35 宝飾街と精霊王特権特訓
5/14 プロローグ追加しました。
ちょっと長いです。
(PVがなんか爆上がりしてて嬉しかったんです。調子乗りましたごめんなさい。)
(今回めちゃくちゃもふもふしい。)
『あるじどのの、ばかー』
『くろくん、主殿は』
『らい、きらい!』
『くろkrrrrrrrrr⁈』
これは夢だろうか。
広い広い空間に立つシーターはわぐるりと辺りを見回した。
頭上に広がるのは鉄と紫水玉で作られた夜空。足元に広がるのは凪いで鏡面のようになった紫水の水面。
そして、白蕾に理不尽な怒りをぶつける白露。
なんで、どうして。
意識せず漏れた言の葉を、うちの子達は聞き逃さなかった。森の深緑と草原の新緑が、過たずにシーターを捉える。
『はくろは、はつばき。じゅれいおうはくろだけど、しんだおおかみはつばき。はつばきは、あるじどのの。』
はたはたと白露が舞い降りる。
深緑の体は柔らかな光程度では黒に見えそうなものなのに、シーターの目にははっきりと森の緑に見えていた。
静かで冷たくて暗いけど、守られているようで落ち着く暗さ。それはきっと太古の巨樹にして精霊の最高位、樹霊王と呼ばれた精霊の本質が表出したものなのだろう。
『んなぁぁぁあうううう!!!!』
「はくっ⁈」
正直に言おう。見惚れていた。かつて無いほど精霊王っぽいというか、偉い精霊オーラを醸し出してたうちの子に見惚れていた。
そんなシーターの顔面にクリティカルヒットした白露は、わしっと頭と首筋に抱きついた。
『はくろははつばき!はつばきはあるじどのの!なのに、あるじどの、はつばきおいてった!なみたちについてった!んなぁぁぁうぅぅう!!!!!』
「ふがぅっ」
『主殿、少し付き合って下さいませんか?くろくんの本性は大樹、森に住まう生き物を守り育むモノ。主殿が一時とはいえ他の精霊の守護下に入ったことがどうにも受け入れられなかったのです。』
『うぅぅ…らい…』
なんか白蕾が大人みたいな喋り方してるし白露さんの胸元のふわふわがふわふわすぎて頭ふわふわしてきたし、白露さんの胸元の宝玉が冷たくてめちゃくちゃ気になるし、あの狼さんがどうなったのかしりたくてたまらないし、あれ、もしかしてもしかしなくてもさんけつになりかけ…
朦朧とした頭で思考を漂わせるシーターの体が、強く後ろに引かれた。
『何してるのですか!』
『樹霊の御方、契約者様の呼吸が止まってしまいます。』
『うにー…』
二頭の幻獣。本性が水だから正確には精霊だが、その2匹は白露や白蕾のように獣の形を取っていた。
シーターの闇衣を咥えて後ろに引いたのが丁寧な口調の少し青の濃い狼。白露の首元を咥えているのが少し敬語の崩れた、少し青の淡い狼。両者ともに先ほどの狼とは違って下半身も狼であり、魚的な要素はほとんど残っていない。強いて言うなら尾が水か。
「もしかして、ヨスナミとヒクナミ…?」
『人間風情が我が貰い名を呼ぶでないわ。我は稜明の亜神、浅海王。あるいは東水主ノ双剣が一振りであるぞ!』
『我は浅海王が片割れ深海王。東水主ノ双剣が一振りにございます。』
まろくなった珊瑚の角、海の…魚の色の薄い見た目。
浅海王と深海王が2柱で1つというのはやはり本当のことだろう。1人納得したシーターは改めて姿を現した二柱に向き直った。
「とりあえず、白露のこと下ろしてあげてくれる?うん、ありがと。」
改めて、初めまして。
2つに分かれたことで普通の狼サイズになった2柱に目を合わせるように膝を折る。
「ぼくは物語屋のシーター。樹霊王白露とその眷属、森馬の白蕾のあるじどのやってます。」
『んなぁぁ』
『私は白蕾、主人殿の騎獣をさせていただく予定です。くろくん…白露は瞳と、主人殿の守護を担当します。』
「え、ねえちょっといい?白蕾さんなんでそんな流暢」
先ほどから気になっていたところを突っ込む。
鳴き声を組み合わせて人の言葉を紡いでいるといった体であった言葉が、これほどスラスラと流れ出ていては流せるものも流せない。いや、流れてるわけだけど。
『ここは我の神域故、かつて同胞であった蕾の御方の記憶が残っていたのでしょう。』
「かつてのはらから…?」
ぼくの白露が樹霊王で、世界樹だったのは知っている。周りのみんなも言っていたし、白露自身も言っていたから間違いはない。
だが、白蕾もかつて名を持っていたことは誰も言っていなかった。
『人間、貴様そのことを知らずに御二方を使役しているというのか⁈』
『私の場合は押しかけでしたから。それに、特に名のある存在というわけでもないです。樹霊王のそばに侍っていただけで。』
それは名のある存在じゃなくてもそれなりの存在じゃないかな…?
何やら真面目そうな話をしているが、シーターから見れば馬と狼2匹と小豹が集まってもふもふしているだけだ。正直言って目の保養以外の何物でもない。
『なぁあう。いま、それはなすひつよーないー』
『契約者様』
白露の言葉に2匹が黙り、深海王が先だって口を開いた。体の深青に白い牙が眩しい。
『我が神域に来ていただいたのは2つの理由がございます。1つは我が三代目の主様として相応しいかどうかの査定。もう1つは、御身を呪詛よりお守りすること。』
「じゅそ…」
畳み掛けるように変わる状況に頭がついていけていない。立ち振舞こそ大人っぽくあれど、その実シーターはまだ12歳。独り立ちするような歳でもこんなに色々なことに巻き込まれるような歳でもない。
『御身のナカにある闇、御身の意識を捕らえて離さなず、時にはこちら側へと引きずり込む物のこと。』
身に覚えがあるのではないでしょうか。
淡々とした声に促され、シーターは機構仕掛けの夜空を見上げた。
あれか?フラッシュバック。心が限界を超えた時に強制的に意識を落とす癖がついていたとは思っていた。
ああいう時はいつも、昔のことを思い出す。
『喜べ人間。樹霊の御方は全てを覆い隠し閉じ込めるが、我ら海霊は全てを呑み込み封じるのが性。貴様が呪詛を受け入れられるようになるまで我の紫水が代替してやろう!』
『浅海王。人間ではなく契約者様。』
『ふん、このような小童人間で十分!して、時間がないので急がせてもらうが、そもそも精霊の特性は知っているか?』
呪詛のことは気にしないでいいらしい。
よく分からないなりに整理し、ヨスナ…浅海王の言葉に知識を引き出す。
「火土風水木空夜昼の8の魔法そのもので作られて、
攻撃に秀でるのが火の精霊
防御に秀でるのが土の精霊
速度に秀でるのが風の精霊
攻防に秀でるのが水の精霊
守護に秀でるのが木の精霊
殲滅に秀でるのが空の精霊
夜の精霊と昼の精霊はほとんど魔獣と聖獣に区分される、だったかな?」
『では攻撃、防御と攻防あるいは、防御と守護の違いは?』
立ち続けるのに疲れて腰を下ろす。背もたれのつもりか、後ろに寄り添ってくれた白蕾に甘えて寄りかからせてもらった。森の匂いがうっかりすれば思考停止しそうな脳を落ち着かせたくれた。
「攻撃は殴る、防御は耐える、攻防は殴ったり耐えたり…?守護は、他の何かを守る、かな?」
『大まかに言えばそうだがもう少しマシな言い方があるだろう!これだから人間は!要するに、火、土、風は単体に関する力。水は攻防の二種、治癒を使い分けて柔軟に守る力。木は強化、弱体化などを繰り返してひたすらに対象を守り続ける力。空は文字通り殲滅。わかったか?わかったな?』
パシパシと跳ねる水の尾。確か犬のそれは喜びを表すものだったはずだけど、浅海王は嬉しいのだろうか。
一々バカにしてくる割にはちゃんと説明してくれるし、深海王の説明を補うような話し方をする。
実はいい奴なのか…?
『おい人間!今何か無礼なことを考えただろう!』
「そんなまさかめっそうもない」
『兎に角、契約者様の使える力は比較的攻撃のできる木と、いずれ全てを退ける守護となる双葉のみ。故に我らが参じたのです。御身をお守りするために。次のぬしさまに成られるかどうかは別として、今はこの物語を生き抜いていただくために、御身には強くなっていただかなくてはなりませぬ。』
物語を生き抜くために、強く。
リュカにも言われたその言葉が浮ついていた気持ちを落ち着けた。
今の間にも、ルヴィは眠り続けている。火の一族は何か行動を起こしたりしていないだろうか、物語屋はどうしているだろうか。
ぐずぐずはしていられない。
「どうすればいい。ぼくは強くないりたい。ぼくが強くなれなくても、白露と白蕾をぼくを守ってもまだあまりあるくらいに。どうすればいい、浅海王、深海王。」
『『【水獣召喚】』』
シーターの問いに、二柱の精霊は笑った。
紫水が揺らめき、それが狼のシルエットを作りだす。
はるかに遠い水平線のその先にまで現れた万ほどもいそうな水狼に、ホバリングしていた白露も背もたれ代わりになっていた白蕾も警戒の眼差しで見回した。
『樹霊の御方は水狼を分解、蕾の御方は撃退、そして契約者様は逃げてください。簡単なことです、ここに満ちる水狼を全て海に返すだけの訓練。』
『くろくんはまだ力を取り戻していません、さすがにこの数は。』
『封印率が違いますゆえ、今は我らのほうが魔力量も使用できる魔法も多いでしょうが「まだ弱いから待ってくれ」など敵には通用しませぬ。ーそれでは、浅海王の水狼練武どうぞご堪能あれ。』
浅海王が、吼える。
低く、高く、独特な抑揚のそれが、紫水の世界に広がり。
『らい!』
『主殿、離れないでください!』
水狼が一斉にシーターたちに向かって牙を剥いた。
「《M Card》!」
まず襲いかかってきたのは4頭
シーターの後ろを白蕾、前を白露が警護する。
二頭の樹霊を警戒したのか、すぐに襲ってくることはなく周りをゆっくりと走り始めた。
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【魔具】
〈大樹霊ノ双葉 〉lv8
種 :草 水 土 夜
銘:【葉椿】ー白露
姿:深緑の瞳玉
銀沙の輝き
合成獣(豹の体、鳥の翼、馬の尾)
術:雛獣召喚 MP100(合成獣、眷属)
草木の知人MP50(草操作 極小)
創芽 MP10(草生成 MP吸収 極小)
技:草守護 自信を含む仲間の草系の術の効果を〈1+0.5×仲間の数〉倍アップする
稜明国で炎の精霊を喰らい、草、水、土の小精霊たちを守っていた精霊喰らいの守護樹霊。
旅の方々や、商いの方々、神まで喰らったため、時の大巫女が瞳玉に封じた。
3種の動物の混ぜられた合成獣の姿を取る。それらの動物はかつて大樹霊の友であった者たちの一部である。
また、かつて時の大巫女をまでをも苦しめた魔力を食らう植物を生成する能力が今ゆっくりと目覚めようとしている。
浅海王、深海王の助太刀をしたことがあり、二柱に慕われている。
従属:【七竃】ー白蕾 lv40
種:草 水 土
姿:森馬
術:草鞭 MP50 ×2(物理攻撃 背に蔦を生やし使役)
後ろ足蹴り MP20(物理攻撃 ノックバック付与)
飛び蹴り MP20(物理攻撃 ノックバック付与)
嘶き MP10 (味高揚、敵恐怖付与 50%)
技:従者の宣誓 上位精霊と共に戦う時ステ10%up
かつて稜明で、最初期に樹霊王に仕えた精霊の一柱。
仲間と共に敵の撃退を行っていた為、他の森馬よりも攻撃的な術を多く知る。
浅海王、深海王の助太刀にも参加。亜神、精霊王に多くの知り合いがおり、ほとんどから御方の継承付きで呼ばれる。
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視界に浮かび上がる輝く文字越しに、指示を出そうと声を張る。
「白露、草守護、白蕾、従者の宣誓!嘶き、からの創芽と草鞭!」
ー【草守護】我は草の王なりー連携ー【従者の宣誓】我は草の従者なりー大成功
ー【雷嘶】ー大成功ー恐慌付与
『KeRrrrrrrruuuuuuunnn!!!』
水狼の群れが揺れる。わかりやすく後ずさった4頭の後ろで、何匹かが共食いを始めた。恐慌付与の成果は意外にも大きい。
ー【創葉】【草鞭】×6ー大成功
『なぁぁう!!!』
『krrrrrrrrr!!お守りします、主人どの!!!』
草守護と従者の誓いの連動により、すべての術が本来の力を超えて行使される。
周囲10頭ほどが体内より萌え出た葉に食いつぶされて消え、白蕾の背から生えた6本の蔓の鞭がさらに追撃をかけて水狼たちを後退させる。
白露の創り出した木越しに狼達が寄り集まり始めた。
『『【水統治】ー我は水の王なり。平伏し崇めよ、猛りて吼えよ、その忠義を我に示せ』』
【水統治】ー二乗連動ー【水統治】
寄り集まっていた、その理由。
10頭の水狼が溶け混じり、巨狼となって身震いした。
万の軍勢が、強化されて千に。数こそ少なくなれど、その大きさは馬車ほど。喚び出した二柱よりも大きな水狼達が襲い来る。
先ほど水狼を喰らって生えた木は軽々と薙ぎ倒され、創葉によって背に木を生やしながらもその勢いは止まらない。創葉と6本の鞭で漸く搔き消える。
再開された猛攻から見るに恐慌状態は既に解け、じわじわと白露の対応が追いつかなくなってくる。
『あるじどのー、めいれい、そーさ、はくろ!』
主人どの 命令 操作 白露
空中に表示されたままのステータスに目を走らせれば、1つの術が目についた。
「白露!【草木の知人】!」
【草木の知人】ー大成功ーlevelup lv9
『なぁぁう!!!てき、すいろーへー。しゅごして、あるじどのと、くろとらいを!』
空を舞っていた白露の言葉により、水狼と水狼兵を喰らって生まれた木々が次々と葉を飛ばして水狼兵を切り裂き始めた。ひとつひとつは小さな攻撃力だが、塵も積もれば山となる。徐々に木が増え、水狼兵達の囲みが後退、魔力空腹(魔力残り5割)になっていたMPが、水狼兵から吸収したものにより回復していく。
『んにゃぅぅ…』
『krr...少し、疲れました…』
開始から1時間。
万にも届かんという水狼は千の水狼兵となり、白露と白蕾の奮闘によりその数を三百ほどに減らしていた。
紫水の水面はもはや森となり、機構の夜空は葉の間から少し伺える程度。
途中、集中力の途切れた白蕾に水狼兵の爪が掠ったものの、その傷跡はすでに白蕾を形作る葉に覆われて消えている。安定して敵を倒せるようになってきた頃、白蕾が解説してくれた。
曰く、森馬は樹霊王に創樹…創芽の最上位…で創造された精霊であるため、創葉で治るらしい。つまり、一撃必殺されない限り創葉使いがいれば何度でもHP全快。なにそれずるい。
『ふむ、想像以上に楽勝のようだな?やはり樹霊の御方と蕾の御方は封じられてもその強さは健在、雑兵程度では時間稼ぎにもならぬと見える。』
「えっと、浅海王?」
『何だ人間』
「いまいち分かってないから聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
そう問うたシーターに、浅海王の目が細くすがめられた。
微妙に嫌そうにしながらも、嫌とは言わないその様子を諾と捉えて問いを放つ。
「白蕾はともかく、白露は樹霊王で君たちと変わらない精霊王でしょ?3柱とも魔具と武器に封じられてるのに、白露はlevel1で、2柱は力を失ってないのは何でなの?」
『…なにを聞くのかと思えばそのようなことか。簡単なこと。犯したとされる罪の重さの差だな。我らが喰らった神は一柱、それに対して樹霊の御方と蕾の御方が喰らったのは30を超える神々。そして、樹霊王とその眷族は20を超える神喰いを援助し、成功させた。樹霊王は強すぎた、その配下も、信奉者も強すぎた。故に、稜明は誤ったのだ。』
「誤った…?なにを、」
『それは』
『浅海王、なりませぬ。』
先ほどから見るに、浅海王はその喋り方と同じ度々失言をするようで、それを諌める深海王との掛け合いは彼らが二柱で一つとされるのが納得できた。反対だからこそ、ピタリとはまってひとつになるのだろう。
術も、同じで違う存在が同じものを行使することによって単なる連動ではなく累乗となった。白露と白蕾の共闘だけでなく、水の精霊王である二柱の術の行使を見れたのはヴィアの物語を知る時役に立ちそうだ。
「じゃあもう一個聞きたいんだけど、2柱を呼んだのは誰?」
『呼んだ…?いつのことです?』
『?』
揃って同じ方向に同じだけ首を傾げる狼に、もふりたい衝動を抑えつつ話を進める。
「僕が戸棚に触れた時。君たちのぬしさまはぼくに関わったために殺されてしまった。ううん、ぼくが殺してしまった。だから二柱はぼくを憎んでいるんでしょう?じゃあ、何でぼくの喚びかけに答えてくれたの。ぼくはあの時、確かに男の人の声を聞いた。」
何て言っていたかはわからない。でもきっと、あれは命令だった。でもきっと、あれは親愛がこもっていた。そして、尊敬も。
シーターの言葉に合点がいったという素振りを見せ、二柱は同時に口を開いた。
『『あれは、我らがぬしさまの声。我らはぬしさまの言葉に応えた』』
「…でも、蒼穹の騎士はぼくが、」
『だから、あれはぬしさまの【声】だと言っておろうが。』
『我らが泣かなかったがために主様は人として死ねぬ。契約者さまのおっしゃったことです。』
『強くなれ、人間。我らに相応しいほどに。』
『そしてどうか手助けを。我らの主様を今度こそ』
『『安らかに、眠っていただくために。』』
ハモった言葉にこもった願いに、シーターは頷いた。
ナスイさんと水龍姫が、共に土竜を倒すことで主と武器として成れたように、彼らのぬしさまになるためにはそれが必須条件なのだろう。
二柱の優しい精霊王の、前のぬしさまとの本当の別れ。
「いいよ、ぼくは出来うる限り二柱を助ける。だから二柱も、ぼくを助けて。」
『あるじどのー、おわったぁ』
『お待たせいたしました、主殿。』
遂にノルマを殲滅した2匹が戻ってきた。
その姿に、思わず動きを止める。
「気のせいかもしれないんだけど」
いや気のせいじゃないだろう。
「また大きくなったね…?」
『krr?あ、そうですね。この度、従属から従族に進化したので』
若馬くらいの大きさになった白蕾は、もう見上げるほどに大きい。それに反して、白露が小柄なままだからこそおっきい子とちっちゃい子が戯れてる様子が心にくる。ぶっちゃけ体格差もふもふめちゃくちゃ可愛い。
「従属から従族というとレベル50以上だよね。それで、自己成長…戦闘以外のところで成長してく、と。」
にしても進化早くないだろうか。早くても1ヶ月はかかるだろうと思っていたのだが。
疑問が顔に出ていたのか、はたまた精神世界で神域なここ特有の力なのか。浅海王がどこか呆れた目をして口を開いた。
『要は模擬戦闘だからな。魔法攻撃を封じていたとはいえ精霊王の軍を殲滅したんだぞ?相応に経験値は獲得できるうえに、そもそも御二方は封じられた力を取り戻してるだけ。他よりも成長は早いはずだ。』
『ぶっちゃけ、せーれーおーとっけん。むげんにうんで、むげんにたおす、にゃー。』
生み出した葉を爪で切り刻んだ白露が赤い舌を出して笑う。いや、欠伸だったかもしれない。のんびりまったりのったりぐーすかな白露が1時間半近く戦い続けてたのだから。
『目標は、樹霊の御方がlevel20、蕾の御方はlevel100です。倒していただく水狼の数は、1億。水狼、水狼兵、水狼将、水狼魚など多種多様な相手をご用意致します。』
「物語を聞くだけならそこまで強くなくても…」
『申し訳御座いませんが、契約者様。およそlevel100の我らとて勝率は3割。御二方の強化、契約者さまの回避能力の向上で何とか5割にございます。』
『敵は強いぞ、人間。我らがぬしさまの求むるは、弟君と親友が憂いから解放されること。敵は紅孔雀を持たぬ騎士、ルヴィスの末裔ミカラナーン。』
…え?
『我らが望む、勝利条件は』
『復讐に囚われ、滞在に落ちた猫の魔王と、猫の魔王の誘いに乗り、憎悪に染まった弟君の解放。』
「ま、待って、カナンさまは、」
『猫の魔王と弟君はルヴィスの末裔を恨んでいる。』
『特に弟君は、強く、強く、強く。』
『もうひとりの親友は、配下からすべての破壊を望まれ、猫の魔王に煽られ、苦しみの最中にいる。』
『強くなれ、人間』
『考えられよ、契約者さま』
『『このねじれ曲がった物語を、己が物語の許す限り、望む方向へ導く方法を。』』
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シーター人 lv29 (目標 lv35) 奴隷 lv26 従者lv5
白露:level 10 (目標 20)
白蕾:level 50 (目標100)
浅海王:level 100
深海王:level 100
水狼討伐数:残り1億
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『あ、契約者さまにはやっていただきたいことがあります。』
何となく察してはいる、が。
「なにかなあ?」
『我の攻撃を避けてみよ!さあ人間、鬼事だ!』
『というわけで、頑張ってください契約者さま』
うん、知ってた。
だってぼく魔術適正ないし!!!!
逃げるかMP補給かしかやることないもんね!!!!
心の中で盛大に拗ねつつ、白露曰く「せーれーおーとっけん」の特訓が今、再開した。
そろそろ、「物語」が動き出します。




