【ヒロイン視点】異世界転生直前
「大勢の魔物が街に向かっているらしい」
上司となる総隊長の、その簡潔な連絡を受け、
部隊長である彼女は表情を強張らせた。
「そんな……どうして急に?」
彼女の疑問に、総隊長が力なく頭を振る。
「正確なところはわからない。
だが……おそらくはやつが関係しているのだろう」
総隊長の言葉に、彼女は舌を鳴らした。
総隊長のいう「やつ」とは、
つい最近になって、この近辺に現れるようになった
上級魔物のことだろう。
人間と同等の知能を有し、
知能の低い魔物を率いて、
この地方の制圧を目論んでいる存在だ。
この街は、幾度もその魔物から
交渉を持ちかけられていた。
だがそれは、
人間を生かす代わりに、
魔物の配下となれという
とても従えるものではなかった。
当然、人間としてはその交渉に
応じることはできず、
魔物とのにらみ合いが続いていた。
だがついに、魔物の忍耐が切れたのだろう。
実力行使に出たというわけだ。
「お前の部隊も敵を迎え打つ
準備を進めてくれ」
「はい……あの、総隊長」
通常ならば、いの一番に伝達されるであろう
ある情報が伝えられていない。
そこに彼女は、強い不安をいだきつつ
その情報について質問した。
「敵の勢力は……どれほどでしょうか?」
「……」
総隊長が躊躇いつつ語った
魔物の勢力は――
この街に在中する騎士軍では
とても対抗できないものであった。