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ジャンク階層  作者: Seeton
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一話

プロローグ


私が生まれたのは、王侯支配世界の10層だった。

1から10まである階層、1が1番偉くて10が何の権威もない。

普通、下には下がいるって見下して生きているんだけど、下がない。

そして灰の空は有限、まやかしによってできた無機物。

1話

ジャンクがここにはよく流れ着く、それは山になって、最下層を灰色にする。

ほとんどが使えないものだし、中には危険なものもあるんだけど、目敏い奴らはその中から面白いものを見つけるんだ。

「ラジオ」「ドライバー」「水晶」「ブリキの歩兵」

今でもブリキの歩兵は私達のために働いている。

普段は下を見てる私達も、別の意味で頭が上がらない存在だ。

ほら、やってきた。

ガッチャンガッチャン鳴りながら、彼は私を見ると敬礼をした。

だから私もそっと返すのだった。

どうやらブリキの歩兵には子供がいたらしく、小さな服を持っていた。

10歳の頃、心なしかニコニコした顔で私にそれを渡してきた。

その日から私はその服を着ている。

ペアルックにしては悪趣味なものかもしれないけど、実際着るものにも困っていた私は有難いと思った。


12歳の頃、魔力判定があった。

動いているのかどうかさえ分からなかった水晶だけど、層長が手に当てると光り出した。

常に曇っていた私達の居場所では、その光とブリキの歩兵の目と灰虹色に輝く川だけがきれいに光るものだったような気もする。

ほんとはもっとあるのだろうけど私は知らない、少なくとも私の世界はそこまで。

私が触ると一瞬大きく光って壊れてしまった、悪いとは思ったが元々廃棄品、寿命の先まで生きてた方が驚きだ。

それでもちゃんと判定はできてたようで、1ヶ月もすると浮遊くらいはできるようになった。

浮遊感が気持ち悪かった。

私達の仕事は鉄を燃やしたり、砂を溶かしたりすることだ。

そこで燃えてるものは光りというよりは熱だ、見ているのも辛い、熱い。

とにかく、仕事をすれば上から食べ物が降りてくる。

他のことをやってる人もいるけどごく僅か、反骨心を持った気概のある奴と、単純に馴染めない奴、どっちも異分子だけど私にはその気持ちが分かる。

恐らく、私はそちら側の人間だ。

それでもなんだかんだ馴染むものさと、気にしなかった。

私には友人がいる。

古本屋敷の黒文字さんとか、領域さんとか、挙げればきりがないけれどやっぱり一番は彼女にあげよう。

彼女と会ったのは、仕事の帰り道。

時期で言うなら、さっき言った浮遊ができるようになった時だよ。

木琴の音っていうのかな、それが聞こえてきた。

気になって路地裏を洞穴をくぐる。

洞窟に差し込む光がやけに明るかったのを覚えて。

見てみると、真っ黒な線と点が蠢いていた。

「なに?」

余りのも歪なそれは、意思を持っているかのように私を驚かす。

すぐにでも逃げられるように体の芯に魔力を集める。

覚えたてとは言え走るよりは数段速い。

「ポロン、コン、カラン」

まるで、観客から笑いを得ようとする道下のような滑稽な音が私の耳に届いた。

そんな彼(彼女?)を見て私は取り合えず魔力解除をした。

この時の私は彼女の性別なんてもちろん知るわけがないから表記は彼ってことにしておく。

「ポン、チャン、タン、リン」

「まあ...人ではないんだろうね君は」

「カラン、コロン、カラン、コロン」

かの兵隊もそうだが、音や仕草だけでコミュニケーションを取ろうとするのは無理があると思うんだ。

ましてはこいつは立体かどうかすらも不明。

視覚的には、地面から盛り上がっているんだけど...影がないし。

まあ、それほど面白いものでもないなと帰ったのが初めて会った日。

日記にはそんなことを書く余裕はなかった。

書いとけばよかったかなと、ちょっと後悔してるこの頃。

次の日、見てみるとそいつはシャンシャン鳴らしていた。

それが音楽だっていうのはラジオで知っているけれど、こいつのそれは致命的に何かが抜けていた。

まあ、少し考えればわかることで、主旋律ってやつなんだけど。

また明日と私は挨拶をした。

次の日。

「ラ、ララ」

「チャカ、チャン」

音楽ってこういうやつだろう。

黒文字さんは、彼のことを五線譜のなり損ねだと教えてくれた。

私の中で彼の名前は四線譜に決定した。

まあ、そんな安直な名前は誰でも思いつくわけで、彼の本当の名前も「しせんふ」っていうのは、黒文字さんの性格の悪さから教えてくれなかったんだけど。

そもそも音楽、それも合奏っていうのは五線譜が何個も重なってできるもので、彼は自分で何個も重ね続けることができるのだからなり損ねにしちゃ優秀すぎると思う。

私は一つの楽器になるのが精いっぱい。

魔法を使えばどうにかなるかもしれないけれど、歌いながら気軽にできるようなことじゃない。

まあ、彼と歌うのは仕事帰りの日課みたいなもので魔法の練習と何ら変わりない。

そんなある日、私たちのところに魔法砲兵中隊がやってきた。

魔法砲兵はどこへ行っても役に立つ、と言われているくらい強い。

こんなところに来るような人じゃないし、そもそもあんなボロボロの筈がない。

「あれは、壊滅した砲兵だよ」

遠巻きに彼らを眺めていると後ろから声がかかってきた。

「黒文字さん、屋敷から」

古品屋敷の主の黒文字さん、本名らしい。

「いや、完全無欠の引きこもりの私も、砲兵くらいは見てみたい」

髪も服も眼鏡まで真っ黒な黒文字さん。

年齢不詳、性別不明、そもそも人間なのかどうかすら分からないミステリアスな人だ。

頭の中は黒文字だらけの歩くデータベース。

機嫌が悪いときはうんともすんとも言わないし、屋敷に据え置き型の筈だが、今日は移動式になったらしい。

「全滅?」

「ああ、三割全滅説って知ってる?」

知る由もない。

「まあ、普通は知らない。普通全滅って言うと十割が消滅したらって考えるけどそうじゃない、戦争で隊の三割が戦闘不能になったらどうなる?」

「残りの七割が戦う」

「残りの七割って言ってもさ、役割があるだろう」

そりゃ戦うだけじゃいけない。

取り合えず三割戦闘不能って言っても死んだとは言ってない。

野戦病院か後方へ輸送する必要がある。

担架は二人で持つもの。

「十人の中三人負傷したら、少なくとも九人は戦闘から離脱するわけだよ」

「なるほど」

分かったけど、こんなところに彼らが来る理由にはならない。

「で、壊滅っていうのが半分削られた場合、もうこれはどうしようもない、部隊は解散、人的資源のプールへポイっとね」

「そのプールがここだと」

「まあね、暇なら十層の敵性討伐でもしなさいと」

そんな情報どこで手に入れたのだろうかもしや、最新の情報を古本で手に入れたのか....?

謎が深まる黒文字さん。

黒文字さんに礼を言い、四線譜のもとへ向かう、どうみてもあいつは敵性分子だよね。

木琴の音が聞こえるのでどうやらまだ生きてるようだ。

路地裏を洞穴をくぐる。

いた。

「ねえ、四線譜」

「カラン、ポロン、タン」

「ついさっきこの層に砲兵がやってきたんだ」

「チン、チャン、トン」

「逃げたほうが良いと思うよ」

「ガン」

私たちの後ろから大きな音が聞こえたかと思うと、四線譜は地面の中へ消えていった。

「おい」

後ろを振り向くと、巨大な筒を持った兵隊がいた。

「なに?」

精一杯しらを切らさせていただこう、あなたのような高位の方は私なんかと話すべきじゃありませんよオーラをだしてみる。

「おまえ、今何やってた?」

届かなかった、相手の気持ちを考えられる人じゃなかったようだ。

戦争で相手のことを考えるような人は向いてないのは確かだけど。

「なにも」

「質問が悪かった、おまえ、今何と話していた」

ああ、そう、そうかなとは思っていたけど、詰んでたらしい。

私が黙ったままでいると、

「コード:071、第七砲兵中隊No.12より司令部へ、regulation000に従い発砲の準備をする」

とかなんだとか言い出した。

「なにを」

「軍に非協力的なやつは敵性分子って見なしてもいいんだよなあ」

「っつ!?」

流石に驚いたよ、問答無用で殺しにかかってくる人とはね。

「まあ、運がなかったと諦めな」

諦めるったって、ね。

流石に魔装持ちに勝てるとは思えないが、逃げ切るくらいなら...

「妨害」

手からチップ状の魔法を周りにばらまくように投げる。

相手の魔法起動を妨害し、手間取っているうちに逃げる、これが今の私の最善手。

「おう、何だお前、魔力持ちかよ」

浮遊、洞穴の中だから縦の動きは望めないけれど...肉体強化魔法なんて専門外だし。

「ホーミング」

「乱反射」

土が崩落する、私の頭上へ降りかかってくるが、そこは持ち前の危機回避能力で狭い空間を奇跡的にすり抜ける。

洞穴自体が崩れると察した彼も空を飛びながら私に狙いをつけた。

「バックショット」

「迎撃」

「ちっ、なんだあいつ」

不安定な軌道は狙ったわけじゃなくて、早すぎるスピードに操縦が利かないだけだけど割とこれは悪くない選択肢っぽいね。

「まあ、最高口径のこいつなら」

といって飛んできたのは無茶苦茶でかい玉、どう考えても銃の口径なんて無視している気がするけれど。

なにはともあれ直撃は免れないだろう、逃げるためには砲弾より速く逃げることだろうけどそんなこと絶対無理。

「防御」

いや、無理か、あんな物量、防げるわけない。

「グッバイ」

バッドに決まってるだろうが、と思いながら、走馬燈が流れ出す。

そんな絶体絶命な時、どこかからか木琴の音が聞こえた。

線と点の網、それが私と砲弾のあいだに割り込み...砲弾が消えた。

「君、タイミング良すぎない?」

「タンタンタン」

いつになくテンポが速い、相当高ぶっているらしい。

彼に逃げろと言ったけど、自衛できるんだね、迷惑だったかな。

「おいおいおいおい、大物じゃあねえか。汚名返上名誉挽回の絶好の機会」

早口でまくし立てる砲兵に比べ

「トントントン」

死線譜はいつも通り規則正しい

「死線譜がなんでこんなところにいるのか知らないけどな!まあどこで会おうが死んでもらうんだがっ」

猛々しい砲兵に比べ

「ポンポンポン」

死線譜はいつも通り静かな音

「コード:071、第七砲兵中隊No.12より司令部へ、regulationXXXに従い発砲の準備をする」

「ギイギイギイ」

線そのものを互いにこすりつけたかのような音がした。

「死ね」

網に向かって霧のような物を噴射した。

死線譜の一部が私のほうへやってきて、頭を覆いそこから視覚と聴覚を消し。

次に意識を刈り取った。

「なるほどね、そこから先を知らないんだっけ」

とコップに水を入れながら黒文字さんは言った。

「目が覚めたら、知ってる天井だったよ」

知っているベッドの上で、知っている部屋の中だった。

「それは領域さんがリセットかけてくれたからだよ、ほら君みたいな少女、そこらへんで寝ていたら何をされるか分かったもんじゃない」

領域さんには感謝しなければいけないが、彼との意思疎通は困難だしどうしようか。

「それで、全滅と壊滅があるじゃん、もう一個次のステップなあるんだけど知ってる?」

さあ。

「殲滅だよ、そして誰もいなくなったってやつ」

その話の場合は軍じゃないので全滅のほうが正しいと思うんですがとか言わない。

「元第七砲兵中隊No.12の消滅を確認した司令部が、元第七砲兵中隊の残存兵を投入、結果殲滅されましたと」

「死線譜ってそんな強いの?」

「いや?そもそも個体数が少ないからちゃんとしたデータは取れていないんだけど、多くは観賞用みたいなので無力化した後に上へ送られる。で、そいつらは成獣。幼獣のほうは発見例自体あんまりないんだけど、戦闘能力は大隊程度、巨大化した場合は数個師団で囲んで叩く」

「彼は?」

「幼獣のほうだよ、死線譜は名前から音を武器に戦うって思われがちだけど実はそうじゃない。人型になった真っ黒な塊が相手を蹴散らす」

人型ね。もっとも一般的な形でこそあるけれど、デフォの形と戦闘形態がそんなに変わるっていうのは信じられない。

「ちなみにどうでもいい情報なんだけど、人型になると発声機能を持つらしい。真偽は不明。」

「はあ、じゃあ結果が分かったら教えますよ」

「いやあ、悪いね」

「そうそう領域さんにお礼を言わなきゃいけない」

と私が言うと黒文字さんは、少し困ったような顔になって

「いやあ、あれは今ちょっと不安定な時期だからやめたほうが良いよ。なんか世界周期がどうたらこうたらって言ってた」

なんだか気になる情報ではあるけれど領域さんがてこずっているような問題なら私が行っても無意味なことは確実、関わらないが吉であろう。

しかしいつも安定して高テンションを維持し続けている領域さんが不安定とな、ちょっと気になるところではある。

 次の日にはケガというケガもしていなかった私はすっかり元気になり(もとから元気だったような気もするけれど)無事職場に復帰。

ドロドロと溶ける砂を見ていると仕事も終わり何事もなく帰路に着く。

少し期待していたけれど、木琴の音は聞こえなかった。

なあんてセンチメンタルな気分になっていたけれど、どこかから歌声が聞こえてきたんだ。

路地裏を抜ける、洞穴を抜ける。

そこには音符と死線で飾られた真っ黒な服を着た少女がいた。

髪は金色、肌は真っ白。

私の髪は灰色で、ぼさぼさだったから一目見て憧れた。

私は彼女を一等気に入った、それでまあ、結構衝撃的な出会いをしたけれどそのあとは割と普通な親友の一人だと思う。

急に歌いだすのはどうかと思うけれど、その歌声が奇麗のなんのって言葉じゃ表せないくらい。

ちなみに彼女に言わせれば私はとんでもなく音痴らしいんだけど、いいさ別に気にしない。

二話

 階層ごとは断絶されているわけじゃなくて、螺旋階段みたいなもので繋がっている。

階段って言っても段差はないしスロープって言ったほうが正しいんだろうけれど、どっかの偉い人が螺旋階段って表現を気に入ったらしいからそのまま。

黒文字さんは頑なに螺旋階段って表現をしないんだけど、スロープって言葉も気に入らないらしく、アレとかあの道とか抽象的な表現をする。

「で、あの道を渡ると九階層に出るんだけど、道がふさがれているらしくてね、本来なら物資も届かず餓死になるところを領域さんが助けてくれたってわけ。」

たっていうか現在進行形なんだけれどという注釈を加えて黒文字さんは煙草に火をつけた。

朝起きると、黒文字さんが家を訪ねてきた、この狭い期間に二度も外へ出歩くとは…

「なんでそれが起こったの?」

と聞くと、黒文字さんは待ってましたとばかりに話し出す。

「いや、階層旅団って知ってる?」

階層旅団とは言わずと知れたテロリスト集団、狭い世界の開放っていうスローガンのもとに日々略奪中、目下それがどう開放につながるのかは不明。

一回、討伐隊が結成されて壊滅したっていうのを聞いたんだけど一層の住人に階層旅団信仰がいたらしく旅団幹部が釈放された。

そのあとは姿を消して、階層旅団消滅か!?などと巷で騒がれてはいたもののこの度めでたく復活。

「まあ十分っちゃ十分だけど彼らの略奪には意味がある」

へえ、どんな?

「彼らが略奪するのは金持ちばかり、それを貧民に分け与えることによって人気を博している」

ここに貧民がおります、どうしてここにはくれないのでしょうか?

「そりゃあ決まってるよ、すでに十層は歪ながらも彼らの理想を実現しているからね」

ここが理想って言ったら彼らのやっていることはだれの得にもならないことである。

「いわゆる配給制を成立させることだ、我らは一階のお恵みによって生きている。そりゃあある種の配給制だ。しかしお恵みってやつがいけない。だから、十層を無かったことにしようとしているんだ。」

私には理解できない次元の話らしいことは分かった。

「いや無理もない、ところで君は人間としてはこの階で一番強いんだ」

人間じゃない人は無茶苦茶強いのがいっぱいいるんだけど…

「それで死線譜もつれて九層まで行ってくれよ。ああ、私もついてく、気乗りはしないが仕方がない」

黒文字さんが出歩くなんてよほどのことだと思い、受諾した。

で、作戦概要。

今九層と十層の螺旋階段を階層旅団が封鎖している、治安部隊が到着する前にこっちは餓死してしまうから、なるべく平和的解決法を持って階層旅団にお帰り願う。

ちなみに言葉が通じなかった場合、階層封鎖は重罪なので武力行使しても問題ないらしい。少々荒々しいが石の下へお還りいただく。

戦闘力不明の黒文字さんは置いておいて、死線譜の戦闘力は砲兵の皆さんのお墨付きである、多分問題ないだろう。

問題は死線譜がついて来てくれるかなんだけど。

いつもの場所に行くと、死線譜は歌っていた。

「***************」

どうやら過去の言葉らしい、聴き惚れていると、急に彼女は歌うのをやめこちらを見た

「どうしたの?様子がいつもと違うみたいだけれど、今日はなんだか」

「うん、ちょっと話が合って」

「知ってるわ、大体の事情は、快諾するわ、二つ返事で」

韻を踏むような独特なしゃべり方、テンポよく言葉を発するのを聞いていると、歌っているかのように錯覚する。

「ありがとう」

「いいえ、親友だもの。はい、とっておきの」

言いたいことは言ったのか彼女はまた歌いだした。

あんなに人間らしい見た目をしているのに、歌うときは無機物みたいな気がした。

気のせいかなと思ったし、そう言ったことを評論する資格はそもそも私にはないと思う。

出発日、、待ち合わせの場所に行くとすでに二人は来ていた。

私は少し準備があったとはいえ時間は五分前である、黒文字さんは時間丁度に来るような人だと思っていたからちょっと意外な気がした。

ピクニック気分じゃないけれど、行動範囲が極端に狭い私は廃ビルとか使われなくなった機材を見て楽しんでいたんだけど次第にその無限ループしているようなテクスチャにも飽き、死線譜の歌声を聞いていた。

黒文字さんは普段の口数の多さから一転、苦しみの表情をして無言で歩いていた。

「浮遊の術を使って私を飛ばしてみてくれない」

などと言い出す始末。

そりゃあ、やってできないことはないけれど、そういうのは緊急手段として取っておくべきじゃない?魔力は有限なんだし。

「そりゃそうだ、しかしなあ、うーん、ホームシックになってきたよ、動物っていうのはね引っ越しは非常にストレスが溜まるんだよ、そうしたら移動もストレスが溜まるのは当然」

何は当然なものか、万年引きこもり、黒文字さんのそれはどう考えても運動不足、この十層の雲で遮断されている日光に当たるのもしんどいくらいなことを言ってるからロザリオでも近づけたら死ぬんじゃなかろうか。

「ああ、間違っちゃいない。私は祖先に吸血鬼がいる。身体能力は上がらずに治癒能力も持っていないがな、吸血能力もないし飛行能力もない」

とか嘯いている。

たぶんそれ吸血鬼じゃなくてゾンビだと思うよ。

「人間ね、彼は。純正の純血の。」 

くるくるとドレスを浮かせるように回りながら死線譜は言う。。

「ジョークだよ、ジョーク」

でも冗談じゃないくらい疲弊しているのは確かなのでここいらで休憩をとるべきだろう。

螺旋階段が見えてきた、灰色と青が混ざったような気味が悪い色のそれ。

螺旋階段近くには人が集まる、十層で一番大きな町が見える。

全部灰色でできている町だしやっている仕事も私たちと何ら変わらないんだろうけれど

「そうでもない、物資配達員向けの宿屋、十層敵性分子討伐ギルドなど多様なものであふれかえっている。そして今日は宿屋に行こうと提案したい」

「なるほど、良いんじゃないですか?」

と言うと、

「私は私で地に音に」

と死線譜は地面にでも潜っているからほっとけと言ってきた。

まあ、死線譜は飲まず食わずで生きて行けるらしいし本人がほっとけというのならほっとくべきだろう。

「それじゃあ決まりだ、君たちも十層の風景には飽きが回ってきているだろう、私も歩くことに飽きた、すぐに宿へ向かおう。よし今日中に着かないならば多少の魔力行使も問題ないだろう、やってくれるかい?」

いいとも、最近制御がうまくなってきたので非常に快適な空の旅をお届けすることができるだろう。

まあ、一人旅限定なんだけど。

「ぎゃーーーーーーー!!!!!!」

となんだか悲鳴が聞こえてきた気がするけれどこっちは空間制御に夢中だ、万が一の事故のため飛ばされないようにシートベルトの着用を、ないならパラシュートでも付けておいてね。

街に入り、少し観光でもしようかななんて思っていたのだが黒文字さんの無言の圧力により宿屋へ。

木造ってことに驚いたけれど、部屋一つ一つにシャワールームもついているらしい。

冷たい水を工場まで持ち込んで、熱してみようかと挑戦したことがあるんだけど一瞬で蒸発した。

なので熱いお湯には憧れる。

飛行後、酷い目にあったと言う黒文字さんであるが、私だって制御がまともにできなくてひやひやしてる、一度落としてしまったのは謝るけど、しょうがないでしょ、じたばた手を振り喚くものだから。

そのあと気絶して運びやすくなったのは良かったんじゃない?

「まあ、確かにな、帰りは気絶薬でも飲んでから運んでもらおうか」

とかなんだとか運転手を放って自分だけ助手席でぐっすり寝ようとしているので

「気が付いてたら死んでたなんてことになるかもね」

と言う。

「やっぱ歩いて帰ろうかな、うん。人類は文明の利器に頼りすぎると碌な事にならない。」

魔法が文明の利器とか、なんて無茶苦茶な。

「面白いわ、遊覧飛行、黒文字」

気に入っていただいたようで何よりだ、どうぞご贔屓に。

シャワールーム。

ザーーという水の音、ピチャピチャと鳴る透明な液体。

白い煙が体から出る、それは疲労まで抜くような気がした。

シャワーの強さを最大にすると、首に心地よい感触が来てシャンプーは口に入ると苦かったけれど、それならどうしてあんなに良い匂いがするのだろうかと考えているうちにのぼせた。

「水でものみな」

と風魔法で体を冷やしている私に黒文字さんから声がかかる。

「ああ、うーん、どうも」

と私は仰向けの体制のまま水を飲む、結構難しいぞこれ。

「しかしまあ、微笑ましいところもあるじゃないか、なあ」

人間味あふれる私だけど、基本無口なので周りからそんな評価を受ける。

別に無口なのは確かだけど、微笑ましいところがほとんどない人間みたいに言われるのはなんか嫌な気分になる。

そもそも微笑ましいとは一体全体何なのか。

くらくらする思考のままそんなことをツラツラと考えていると、眠りに落ちた。

「―――――。――――――――――い。――おーーい。起きろ。」

はあい、どうもー….うーん…ああ、あの後寝たんだっけ。

「おはよう、黒文字さん」

「ああこんばんは、起こして悪いとは思ったが夕食の時間だ。この階層の中では一番うまいものが食えるぞ。」

ほう、良いじゃない、ちょっと待ってくれ今支度をするよ、どこへ向かえばいいのか教えて。

「実はこの宿屋では夕食は部屋に届けられるらしいんだよね」

…実は黒文字さん大金持ちではないのだろうか、いやあんな閑古鳥が鳴いている古書店を道楽で経営できるくらいの存在だ。そりゃ金はあるのだろうと思っていたけれどね。

「ずいぶん俗物的な発言をするね」

単純に餌付けされただけである。

そんなこんなで、たまらなくおいしい夕食を食べぐっすり眠った。

多分最後の晩餐にふさわしかったと思うのだけれど、不謹慎だろうか。

朝、目が覚めると黒文字さんはとっくに起きていた

死線譜はそもそも眠っていないらしく、一晩中紙に五線譜と音符を描き続けていたのだと黒文字さんは言う。

楽譜っていうのは、それだけだと私にとっては何の意味もないんだろうけれど読める人が見れば、頭の中に音楽が流れ出すのだろう、そういう意味ではこれも一つの楽器なような気もする。

ドレミの音階も曖昧な私に渡されても楽器にはなり得ないけど、ピアノもトランペットも弾けなきゃ同じようなものだ。

「じゃあ、出発しようか」

と私が言うと途端に黒文字さんは苦い顔になり、死線譜は顔をこちらにチラと向けたきりまた音符を書き始める。

「いやあ行かなきゃいけないのは分かっている、こう見ると食糧事情も問題なさそうだが末端の村ではすでに食糧が底をつき始めているとも聞く。」

と自分を言い聞かせるように立ち上がった黒文字さん。

スロープ前は閑散としていた、いつもは人が多くいるのだろうが数人の男女が行き来を減少させている。

恰好はローブみたいなものを着て、顔を隠している。

少なくとも自分が反社会的な人間であるというのは自覚しているようだ。

「思ったより少ない」

もっと百人単位でいるのかと思っていた。

「まあね、十層には治安維持部隊がいないから九層入り口に固まっているだろう。とはいえ九層も別に大した所じゃないし、五層あたりから兵をどれだけ引っ張れるか交渉している最中じゃないのかな」

と黒文字さんが教えてくれた。

「で、私たちが行うゲート解放の交渉は?」

と言うと、黒文字さんは

「まあ、こっちにいるのは下っ端みたいなものだから倒しちゃって構わない。」

と言った。

どうやら黒文字さんは親分と交渉する気があるらしい。

戦闘するのはいいんだけど、死線譜は切り札、そう簡単にきれない。

であるなら私が戦うことになるわけで。

スロープの前に立つ。

「何だお前は、おいガキ、入ってくるんじゃねえよ殺すぞ?あ、いや殺すか」

などと男が言い出す。

魔力持ちは…二人。

それなら全く問題ない、魔力の気配も私より劣るし。

まずは飛行して、有利を取り衝撃波を相手に発射する。

六人のうち二人が倒れた。

「う…なんだよあいつ….ああ、いてえ」

「おい、アーゼル、ウィニイお前らに任せる。」

「おう、いいから連れてけ」

なんだか仲のよさそうな六人組でちょっと罪悪感、しかし手加減していたらこっちが殺されるので、もちろん全力。

「オートメーク、タイムグレネード」

私の手から一目で壊れかけってわかるような目覚まし時計が生まれる、もちろん名の通り魔力爆発弾、普通に作りたかったのだが私はジャンクと相性が良いらしくこういった見た目のほうが魔力消費も少ないし威力も上がる。

それではと、思いっきり相手に投げつける、重力により一気に加速し、爆発する。

「ふう」

勿論油断はしない、結構な威力であるとは思うけれど魔法防壁なるものがあるのでかなり軽減されるだろう。

私は防壁との相性は最悪、普通に殴られただけでも痛い。

「あいつ、やりやがって!!!」と煙が消えると叫びだすアーゼル(仮)、もうひとりもそんなにダメージを受けてなさそうだ、ウィニイ(仮)。

でもこんなので死ぬとは思っていない、今のは目くらましみたいなもの。

本命は

「アンチマテリアルショット!」

両手の親指と人差し指で三角をかくようにして放つ。

地面がえぐれるほどの威力があり、これなら無傷とはいかないだろう。

「防壁展開!」

「反射壁展開!」

反射壁ってことはこっちに来るじゃんと、その場を離れる。

するとそれを見計らったように、アーゼル(仮)が反射壁を解除して私のよけた方向に散弾を放つ。

散弾のくせに偏差撃ちとか訳の分かんないことやんなよ…とか思うのもつかの間、ろくに防御壁も展開できず直撃する。

でもまあ大丈夫、威力は大したことないし…

しかし相手は防禦に自信があるらしくうらやましい。

私の防御壁の練度の低さがお目見えされてしまった。

案の定、どんどんこちらに散弾を撃ちまくってくる、弾幕弾幕、迎撃しようとするけどあんなあんなたくさんの弾無理だよ。

そんなわけで大回りに回避回避、障害物もない空中じゃいい的になっているけれど相手の魔力も有限だ、こっからは耐久勝負になる。

数分ほどよけ続けると、急に弾が止んだのでこれ幸いと鉄の筒を作り出し、高密度魔力波を相手にぶつける。

コツは回転させて飛ばすこと。

相手は倒れて私は最小限の攻撃で勝てて満足。

派手な戦いとか魔力の無駄遣いだし、ギャラリーもいない今は印象操作にもならない。

だからこんな感じの地味な戦いになってしまう。

基本的に派手な魔法ほど強い傾向にあるらしいんだけど私は致命的にそういうのと相性が悪いらしく、金銀きらめく技は全くと言っていいほど使えない。

全部灰色。

地面に降り立つと黒文字さんが開口一番。

「じゃあとっとと行こうかと言ってきた」

どうやら労う気はないらしい、結構ギリギリの戦いだったんだけど数少ない観客はそれに気づいてくれなかった。

「分かった」

私はそれだけ言って螺旋階段に向かう、ここを歩くのは結構憧れてたんだ。

ここを上がるときはだれもが上を向くものだからね。

そのあとは特に何もなく(強いて言えば強風が吹いて黒文字さんが螺旋階段から落下しそうになったことか)九層入り口のほうまで辿り着いた。

そこまで辿り着くと黒文字さんが階層旅団に話しかけ、なにか交渉するとあっさり、彼らは立ち去った。

流石に気になって黒文字さんに聞くと

「いや、そろそろ世界座標が揃うから…」

とかなんとか。

向こうもまともに伝える気はなかったようだし、私も彼らが引いてくれれば万事良し、さあ帰ろうかと言うと、

「いや、君たちこのまま階層上がりなよ」

と言ってきた。

階層間の行き来は十層から九層までの場合においてもそれなりにペナルティがかかる、上から下の場合は全く問題ない。

「確かに君がこのまま九層に足を踏み入れれば、筋力や体力などが一気に下がる、が一部の人間しか気づいてないことなんだけどね…いや、いいか君には説明しておこう」

曰く、今から一か月後に王侯支配世界と全人等世界の座標が交わるらしい、それによって各地に色々な被害が出る、領域さんのサポートのもとこれを解決してほしい。

何故階層の行き来に問題がないのかと言うと、全平等世界のイデオロギーが我々の世界に影響を与えているのでステータス低下が著しく下げられている。

「そんなことが…」

あり得るのか、聞いたことがない。

けれど、それなら階層を移動するいい機会である。

仕事はいつでも帰れるだろうし、私はこのままレッツゴーしても問題ないんだけど…

とか、微妙に葛藤していたのも束の間、黒文字さんが手に持っていた鞄から何やら取り出す。

札束である。

うわっ初めて見た、0がいくつあるんだこれ。

100ニット=1レイだから…つまりこいつは100レイだから10000ニット、この世の全てを買えそうな額が山積みである。

「まあ、たしかに額としてはでかいが層が上がって行くにつれ物価も上がるからな、その内一回食事しただけで100レイくらいザラに使うようになるぞ」

確かに冷静に考えれば古本屋敷の本も高いのは50レイくらいだったし…

…しかし、金銭事情もグリーンになればもはや肉体労働に戻る必要性など皆無である。

レッツ旅。

「はぁ、よろしく頼んだぞ」

と鞄ごと渡してくる。

帰りはどうするのだろうかと思ったが黒文字さんだし問題ないだろう。

「うん」

「レッツゴー、良い響き」

まあ、そんな挨拶をして私達は九層へ足を踏み入れた。

著しくって言っても、少しは影響も残っているらしく(九層から十層はほとんど問題無く、二層から一層はかなり影響が残っているらしい)なんか体が重くなったのを感じた。

怠いみたいな、ベストコンディションから程遠いけど、問題無く動ける程度。

時間が進むにつれ、この影響は減っていくらしい。

九層は、青空が見えた、そして寒い

凹凸状の地形で、十層のチリが積もった山じゃなくて本物の山に、白い雪がコーティングされてある。

雪、雪、雪。

十層が灰の世界なら、九層は雪の世界、下からはそんなものつゆも感じさせなかったけど。

青い空はホログラムだとは思えないくらいに遠く遠く見える。

このまま上へ上へ、第三宇宙速度で飛んでいけば、星の海へ入れるような。

黒文字さんがくれた鞄に本が入っていた。

(ここの描写必要、札束もそこから出すべきでは?)

早速広げてみる。

九層は、雪によって行動を制限されている。

しかし、資源はかなりあり、銀山、坑道など、危険はあるがリターンも大きいのがいくつもある。

なお、獣人がいることでも有名。

ざっとこんな感じか、何もないがある!って謳い文句の十層とは違い普通に色々あるらしい、九層がこれなら一層は魑魅魍魎が住まう火山地帯とかではなかろうか?

別にそれはそれで面白そうなんだけど…

「Jingle Bells♪Jingle Bells♪」と歌い出す死線譜、服は寒帯ようにフォームチェンジされている。

私の軍服はフォームチェンジできないので、自分の周囲の温度を一定に保つ魔法を行使する。

これ、リソース使うから嫌なんだよな。

具体的には1/3くらい。

この状態でさっきの戦闘に入ったらまず間違いなく負ける。

だからこの九層ではなるべく避ける方針でね。

「ジングルベルってどういう意味なの?」

と聞くと、死線譜は

「鈴が鳴る、雪の中」

と答えた。

なんにせよ、雪の音楽であることは間違いない。

場に合った歌を歌うのが彼女。

次の戦闘シーンは歌ってくれたら気分が乗るかもしれない。

「オーキドーキー」

そんな気の抜けた会話をしながら雪を歩く。

さて、鞄の中のラジオを取り出すと早速音声が流れてきた。

「領域さんだよー元気してる?私は元気じゃありまっせーん!」

とかなんとか景観ぶち壊しな音を垂れ流すラジオ。

聞き逃すといけないので音量を絞るわけにもいかず、シンとした雪原に異物混入中。

「さあて第1のミッションは!コチラァ!九層の見回りをせよ。」

…どう考えても領域さんの領分だと思うけど。

「まあね!いま私も最っ高に忙しいから、魔法使い的に言えばリソース?が足りないわけ!ってことで、頼んだぞ!」

はあ。

「ちなみに今週のアンラッキーカラーは赤!」

へえ。

「星座占い準拠だよ」

あ、そう。

「ねえ、君いつにも増してウザいとか思ってない!?」

実は。

「やっぱり!?」

このままだと生産性のない会話が延々と続くことになるので、できればそろそろ切り上げたいと思ってる。

「分かった、分かった。それじゃあ最後に」

領域さんは大切なことは最後に言う主義だ、聞き逃してはいけない。

「アンラッキーカラーの赤はジョークだ。」

ラジオを切って、鞄の中にしまう。

赤って言ったら、そりゃまあピンとくるものがある。

古本屋敷のバベル崩壊から惑星崩壊の間の世界に、そんな風に言われている連邦があった。

そして最後のジョークって言葉…まあ大体見当はついた。

これに関しては推測の域は出ないし、間違っていても修正は効くんだけど。

「*******」

死線譜は歌を歌う、巻き舌で歌っている曲名は知らないけれど、今歌うべきだと思ったから歌っているのだろう。

雪に足跡をつける、俯瞰してみたならば、影によって灰色になっていることだろう。

深く深く、踏みしめる、私がここに来たことの証明となれ。

第二話

蜃気楼のようにぼやけてはいるけれど、家が見えた。

オレンジ色に光ってるそれを見て私はほっとした。

あれから数時間、颯爽と飛行していたのもつかの間、吹雪に見舞われ徒歩を余儀なくされた。

十層なら、どこもかしこも平地常温なので、てきとうに廃屋でも拝借するところだが、今回はそうもいかない。

寝たら死ぬぞー!とかなんとか黒文字さんガイドブックに書いてあった。

魔力防御をしていても、結構危ないらしい。

ピクニックはここで終了、ここからはサバイバルのお時間だ。

ここ数時間、人間はおろか生物も見ていない、たまに氷に包まれた森林を見かけるけど死んでいるような森だった。

そんな折、見えた家に入らない手はない。

私たちは、そこへ向かうことに決めた。

「近くから見ると、小屋に煙突が付いた木造建築の家だった。

雪の重みで壊れそうな気もするけれど何か秘密があるのだろうか。

「入りましょう、今」

死線譜がいつになく急かすので、急いでノックをする。

コンコンとドアを鳴らすが、返事はない。

「入りなさい、今」

誰もいないのならなぜ明かりがついているのだろうか、と思いながら入る。

中は真っ赤に彩られていた、一瞬血だと思ったけれど錯覚のようで、なかには私の膝くらいまでしかない人間のようななにかが忙しなく動き回っている。

赤や緑の、服を着て、帽子をつけている。

しかし私たちに気づいたようで、動きを止め近づいてきた。

いまいち状況が掴めない私、をジロリと見た後、途端に笑顔のなり

「メリークリスマス!ようこそ客人様、ぜひ私達と共に聖なる夜を祝おうじゃありませんか!」

と言ってきた。

クリスマス…聞いたことがある、年の終わりに祝われる行事、日にちどころか季節も外れて…いや、ここはずっと冬か。

「そう、ここはずっとクリスマスですよ、永遠に。誰の邪魔は入らない、すべてから隔絶された領域の外側。」

「祝いましょう、踊りましょう、七面鳥を食らいましょう」

帽子を脱ぎ、少し微笑む。

それが合図だったかのように、パーティーは始まった。

私はパーティなんてものには一度も参加したことがなかったし、ここを出ていく先もないからという軽い気持ちだ。

パーティは楽しかった、クラッカーには驚いたけれど、食事は美味しかったし、プレゼントも貰った。

死線譜は歌を歌い、小人は囃す、私も彼らとともに手拍子を打った。

そんな時間も終わり、暖炉でうつらうつらしていると、急に外が騒がしくなった。

小人が私の顔に近づいてきて、囁く。

「悪魔がここを通っています、どうかこのまま」

私が頷くとしかめ面のまま六人の小人のもとへ戻っていった。

途中トタトタと戻ってきて、毛布を掛けてくれたのが無性に嬉しくて幸福感を持ったまま眠った。

目が覚めると、やっぱり部屋は真っ赤に彩られていた。

今度は錯覚じゃなく血で装飾されている。

死線譜がそばに立っていた。

「倒したよ、敵を、小人が」

小人六人が全てが全て別々の方法で殺されている。

斬殺、刺殺、撲殺、爆殺、絞殺、焼殺。

全て惨殺、残った一人は、部屋の隅に蹲っていた。

しかし私が起きたことに気づくと、近づいてきてこう言った。

「本来なら、私たちは皆殺しにされていたところなのですが、死線譜様が私達と共に戦って下さり、なんとか倒すことができました。」

悪魔と戦ったのか?

「はい、倒すとジュッという音とともに消えました」

私が起きていたら、別の結末になっていたかもしれない。

「いいえ、小人は人間が眠っている間にしか十分な力を出すことができないのです、なのでこれが最善だったのでしょう」

そう言って小人は笑った。

その小人が着ている服は赤、死線譜が言うにはサンタクロースの服らしい。

十層なんて、いつもどっかで誰かが死んでいるから知り合いなんてまともに作らない主義だったが油断した。

九層もそうなのか、分かった分かった、次から気をつける。

「それで、今後のことなのですが…。」

と小人が言い出す。

私達は、このまま九層異変探索を続けるつもりだけど。

「付いてく?」

と聞いてみると、小人は顔を輝かせた。

小人は仲間になりそうにこちらを見ていたので誘ったら一発okだった。

「私の名前は、エカルラートでございます」

よろしく。

「私は「いえ、必要ございません」」

と私の言葉を遮るエカルラート。

「小人は主人の名前を覚えております。」

何故かいつの間にか主人認定されていた。

「それなら」

行きましょう。

小人は雪の精だと言う、吹雪の予測はできるし、眠ってる間は私達を暖めてくれるらしい。

村の一つでも探したいところだが、それなら方向が逆らしい。

そりゃ九層と十層の運搬路が必要だからまずそこを探すべきだったのだが、初手で間違えたらしい、地図の見方は分からないこともないけど羅針盤はずっとグルグル回ってる。

何故だ。

じゃあ、次のスロープの方まで行こうかと言う話になった。

「小人はそれをオススメしませんがね、堅実に行くのが最速でございます。」

まあ、分かってるんだけどね。

恐らく、見える道の異変は私以外の誰かが解決してくれるだろう。

そこら辺領域さんは抜かりないから、そういった特殊部隊も抱えてるだろうし。

なのでこのまま征くが吉。

「なるほど、ではそのように」

と、すっかり事情を理解した小人さん。

言うべきかどうか迷ったけど、死線譜は小人は良い奴と言っていたし問題ないんじゃないかなって思ってる。

いや…そもそも小人の戦闘力を侮っているっていうのが1番だろう。

2日後、そろそろ食糧が尽きるぞとヒヤヒヤしている頃街が見えた。

「城郭都市?」

壁が数メートルもあろうか…

それが連なっている。

なんのためだろうか?

「城郭都市カタリナの壁は魔除けの加護がありまして、城内外の魔力が阻害されます、我らが"聖なる家"と同じ規模までは行きませんがね」

領域さんからの連絡は一方通行なので、できればこういった所は避けたいが…うーん。

「もちろん私は、入らないのも有りだと思いますがね」

まあ、とは言っても普通の街だ、そうそう乱痴気騒ぎが始まることはないだろう。

「入るよ」

小人は無表情のまま、左様で、と言った。

街は煉瓦造りが大半を占め、雪の重みに耐えるよう急斜面の屋根が付いていた。

街には活気があり、世にも珍しいという獣人を始め、いかにも金持ちそうな貴族に、獣の肉を携えた狩人。

街の色は茶色と白、たまに見える緑色の植物は街に水々しさを出している。

「私が尋ねましょう」

君は小人でしょ、置物のフリでもしてなよ。

「あ…確かにそうですね」

運が良かったのか通行人は小人には気が付いてない模様、鞄の中から顔を覗かせる形にエカルラートは収まる。

途中、魔法屋があった。

そういった店があると聞いたことがあるが入ったことはないので入ってみる。

中は雑貨屋みたいな感じで練金道具とか空き瓶とかの色々なものがあった。

そのなかで一番目に付いた魔力ポーションを買う。

「毎度」

と気の良さそうな老魔女は言った。

「この辺の宿屋を教えて欲しい」

と聞くと皺くちゃな顔を思案げにする。

「そうさね、ダンツィヒ通りに一軒、メーメル広場に行けば一軒、どちらも見れば分かると思うよ」

礼を言って店を出る。

ああ、そうそう、安さも大切。

と、一度出た店を引き返し聞いてみる。

すると

「客でもないのに教えるかね?ポーションの一つでも買いなさい」

と、先ほどと同じ老魔女が言った。

言われた通りに、ポーションを買う。

本日二つ目、ダンツィヒ通りの方が安いよと言われ、そちらに向かうことにした。

すると死線譜が

「繰り返し、同じこと、同じ音」

まあ、確かに同じ事を二回繰り返したみたいだね。

「いいえ、同じよ」

私にはそれだけじゃ、よく分からないよ。

「老魔女は歳をとらない」

うーん。

「歳をとらない?」

死線譜は傾く。

「いや、違うわ、アレは歳をとれない」

時間が止まる呪いがかけられているのだろうか、大人になれない呪いって聞いたことがある。

それを老女にかけても何の意味があるのか。

考えても仕方がない、一期一会よ2度と会うことはないだろう。

途中街の地図を入手した、メーメル広場を中心とした街らしい、城郭都市にありがちな円形、上から見るとまるで町が車輪のように見える。

ここからダンツィヒに着くには、壁に沿うように回るべきか…

と、迷いつつもダンツィヒ通りに着く。

ここもここで賑やかだ、宿屋はただ泊まるだけの場所で、食事は下の階だと、受付の大男が言っていた。

食事は大味ながらも美味しかった。

今日はこれでお休み。

朝起きると宿屋の天井、ぼーっと見てると面白いことに気づいた。

模様が無限ループしているのだ、コピー&ペーストを何度も繰り返したような感じ、木の壁紙だろうと触ってみると、しっかりした触感の木である。

流石に疑問符が頭の上へ出る、死線譜はベッドの上で寝そべり楽譜を書いていた、違和感はない。

「ねえ」

そう呼びかけると、死線譜は私に向いた。

「この場所…おかしい?」

そう聞くと死線譜は、答える。

「眠り姫の容量は世界を十分に作れない、赤いリンゴはツギハギ、張りぼて、そのばしのぎ」

そうか…そうだ、それ以外ありえない

小人はいない、しかし

「エカルラート戻って」

と呼びかけると今までそこに居なかった筈なのに、まるでずっとそこに居たかのように、赤い小人、エカルラートは出現した。

「何が目的?」

エカルラートは口を開く。

「この世界は、主人様がお分かりになられたように、空想の世界でございます。悪魔が死に聖なる家に力が集まり、あなたが眠った、それで世界を作ることができたのです。いえ、目的の話ですね。現在、聖なる家の外は主人様が知っている通り歪んでおります。並の人間では、生き残ることさえ難しいでしょう、それも十層の人間となると、いかに魔力持ちとは言え不可能です。なので、それが終わるまで領域の外に隔離したかった。

ねえ、主人様、ここに残りませんか、なんなら今から望む世界に書き換えても構いません」

「どうしてそこまで?」

あったばかりの人間に?

「それは…」

急に口を閉ざす、それは言いたくないというより、言ってはいけないような感じだ。

「答えて、エカルラート」

小人は私の命令に従う義務がある、なぜかそんな気がした。

「小人は…それを答えるわけには行けません」

歯を食いしばるような言い方、精神的に過度な圧迫感を感じているのか?

正式に契約したわけでもないのに?

「じゃあいい」

そう言うとエカルラートは溜息をつく。

すると今まで傍観していた死線譜がベッドから起き上がる。

そのまま小人の頭をつかみ、グイっと持ち上げる。

何をしだすのかと思えば

「王子のキスなど必要ないわ」

それだけ言って、手を放す。

エカルラートが地に落ちた瞬間、私は眠りから目を…覚ました。

目を覚ますと、暖炉の火がちょうどふっと消えた。

六人の小人は跡形もなく消え、エカルラートだけがその場にいた。

テーブルの上には熱い紅茶が湯気を立てていたし、おいしそうな食事の残り香が鼻腔を突く。

「戻ってきたの?」

毛布を取り、体を起き上がらせながら聞く。

「ええ、まあ」

とエカルラートは、声を出す。

死線譜は仰向けに寝転がったまま言う。

「人の夢は儚いものよ、壊れやすいものよ」

うん、ちゃんと分ってる。

それでも…たとえ壊れてしまうものだとしても

「夢を見させてくれてありがとう」

だなんてそんなことを思ったり。

「エカルラート、君は付いてくる?」

エカルラートは破顔した。

第三話

その後、領域さんから連絡が届き、八層に向かってほしいと言ってきた。

そんなわけで九層を歩く、途中鉱山で栄えた町に入ったが、まるで鉱物のように固いパンを食べ、同じように硬いベッドで眠っただけだから特筆すべきことはない。

切った張ったも特にないまま、八層のスロープ前まで来ることができた。

スロープは驚くことに、ベルトコンベヤーのように動いていた。

これに乗れば着くのだろうか、スロープには金や銀とか、九層でとれたものを十層でかこうしてされに九層で仕上げられた者たちが運ばれていく、その列に並び上へ行こうとする、私達を見ても何も話しかけてこないのは明らかに上の階層の服を纏った死線譜と軍服を着た私が見慣れぬものだからだろう、とは言え貴族の服のようなものを死線譜が来ているから金の気配を感じたのか商人のような男が声をかけてくる。

まず間違いなく、裕福。

白い服に金銀のネックレス、固められた髪に、張り付いた笑顔。

支配階級に搾取される六層以下ではないことは確かだろう、周りに警護の人間がいないことはこの人間自体に戦闘能力があるのか…。

「何でしょう、私に」

と死線譜は応える。

まさに好機とばかりにセールスを始める男、死線譜は興味を無くす。

しかし諦めない商人、こんな下まで両親の目を盗んで来たのかとか言い出す。

私も彼女がどこから来たのか非常に気になるが、おそらく両親云々はいないだろう。

異分子生物は、無から生み出されるって話を聞いたことがある、領域さんに聞いても答えてくれないし、黒文字さんに至っては巷で有力な説をいくつか述べただけ、惑星崩壊以前にはいなかったことは確かだろうから、宇宙生命体なのかな?

「ところでこちらの方は?」

と商人が言う、私は物の目利きなどできないから話しかけてきても無駄だよ。

「親友よ」

と今まで商人が何を話しかけても、まともに答えなかった死線譜が言う。

「ほうほう、私、カネール商店を経営しております、カネールと申します。初めまして」

カネールさん、聞いたことがあるような気もする。

「初めまして」

でもあれだ、魔法関係の商品があれば買ってもいいよ。

「はあ、判定水晶ならございますが…それ以外は本店に戻るしか…」

良いじゃない、それ、十層への土産に丁度いい。

「一つください」

と言うと商人は、背負っていた荷物から水晶を取り出す。

「100レイでございます」

普段なら払えないような額だが、黒文字さんからもらった額に比べれば微々たるもの、鞄から取り出しカネールさんに渡す。

「はい、丁度」

うん、と水晶をもらうと眩いばかりの光が飛び出す。

「っと」

慌てて鞄に入れる。

「お客様…今のは…?」

とカネールさんは真剣な顔をして聞く。

何って魔力持ちの証明じゃないのか?

「はい、そうですが光が大きすぎます」

それはそちらの企業努力でどうにかしなよ。

「そういう意味ではなく…普通はあんな光は出しません…いや…まさか貴方は…」

とかぶつぶつ呟くカネールさん、私は十層の一般人だからたいそうな人間じゃないよって言おうと思ったが勘違いさせておいても問題ないだろう。

間もなく、スロープは終端に向かい、カネールさんとは別れた。

小人がひょっこり顔を出して言う。

「主人様、眩しいのですが」

そうだったね、君も同じ魔力持ちだ。

鞄の中から白い光が漏れだした。

結局水晶は、死線譜が体内に取り込んでしまった。

それなら他の荷物も持ってもらおうかと思ったが、キャパシー的にこれ以上は入らないといわれ断念する、水晶一個分ね、覚えた。

あれ?これ小人はいるんじゃない?

「後生ですから」

とエカルラートは必死に懇願する。

もしかしたら居心地は良いかもしれないし、一度は行ってみたらどう?

「いえ、その、小人は死線譜様の体内は…」

まあいいや。

スロープが最後の直線を上る、景色が見えてきた。

そこは…上も下も青に染まった、海の階層だった。

島は一つもなく、海上都市が大半を占める、人が住むには不向きだろうが、海産物は非常によく取れ、食料には困らない。

勿論それだけでは栄養不足なので、海上で農業が行われたり、上の階層から運び込まれたりする。

移動は基本船、渡橋のようなものは無く、船がないなら泳いで渡ればいいじゃないと貧民をあざ笑う。

スロープから出た人たちを迎えるが大勢待っていたが、もちろん私達を待つ人はいない。

完全に海の孤島に取り残された感じ。

「船を買おう」

と思ったが、ここで買うのは非常に割高になっていた、足元見やがって。

そのアロハシャツの腹と背中に穴をあけてやろうか?

とか捨て台詞を考えるくらいにはムカつくやつらだった。

もういっそ飛んでしまおう、制空権を取ってしまえ、今は空母の時代だ。

死線譜は泳ぐらしい、私は泳げるかどうか分からない…というかこんな大量の水を見たことがない、まあでもこれで水分補給は必要ないね。

「いいえ、海の水は飲んではいけません」

そうなのか、毒でも入っているのか?

だからここの奴らは毒舌なのか?

「いいえ、毒は入っていません、まあ、飲んでみればわかると思います」

飲んでみると塩の味がした。

ペッと吐き出すが、喉の違和感はぬぐえない。

実際体験してみればわかるということか…。

「しかし主人様はアロハシャツのことは知っているのに海水のことは知らないのですね」

うん?まあ、古本屋敷で得られる知識はよく分からないものばっかりだからね。

「はあ、そういうものですか」

そういうもの、古本屋敷だって例にもれずジャンクの塊さ。

「ははあ、そうですか」

と頷くエカルラート、よく分からないところで納得するのな。

それでは飛びましょう。

Sky Nostrum、我らが空、Mare Nostrum、我らが海。

青と白の空、全て青の海、燦燦と光は放たれ私の肌に浴びさせる、

常夏の八階層、颯爽と翔ける潮騒が聞こえる、風を切るのが気持ちい、ふと思い立ち、最高速で海面すれすれを飛行する、足が海に少し触れると真っ白な水が空へ上がった。

死線譜は相変わらず、とてつもないスピードで海を泳いでいる、彼女が鉄でできていたのならレーダーが魚雷だと報告するだろう。

どこまで進んでも海、地平線は遠くに見える。

しかし海の上に町が浮かんでいるのを見つけた、七層スロープと九層スロープの中間地点だと思われる。

羅針盤は正常になっていた。

八層がこういった所だから、羅針盤も張り切りだしたのかもしれない。

というか魔力切れっていうのを起こしたことがないからよく分からないのだけど、ほっとくと私も海を泳ぐことになるだろう、あるいは死線譜に乗るか…。

いや、情けなさすぎる。

そもそも泳ぐことができるのだろうか…。私は魚でも魚雷でもない。

しかし、そんなことはせずに済みそうで良かった。

到着すると奇異の目で見られた、空を飛ぶのは不味かったのだろうか。

「いや、どちらかと言うと死線譜様が…」

とエカルラートが小声で鞄から答える。

そうか、あの速度は異常だと思っていた。

このままだと人間走る速度よりも泳ぐ速度のほうが速いんじゃないかと勘違いするところだった。

かろうじて浅瀬というところに木を打ち込まれてできた都市の名はグラド、都市というだけそれなりの規模はあるが人口は一万人にも満たない。

しかし非常に珍しいことに自治領であり民主主義最後の砦だとかなんだとか、その実態は上が行政を放棄したので仕方なく皆さん意見を頂戴ということらしい。

行政を放棄するということは何事だと思う人もいるかもしれないが仕方がない、ここは移動するには最も時間がかかる場所なのだ。

例えば七層から九層に行くには快速ボートで行くことができる、勿論運搬が主を占め一般人は乗ることができないが。

ならそれを使ってここに来ればいいと思うが、快速ボートでそこを通るのは割に合わない、郵便とかも届かない、電報ならと考えてみるがそもそも一万人弱の島である、経済的にも全く必要ないということで。

自治領となった、ちゃんとグラド自治領と地図に載っている。

主に漁業、海上農業が行われている。

なんでも特定の魚からは魔力石が取れ土に混ぜると、塩害祭りの土地でも植物が育つのだとか。

富裕層からは、権力から離れたリゾートとして有名、そのまま定住したりする人もいるらしい。

「で、物が高い」

街をあちらこちら回っているうちについ声が出た。

守銭奴になったつもりはないのだが、物価が高すぎる。

「そもそも、物流というものがほとんど存在しませんし…。その癖観光にはうってつけの環境ですので」

とエカルラートはすっかり腹話術を極めたらしく人形のふりをしながら言う。

まあ、確かにここは穏やかだ、なんかそこら辺に生えている木から採れる実を吸うと甘いらしい、それを吸いながら一日中日に向かって眠っていたらどれだけ気持ちの良いことか。

「この品々はどこから?」

と聞く、全く存在しないわけではないのだ。

「はい、ここに来られる方の大半は金持ちでその方々が来るときに商人が持ってきたり、あるいは行政監査の時に一気に持ってきたり…。」

なるほど、しかしそれしか持ってくる事がないのか、これは商売になりそう。

私なら空輸できるだろうし、魔法ですいすいっと。

私が将来設計を立てている内に最後まで見終わる。

「どうしますか主人様」

そうだね。

「ここにいる必要もないだろうし暗くなる前に出発しようか。」

途轍もなく居心地が良いのは確かなんだけどね。

任務的にはここに滞在する意味は一切ないしとっとと出よう、今度私が来る頃にはもっと便利になってろよグラド!

死線譜はルーズな南の国の歌を歌っている。

リメンバーグラドってねえ。

忘れないよ、案外記憶力はいいのさ。

夕方になって、真っ赤な空を見ながら飛ぶ、そろそろ夜だが次の街は見えない。

地図的にはもう着いてもおかしくないが。

「もしかしたら流されてしまったのかもしれませんね、もしくは沈んだか」

ありそうな話に気分は沈む、太陽も沈む、タイムリミットはあとわずか…。

ここを逃したら、七層のスロープ付近まで町とか無いんだよ。

このまま飛行し続けるかと諦めた時にラジオが入る。

「やっほー!元気してる!?してない?あらそう、もしかしてもしかすると探してた街が沈んでたとか!?えー!そいつは驚きだ!しかし安心して☆そちらの座標は分かってる、領域さんの力とくとご覧あれ。」

そう言い終わると、突如船が出現する。

割とちゃんとした船がでてきた、領域さんのことだから規格外の大きさのものを出現させるのかと思っていたが違うらしい。

「もっと大きな船が良かったんだけどね、いわゆるホテルって言われている軍艦とか…具体名を上げると大和とか那智とかなんだけどさ!でも操縦するの無理だろ?面舵いっぱい振るだけじゃいけないからね!?」

私にはこの定員数人の船だって動かすことは難しいだろうし、動く旅館なんて動かせっこない、若女将が炊事洗濯の間に二十センチ砲を撃つことなんてまずしないだろう。

「じゃあ、ランプの魔人はさっさと退散しましょうか、アスタラビスタ!」

地獄落ちするんなら、悪魔と取引して三つ願いを叶えて貰った方がいくばくかましな気もするけれどね。

具体的には初めての船の動かし方って説明書と保険が欲しかった。

保険って起源をたどれば船専用だし。

ふわりと足を船につける、アクセルとハンドルさえあれば十分だ、他は何もいらないと言わんばかりの運転席に惚れ惚れした。

「小人は船の操縦はできますが」

その身長でどうするつもり?

「主人様がお眠りになれば、そんなことは些細な事です」

そうじゃあ寝るよ。

死線譜はこういったこと苦手そうだし、ここはエカルラートに任せるが吉だろう。

おやすみなさい。

日差しとともに目を覚ます、揺り篭は眠りにはちょうど良かった。

死線譜は、デッキに出て髪をたなびかせた。

「おはよう、死線譜」

と声をかけると死線譜は

「ゆらゆら、くらくら、世界は回る」

何それ?と思うと運転席から小人がハンドルにしがみつきながら私に答えを提示した。

「酔ったのですよ、彼女は。それと、大変申し訳ないのですが、助けてはくれませんか」

起きた瞬間に、エカルラートは無様な姿に。

なんとまあ悲しいお話だ。

小人を地面に下ろす、運転席付近にあった錨マークのついた帽子をかぶり、白い服を身に着ける。

一速、二速、三速、どんどん上げていく。二十五ノットくらいが最高速?

昨日は気づかなかったが、舵の左に魔力注入機が置いてあった、魔力制御とはなんて素晴らしい、これで燃料の問題は無くなった。

船籍は、非常に安いところがいいな。

「すべて同じですよ」

そうだった。

一世界一国家である。

魔力制御なら食糧さえあれば幾らでも航行できそうだ。

しかし、このエネルギーはどこから来ているのだろうか。

有力な説はあるもののどれも証明には至っていない。

そもそも惑星崩壊以前には存在はみとめられなかったものだ、不思議パワーのままで良いような気もするが気になってしまうのが人の性。

「一層住人は知っているらしいですがね」

聞いたことある、支配を続けるために一層の人間は秘匿しているのだとか、噂話だが一層の人間が非常に魔法に長けているところを見るとあながち間違いのでは無いのかも知れない。

いい加減海ばっかで飽きてきそうなとき釣り道具を見つけた、疑似餌なので話に聞く謎の幼虫やピンクのミンチ状のものは必要ないらしい。

ほい。

入れてはみるがなかなか釣れない、下に垂れさせるだけではいけないのだろうか。

「主人様、投げるのですよ」

ほう。

四苦八苦していると急に餌が飛ぶようになった、餌が飛ぶようになると魚がかかった感触が来る、びくびくと釣り竿が揺れた。

なんだ、結構簡単じゃない!

その後、計三匹釣り上げテーブルの上には焼き魚が上がった。

その日の夕方には次の都市に着いた。

なんか、石造りでしっかりとしている。

人口は十万人。

スロープに近いし、最高の立地だ。

勿論物流もしっかりしているし物価も高くない、惜しいのは忙しない人が多いことか。

グラドは待てど暮らせど帰りの便はやって来ないようなところなので、クローズドサークルとしてミステリーの舞台にはなれどハイテンポスクールコメディの舞台にはならない。

学校無いもの。

しかし、この場所カイロにはちゃんとある。

学校のグレードはいくつまであるのか知らないけど、勉学に熱心の生徒なら心行くまで勉強することができるだろう。

「学園に興味が?」

まあね。

「行ってみたらどうです?」

「またいつかね」

左様でと、どっちでも良かったみたいなのかエカルラートは話題を終わらせた。

八層最大の都市カイロ、カイロ無くして八層と言わず、カイロがなければただの海じゃないとまで言わしめる場所。

上層の人間が直接支配をするために、カイロに住むことが多いのだが、いくら何でも人口に対して貴族が多すぎるとたびたび話題になったりする。

そんな場所だが、領域さんから情報が入り、カイロに階層旅団が紛れ込んでいると言う。

表に出てきたら武力を持って鎮圧せよとのこと、滞在期間は一週間。

「まあ、要するにバカンスってわけでございますね。」

命を懸けたバカンスだけど。

街を探索しよう。

石造りとは言え、白で塗られている建物群。

風車のようなものや水車のような物がある。

どういった原理なのかは知らないけれど、街に流れている水路は淡水だそう。

あと鳥をよく見かけるのはなぜか。

売店でアロハシャツを売っていたので買い、着替える。

サングラス着用、サンダル装備。

他に必要なものは、花の入ったジュースとか?

「要するにバカンスってわけでございますね。」

まあ、こんなところでドンパチやるのも馬鹿らしい。

政治的な活動を行ったところでだれも見向きもしないだろう。

まあまあそんな堅苦しいこと言わずに遊ぼうぜって感じだ。

一週間が過ぎた、ダイジェスト形式でお伝えしよう。

一日目は、島(便宜的にそういう)を探索。

こんな狭い島一日もあれば回れるだろうと思ったのも過去の話、狭い分凝縮されているんだね。

二日目、島の少年少女とお知り合いになった、なんか崖から落とされたの一瞬死ぬかと思った、私には泳ぎの才能は無かったらしい。

死線譜さん、助けてくれてありがとう。

浮き輪、あれはいいものだ。

三日目、昨日の疲れを癒すため午前はずっとビーチで眠ったり砂の城を作ったりした。

午後もなんかまあいいやって感じでごろごろしていた、夜に火を噴くショーを見たが良かった。

…いや、ただの観光日記になってしまいそうだ、やめよう。

階層旅団の情報が一つ手に入ったので記しておこう。

二日くらい、そういった活動が行われたそうなのだがそれ以降は見られなかったらしい、彼らも平和に目覚めたのかもしれない。

それともう一つ、領域さんから木箱が送られてきた。

開くと、小さな機械がいくつか、魔力妨害装置らしく島にばら撒いて来てと言われた。

何かを救ったらしい。

死線譜は、ウクレレ片手に歌を歌い小銭稼ぎをしていた、何をするのかと思ったら最後の日にミサンガと帽子と謎の置物をくれた。

無茶苦茶嬉しかった、今度何かをプレゼントしよう。

一応こんなところでカイロは終了、スロープはリフト式になっていた。

どんどん進化していくな。

名残惜しい、海を見つめたが、前を見るべきだと思い直し、上を見上げる。

四話

七層は、砂漠が大半を占める、オアシスがいくつ、山がいくつか。

多くは遊牧民が住み、羊やらラクダやらが飼育されている。

高地には草原があり、牛等がそこで飼育されているらしい。

あとここは非常に争いが絶えないらしく、日々人が死んでいるらしい。

新型武器の展示場なんて言われていたりもする。

しかし、七層の住人は無茶苦茶身体能力が高いらしく、七層の人間なら、一層の人間がフルにエンチャントを自分の体に施したとしても勝てるという話だ。

勿論七層限定だが、今ならそういうわけでもなく下克上を遂行することが可能だろう。

資源は九層よりも乏しいのに、七階層にあるのはそういったことが関係しているだろう。

ここまで読んでくださった方、お疲れさまでした。

次の話の投稿は考えておりませんがコメで要望があったらエンドまで持ってくかもしれません。

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