【ヒロイン視点】異世界転生直後
敵の主戦力はオークであった。
街中で暴れまわる数十体ものオーク。
街はまたたく間に、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
悲鳴を上げて逃げ惑う住民。
親とはぐれたのか、母を呼びながら泣きじゃくる子供。
すでに絶命しているであろう恋人を
それでも担いで必死に逃げる者。
それら悲惨な光景に、
彼女は唇を強く噛みしめる。
「くそ……殺す! 魔物など……
一匹残らず殺してやる!」
部下を引き連れて、
彼女は魔物を次々と切り裂いていく。
刃を振るうたびに、オークの血の匂いが
体へと降りかかる。いい加減に
なれたものだが、それでも
頭が沸騰しそうなほどの嫌悪感を覚える。
本音を言えば、血にまみれて争うなど
彼女は望んでいない。
否。彼女だけでなく誰も望んでなど
いないだろう。
だが魔物を倒さなければ、大切な者が
壊されてしまう。だからこそ、
彼女とその部下は、心を潰して
戦場に身を投じているのだ。
複数体のオークに囲まれている
住民を見つける。
部下を連れてすぐその場へと向かい、
背後からオークを剣で切り裂く。
オークの絶叫が、鼓膜に反響する。
彼女は歯を食いしばりながら、
住民に声を荒げる。
「予め決められている避難所に行け! 早く!」
住民が彼女に礼を告げて、
避難所へと駆けていく。
ここから避難所までは
走っても十分以上かかる。
それまでに魔物に合わないことを
彼女は内心で祈る。
「ヴゥオオオオオオオ!」
仲間を倒されたからかオークが吠える。
彼女は剣を構えて、オークを見据えた。
するとその時――
一人の青年が、彼女の前に
おもむろに進み出た。
何をとち狂っているのかと
彼女は声を荒げた。
「! おい! そこの男!
危険だ! すぐに後ろに下がるんだ!」
だが男はその言葉を無視して
オークに手のひらを向ける。
そして――
「下級火炎呪文」
ただの下級呪文で
オークをまたたく間に殲滅させた。
彼女もその部下も呆然とする。
オークを殲滅させた男が振り返り、
ぽつりと気楽な調子で言う。
「えっと……なんか俺って
強いみたいなんで、
魔物を全部退治してやりますよ」
その男の言葉を聞いて――
彼女はある確信を得る。
ああ……またこの手の連中か……と。