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【転生者視点】街案内

次の話の【ヒロイン視点】と話がリンクしています。

(ヒロイン視点は一時間後更新)

食堂『バックル』で

セリアから魔物退治を依頼された後、

彼女は一度騎士の支部局へと帰っていった。


そしてその日の午後――


「お待たせしました。それでは

この街――ヘルミオネを案内させていただきますね」


再び宿に顔を出したセリアと共に、

俺はヘルミオネの街をぶらつくことになる。


昨日の魔物襲撃の際に街の中を一度うろついているため、

大きな驚きがあるわけではない。

異世界ものによくある、ヨーロッパ

――なのか? よくわからないが――

的な建物が並んでいる街だ。


魔物襲撃の際にはそこら中の建物が炎に包まれ、

いかにも滅亡間近という印象もあったが、

意外にあらためて街を散策してみると、

それほど大きな被害があるようには見えなかった。


いくつかの建物が崩れ落ちているが、

すでに復興作業も始まっているようで、

街中は活気に満ちた声が響いていた。


「みんな案外と平気そうなんだね」


俺のその率直な感想に、

セリアがニコリと微笑む。


「昨日ほどの規模はまれですが、

魔物の襲撃はみなさん

経験していますからね。

慣れがあるのでしょう」


セリアの言葉に、

俺はなんとなくうなずいてみる。


彼らにとっては、魔物の襲撃とは

天災のようなものなのかも知れない。


地震大国の日本が、耐震性の優れた

建物を立てるように、彼らもまた

魔物襲撃に対して何らかの対策

――ここでいう復興の手順など?――

を立てているのだろう。


「この街には美術館や歴史館など

面白いものがたくさんありますが、

まずは勇者様の武具を見立てに行きましょう。

いつ魔物討伐に出立になるかはわかりませんが、

少しでも武具に慣れておくのが良いでしょうから」


「そうなの? まあセリアがそう言うなら

それでいいや」


俺としても、美術館や歴史館などよりは、

俺が装備する武具のほうが興味がある。


セリアに案内され、

ヘルミオネでも規模の大きいという

武具屋に到着した。


「この方に合う装備を探しているのですが

なにか手頃なものはありませんか?」


セリアがそう店主に尋ねると、

店主が俺をジロジロと眺め、ポツリという。


「……この小僧にかい? そんな貧相な体じゃあ、

まともな防具も武器も扱えるとは思えねえけどな」


店主の言葉に、むっとする。

するとセリアが慌てた様子で

口早に言う。


「そ……そんなことありません。

こう見えてもこの方は、騎士軍の誰よりも

力があるんですよ。どのような武具であれ

容易に使いこなしてしまうでしょう」


「ん? 姉ちゃんは騎士のもんか?

なんだ? そのへんてこな格好――」


「余計なことは良いんです! 

そんなことよりも武具を見せてください!」


セリアの胸の谷間が見える鎧と、

太ももが見えるスカートをジロジロ眺め

怪訝な顔をする店主。


その店主の言葉を、セリアが声を荒げて遮った。


二人のやり取りの意味はよくわからないが、

何にせよ店主は、セリアの言葉に

「まあ、金もらえるならなんでもいいけどよ」と

いくつかの武器と防具を並べて見せてくれた。


「悪いけどよ、あんたのような小僧にあう防具は

これぐらいしかなくてな」


店主がそう語る防具は、

鉄だか鋼だかの胸当てと、

手首と足首を防御する

プロテクターであった。


「動きやすいってのはあるが、

防具に守られていない箇所も多いからな、

それなりの腕がねえと使いこなせねえぞ」


「そうですね……まあ勇者様の体格を考慮すれば

フルアーマーなどは難しいですし、

これでよろしいのではないでしょうか?」


「うん……まあなんでもいいけど」


正直、防具にはあまり興味がない。

どちらにせよ魔物の攻撃を受ける前に

倒してしまえば良いのだから。


それよりも気になっているのは

武器の方だ。


並べられた剣や槍、弓や杖などを眺めて

どれを選ぶべきか思案する。


「やっぱり、王道に剣を選ぶべきかな?

いやいや。それじゃあ、ありきたりだし、

槍とかも面白いかもな」


「はあ? 何言ってんだ小僧」


俺のつぶやきに店主が訝しげに眉間にシワを寄せる。


「自分の得意とする武器を選べよ。

それとも武器を触ったこともない

ド素人なのか? だったらまずは基本――」


「だだだ……大丈夫なんです!

この方はすべての武器を使いこなせるので、

それで悩んでおられるのですよ!」


また店主の言葉を、セリアが慌てて遮る。


チート能力を得た俺に、

平凡な意見を述べる店主は若干気に入らない。

だが気まずそうに笑顔を浮かべているセリアに免じて、

怒るようなことは避けておいた。


「やっぱ剣かな。とりあえずこの平凡なやつでいいや」


「平凡? てめえ――」


「ああああ! 鋼の剣ですね! さすが勇者様!

お目が高い! とても良い品だと思いますよ!

刃に一点の曇りもなく、保管状態がとても良好だとわかります!」


セリアの言葉に、一瞬だけ険しい顔をした店主が、

「お……おう。まあな」と満更でもない顔でうなずく。


俺は剣をひと振りして、その感触を確かめる。

当然ながら剣など握ったこともなく、扱い方も知らないが、

チートな俺は、その剣をまるで己の手足のように

華麗に動かしてみせる。


その動きを見て、店主が眼を丸くした。


「お……何だ小僧。結構まともじゃねえか」


「そうでしょ!? だからそういったんです!

さあさあ、勇者様! ようが済みましたので

もうここを出ましょう。選んだ商品は後日、

勇者様の宿にお届けに上がりますので」


「あのさ、この店にはなんか隠し武器とかないの?」


俺の一言に、少しだけほころんでいた店主に顔が

また険しいものに変わる。


「あ? なんだよ隠し武器ってのは?」


いかつい店主の形相は、普段の俺ならばひるんでしまうものだ。

だが魔物すらも凌駕するチートな俺は、

一切ひるむことなく淡々と言ってやる。


「だからよくあるじゃん。店には出していない

伝説的な武器とか防具とか。そういうのはないの?」


「よくわからねえな。なんだそりゃ?

どうして店に出さねえ武器を持ってなきゃいけねえんだ?」


「それは俺もよく知らないけど、そっか。

まあ、ないならないでいいよ。どうせすぐに

この武器も買い換えるんだろうし」


「てめえ……小僧が! 言わせておけば――」


「どっひゃあああああああ!」


ここで突然セリアが声を上げた。

きょとんと眼を丸くする俺と店主。


セリアが懐から懐中時計を取り出して

裏返った声で叫ぶ。


「いやだ! もうこんな時間ですよ!

勇者様! 夕食にしましょう!

ああ店主さん! 代金は騎士軍のほうに

請求してください! それではさようなら!」


言うが早いか、セリアに腕を掴まれて

店の外に連れ出された。


はあはあと疲れたように

息を吐くセリア。


なんとなく悪い気がして

――女性には優しい俺だ――

俺は頭を掻きながら、ぺこりと頭を下げる。


「なんか……喧嘩っぽくなってごめんね」


「い……いいえ。大丈夫です」


額に汗を浮かべて、ニコリと笑うセリア。

その彼女に俺も笑いかけ、

「それにしても」と不満に腕を組む。


「高圧的な店主だったね。

客商売なんだから、もう少し考えてほしいよ」


「……魔物襲撃があってすぐですから……

きっと気が立っていたんでしょう。

不快な思いをさせて申し訳ありませんでした」


「セリアが謝ることじゃないさ」


頭を下げるセリアに、俺は寛大な心でそう話した。


「ああいう、理不尽な大人が俺は嫌いでね、

つい間違った考えを正そうとしちゃうんだ。

悪い癖だよね」


「…………いいえ。素晴らしい志だと思います」


そう話すも、なぜかほんの一瞬だけ

セリアの笑顔が強張った気がした。


しかしすぐにもとの華やかな笑顔を浮かべ直し、

セリアが言葉を続ける。


「さあ夕飯にしましょう。この近くにも美味しい

食堂があるんですよ」




――以降、五日間。

セリアの街案内が続いた。

後半になると、案内する場所も尽きたのか、

ほとんど散歩のようになっていたが、

なぜか彼女はなかなかギルドに向かおうとはしなかった。


「実例のないことなので、ギルド管理局との話が

なかなかまとまらないようです。私の方からも

口利きをしておきますので、もうしばらくお待ちください」


そう話すセリアに、俺はただうなずいていた。




――そして、さらに三日後。


「お待たせしました勇者様。

話がようやくまとまりましたので

ギルドへと向かいましょう」


こうして俺とユリアは、

新しい仲間を求めて、ギルドを訪ねた。





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