表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

【転生者視点】出立の日

次の話の【ヒロイン視点】と話がリンクしています。




(ヒロイン視点は一時間後更新)

新しく仲間に加わった魔道士、

ツインテールのミリー・ハンスと、

カール髪のロザリー・フロリオを交えて、

俺とセリアの四人は、

この地方一帯を支配しているという

魔物の討伐に向けて会議を始めた。


「魔物の住処とされている場所までは、

ここから約十キロ強あります。

森や渓谷を抜ける必要があるため、

早くて三日ほどかかるでしょう」


セリアの言葉に、

ミリーとロザリーがうなずく。


俺だけが首を傾げて、

セリアの言葉を指摘した。


「十キロで三日? 百キロの間違いじゃなくて?」


「え? ああ、はい。十キロ……

正確には十三キロほどですが……」


目を丸くするセリアに、

俺は多少呆れ気味に息を吐く。


「一日で五キロはいくらなんでも

のんびりしすぎじゃない?

少しでも早く魔物を倒さなきゃいけないなら、

十キロぐらい一日で歩かないと」


「え? ぐらいって……」


「俺の世界ではさ、十キロどころか

五十キロを一日で走る人だって普通にいるよ。

まあ、そこまでしろってわけじゃないけど、

十キロぐらいは当たり前に歩けないと」


「ああ……あ……と、その……」


困ったように眉尻を下げるセリア。

少し強く言い過ぎたか。


しかしこの街の運命を決めると言われていた

魔物退治のわりに、妙にのんびりと

日程を組んでいたことに、少々緊張感が

足らないのではと、俺は思ったのだ。


女の子を困らせるのは本意ではないが、

相手が誤ったときには、厳しい対応も必要だ。


それが本当の仲間というものだろう


するとここで――


「あ……ああ! ちょっとセリア!

あんた地図の縮尺を間違えてるわよ!」


ミリーが唐突に声を上げた。

「え?」ときょとんと目を丸くしたセリアが、

すぐになにかに気づいたようにカクカクと首肯する。


「あ……わ、わあ!

本当ですね! すみません皆さん!

よく見たら十キロではなくて、

ご……五十キロありました!」


「そうよね! ああビックリした!

あたしもおかしいと思っていたのよ!

十キロで三日なんて……ねえ、ロザリー!?」


「は……はい。そうですね。

もうセリアさん。おっちょこちょいですね」


「すみません勇者様! わたしの勘違いでした!

そうですよね! 十キロで三日はいくらなんでも

間違いです! 五十キロあります! 五十キロ!」


「……そうなの?」


妙に慌てているセリアと、へんてこな間違いをした

彼女にぷりぷりと怒るミリー、

そして穏やかに微笑むロザリー。


それら三人の顔を一度見回して、

俺は腕を組んで思案する。


五十キロを三日ということは、

一日では二十キロから三十キロほど。


一日八時間動くとして、

一時間で三キロから四キロということか。


多少の休憩を挟むことを考慮すれば、

あるていど納得の行く数値だろう。


「そっか。ごめんね。セリア。

責めるような言い方して」


「い……いいえ! こちらこそすみません!

勇者様に指摘されなければ気づきませんでした!」


以前から思っていたことだが、

どうやらセリアは少しばかり天然の毛があるようだ。

セリアの本業は騎士ということだが、これでは

まともな仕事ができていたのか怪しい。


(やれやれ……俺がしっかりしないと

ということか)


そう俺は心内で気を張っておいた。


「えっと……どこまで話しましたか……

と……とにかく、予定では三日後に

魔物の住処へと到達します。旅の準備等は

騎士軍の方で進めますので、皆さんは

心配なさらずとも大丈夫ですよ」


「そ……そう? それじゃあ、セリアに

まかせるわ」


「よろしくお願いします。セリアさん」


セリアの説明に素直に納得する

ミリーとロザリー。


だがやはり、俺だけは納得できず、

渋い顔をした。その俺の表情に気づいたセリアが、

多少躊躇いつつ、尋ねてくる。


「あの……勇者様? なにか問題がありましたか?」


「いや……問題というほどじゃないけど……

念の為に聞くけど、食料とかはどうするの?」


俺の問いに、そんなことかと

少し安心したようにセリアが微笑む。


「もちろん、ご用意しますよ。

ただ携帯食なので味の保証までは――」


「いや、そうじゃなくてさ……」


彼女の言葉を遮り、俺はポリポリと

頭を掻きながら言葉を続ける。


「旅の基本は軽装だろ? 食料はかさばるからさ、

持ち運ぶのはやめたほうが良いんじゃないかな?」


「は……はあ……えっと、つまり

何も食べずに魔物の住処まで行こうということですか?

あの……お言葉ですが、それでは体力がもたないかと……」


「いやいや、俺も食べなくていいとは思ってないよ。

つまり現地調達すれば良いってことさ」


俺の提案に意表を突かれたのか、

セリアだけでなくミリーやロザリーも

目をパシパシと瞬いた。


どうやらこの異世界はあまり効率性を重視した

考えを持っていないらしい。


俺はそう判断して、ゲームや小説から得た知識を

誇らしく披露する。


「森には動物や――魔物がいるだろ? 

そいつらを倒して、食料にすれば良いんだよ」


「……え?」


ぽかんとする三人の女性。

その三人の反応が心地よく、

俺はさらに口調を高めて言葉を続ける。


「そうすれば食料の問題はないだろ?」


「……ああ……その、そうですね。

しかし……魔物を食べるというのは、

あまりその習慣が……」


セリアが遠慮がちに反論してくる。

俺は小さく息を吐くと、

少々表情を渋らせて苦言を述べる。


「まあ少し気味悪いかも知れないけどさ、

こんな時だし、贅沢をいうのは違うと思うよ。

そうは思わないセリア?」


「……そ……そうですね」


「それにさ、道中の魔物をただ殺すだけなんて

もったいないじゃないか。そこから

必要な素材とかも取っておかないとね」


「素材?」


今度はミリーが疑問符を浮かべる。

俺はミリーに向き直り説明する。


「そうだよ。つまり魔物の皮や骨とか、

そういったものを集めておこうと思ってさ」


「……え? なんでよ?」


「なんでって……売るためだよ」


「売る? え……あ、魔物の皮とか骨を?」


俺としては当然の知識だが、

彼女たちにはよほど意外だったのか、

またも声を詰まらせて目を丸くした。


彼女たちは戦いばかりしていたためか、

こういった上手なやりくりというものを知らないらしい。

俺は先達者として、彼女たちに説明を続ける。


「そう。売って資金を得るんだ。

魔物と戦える人間なんか少ないから、

その魔物の皮とか骨とかは希少品だろ?

それを売ったお金で、今後の旅の資金に当てたり

……ああそうだ。街の復興資金にも利用できるかもよ」


「……確かに、魔物の皮や骨は希少ですが」


「だろ? まあ荷物になるから程々にだけど、

効率よく旅をしていかなきゃね」


俺はそう言葉を締めた。

俺の妙案――俺にとっては普通の提案だが――に、

沈黙する三人の女性。


だがしばらくして、セリアが

表情をぱあっと明るくして、

「すばらしいです!」と手を叩いた。


「さすが勇者様です! ただ魔物退治をするだけでなく、

お金を稼いで街の復興まで考えておられるとは!

脱帽しました! ね、ね! 皆さん!?」


「あ……ああ! やるじゃないのアンタも!

少しだけだけど認めて上げるわ! ね、ロザリー!?」


「そうですね。ええ。いいのではないですか」


三人からの賛同を受け、

俺は誇らしく少し胸を張った。


「では以上を踏まえまして、

上司の方に報告しておきますので、

今日はもう解散としましょう。

明日、約束の時間に勇者様の宿にて

集合するということで良いですね」


セリアのその言葉に、

ミリーとロザリーが頷いた。






――そして次の日。


約束の時刻通りに集合した俺たちは、

四人で街の入り口前まで移動した。


「ここから先は、いつ魔物が出てもおかしくない。

みんな気を引き締めていこうね」


俺の言葉に、三人の女性がうなずく。

昨日の件があったからか、

俺はいつの間にかパーティーのリーダに

されてしまったようだ。


(リーダーなんて柄じゃないんだけどな)


俺はそう心内でぼやきつつ――


街の外に、一歩足を踏み出した。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ