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日常とその終焉



「 斉藤くん、、! 好きです!付き合ってください!!」



 少しひんやりとした風が通る校舎裏。 太陽の光が木々の葉によって幾重にも乱反射される 岩賀ん。そこで僕は一人の女子学生女子生徒に告白されていた。


「だめ、、ですか?」


  控えめに言って美少女 。 こういうのをクラスのマドンナというのだろうか。友人によれば 彼女は好きな狙っている クラスメイトは多いと言う。


「ごめん」


 しかしそんな彼女の想いを彼は断らなければならない。何故なら、、『それが正しいことだから』だ。


「君と付き合うことができない。

 だって 僕は君のこと好きじゃないから」


「そんな、、」


 学校裏に呼び出して告白した 女子学生は泣き崩れた。


「 う、、う、、」


「ごめん、本当に」


「いいえ、 斉藤くん 。ごめんなさい私こそ、、勝手に告白して泣いて、、迷惑ですよね」


「そんなことないよ。君は悪くない」


 しばらく励まし、彼女が落ち着いて別れる。


 教室に戻って行く途中、少しだけ考える。これで良かったのかと。


 今日は僕の唯一の友達に、ある知らせを行う特別な日。


 気がはやっていたのだろう。あっさりと断ってしまったが、


 ここは少し悩む素振りを見た方が良かっただろうか。


 まあ、 終わったことは仕方がない。


 それに僕にはやることがあるのだ。


 そういい聞かせ教室に到着し、窓際一番奥の席に座る。


「おい 斉藤!」


 その前の席に座る人物は 着席するなりこちらに振り向いた。


 僕の名前は斎藤優斗さいとうゆうとという当たり障りのない名前。


 それを呼びながら彼は唾を吐きかける勢いで尋ねる。


「どうなった!?告白は?!」


「断った」


 一言で答えると、彼は信じられないという顔で目を見開く。


「またかよ、、」


 彼は僕の唯一の友人。


 いつもこんな風に僕に話しかけてくれる、心の広い人だ。


「いやだって俺あの子のこと何も知らないし」


「はぁー、信じられん。あの子、美人だってクラスで有名だったのに」


 大げさなリアクションで彼はそういう。


 しかし 好きだという気持ちもないのに付き合うというのはもっとひどいことだ。相思相愛でなければ、それは相手を裏切ることになってしまう。


 それが『人として大事な心』。


 僕はそれに従っただけだ。


「君はそういうけど、誠意がないお付き合いはお互いのためにならないと思うんだ」


「考え方が古風すぎる。こんなに告白され続けているんだから、いい加減お気に入りの子と付き合えばいいのに。

 入学してから何度目だと思ってるんだ?」


 そうなのだ。一般的に見て僕はモテるらしい。蓼食う虫は好き好きというが、こんな 何の取り柄もない僕のどこに魅力を感じるのだろう。


 成績は平均よりも上だが、地味で根暗な性格。むしろ元気に話す彼のほうが好印象だと僕は思うのだが。


 いや、そんなことよりも、今日彼に伝えたかったことがあるのだ。


 本題に移ろう。


「君に見せたいものがあるんだ」


「あぁん?なんだ唐突に」


「よいしょっと」


 僕は手に持った”あるもの”持ち上げる。


「え?それはいったい・・・?」


 それをドシッと机の上に置く。


 見慣れないのも無理はないだろう。


 それは重たい金属のバック。そう俗に言うジュラルミンケースである。


 この中には僕の友人が”欲して止まないもの”が入ってるのだ。


 サプライズのために今日まで秘密にしてきたが、きっとこれを見れば彼も喜んでくれるだろう。


 僕はジェラルミンケースのロックを外し、


 パカッ


 その中身を露出させる。

 

 その瞬間、




 シン----




 教室のざわめきがやんだ。



 周囲の視線が僕らの机の上に集まる。


 静かになった教室で最初に発言したのは友人だ。


「斉藤 、これは、、一体・・?」


「『やるよ』」


 僕はそれに応えた。


「やっ、、る?、、ごほっごほっ」


 彼は喜びが驚きのあまりむせているようだった、


 それも仕方ないだろう。


 僕は彼に見せたジュラルミンケースの中身は--



 --【大量の札束】だったのだから 。



 数秒立って、静けさが突然叫びに変わった。女子が「キャー!」と叫び、男子も「オイオイオイオイ」「まじかよ」「やっぱあいつおかしいわ」と周りに集まってくる。


 友人は少し頭を押さえている。嬉しさのあまり、何も言えないみたいだ。


 そして少し落ち着いたところでこちらを睨み、弱弱しく言う。


「ちょっと待って、、 斉藤 、これお前どこから盗んできた・・?

 ははは、変わり者だと思っていたが窃盗までするとは、、」


 なるほど。勘違いしているようだから訂正しておく。


「ちょっと待て、これは僕は稼いだお金だ」


「!」


「数ヶ月前からお小遣いからを元手に資産運用して一万から十億ほどに増やした。俗に言う株というやつだ。コツをつかめば簡単だったよ」


「じゅう、おく、、? かん、たん、、?」


「まあここにあるのは全財産の1割以下か。 もっと必要なら言ってくれ。

 とりあえずコンスタントに稼げるようになったから資産運用に使う余剰分はそろそろ与えておこうと思ってね」


「な、与える、、?」


「お前”貧乏”なんだろう?」


「、、、!」


 そうなのだ。


 入学してから やたらと話しかけてくるこの男。


  最初は鬱陶しいと思っていたが、聞いてもいないのに仕切りに身の上話を してくるもので感情移入してしまったのだ。


  話によれば彼は 親がパチスロにはまっていて借金もしており、自分でバイトをしながら五人兄弟の家族の生活をやりくりしているらしい。


 そう、彼は助けてもらおうなんて微塵も思ってなかったのだろう 。


 しかし僕はできるだけ困っている人を見たら助けようとしているのだ。


 助け合い、それこそが『人として持っていなければならない心』。人である以上『僕もそう思わなければならない』。


 だから僕は彼を助ける。


 これで僕らの『友情』はもっともっと『深まる』。


 てっきり彼はいつもの大袈裟なリアクションで喜ぶかと思ったんだが


「、、、、」


 何やら静かだ。何を考えているのか分からないが、続けてこう言った。


「、、、すまん、これは受け取れない」


 何やら神妙な顔で言う。


 僕は不思議に思った。どうして貰って損のない大金を拒むというのか。


「それはどうしてだい?」


「・・・」


 それには答えず、彼は無言で立ち上がり、


 スタスタスタ、、


 バタン! とやたら強く教室の扉を閉めていく。


「?どうしたんだろう」


 その不可解な行動に、僕は経験を総動員してその感情を予想する。


 そして、ある結論に至るが・・


 あれ?


 もしかして怒らせてしまったのか?



ーー



 結局その日は友人は早退した。


 しかし、次の日彼は普通に挨拶してきた。


「斉藤!おっはー!」


「おはよう」


 いつも通りに接する友人に僕は尋ねる。 良かった。心配していたのだ。


 安心としたと同時に彼の詳しい心理が知りたくなった。


「怒っていないのか」


「何がだ?」


 忘れている?念のためにもう一度聞いておく。


「だから昨日の、、「そんなことよりも何か面白いことなかったか?」


 食い気味に発言する友人。そこで僕も気が付いた。彼は昨日のことは追求してほしくないみたいだ。


 なるほど、やはりあの話はなかったことにしたほうがいいみたいだ。


 彼は依然話を逸らしたいのか、言葉を続ける。


「なぁ、、、だから、変わったことでもいい、今日、何かなかったのか?」


「ああ、変わったこと、ね・・」


 そこでふと思い出した事があった。


 今日は少し変わったことがあったのだ。


「靴箱にこんなものが入っていた」


 靴箱に手紙が入っているのは僕にとって日常茶飯事なのだが、それはいつもの、女子学生から送られるラブレターではない。可愛いげのない茶封筒だ。


「な、何だって!?それ、もう読んだか?!」


「ああ、面白いぞ。気が触れている人が入れたのだろう。何が入っていたと思う?」


 面白い話題としてはこれ以上のものはないだろう。しかし、抜き身のカッターが入っており、危うく手をケガするところだった。


 そしてそれと、手紙。筆跡を探られないためなのか、A4用紙にやたらカクカクと力強い字で書かれていた。その文字は、「痴漢」だとか、「犯罪者」だとか、「レイプ魔」といった罵詈雑言が並べられている。


 ああ、なんて刺激的な出来事なんだろうか。


 説明すると、彼は面白がると思ったが、予想とは違い必死な声で言う。


「何!? そんなものを見て平気なのかお前?!」


「?何がだ」


「ショックとか受けないのか!?」


 詰め寄る友人。それを聞いて僕は、、ハッとなった。


【あーそうか こういう時は、普通の人は面白がるんじゃなくて・・】


 一瞬の思考の後、すぐに柔軟に『コミュニケーション』をとる。


「あ、、うん、ショックかも。 少しへこんでいるかもしれない」


 少し目を伏せて声の調子も落とす。よし、練習通りにできた。


「誰がこんなことを許せねぇよまじで」


 友人は怒りの声色。本気で僕のことを心配してくれているようだった。


「ありがとう 心配してくれて」


「ああ、友達だから当然だ」


 僕らは握手をする。


 ああ、これが『友情』というものなのだろう。


 良い友人を持ったものだ。本当にありがたい。


ーーー


 しかし このイタズラは 何日にもわたって続けられた。エスカレートし、下駄箱の手紙だけでなく、机への落書き、掲示板への名指しの雑言などもしてくるようになった。


 さすがに大事になり、監視カメラや定期的な見回りもついた。それでか、さすがに最近は鳴りを潜めている。


 そして数週間後、僕と友人は下校 のため道を歩いていた。


「 斉藤 、大丈夫か?ショックじゃないか あのいじめ、、」


 よほど心配なのか友人は例のいたずらの件を聞いてきた。もう騒ぎも収束しているが、不安がぶり返したんだろう。


「ああ、全然大丈夫。最近はおとなしくなったし」

 

「本当か?でも心の傷は簡単にいえないって言うからなぁ。フラッシュバックっていって後に残ることもあるらしいし」


「・・・そうだね」


 なるほど、確かに、『ショックだったかもしれない。 普通の良心を持っている人間はあんなことをされれば当然傷つくものだ』。


 だから僕は少し顔をしかめて答える。


「思い出したら少ししんどいかもしれない。今日はもう休むよ」


「そうだなその方がいい」


 友人も満足げに笑った とちょうどその時である。




「「 斉藤くん!!」」




 ヒステリックの声で名前を呼ばれ、僕は背後を振り返る 。


 そこには黒髪ロングでスーツの大人の女性がいた。


 その顔には見覚えがある。


「よしこさん?」


 彼女は僕の元ストーカー。一か月ごとに結婚を申し込まれるのがたまに瑕のお茶目な女性だ。


 最近は僕のコミュニケーションの成果か、落ち着いた関係を築きあげてきているのだが。


 しかし今は最初にあったころのような狂気に満ちた表情をしている。


 僕は慎重に、落ち着いて彼女に語りかけた。


「どうかしたんですか?そんな顔して」


「どうしたもこうしたもないわよ!」


 そして後ろに隠していたものを前に持ってくる。


 その銀色に光る鉄の塊は【包丁】である 。


「それは・・!」


 しかしさらに意外だったのは次の彼女の言葉だ。


「あなた 最近何人もの女の子を妊娠させてさらに中絶までさせてるみたいじゃない!!」


「えっ?」


思わず驚きの声が出た。無論そんなことをした覚えはない。


「どうして 私じゃなかったの?ねぇどうして ?」


 だが相手はひどく錯乱している、急いで僕は説得しようとした。


「あの、とりあえずデートしながら話し合いませんか?

 あと、その手に持っているものは 危ないですから、ね? しまってください」


「、、、、」


「あの、、お願いします。この通りです」


 僕は直角に礼をした。人間、誠意をもって対応すれば、必ず分かり合えるはずである。


 それを見てよしこさんは数秒押し黙った後、唐突にこういった。


「じゃあ、、私と付き合ってくれる!?」


「?」


 どうしてそうなるのか分からない。がしかし今は、たとえ嘘でも言わなければならないだろう。緊急事態なのだ。まずは凶器を置いてもらうことを最も優先させなければいけない。


「ええ、分かりました。ですからそれを置いて、、」


 ぱっとよしこさんの表情が明るくなる。


「ほ、本当?!」


「・・・は、はい」


 うなずくのはかなり憚られるが、しかし、精神力を動員してそう答えた。


「やった・・!ふふふ・・私とあなたがとうとう結婚までいくだなんて・・今日はなんて素晴らしい日・・!」


 殺気が消えて、うっとり顔の彼女を見て、僕はほっと一息ついた。


 窮地をとりあえず脱したみたいだ。


 だが これからどう言い訳をすればいいのか。彼女は相当な妄想癖があるのだ。


 少し面倒ごとになりそうだと思いつつも、


 ふと疑問が起こった。


「あのその悪い噂は誰から聞いたんですか ?」



 --その直後である。




 ドンッ、と。




 後ろから強く僕の背中を押すものがいた。


 その強い衝撃で 僕は勢いよく前に飛び出す。


 ちょうどそこには未だ彼女が構えている包丁がある。


 ドスッ。


 冷たい、そして痛み。


 この感触は、、、、腹に包丁が突き刺さったようだ。


「なんで、、?」


 血しぶきが舞う。呆然とする彼女の声。


 そして僕は力が抜け、そのまま意識は昏倒する。


 溢れ出る血液。運悪く人体の急所に直撃したのか、見る見るうちに体が冷たくなってゆく。


【あーこのままじゃ 助からないな】。


 そう、どこか他人事のように思った。それがこの世界での最後の記憶。


 そしてこの茶番劇が、これから始まる物語の始まりであることを


 僕はまだ知らなかった


ーー







 気が付いたら僕は真っ白な空間にいた、



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