一章 紅の中に
「へ〜くしゅっ」
フラグを回収すべく、翔は、いつもよりむずむずしたくしゃみをした。
「大丈夫?風邪?」
と、お約束通りの──いや、デジャブ感があったから、このくだりなかったことにしてください。
「大丈夫、大丈夫」
そもそも、一度くしゃみしただけで風邪をひいていたら、健康な日の方が少ない。
翔は、声をかけてくれた母を一瞥すると、いつものように朝食の席に着いた。
龍崎家では、毎日全員揃ってご飯を食べるルールで、朝食もその例外ではない。
母が席に着くと同時に、特に誰かが音頭をとるわけでもなく、各々のペースで料理を口に運ぶ。
「翔、今日学校休みでしょ?何すんの?」
左手に茶碗を持ちながら、そんなことを聞いてくる母に、翔は特に用事はないことを伝える。
その後、誰も喋ることはなく、翔は、3人の中で一番早く席を立った。
新聞を読みながら難しい顔をしていた父も、残っていたコーヒーを飲み干すと、翔に続いて席を立った。
父は、いつもあまり喋ることはなく、あまりコミニュケーションを取らないのだが、いつも翔を一番に思ってくれる翔の自慢の父だ。
翔はその後、特に用事はないが、なんとなく着替えると、歯を磨き、再びリビングに戻ってソファに腰を下ろした。
なんとなく開いたニュース一覧の一つの記事が翔の興味を引く。
新作ゲーム発売の記事だ。
翔も、ゲームは結構する方で、その情報は既に知っていたが、発売日が今日だとは知らなかった。
翔は、母にゲームを買ってくると伝えると、財布とスマホだけを机の上から取り、玄関を開けた。
季節は夏、太陽の日差しが差し込む中、翔は最寄りのゲーム店へと向かう。
翔が何気なく歩いていると、青いボールが道路に向かって転がって行く。
ぼんやりしていた翔の意識は、刹那、後ろから飛び出してきた子供によって覚醒する。
子供の横からは、大きなトラックが直進している。
「危ない!」
とっさの判断で、道路に出て子供を突き飛ばした。
しかし、トラックは止まることなく、青いボールとともに、翔は大きくはねられる。
女性の悲鳴が聞こえたが、翔は最後に見なければいけないものをしっかりと判断する。
意識がかすれていく中、翔は、先ほどの子供の方に目を向ける。
子供は、膝を擦りむいていたそうにしているも、近くの大人に抱きかかえられていた。
翔は、大きな安堵を得る。
その安堵が原因で、翔の意識はさらに遠のいていく。
視界はどんどん狭くなっていき、次第に、瞼が開かなくなった。
遠のく意識の中、翔は、自分の両親と、友人を思い出すと、心の中で強く謝罪をし、それと同時に、一雫の涙が、紅に染まった翔の頰を伝った──