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ハリネズミクマ


 岩をまるで掘削機で『削る』大きな腕。

 

 大きな体にその表皮を纏う無数の『針』。

 

 メモに書いてあった通り、おそらくこいつで間違いないはずだ。

 

 慎重に僕は音のするほうへと近づいて行った。

 

 がりがりがりがり・・

 

「うが?」


 気づかれた。まあそうか。

 

 振り向くそいつのシルエットは、大きさや細部は違うとはいえ、元の世界におけるクマと似通った形だ。

 

 名前はハリネズミクマ。一応鑑定しておく

 

 

 ーー

 


 名前 名もなきハリネズミクマ


 生命力 500


 最大マナ 100


 力 500


 持久力 300


 魔法操作 100


 敏捷 30


 幸運 5


 (10が平均的な成人の値)


 スキル


 刃生成Lv7(刃を生成する

 胃丈夫Lv7(あらゆるものを消化できるようになる)

 投擲Lv4(投擲する能力が上昇

 高い視力Lv2(視力が上昇

 器用Lv3(指先を精密に使えるようになる。

 球体化Lv7(体を出来るだけ球体に近づける




ーー



 どうやら力と生命力が高い、どちらかと言えば物理よりのモンスター。

 しかしそれだけでこのモンスターを語ることはできないだろう。

 

 そう、その毛皮。それは遠目から見ても頑丈そうなおびただしい針だ。

 

 それは確かに危険だ。普通に戦うだけでは傷一つつかないどころかこちらが傷ついてしまう。

 

 討伐するためには、神眼の解説からその攻略方法を探らなければならないだろう。

 

 だが読むまでもなかった。なぜならマージョリーさんのメモにそのモンスターの攻略方法が全て記載されているからだ。

 

 初見のゲームの攻略本を読むようで落ち着かないが、しかし効率を考えればそのほうがありがたい。

 

 僕はメモを思い出しながら『ある属性の杖』をアイテム袋から取り出した。

 

 だが、それに合わせて相手も動き出す。

 

「がおっ!!」

 

 そのたくましい腕を振り上げて、その場で振り下ろした。

 

 シュインッ!

 

「おっと」


 僕は最小限の動きでそれらをかわした。

 

 そう、腕の針を飛ばしたのである。

 

 やはり、メモに書いてあった通り、こいつは遠距離攻撃を行う。

 

 事前にそのことが分かっていたので、軽くさけることができた。

 

 しかしもし僕が魔法の杖を持っていなかったら、倒せなかったかもしれない。

 

 遠距離からも攻撃され、かつ近接もそのステータスから細心の注意を払う必要がある。

 

 だが、今回はこちらに魔法の杖という飛び道具がある。

 

 覚えたばかりの各種属性魔法はまだ低レベル。だが低レベルだからと言って通用しないわけではない。

 

 僕が取り出したのは、意外に思うかもしれないが、水魔法の杖だった。

 

「『ウォータ』!」


 針に警戒しつつ、杖を向け水を発射する。

 

 パシャッ

 

 直撃。しかしその体は微動だにしない。汎用的に攻撃に活用できるとはいえなかった。

 

 だが・・

  

「がうっ?!!」


 当の直撃したハリネズミクマ本人は、何やら嫌がっているかのような動作をする。

 

 やはり、その動きで確信を得た。メモに書かれてあった通りだ。

 

 続いて『ウォータ』を連続して飛ばしていく。


「『ウォータ』!『ウォータ』!『ウォータ』!」

 

 言われた通り、魔力に注意しながら出力を調整していく。敏捷が低いから簡単に当て続けることができた。。

 

 負けじとハリネズミクマも自慢の針を飛ばすが、その予備動作を注意していけば思ったよりも簡単に避けられる。

 

 数回かの遠距離の攻防。すると、さすがに相手もこの距離は不利だと悟ったのか、体を丸めてまるでボールのように転がってきた。

 

「がおぉおおおお!!」


 やはり、メモに書いてあった通り、早い。若干機動力が落ちるとはいえ、その突進力の速度は今の僕を上回る。

 

 敏捷が少ないからと言って、必ずしも移動が遅いというわけではない。彼のように丸まって移動することで高速で移動するモンスターも中にはいるらしい。

 

 そして彼の体は全身針で纏っている。このまま近寄られて近接で戦えば、当然こちらに勝ち目はないだろう。

 

 絶体絶命のピンチに思えるが、もちろんこの対処法もメモに書いてあった。

 

 それを即座に実行に移す。


「よっと」

 

 僕は水で靴をぬらさないように、ジャンプして岩の上に乗る。

 

 そう、河原の中にに逃げ込んだのだ。 

 

「がおっ?!」


 すると、ハリネズミクマはホーミングしつつも、ぴたっとその水の直前で停止する。


 そう、すぐ近くに河原という安全地帯があるのだ。

 

 相手は水が苦手。なのに河原の近くに住んでいるのは、ハリネズミクマは岩の他に魚を主食とするからだ。

 

 水が苦手なのに、どうやって魚を得ているのかと言えば、自慢の針で、糸付きの銛を作って投げている回収してらしい。器用のスキルがあるのはそれが原因だろう。

 

 それはともかく、僕は引き続き安全地帯から水魔法を飛ばしていく。丸まった状態からでは針を飛ばすことはできないらしい。


 

 しばらくして

 

「がおお!!」

 

 自らの不利を悟った彼は逃走を図った。

 

 僕は逃がすまいと追いかけて距離を取りつつ引き続き水魔法を当てていく。

 

 そして・・

 

 

「そろそろ良いかな」


 すでにハリネズミクマの体全体は水浸しになってきた。それだけでなく、先ほどまで尖っていた全身の針はしなしなになっている。

 

 そう、これがハリネズミクマが水が苦手な理由。

 

 彼は岩を食べその成分を自らの毛の中に取り込んでいる。それは固まった習字の筆のように強固だが、むろん水に触れるとほぐれて武器として使い物にならなくなるのだ。

 

「が・・お・・」


 自慢の装備が台無しになって意気消沈するハリネズミクマだが、こっちを見て怒ったように「がおぉおおお!!」となくと、丸まって突進してきた。

 

 メモによれば、この状態で丸まり移動を行っても、全身のフォルムが崩れ、速度が低下してしまうので簡単によけられるらしい。

 

 確かに、先ほどの半分くらいの速度でしかない。このまま遠距離で雷魔法を当てていけば勝てるとある。

 

 が、少し懸念があった。

 

「『エレキ』!!」

 

 とりあえず雷魔法を当ててみる。

 

「がうっ!」


 そして、すかさず神眼で鑑定。

 

  ーー

 


 名前 名もなきハリネズミクマ


 生命力 500→499


 最大マナ 100→99


 力 500


 持久力 300


 魔法操作 100


 敏捷 30


 幸運 5


 (10が平均的な成人の値)


 スキル


 刃生成Lv7(刃を生成する

 胃丈夫Lv7(あらゆるものを消化できるようになる)

 投擲Lv4(投擲する能力が上昇

 高い視力Lv2(視力が上昇

 器用Lv3(指先を精密に使えるようになる。

 球体化Lv7(体を出来るだけ球体に近づける




ーー


 やはり、生命力が1しか減っていない。

 

 そう、僕が懸念したことは、まだ僕が魔法初心者だということだ。

 

 普通の魔法使いならばもっと効率的にダメージを与えることができるんだろうが、このままでは全部削りきるまでに日が暮れてしまうだろう。

 

 無論それでも魔法の練習になるからいいのだが、繰り返しの練習は走りながらでもできる。どうせならもっと違った戦闘訓練がしたいと思った。

 

 だから、攻撃を避けつつ、金属生成メタルクリエイターで武器を作成した。

 

 そしてできたのは槍とナイフ。あの長身はリーチが長いので対抗するために槍を選択した。ナイフはいざというときのため。

 

 次にこちらに突進が向かってきたとき、僕は真横に回避。

 

 そしてすかさず攻撃する。

 

「がおっ!!」


 わずかながら切り傷を与えた。水びたしになる前ならこうもいかなかっただろう。

 

 僕はすかさず鑑定する。

 

 

  ーー

 


 名前 名もなきハリネズミクマ


 生命力 500→494


 最大マナ 100→99


 力 500


 持久力 300


 魔法操作 100


 敏捷 30


 幸運 5


 (10が平均的な成人の値)


 スキル


 刃生成Lv7(刃を生成する

 胃丈夫Lv7(あらゆるものを消化できるようになる)

 投擲Lv4(投擲する能力が上昇

 高い視力Lv2(視力が上昇

 器用Lv3(指先を精密に使えるようになる。

 球体化Lv7(体を出来るだけ球体に近づける




ーー


 やはり、生命力が5も減っていた。雷魔法と比べ、効率が5倍。戦闘訓練にもなるしこれにシフトしていこう。

 

「がおおお!!」


 怒って立ち上がり、腕を振って攻撃してくる。だが、力任せなワンパターンな攻撃。当然回避しつつ、槍のリーチを生かして逆に攻撃をしていく。

 

 もう他に手がないのか、相手はこの攻撃以外に別のことをしてくる気配はない。持久戦に持ち込むつもりらしい。

 

 こちらの攻撃は確実に相手の命を削っているとはいえ、まだまだゼロにするには時間がかかりそうだ。

 

(これなら雷魔法のほうが訓練になっただろうか・・)


 そう思ったとき、あるアイディアがひらめく。

 

(待てよ・・?金属と雷・・もしかすると)


 僕は回避しつつアイテム袋から雷魔法の杖を取り出し、槍と一緒にして持った。

 

 この状態で魔法を起動する

 

 「『エレキ』!」

 

 雷が金属製の槍を廻った。バチバチっ!と雷を纏うようになった槍。うまくいったようだ。

 

 自分にも感電しそうな図ではあるが、しかし何回か魔法を練習して気が付いたことがある。この雷は自分の体の近くならばある程度操作できるのだ。自らの意志でもってして雷が通らないよう調整すれば全くダメージはない。

 

 そしてその武器をハリネズミクマに繰り出す。すると

 

「がっ!!」


 先ほどよりも効いているようだ。鑑定もしてみる。


  ーー

 


 名前 名もなきハリネズミクマ


 生命力 500→400


 最大マナ 100→92


 力 500


 持久力 300


 魔法操作 100


 敏捷 30


 幸運 5


 (10が平均的な成人の値)


 スキル


 刃生成Lv7(刃を生成する

 胃丈夫Lv7(あらゆるものを消化できるようになる)

 投擲Lv4(投擲する能力が上昇

 高い視力Lv2(視力が上昇

 器用Lv3(指先を精密に使えるようになる。

 球体化Lv7(体を出来るだけ球体に近づける




ーー


 やはり、これは素晴らしい。


 先ほどは生命力450くらいだったから、一気に50近くも攻撃力が増したといえる。

 

 雷魔法の杖だけでは1、槍だけでは5程度だったのが、合わせることで威力が何倍にも膨れ上がった。

 

 おそらく、体の中に直接雷を与えることで、何倍も殺傷力が増したのだろう。

 

 僕はそのままクマに攻撃し、


「が、がお・・」

 

 見事討伐成功した。


 僕はその死体をアイテム袋へ入れると、再び元来た道を魔法と金属生成メタルクリエイターの練習をしながら戻っていく。

 

 

 

 

 

 しばらくして到着。

 

 マージョリーさんの小屋をノックする

 

「はーい!入ってきていいわよ」


 扉をあけると、彼女は机に座り、何やら作業をしていたようだが、くるっと椅子を回しこちらを見て

 

「思ったより早いわね。

 ハリネズミクマはタフだから、てっきり夕方くらいに返ってくるかと思ったのに」


 まだ窓の外は午後2時くらいだろうか。日が照っている。

 

 おそらく雷魔法と槍を組み合わせた工夫のおかげて狩りの効率が上がったからだろう。

 

「まあいいわ。獲物を出して」


 そしてハリネズミクマの死体を小屋の一角に出しておいた。これで僕の仕事は終わりなのだろうか?

 

「後はどうすればいいですか?他に狩るターゲットはいますか?」

 

「いや、今日はもう自由行動でいいわよ。訓練するなり休むなり自由にしなさい。

 明日からまたほしい獲物を言うから」

 

「分かりました」


 というわけで、今日の午後は金属生成メタルクリエイターであるものを作ろう。

 

 僕はさっそく作業を開始した。

 

 

 

 そして、夕方。

 

 鈴虫のような鳴き声とともにあたりは薄暗くなる。

  

 小屋の近くであるものを作っていた僕は、小屋から出てきたマージョリーさんに声を掛けられる。

  

「優斗君!!今日はもう遅いから家の中に入りなさい・・って」


「あ、マージョリーさん」


 僕は振り向いた。

 

 ちょうど作っていたものが今完成したところである。

 

「・・・それ何?」


 彼女は僕の後ろを指さした。僕はそれに答える。

 

「ああ、これは金属生成メタルクリエイターで作ったテントです」


 そう、午後の時間はずっと木の上に仮設の寝床を作っていたのだ。

 

 地面は寒いし、モンスターに襲われる心配があるので、ツリーハウスを参考に作ってみたのだが、思ったより頑丈に作ることができた。

 

 きっと金属生成メタルクリエイターのレベルが下がっても、前のLv1の時とは比べ物にならないくらい作りやすかった。

 

「あ、確認を取らないで作ってしまいましたが、大丈夫ですか?ここに作っても」

 

「う、うん。大丈夫よ」


 何故かマージョリーさんは微妙に残念そうな顔をしていた。そういえば彼女は何を伝えに来たのだろうか。


「それで、マージョリーさんは何のご用ですか?」


「え、えっと、今日はもう遅いから、家に・・」


 なるほど、弟子を自分の家に泊めさせてくれようとしていたのか。

 

 なんて親切な人なんだろう。だが、これを作った以上、泊めてもらわなくても大丈夫だ。

 

 僕は丁重に礼をすると、


「ありがとうございます。

 でも大丈夫ですよ。僕が作ったテントがありますから。

 それに師弟関係とはいえ、男女一緒に寝るのはやはりいけないことでしょう?」

 

 それを聞いて彼女は、ぎょっとしたような顔をして、

 

「えっ!!」


 顔を赤らめながらしどろもどろになる


「・・え、ええ、そうね。その通り・・

 あ、そうだ・・これご飯・・」

 

 そう言って、紙にくるまれた健康バーのようなものを手渡して戻っていった。

 

 何かのろのろとした足取りだったが、魔女の研究というものが過酷なのかもしれない。大丈夫だろうか。

 

 あと、ご飯は自力で調達できるゆえ、別にいただかなくても大丈夫だったのだが、せっかくなので食べてみよう。

  

 健康バーはフルーツのようなものが練りこまれており、とても美味しかった。

 

 そういえば、

 

 「スターテス」

 

 僕はふと気になって自分のステータスを見る。

 

 ーー




 名前 斎藤勇斗




 生命力 55


 最大マナ 70




 力 37


 持久力 47


 魔法操作 63


 敏捷 63


 幸運 2800



(10が平均的な成人の値)




スキル


神舌(全ての言語会話可能


神眼(あらゆるものの鑑定が可能


炎魔法Lv1

水魔法Lv2

雷魔法Lv2

土魔法Lv1

風魔法Lv1



ユニークスキル


金属生成メタルクリエイターLv3




ーー

 

「・・あれ?」


 僕は不思議に思った。


 今朝は金属生成メタルクリエイターはLv1。

 

 それなのに、一気にLv3まで上がっている。

 

 これは、どういうことなのだろうか?

3話から6話のブラッドウルフだったモンスターの種類を変更しました。

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