているのだ。

 

 その目論見通りに、友人の琴線に触れたのだろう。彼は再びゆkっくりと立ち上がる。


「そいつに・・何を、するつもりだ・・」

 

「くきゃきゃ・・!何って・・? こうするんだよ!!」


 そういうと、ポチの服をびりびりと破いた。

 

「キャッ!!」


「っ!!てめぇ!!まさかっ・・!!」


 あらわになる肢体。盗賊たちは総じて舌なめずりをした。


 友人の怒りが沸点に達する。すでに気力がつきたと思っていたのに。

 

 それがどういう感情によるものなのか、本人はよくわからない。

 

 だが、そのまま彼は感情に任せ、本気で殴りかかる。

 

「俺の所有物に手を出すんじゃねぇえええええええ!!」


 しかし・・彼のスターテスは弱体化しているのだ。


「うっせーよ。バーか!」


「ぐはっ!!」


 当然、反撃される。

 

 男たちはポチの柔肌をぺろぺろしながら煽った。

 

「ぎゃぎゃ・・!何そんなにプリプリ怒ってるんだ?

 てめぇ自分で言ったよな?

 強い奴が全てを奪う権利があるって。

 だったらこれも、当然の権利。違うか?へへへ・・!」


 そして、彼らはカチャカチャと服を脱ぎだした。

 

「や、やめ・・」


 涙目になって抵抗するポチだが、大の大人の拘束を振りほどけるはずもない。


「っ・・!!」


 それを見て地面に倒れた彼は、最悪の未来を予想する。


「この野郎ッッッッッッ!!!」

 

 いくらバカな彼でも分かる。


 これから彼女は汚らわしい男たちに犯されてしまうのだろう。

 

 それを感情の部分が許せない。しかし、実際に彼にはそれを止める術はない。


 ジレンマが彼を叫ばせる。

 

「くそがぁああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ガンッ! と。


 狂ってしまったのだろう。

 

 堅い地面に本気で自らの頭を打ち付けたのだ。

 

 死にはしない。だが、まるでここから遠ざかるような気がが遠くなる感覚に襲われた。


 そう、気絶。

 

 そして、



ーー

 


「・・ここは」


 彼はいつの間にか別の空間に居た。

 

 白い空間。


 しかしその大半をその奇妙な黒い存在が埋めている。

 

「やあ」


「てめぇは・・」


 彼はそれに見覚えがあった。

 

 化物。人の形の体裁を保ってはいるものの、明らかに手足の数、眼の数が尋常ではない。

 

 しかしその声は普通の人の良い言葉を紡いでいる。


 そう、相当の胡散臭さを除けばだが。


「そう、魔王だよ」


 それは彼がこの異世界に来る前に出会った存在。


 それによって彼は強力なユニークスキルを得た。本来ならば感謝するべきだろう。

 

 しかし、そんな存在にさえ彼は噛みついた。


「てめぇ今まで何をしてやがった・・!!

 俺はあいつらにさんざん痛めつけられてたんだぞ?!助けてくれてもよかったのんじゃねぇか!!?」

 

 不遜な態度。しかしそれに魔王は動じない。


 いやそれどころか

 

「うん、そうだね。すまないと思っている」


 逆に謝る始末。


 その物々しさから想像がつかない腰の低さだった。


「だったら・・!」


「でも、私だってこれでも頑張っているんだよ?

 気が付かなかったかい?

 決まって絶体絶命のピンチの後に、それを抜け出せじゃないか」


「っ!」


 確かに、言われて彼も気が付いた。

 

 一度は優斗に捕まった時も、監獄に入れられた時もあっさりと抜け出すことができた。ついさっき、優斗に再度使えられそうになった時だって。そう、不自然と言ってもいいくらいに。


 だが、それが彼の加護だとしたら、辻褄は合う。


 魔王は続けた。


「あれね、結構疲れたんだよ?

 そのことに対して、お礼の一つくらい言ってもいいと思うけど・・」


「・・そうかよ。だったら今回も助けてくれ!!

 ポチがあいつらに汚されちまう・・!!」


 彼はそれに感謝することもなく、さらに要求する


 これだけ助けてもらったのだ。今回も助けてくれるだろう。

 

 そう確信して言ったのだが・・

 


「すまない。それは無理だ」

 

「・・え?」



 あっさりと断られる。


「な、なぜだ・・?!!まさかお前まで・・」


 しかし、返されたのは、思いもよらない言葉だ。


「いやー助けたいのは山々なんだけどね。

 つきかけているんだよ。私のエネルギーが」

 

「エネルギー・・?」


 彼はポカンとした。


 魔王はそれに構わず続ける。

 

「そう、元々私はイレギュラーな存在なんだ。そこに介入するには、膨大なエネルギーが必要なのだよ。

 だんだん楽しくなって君に入れ込んだけど、もう限界だ。余裕がない」


「っ・・!」


 つまるところ、ポチを助けることはできない。行きつくところは、延々と盗賊に殴られ殺されるということだ。

 

 次第に恐怖で頭がいっぱいになる。

 

「じゃ、じゃあ・・俺は・・ど、どうすれば・・」

 

 それを見た魔王は、砂糖のように甘い笑顔で言った。


「でも大丈夫だ。君は『助かる』」


「・・え」


「無論、君の愛する奴隷ちゃんもね」 


「な・・?!」


 傍から見れば、胡散臭さが見え見えの笑顔だっただろう。

 

 だが、追い詰められている彼は、そのことに一切気が付かない。

 

 藁にもすがる尋ねる。

 

「でも・・さっきお前は俺を助けられないって・・」


「そう、確かに私は君を助けることはできない。

 しかしほんの少しのアドバイスならできる」

 

「アドバイス・・・?」


「そう、これを素直に聞けば、君は今の状態から、盗賊たちを『瞬殺』することも可能だよ」


「あいつらを瞬殺・・!?本当に・・?!」


「なあに簡単さ。ただ君のユニークスキル、技能奪取スキルスティールの本当の力を引き出すだけだよ」

 

「それはいったい・・?!早く教えろ!!」


「それはね・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃばっ!と。

 

「ハッ!?」

 

 彼は現実の体に、冷たい水がかかるのを感じ、目覚めた。

 

「お、やっと起きたか」

 

「へっへっへ。しかしお頭、あなたも残酷ですねぇ。

 こいつの女が堕ちるさまを見せるために、わざわざ目覚めさせるなんて・・」

 

「くきき、

 そうだ。わざわざ待ってやったんだから、ちゃんと見ていろ。眼を逸らすことなど許さん。

 これからたっぷりお前の女を可愛がって・・」

 

「っ!」


 その瞬間だった、


 友人の前に『あるもの』が通り過ぎる。


 それを見た彼は、一切の迷いなく、地面に顔を突っ伏した。


「・・ピィ!」


 それと同時に何かの鳴き声。



 

 いきなりの不審な行動に、眉を顰める盗賊たち。


「・・あぁん?何をしているんだ?お前・・」


 偶然、その一部始終を偶然見ていた盗賊の一人がいた。


 指をさして説明する。

 

「お頭!!こいつ今・・ちょうど目の前を通り過ぎようとしたネズミを口の中に入れて・・!!生のまま食いやがりました!!」


「何ぃ?!」


「うぇ!!ばっちい!!」


 空腹からというわけではないだろう。なぜならここの洞窟に着てまだ1日も経っていないのだ。


 試しに頭をがしっと踏んずけてみても。


 もぐもぐ、と


「・・・・・」


 無言の咀嚼だ。


 目覚める前と違いまるで別人。悪態の一つも呟かない。


 それを見て、あることを確信した盗賊は、つまらなそうに意気消沈する。


「もう気がおかしくなっちまったか・・虐めがいないな・・」


 これ以上嗜虐心を満たすことができないと判断したのだ。


 即座に決断を下す。


「お前ら、もう拷問はやめだ。殺すとしよう」


 そう言って剣を抜いて近づく。


 だが、彼はその殺気に気が付いたのだろう。


「・・・・・・」


 無言でゆっくりと顔を上げた。

 

 そして

 

 

「ピピィ!!」


「!?」




 謎の奇声。


「なっ?!」

 

 次の瞬間、素早く彼らの脇を『すり抜けたのだ』。

  

 呆然とした彼らをおいて、洞窟の奥へと彼は走り去る。

 

「!?!?!?」


 突然の事態に一行は混乱し数秒間無言で停止した。


 まるで『人間離れ』したかのようなあの『速さ』。

 

 いや、盗賊たちが動揺している理由は、それではない。

 

「お、お頭・・?今の顔。見ましたか・??」


「あ、ああ・・。なんだ・・?あの目・・?それに、あいつ、尻のほうに・・」


 そう、盗賊たちは見てしまった。

 

 逃げ去る友人のズボンから、細いネズミのような尻尾が生えているということを。


 拷問対象は、今、一切のスキルを使えないはずなのに。


 明らかな異常事態。


 だがお頭はそれに間違った選択肢を取ってしまった。


「と、とりあえず追いかけるぞ!!」


「だ、大丈夫なんですか?!」


 不安がる部下たちの恐怖を、お頭は怒声で封じ込めた。


「何を言ってるんだ!!こっちはこれだけの数だぞ!!それにスキルは封じてあるんだ!!負けるわけねぇだろうが!!」

 

 しかし、数分後、盗賊たちは全員殺されることになることを知らない。

 

 ほかならぬ『彼の手』によって。

 


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