森の魔女
ドサッ
優斗が完全に意識を失い、倒れる。そのことに警戒しつつも近づいてくるブラッドゴブリンたち。
そして、完全に相手が無力化したことを悟ると、その獲物で彼にとどめを刺そうとした。
「ゴブっ!!」
が、
「『ファイアブラスト』」
「ごっ?!」
どこからか飛んできた炎の一撃により一瞬で全身を焦熱させる。
「ごぶごぶ!!」「ゴブ!」
その一撃の主は続いて処理するように周囲のブラッドゴブリンたちを一掃し、
「やれやれ・・やっぱり毒にやられたみたい
命知らずね
『レヴィテーション』」
奇妙な技で宙に浮かすと、彼を運んでいった。
ーー
おそらくここは夢の中なのだろう。
意識がぼんやりしている中、誰かの声を聴いた気がした。
【お兄ちゃんお兄ちゃん】
その声は・・妹?
【お兄ちゃん、無理はだめだよ?】
無理?
【何の理由もなく、一晩中休まずに戦うなんて、おかしいよ】
でも僕は、生きている意味はないんだ。
【どうして?】
どうしてって・・それは
・・・なんだったっけ。おかしいな。僕は記憶力がいいほうなのに。
そう、確か璃々に申し訳ないことをしたんだ。許されないことを・・。
【それは違うよ】
違くない。
【そう、だけどね、お兄ちゃん】
?
【お兄ちゃんは死なないわ。私が守るもの】
守られるなんて・・そんな。
そんな資格、僕には・・ない。
そう、それはかすかな記憶だった。
だけど、どこか安心できたんだ。
ーー
チュンチュン
日差し瞼に当たる。
「・・・・?」
あれ?
目が覚めて最初におかしいなと思った。
僕はブラッドゴブリンに殺されたはず。
なのにそこは例の白い空間ではない。
死後の世界ではなく現実。異世界。
しかもここは室内だ。僕はそのベッドに寝かされていた。
室内にはおしゃれな調度品、テーブルやランプが並んでいる。
そうここは木造のおしゃれなカフェといったところだ。
しかし、どこか異質である。
ところどころのテーブルにカラフルな液体などが入ったガラス瓶が所狭しと並びんでいるのだ。
中には煙が出ているものもある。アロマのような独特の香りはそこからなのだろうか。
僕はふと汚れているはずの学生服を見た。
僕の両腕などにはべったりと血が付いているはず。
なのにそれはきれいさっぱり落ちており、学生服も洗濯したかのようにきれいだ。
と、そこまで気が付いたところで、声が聞こえた。
「起きたのね」
そう言われ、声がしたところを見る。
「ちょっとあなたそこで待ってなさい」
そう、僕と同世代くらいの女の子が言った。
服装は黒一色。黒のとんがり防止に黒のマント。一言でいえば魔女と形容できるものだ。
彼女はすたすたとこちらの目の前まで歩いてくると、
「スゥー」と息を吸った。
そして
「・・この」
平手打ちされる。
「バカっ!!」
ぱちんっ!
「!」
僕は反射的に衝撃を軽減するため首を回した。だというのにこの威力。見た目からは予想できない力だ。
続いて彼女は、冷たい声で続ける。
「なんで殴ったかわかるわよね?
私が助けなければ、、」
なるほど、彼女は僕の恩人だったらしい。
それなのに僕は早とちりをしてしまったようだった。
「ってあれ?いない?」
すでにベッドの上に僕はいない。縮地を使って緊急移動を行っていたのだ。
背後から声をかけた
「あの。」
「キャッ!」
びっくりする謎の少女。
恩人に対して失礼なことをしてしまった。
しかも神眼でちらっと鑑定してしまった。
よくは見てないが、少しなりとも相手のプライバシーまで侵害してしまったのである。
ーー
名前 マージョリー=フォーレン
生命力 300
最大マナ 5000
力 100
持久力 150
魔法操作 100000
敏捷 200
幸運 1000
(10が平均的な成人の値)
スキル
属性魔法LvMAX(全ての属性魔法を使える)
調合LvMAX(薬を調合する)
調教Lv3(モンスターを使役できる)
毒耐性Lv7(毒が効きにくくなる)
マナの恵みLvMAX(空気中のマナを効率よく吸収できる)
トランスLv5(自発的に恍惚状態になることができる)
ステータス操作Lv3(意識してステータスを変化させることができる)
森歩きLv6(森の中を効率よく移動できる)
真偽眼Lv1(他者の言動が嘘か本当か判定する)
ユニークスキル
魔法の神髄(スキルシステム『魔法』を理解する)
ーー
彼女は振り返ると、こちらへを指さして驚く。
「あ、あんた・・!いつの間に!!」
「驚かせて申し訳ありません。
いきなりで警戒してしまったんです」
申し訳なさそうな顔をして謝罪した。
彼女は眼を丸くする。調子が狂ったようだが、しばらくして腕を組んでふんぞりかえる。
「ふんっ、ま、まあいいわ!
これにこりたら次からは気を付けることね!」
「はい」
ところで彼女は何者なのだろうか。
ブラッドゴブリンを相手どれることからして、戦闘を生業としているのかもしれない。
「あなたはギルドの関係者の方ですか?」
「そんなとこ。たまにあんたみたいなのを助けるのが仕事と言っていいわね。
名前はマージョリー。あんたは?」
「斎藤優斗と言います」
「ふーん。変な名前ね
で、なんであんなに必死にブラッドゴブリンを必死に狩っていたの?
やっぱり修行?」
「うん」
彼女はバカにするように言う。
「いるいる。たまにそういう命知らずの冒険者。
まあ、レベル上げの効率も上がるし、木の上に逃げればいいから、ここらへんは冒険者に人気なのよ
でも、馬鹿ね。ギルドの受付にも言われたでしょ?ブラッドゴブリンを狩るときは、解毒薬を持って行けって」
「・・解毒薬?」
「やっぱりちゃんと聞いてないのね・・
ブラッドゴブリンの血液には微量の毒が含まれているのよ。
普通に戦う分には全く問題はないけど、
一晩ぶっ続けで血を浴びたらいつの間にかふらふらになるの」
「そういうことか」
そういえば、神眼の解説に血液には毒があるとそう書いてあった。
人体には全く影響がないとかあったから完全に思考材料から外していたのだ。
「まあ、このことは数か月後くらいにギルドに伝えるからね。
ギルドカードの経歴に傷がつくかもしれないけど、死ぬよりかはましよね」
ギルド?ああ、もしかして彼女は僕がギルドに所属していると思っているようだ。
「いや、それはできないと思う。
僕はギルドにまだ登録していないから」
「・・なるほど、あなたは純粋な修行のためにブラッドゴブリンを殺していたというわけね」
「まあ、そういうことだね
僕は早く強くならないといけないんだ
そうしないと大変なことになる」
その言葉から、何かを感じたのだろうか。彼女は言う。
「何か理由がありそうね」
「うん。町には、僕が保護しないといけない相手がいるんだ
でも今の力では彼に勝てない」
「危ないやつなの?」
「・・・・」
友人のことを悪く言いたくないが、しかし魔王の手先であることは変わらない。
「まあ・・そうだと思う」
そうだ。
ギルド関係者なら、この人にこのことを話したほうがいいかもしれない。
僕は真剣な顔をして姿勢を正す。
「マージョリーさん。
少し、僕らの事情を聴いてほしい」
「何?真剣な顔をして」
「魔王の復活にかかわることなんだ」
「! 魔王って・・あの伝説の?!」
僕は首肯する。
「ああ」
「私は長年の経験で、相手が嘘か本当かを直感で知ることができる。
嘘だったら承知しないからね」
なるほど、それは都合がいい。
というわけで、僕はこれまでのことのあらましを彼女に話した。
聞き終わるとマージョリーさんは興味津々にこちらに顔を近づけて言う。
「転移者・・!!神の加護を得た異世界からの旅人・・!
伝説や物語の中でしか聞いたことがなかったけど、あなたがそうだったの・・?
そういえばあなたの服も確かに替わっているわね・・!」
じろじろと見られるが、話しているうちに僕に一つのアイディアが生まれていた。
「はい、ところで相談なんですが・・
僕が多少武術の心得を取り戻したからと言って、まだまだ金属生成を持つ友人に勝てるとは思えない。
でも、ギルドには強い人がたくさんいるはずですよね。
あなたのコネクションで、彼を止めてもらうことはできますか?」
しかし、僕のその言葉に彼女は一瞬言葉に詰まった。
「・・結論から言えば今すぐにはできないわ」
「それはどうして?」
「うーん・・
そうね。ごめん。
さっき私はギルドの関係者と言ったけど、本当は部外者なの」
「え?それはどういうことですか?」
「しょうがないわね
こうなったら私のことも話すわ」
そして、彼女は自分の経歴を語りだした。
「私は数百年前、じゃなくてゴホン、数十年前、森に置き去りにされた普通の少女だったわ。
理由は飢饉で口減らしのため。
でも運よく森に適応できたの。あの時、もし致死性の毒キノコを食べてしまっていたり、初級魔法で対処できないモンスターに出会っていたら、
今私はここにいなかったでしょうね。
そしてマナの濃い森の中で生活したせいか、魔法も上達し、数百年も生き永らえ・・ごほんごほん、とにかくスターテスが常人よりも上がったの。
私は魔法の知識を生かし、魔女としての人生を歩むことになった。
そして時たま死にかけている冒険者を見かけて仕方なく助けることをしているうちに、ギルドと暗黙の友好関係が結ばれたの。
まあ、実際にはギルドの使者がたまに来て物々交換や森の報告をしているだけだけどね」
「なるほど・・」
つまり彼女は見た目以上にすごい方らしかった。数百年も生きているなんて、その間に研鑽した技術はとても高いものとなっているだろう。
この部屋の設備の数々もその研鑽の成果なのだろう。さすが数百年も生きているだけある。
・・しかし、それならそれで疑問が残る。
「でも、失礼ですが、そこまで強いなら、使者を待たずともあなたが直接ギルドに行けばすぐ報告できませんか?」
そこで彼女はぎょっとした顔をして、こほんと咳払いした。
「・・私は町にはいけないの。森に適応してしまって、ここでしか生きられない体質になったのよ
あなたも町に行けない以上、今は使者を待つしかないわ」
「そうだったのですか」
つまるところ、ギルドの協力を仰ぐには、あと数週間後もかかるというのだ。
しかし、もどかしい。
すぐそこの町に行けば今すぐに報告できるはずなのに。
でも、友人に遭遇したら、きっと僕は彼に殺されるだろう。
遭遇・・しなければ?
そうか、隠れていけばいいだけの話なのだ。
よし、と僕は決意する。
「マージョリーさん。僕、一か八か町に行って来ます」
「やめなさい。相手は遠距離から攻撃できるって言ってたわよね
あんたがいくら武術の心得があるっていっても遠距離からの狙撃には勝てない。
それに、もし私があなたを殺そうと思ったら、ギルドの付近が見える遠距離で待機するわ。
つまりノコノコギルドへと歩いてきたあなたを簡単に始末できる位置にね。
行ったらあんた死ぬわよ」
完璧に否定される。
確かに彼女の言う通りだ。しかし、・
「でも他に方法が・・」
「他に方法ね・・」
しかし、彼女は指を一本立てて言う。
「なくもないわよ」
「え?」
続いて腕を組み、ふんぞり返っていった。
「私があなたに魔法の稽古をつけてやってもいいわ」