異世界転生
「おっきたきた」
翔が瞼を開けると、真っ暗で、何も見えない空間にいた。
………ただ、前にいる一人の不思議な少女を除いて。
「君は?」
翔は、状況がよくのみこめず、とりあえず少女に質問する。
「見てわかんな〜い?」
少女は、くるりと回転する。
「………」
「女神だよ女神!」
少女は、翔の顔ギリギリまで詰め寄り、怒ったような態度を見せる。
「あー、見えなくはない……かな?」
少女は、青髪で、その髪は地面につくぐらいまで伸びている。
顔立ちは端正だが、どこか幼い感じで、翔の想像していた女神とはかけ離れていた。
しかし、そんな彼女にも、女神らしいところが一つある。
それは、彼女が纏っている羽衣だ。
その羽衣は、とても神々しく輝いていて、不思議と見とれてしまうものだった。
翔がそんなことを思いながら羽衣を見ていると、それに気付いた少女は、いきなり声を低くする。
「おー兄ちゃんこれが気になんのかい?ハッハッハこれは出て行った妻の形見でな……俺の名前はガイルだ、よろしくな」
「誰だよ⁉︎つか、余計な重い設定つけてんじゃねーよ!」
その後もよくわからないことを言う少女をよそに、翔は、適当な相槌を打ちながら、今の状況を整理する。
自分がトラックにはねられ、その後、自称女神の前にいる。
これは、状況から察するに、翔は死に、その案内役が、この前の少女──もとい女神だということだろう。
そう考えた翔は、改めて前の女神にきいてみる。
「俺は死んだのか?」
「ええ」
「俺はこの後どうなる?新しく生まれ変わるとか?」
それをきいた瞬間、女神は、神妙な面持ちに変わり、こう答える。
「いいえ、あなたにはガイルとその奥さんとの関係を修復するために異世界に行ってもらうわ」
「真顔で変な事言ってんじゃねー!異世界に行くなら普通魔王を倒すとかだろ!」
「あら、そんなに倒したいなら勝手にするといいわ」
「い、いや別に本気で言ったわけじゃ……」
「じゃあ夫婦関係修復しに行く?」
「魔王倒させてもらいます……ん?待て?こういうのって任意で行くもんじゃ…?」
すると、女神はスマホを取り出し、録音していたらしい翔の声──「魔王倒させてもらいます」の部分を流した。
なんで女神がスマホ持ってんだとか色々聞きたかった翔だか、相手は女神。何を持っていてもおかしくない。
「言質は とったわよ?」
翔は顔を顰める。
「くっ…ハメやがったな?」
「あら、人聞きの悪い。私は女神よ?そんなことする訳ないじゃない」
「いや、してたけどな」
そう言いながら翔は女神をじっと睨む。
「何よ……」
「いや、女神ってロリっ子だったんだなぁと」
「………」
たった二人しかいない真っ暗な空間に、しばしの沈黙が流れる。
「じゃあ〜早速飛ばすわよー?」
「ちょちょちょ!」
「何よ?」
「まだ心の準備が…」
「あら、そんなこと、じゃ、ぶっ飛ばすわよ〜」
「そんなことじゃねぇよ!しかも、お前それニュアンスちげーだろ!」
翔は、女神の態度に激昂する。
そんな様子の翔を見て女神は呆れたように言う。
「あんたねぇ〜これから異世界行くのよ。心の準備なんていつまで立ってもできるわけないじゃない」
「まあ、、そうだけど」
「じゃあかっ飛ばすわよ〜」
「野球選手かお前は⁉︎」
「じゃあぶった斬るわよ〜」
「もはや原型もねぇな!」
女神のその掛け声とともに、翔の身体は半分にぶった切られた──ということは流石になく、翔の身体はまだ見ぬ異世界へと飛ばされた──
その頃女神は──
「ふっふ〜あっちに着いたらあいつどんな顔すんのかしら?反応が楽しみだわ〜」
と、楽しげに口元を歪めるのであった。