【転生者視点】異世界転生直後
転生はあっさりと完了した。
胸をドキドキさせながら、
まぶたを開けようとする。
そのところで――
妙に周りが騒がしいことに気づいた。
人の悲鳴や罵声。
建物が倒壊するような音や
火薬が破裂する音。
映画やアニメでみるような
いかにも街が襲われている
ふうな騒音だ。
いや、さすがに転生した直後に
それはないだろ。
そんなことを考えながら、
改めてまぶたを開く。
ある意味では案の定――
そこは魔物に襲われている
街中であった。
「おいおい。いきなりだな」
すぐ近くの建物に、
火の玉が着弾して
破裂する。
メラメラと燃える建物を
眺めつつ、俺はため息を吐いた。
「まあ、いいか。
チート能力を試すには絶好の機会だし」
俺はそう気楽に考える。
足元に落ちていた剣
――近くに鎧姿の男が倒れていた――
を拾い上げて、
少し構えをとってみる。
剣など初めて持ったが
神からもらったチートのおかげか
結構しっくりとくる。
とそこに――
緑色の肌をした巨大な動物が、
俺の姿を見つけて接近してきた。
いわゆるオークと呼ばれる魔物だ。
オークが巨大な棍棒を振り下ろす。
俺は気楽に剣を掲げ、
オークの棍棒を受け止めた。
まるで、だだをこねる子供の
それのように、あっさりと攻撃を
受け止める人間に、オークが
驚愕する。
剣を気楽にひとふりする。
オークまで刃が届いていないにも
かかわらず、オークの胴体が
真っ二つに割れる。
「うわあ、こいつはスゲエな」
さすがチート。
楽なものだ。
次は魔法を試してみようと、
視線を巡らす。
少し離れた場所で、
複数人の鎧姿の人間と
数体のオークが争っていた。
俺は散歩するような心地で
その争いの場に向かうと、
ぜえぜえと肩で息をしている
鎧姿の人間の前に、進みでる。
「! おい! そこの男!
危険だ! すぐに後ろに下がるんだ!」
鎧姿の人間――女性のように高い声――が
俺にそう警告してきた。
俺はその言葉を無視して、
オークを見据えて手のひらを上げる。
頭に浮かんでくる魔法を放つ一連の手順。
それに則り、体内の魔力を編み込んで
体の外に展開する。
「下級火炎呪文」
俺が放ったのは程度の低い呪文だ。
だがそれでも、数体のオークは一瞬にして
黒焦げになった。
俺の呪文を見て、
鎧姿の連中が呆然としていた。
俺はその連中に振り返り、
なんの気なしに言う。
「えっと……なんか俺って
強いみたいなんで、
魔物を全部退治してやりますよ」
この最強なのに
あまりそれを自覚していない感じ――
たまらないな。