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勝利、新しい星とその名。





「さて・・・と」



 目の前のその結界を見て、僕は感慨深いと一言で言えないような気持になっていた。



 妹と再会する前に魔王を倒していれば、僕はこの状況を喜ぶべきなのかもしれない。


 何せ、仇を取ったのだ。



 だが、妹は、『生きている』。


 いや、生きていると表現するのもおかしい話だが。ともかく本人と会って話ができる。


 だからこそ、魔王は殺戮の限りを尽くす、


 愚かな獣でしかなかったのだ と 、



 ただそれだけの感覚だった。



 フラットな感覚。



 いわば、火の粉を払っただけ。


 結果、その相手がどんな絶望的な状況に陥ろうとも、


 永遠に出ることがかなわない牢獄に囚われ、永劫の蟲毒とともに果てようとも。



 『絶対的な悪だから』、『他者に苦痛を与え続けてきたから』、それが魔王自身にそれが帰ってきたのだと、


 仕方がないとしか言いようがないだろう。




(だが・・)



 僕は、ちらりと目を横に向けた。


 魔王城。肉の壁に囲まれた空間の一か所で、『彼』、いや、『それ』は吼え続けていた。



「ガウッ!ガウウウウウウウウウウウウウ!!!」



 持ち主もいなくなって今もなお、邪悪なオーラを放ち続ける心臓に、攻撃を加える化け物。



 魔王が居なくなった、この魔王城は、ただの肉塊でしかない。



 そしてそれは、『それ』も同じだ。


 それは、魔王の切り取られた肉塊の一部に過ぎないと、わかってはいる。



 だが、化物状態とはいえ、『友達』を模したそれに一抹の同情を禁じえなかったのは事実だった。



 友人。



 元の現代世界から訪れた、唯一の相手。。



 それは確かに自分の一方的な友情に過ぎなかった。



 相手は友人だとは思っていなかったであろうことは、今になってよくわかる。



  あの時の表情、行動、そぶり、雰囲気。

 


 まさしく、邪悪。


 暴力や見下すことでしか己を見いだせない。



 そんな彼の性質は、『悪』に近しいものだったのだろう。



 だが、魔王ほどではなかった。




 道を踏み外しさえしなければ・・助けられていれば、まだ心を入れ替える余地があったものの・・



 しかし、現実は違う。



 後戻りできないほどの悪に手を染め、死亡し、その後もその亡骸を、魔王に利用するだけされていた。


 


(故に、最後だけは・・)




 僕は、金属製性によって、あるものを作り出した。



 それはギロチン。


 フランスにおいて1792年から1981年に使用された、人道的に配慮された、この世で最も美しい処刑器具。



 偽りであったとはいえ、僕の友人であることを引き受けてくれた者に対し、これ以上無いほどの名誉な殺し方だろう。




 ザンッ・・・と。

 

 



 苦痛を与える暇もなく、一瞬で首を刎ねる。



 しばらく『それ』は動き続けていたものの、肉体構造は生命体に近しいらしく、司令塔を失った体はある時膝をついて倒れていった。


 ドスンッ 

 

「・・お休み」



 そう言ってその場を後にしようとしたとき、、










『お兄ちゃん!!終わったのね?!』


「ああ」



 百花から通信器具に電話が。



 腕につけているこの簡単なアクセサリーは、時間の動きを遅くする魔法から影響をうけなくする効果がある。



 さらについでに通信機能が付いているのだが、それが今鳴り響いたのだ。



『あともう少しで『アレ』が発動するころだから、急いでお兄ちゃんはそこから離れて!』


「分かった」



 


 そして、ここに来た時と同じように、ワープと縮地をうまく合わせた移動技でもってして、その場を後にする。



 遠くに見える魔王城。


 その中に魔王は今も結界の中で封じ込められているだろう。



 戦いは、終わったのだ。、















 冒険者や住人たちは、トップギアの上空に映し出される巨大なモニターに注目していた。



 イベントが好きな神の一人が、映像を回してくれたのだという。



 そう、これからこの世界において一台イベントが始まるのだ。



「大丈夫?周辺に生体反応は一つもないよね!?」


「はい、OKです!!何重にもチェックしました!!」


「それじゃあ、、行くよ!!!」



 冒険者や神々にかたずをのんで見守られる中、百花は、目の前のスイッチを、生きよいとく踏む。



 それは、まるで宇宙ロケットの打ち上げのような緊張感。




 いや、まるで、ではなくある意味その通りなのだが。



 事実、百花は叫ぶ。



「打ち上げまで、あと10、9、8・・」



 何を打ち上げるのか?


 すべての神々と冒険者たちが注目する中、カウントは0へと近づいていき・・



「発射!!!」



 ズゴゴゴオオオオオオオ・・!!


 とたん、弱い地響きがなり、モニターに映し出されていた魔王城が浮き上がった。



 いや、魔王城だけではない。



 魔王城が根を張り巡らせていた周囲の地形ごと、切り取って上空に浮遊したのだ。



 それは、魔王と優斗が戦っている最中、神々がこっそりと魔王にばれないように仕込んでいた魔方陣。


 最初はこの作戦を、冒険者抜きで成功させる予定だったのだが・・・過程はどうであれ、計画は無事成功しそうである。



 そして、数分後、、



 映像が宇宙へと到達したとき、百花は叫ぶ。



「高度、宇宙に到達!じゃあ、ホワイトノイズ様!初めてください!!」


「・・うむ」



 機械仕掛けのドラゴンの体から魔方陣が描き出される。


 そしてそれと同時にモニターに映る映像に動きがあった。


 土くれがひとりでに勝手に動き、魔王城の周りを覆いつくしてゆくのである。


 それはまるで、饅頭の中に餡子を入れるような作業。



 そして、完成するのは、、ほぼ完ぺきな球体。



「・・よし、できたぞい」



 新しく生まれたその星は、芳醇なエネルギーを内包する、膨大な魔力の塊。


 気が付けば、周囲の空気が若干変化しているように感じる。



 そう、何か魔法の流れが強くなっているような・・。試しに小さな火をともしてみるが、まるでよく燃える乾いた木のように簡易的に魔法を使うことができた。



「成功よ!!!今日からこの世界は、『星二つ』になったわ!!!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」



 作戦の成功に、沸き立つ人々。


 彼女の言う通り、いつの間にかよるになった空には、月・・衛星が二つ。


 まさしくファンタジー世界といった風景だ。



 そう、このことは事前に聞かされていたこと。



 これはこの世界の『格』を上げるための作戦。


 神の間では常識レベルらしいが、数多ある異世界の中でも、世界自体にレベルというものが存在しているらしい。



 レベル・・つまりその世界が内包するポテンシャル、、魔力量とも言ってよい。


 

 その一つの指標として、衛星が多ければ多いほど、魔力が濃くなり、そこに住む生物のステータスが高くなるという。



「これで俺たちも強くなったのか?」


「そうらしいな」


「おい、お前ら!俺は炎魔法が不得意だったんだが見てみろよ!!」


「俺も水を出すくらいは使えるようになったぞ!!これで冒険が楽になるな!1」



 冒険者たちは新しい世界になじむために魔法のため仕打ちなどをはじめ、


 対し神々は、管理のことを話し合っている。


「安全性は十分なんだろうね?あんな魔王を惑星にしちゃうだなんて・・」

 

「そうだ。成功したとはいえ、魔王はまだ意識が残っているのだろう?」


「大丈夫。一応念のために、自爆魔法式も取り付けておいた」


「専門の部署を作らないとね」



 それらを見て、僕は半分呆れたようにつぶやく。



「なんというか。

 あれだけの戦いの後に・・」




 図太いというかなんというか、あれだけのことがあったというのに、


 あれだけ強大な魔王を、今度は利用しているつもりでいる。



「ふっ・・・ふふふっ、」



 だが、、それでこそだ。



 奪われた分だけ返してもらう・・いやそれ以上、永久にむしり取るくらいでなければ、割に合わない。



 それだけのことを魔王はしてきたのである。


 

 なにより、僕のミスによって、死ななくてもよい命でさえ奪われてしまったのだ。


 ならば、生きている者のために還元することこそが、何よりの供養。




 そう、だからこそ・・・


(生きている者のため・・)



 そう、生きている者が、死んだ者分だけ、幸福にならなくてはいけない。


 僕は、静かに喧騒の中、決意する。



(そうだ。何より『僕』・・・『俺』のため・・!!!)





 だが、そんな俺に対して、



「・・あら?優斗!!」「優斗さん!!」


「マージョリー、みんな・・っ!!」


 ちょどその時、一行がこちらを見つけて駆け寄ってくる



 北条、マージョリーさん、アンジェリカを筆頭に、遅れて東堂、南雲、西園寺たちも集まってきた。



 改めてみると服もボロボロで、体力もかなり消耗しているようだが、、



 それでもその顔は達成感にあふれている。



「やったわね!!」「やりましたね!!」「優斗どのならできると思ってましたよ!!」

「ようやくすべてが終わったのね・・!!」「無事で何よりです」「今日は祝杯だね!!」


 そうやって、互いの健闘をたたえ合っていると。


 ふと、そんな中、ぱぁん、という柏手によって、


「はい、注目してください!!」


 静まり返る。


 その音の主は、最高神、百花。



 彼女は注目される中、宣言する


「まずはあの星の『名前』を決めましょう。『あの衛星』という名前ではあまりに恰好付かないですから!」


「「ほう・・・?」」


 再びざわざわと騒がしくなった。



「そうですな」「地味に名前は重要ですぞ。魔法的な意味でも」「カッコいい名前がいいぜ!!」



 確かに。あれだけ重要な星ならば、命名が必要だろう。


 多くの神々が話し合っていた。



「魔星とはどうですかな?」


「いや、黒星・・」


「自戒の意味を込めて戒王星というのは・・」


「スターザブラックとか、カッコいい名前にしましょう!!」



 それに対し、冒険者たちも混ざって色々な案が出されるが・・


 これだけの騒ぎだ。意見がまとまることはなかった。



 しかし・・ふと、その中の一人・・北条が言った。


「待ってください!」優斗さんの意見を聞いてませんよ!!」


「「「む?」」」



 その声に、そうだったとばかりに皆が一様にこちらを見た。


「そうだ!!何を言ってたんだ俺たちは!!」


「そうです!!優斗どのが魔王を倒したんですから、彼に名前を決めてもらわなければ!!」


「そうね、私も賛成だわ」


「・・え?」



 いきなり話を振られて、僕は少し考える。


 新しい星・・・か。



 空を見上げる。あそこには魔王・・そして僕の友人・・とよく似た躯が眠っている。

 


 それにふさわしい名前・・。



「そうだな・・」


 周囲が静まり、こちらに注目する中。




「決めた」


 僕は自然とその名前をつぶやいていた。




「新しい星の名前は・・」

 



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