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見殺し

 

 ――約束は破らせてもらう。





 一瞬の思考が僕を駆け巡った、その瞬間、

 

 『縮地』が発動。

 

 何か大事な約束をないがしろにような気がしたが、


 技の起動には問題ない。


 僕は疾走した。

 

「・・っ!?」

 

 友人が一瞬遅れて驚く。おそらく僕が消えて見えたのだろう。だが、遅い。

 

「動くな」


「な、なに?!」


 彼は声のするすぐ背後を振り返ろうとした。

 

 だが首を片手でしっかりとその動きを抑えて、真剣な声に聞こえるように耳元でつぶやく。

 

「僕があと数センチ動かしたら君は頸動脈を断ち切られ死ぬ。金属生成メタルクリエイターを使おうとしても死ぬ。反撃しようとしても死ぬ」


 僕は背後から首筋にナイフを充ててその冷たさを理解させる。

 友達を脅すことになるが、仕方がない。これ以外方法がないのだ。

 この状態でも、彼が自身の命を捨てて金属生成メタルクリエイターで攻撃を開始したら僕が死んでしまう。

 

「ひっ・・!!」

 

 幸い狙い通り、友人はそれで動こうとしなくなった。

 しかし半笑いで混乱したようにぶつぶつとつぶやく。

 

「へ、へっへ・・・おいおい死ぬって、冗談だよな・・?俺たち友達だろ・・?」


 彼はごまかそうとするが、しかしどさくさに紛れて軽率な行動を取らせたくない。


 僕は彼の命を握っている。その事実を強制的にでも受け止めさせるために、できるだけ感情を込めないで言った。


「こうでもしないと、君には勝てないからな。冗談じゃないよ」


「っ・・!!」


「もう一度言う。少しでも反撃しようとしたら、君は死ぬ」


 僕の言葉に、ようやく信じてくれたのか、彼は吐き捨てるようにネガティブにいう。


「さっきまで俺が優位に立ってたのに・・?!

 くそ・・っ!!やっぱり俺はお前には勝てないのか・・?!」


 密着した友人の全身の力が抜け、悲壮感が漂う。

 

 どうやら戦う気力をなくしたようだった。


 良かった。演技とはいえ、彼を脅すのは忍びないが、うまくいったようだ。

 

 しかし、僕は彼に尋ねたいことがある。

 

「一つ聞く。君は、まだ魔王の言っていたことを実行に移すつもりかい?」


 それに対して、キッと怒ったかのように体を収縮させたが、しかしナイフをほんの少し押し付けると、こびへつらうように返す。


「・・・わ、分かったよ。とりあえず対等に行こう。あれの分け前が欲しいんだろ?この手を放してくれよ

 へへ、話しづらいからさ。なんだったら奴隷も貸してやるからさ。

 好きなだけモフモフできるぞ?」


 無論、放すつもりはない。

 

 僕は再度効いた。

 

「最後のチャンスだ。魔王の言いなりになるか、ならないか。それだけ答えろ」


 友人はしばらくプルプルと震え、葛藤しているようだったが、ため息をついて意を決したように吐き捨てた。


「ああ、もう分かったよ!!もう魔王とは縁を切る!!だからこの手を放してくれ!!」


「いったな。約束だぞ」


「ああ!約束だ!!」


 それを聞いた僕は、ようやく友人を開放してやる。

 

 しかし


 ドンッ!と


 友人はバッと僕を突き飛ばした。

 

「へっへっ!甘ちゃんが!!本当に放しやがった!!」

 

 邪悪な笑みで叫んで手から液体金属を出した。

 

 やはりか、僕は再三聞く。


「約束はちゃんと守るんじゃなかったのか?」


「バカめ!!誰がお前との約束なんて守るか!」


 吐き捨てて、今度は先ほどとは比べ物にないスピードで液体金属を飛ばしてくる。


 しかしその攻撃が届く前に、、

 

「ぐぎ・・っ!!」


 友人が苦悶の表情を浮かべた。

 何故ならすでに一瞬で友人の背後に回り込み、ヘッドロックしていたからだ。

 

「なん・・で・・・?」


「僕は君を試していたんだよ」


「!」


 そう、僕はすでに縮地を発動できるようになった。

 

 超至近距離で、素人相手ならば、たとえわずか数コンマの隙であっても付け入ることができる。だからこそ、一度だけ様子を見るために彼を開放したのに・・。


 だが、僕の予想通り、彼は反省することなく約束を反故にした。


 ならば、こちらとしても最終手段に入るしかない。

 

 

 しかし、問題となるのはこれからだ。


 このまま彼を気絶させた後、どうすればいいのか。

 

 そう、、しばらくは監禁するしかないだろう。

 

「スキルを使えなくなる手錠ってあるのかな・・。奴隷商にあるかもしれないから、それを買って宿屋で過ごしてもらうしかないか・・仕事とかどうしても外せない用事があるときはお手伝いを雇うとして・・」


 僕はこれからの算段に付いて、彼の意識を落としながらつぶやき考えてしたのだが、


「ど、奴隷・・!?」


 友人にそれを聞かれて叫ぶ。

 

「っ!!・・い、やだ!!そんなみじめな・・・っ!!!するくらいなら・・っ!!」


「あっ」


 まだ意識があったようだ。僕は慌てて締め付けを強くするが、身体強化のせいなのか、思ったよりなかなか気絶してくれない。

 

 その間、先ほどから必死に金属生成メタルクリエイターを発動させようとしているが、幸いにも意識が集中できないせいか、めちゃくちゃな動きをするだけだ。

 

 そして、彼は最後の弱弱しい藁にまで縋り付こうとしていた。

 

「おい・・っ!!ポチ・・っ!!俺を助けろ・・!!主人命令だ!!」


「!! は、はいです!!」


 今まで放心しつつも見守っていた獣人が僕のところに走ってきたが

 

「ごめん」


 僕は蹴りで彼女を転ばせる。


「きゃっ!!」


 小さい子に暴力をふるうのは気分が悪いが、邪魔させるわけにはいかない。

 

「ポチ・・!!くそ・・!!許せねぇ・・!!よくも俺のポチを・・ポチを・・っ!!ポチ・・?」


 彼は気絶する寸前、何かに気が付いたようだったが、

 

「そうか・・!ポチを・・!!」

 

 しかし、もう遅い。それは彼が次に目を覚ました時に聞こう。

 

 そう思っていたのだが、

 

 彼はこの局面で、無視できない言葉を放った。

 

「おい!!優斗!!このままだとてめーの最愛のポチが死ぬぞ!!それでもいいのか?!」


 死ぬ?この状態で彼は動けないはずだが・・。何ができるというのだろうか。

 

「どういうことだ?」


 戯言と知りつつ、僕は腕の力を緩めずに尋ねる。

 

「へへへ・・こういうことだよ」


 そう言って彼は最後の力を振り絞り、彼女に対して手を向けた。そして・・


「ぎゃんっ!!」


「!」


 一瞬びくんと跳ね、彼女がのけぞり、痙攣する。

 

「あばばばばばばばばばば」


 まるで電気ショックを受けているかのように苦しむ彼女を見て、友人は力なくつぶやいた。


「は、ははははは・・優斗。奴隷の首輪には罰則用の装置が、、ある」


 見ると、彼女の首輪から何やら火花が飛び散っている。

 あれで無理やり奴隷に言うことを聞かせているということか。なんてひどいことをするのだろうか。


「それはオンにしたまま放置すれば死ぬこともあるらしいぜ・・?

 このまま俺が気絶したら、オフにできないよなぁ・・?」

 

 つまり・・苦し気な彼に替わって僕が続ける。

 

「お前を開放すれば、彼女は助かる、と?」


「そういうこと・・だ・・」


 卑怯な真似をする。だが、この状態で、彼が優位に立つにはそれしかないのだろう。


 そう、僕は『善人』だ。

 

 彼女を見殺しにすれば、きっと気分が悪いものとなるだろう。

 

 しかし・・

 

 【僕と彼女には何の関係もない】。

 

 その脅迫に付き合う必要はどこにもない。。

 

 そうか、なら・・

 

 

 ――彼女は見殺すのが【正解】だ。

 

 どっちにせよ、いずれは性奴隷としてみじめな人生を歩まなければならないのだ。

 

 まだ死んだほうが楽だろう。



「あばばばばばばばばばばばばばば!」


「ぐ、ぐぐ・・!!優斗ぉ!!か弱い女の子を見殺しにするのかぁ!!お前それでも人間かぁ?!」


 

 彼は叫ぶが、僕は冷静に考える。

 

 友人の犯罪をとめることと、目の前の女の子を救うこと、

 

 どちらが大切なのか。


 結論は、依然変わらない。


 それに、苦しいのは今だけだ。すぐ楽になるはずだろう。

 

 そう、彼女は見殺しにするしかない。



 

 そのはずだったのに・・。


『私は優しいお兄ちゃんが』


 

 

 

「あれ?」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・!!」



 信じられないことが起こった。


 友人が息遣い荒く、よろよろと僕から離れていく。


 そう、気が付けば、『僕は友人を開放していた』。

 

(いったいなぜ・・・?)


 きょとんとする僕をよそに、彼はギルドの入り口まで走ってゆく。


「っ!・・・に、逃げるぞ!ポチ!!」


「あばば・・あれ?」


 彼女はスイッチがオフになり自由になった体で

 

「は、はいです・・!」


 けなげにも彼の後を追いかけて行った。

 

「‥・・」


 暫く僕は呆然としていた。

 

「・・・・!」

 

 だが徐々に、唯一のチャンスを逃したことを理解する。

 

 そう、元々この戦いは、戦いにすらならないものだったのだ。

  

 最初から彼は圧倒的な間合いを誇る金属生成メタルクリエイターLvMAXでもってして、僕を殺すことができることはわかっていた。

 

 それでも勝機があると踏んだのは、友人はその強力なスキルを得たことで、慢心するだろうと確信したからだ。

 

 そしてその読みは的中し、僕はさっき彼を気絶寸前にまで追い込んだ。そして気が動転していたのだろう。そのまま彼は逃走を選んでくれた。

 

 だが、それゆえに、次は油断をするはずがない。

  

 そう、ここは危険だ。早くここから離れよう。今彼がそこの入り口から出てきて、僕を殺さないとも限らないのだ。

 

 だが、走り出した瞬間、僕は今まで意識にも入らなかった周囲の観客たちにふと目を向ける。

 

 彼らは無言で僕を見つめていた。


「・・・・・」


 ああ、しまった。

 

 僕は優等生としての自分の仮面が剥がれたことを知った。

 

 きっと彼らは僕を責めているのだろう。

 

 友人を気絶させようとしただけではなく、彼女を見殺しにしようとしたのだ。

 

 きっと、今後僕がどんなフォローをしようとも、彼らは僕を『善人』だとは思ってくれないだろう。

 

 でも、仕方が無いことだ。あれがその時の最善の行動。

 

 だが、ふとその時、幼き日のあの時の道場の記憶と被る。


ーー


『ひぃいいいい!!』

 

『空気を読め!この愚か者!!』


 

ーー

 

 僕は、そのことについて特に感想も抱かないまま、その場を後にしていった。

 

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