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【ヒロイン視点】二人の出会い

「納得行きません!」


彼女は机を力強く叩くと、

ギロリと視線を尖らせた。


自身の事務机を叩かれた

総隊長――ネイハム・フロイトは

部下の無礼な態度に腹を立てる様子もなく

平然と言う。


「君の意見は聞くつもりはない。

これは決定事項だ」


「決定事項……て、何を勝手に

決めているんですか!

絶対に私はそんなことしませんからね!」


バンバンと机を叩き、

彼女は汚らしいものを思い浮かべる心地で

とある青年の顔を思い出す。


表情を歪める彼女に

ネイハムが肩をすくめる。


「そう嫌悪することもあるまい。

どういう経緯があれ、彼は一応

この街の救世主だぞ?」


ネイハムの言葉に、

彼女はますます表情を歪めた。


「確かに……あの男の力が

街を救ったことは認めます。

ですが……それでも嫌です!」


再び瞳を尖らせて、彼女は声を荒げた。


「どうして私が、あの男の案内役なんて

しなければならないんですか!?」


彼女の怒声に、ネイハムが眉尻を落とす。


「仕方あるまい。ああいった連中を

我々はこれまで何人も見てきただろ?

つまり――異世界からきた人間をだ」


ネイハムの言葉に、彼女はぐっと声をつまらせる。

彼女が沈黙したのを見計らい、ネイハムが言葉を続ける。


「連中はそうじて、神から特殊な能力を授かり、

異世界とやらからこの世界にやってくる。

そしてなんでか知らんが、普通に暮らすようなことはせず

大抵は魔物退治に精を出してくれるわけだ。

まあ、それはいい。事実、彼らの力だけは

認めざるを得ないからな。だが問題はだ……

彼らは力だけの――てんで役立たずだということだ」


ネイハムが大きくため息を吐き、頭を振る。


「奴らはまるで非常識だ。いや、連中の世界では

常識なのかもしれないが、少なくとも我々の感覚から言えば

そういうことになる。力だけは優れているが、

精神がまるで子供だ。否。子供よりも悪い。

自分の都合の悪いことは認めず、何かあれば

『話と違う』と駄々をこねる。そして大抵は、

数日もしないうちに、戦いから身を引くか……

自滅して死んでしまう」


ネイハムの言うとおりだ。

彼らはチートと呼ばれる特殊能力を持っているが、

正直まるで役に立たない。


どうにも、彼らは魔物さえ倒していれば

みなから称賛されると勘違いしているフシがあるようで

旅における基本知識もなければ

政治的な話もまともにできない。


魔物を倒してやると鼻息を荒くして

旅の準備などろくにせず

毒蛇に噛まれて死亡する者もいれば、


他国のゴタゴタに

首を突っ込もうとして

国際問題を引き起こす者もいる。



いくらチートという力があろうと、

そんな注意力もなければ

常識もないやつなど、

使い物になるわけがないのだ。


だがネイハムはそうは考えていないようだ。

彼女の不満を見越したように

ネイハムがさらに言葉を続ける。


「君の言いたいこともわかる。

だがこうも考えられないか。確かに

彼らは役立たずではあるが、力だけは優れている。

つまりその力だけをうまく使いこなせれば

我らにとって最終兵器ともなりうるのだと」


「……どうしろと?」


「彼を口車に乗せて、我らの意思のとおりに動かす。

つまり、道具として利用しようというのだ。

異世界から来たという連中の特徴は、

自尊心がやたら高く、だが頭が空っぽだということだ。

彼をうまいこと操り、その力を我々が利用するのだよ」


「それを私にやれと? そんなの無理です」


自分はどちらかといえば不器用な方だ。

そういった役割は、もっと弁の立つものが

担うべきだろう。そう思う彼女だが、

ネイハムは「問題ない」とニヤリと笑う。


「異世界から来た男は女に弱い。

騎士の中でも器量が良い君が適任なんだよ」


「な――私に色仕掛けをしろというのですか!?」


自分の性を利用するなど

騎士として最大の屈辱であった。


ぎりぎりと犬歯を剥く彼女に、

ネイハムがあくまで淡々と言う。


「そこまで露骨になる必要はない。

少し気があるかな程度に思わせておけば

簡単に操ることができるさ」


「お断りします!

そんなことをするぐらいなら

死んだほうがマシです!」


「その言葉を――今回の奇襲により

命を失った同胞の前で言えるのか?」


ネイハムの言葉に、ぐっと息をつまらせる。


「君が誇りある騎士だということは

承知している。だが君のその誇りは

その幾人もの同胞の命と、天秤に

かけられるものなのか?」


「……それは」


「別に本当に恋仲になれと言っているわけじゃない。

そう思わせる素振りを少しするだけでいい」


ネイハムはそう言うと、一冊の本と

衣服を彼女に差し出してくる。


「この本は、以前に異世界から来たという連中を調査し

彼らの嗜好をまとめたものだ。これに適した女を君には

演じてもらいたい。そしてその騎士軍の制服から

この服装に着替えてくれ」


「……これ、なんでスカートなんですか。

鎧も胸元が空いているし、これでは急所を守れません」


「そこは君の技量でカバーしてくれ。

とにかく連中はこういった服装が普通だと

思い込んでいる。彼らの嗜好に合わせるんだ」


「……本当にこれで世界が救えるんですね」


彼女の問いに、ネイハムは曖昧ながらもうなずいた。




こうして、彼女は異世界から来たという

男の待つ部屋に入った。


彼女が入室した途端、

こちらのスカートから除く太ももや

鎧の開いた胸元を無遠慮にジロジロと眺める

異世界からの男。


そのクソッタレな顔を引き裂きたい。

そんな衝動にかられながらも、

彼女は無理やり笑みを作る。


「はじめまして。

本日より勇者様の案内役を仰せつかった

セリア・ブライトです。よろしくお願いします」


「へ? 勇者様って?」


わざとらしく眼を丸くする男。

ああ……殺したい。


無論、彼女――セリアはそんなこと

おくびにも出さず言葉を続ける。


「もちろん、貴方様のことです。

街の危機に颯爽と現れ、またたく間に

魔物を倒した貴方様を、

勇者と言わずしてなんといいましょう」


「いや……そんな大したことは」


謙遜でもしているつもりか。

だが男の本音はにやけた顔が物語っている。


とことんのクズだ。

どうして神とやらは、こんなクズに

力を与えるような真似などするのだろうか。


「ところで、勇者様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」


聖堂来栖せいどうくるす


セリアの問いに、なぜか胸を張って答える男――クルス。

正直言いにくいし、へんてこな名前だなと思うも、

セリアはそれら不満をすべて笑顔の中に封じ込めた。





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