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物語屋と死んだ狼は予言の勇者を望まない!  作者: 春夏秋冬
第1章 服飾街フレザ
32/49

26 服飾街と悲しい真実(*)

今回若干の鬱表現、残酷な表現がでてきます。

読まなくても物語に支障がない、とは言い切れません

すみません。

一応、道場に乱入者が来たら鬱開始です。

 

「では、シーターくん。双刀を振ってみて貰えますか?」


 ラビに扱かれ疲れた白蕾と、その白蕾に『くロKぅン、一緒、neたぃ』と言われた白露はお留守番。

 広い道場にはぼくとナスイさんの2人きりだ。

 正確には武器に宿る3人の魔王もいるが、1人は怒って無言を貫き、2人は拒絶して無言を貫いているからノーカンでいいだろう。


「えっと、本当に基礎すら知らない素人ですよ?」


 一応の前置きをして、蔦を操り腰のあたりに剣を持ってきてから抜刀。

 やはり手にはしっくりと馴染む、が、


 がしゃっ


 振ろうと上に持ち上げた時点で耐えきれず取り落としてしまった。

 それを蔦が支えてくれて床に傷をつけないところまでがもはや一つの流れとなっている。


「おや、これはまた見事に拒絶されていますね。ヴェルヴァリヴォ侯爵家の方の作られるものはどれも人を選び、主人を持つ物は制作された物の2割にも満たないと言いますが…」


 …2割しか使われないって作る意味あるのだろうか?

 研究馬鹿、魔術オタクと揶揄されることもあるあの領民領主からすれば作ることに意味があるのだろうけど、逸品が使われずに倉庫のあるというのは少しもったいないと思ってしまう。


「基本的に、紫水晶の魔具に受け入れてもらうためには三つの方法しかありません。」


「それは?」


「一つ、魔具を身近に置いて認められるまで待つ。このやり方だと、基本的に死ぬまで認めてもらえません。

 二つ、魔具と関わりのある神精霊人魔獣を探し出してその方に魔具と話してもらう。この双刀の場合は樹霊王になりますが、ここまで完全に拒絶している状態では目覚めたばかりの白露くんでは声が届かないでしょう。

 三つめ、これこそ私がここに来た理由。」


 指を3本立てたナスイさんがふわりと微笑む。


「製作者に魔具を叩き起こしてもらいましょう。」


「…は?」


 まともな返事ができなかったぼくは多分、悪くないと思う。

 間抜けな顔で間抜けな声を出したぼくに、くすくすとナスイさんが笑う。

 水牢楼にいるナスイさんは髪切り屋にいるときよりも雰囲気が優しい。そしてよく笑う。自然体で、本当に面白そうに、楽しそうに。


「水牢楼の町の一族の長として、幾度か製作者のヴィーヴァ様と文通をしていたのですが、ちょうどヴィーヴァ様がフレザから騎獣で3日のところにいらっしゃるらしくて。明日、一緒に行きましょうね」


「……は?」


 まともな返事ができなかったぼくは、悪くないと思うんだ。


「それで、私の相棒を紹介したいのですが、私を死なせないために無理やり私のHPを使って顕現したせいで【水龍姫】にも負荷がかかってしまったんです。眠っている彼女を無理矢理起こすとこの辺り一帯が水底に沈みそうなので私自身もヴィーヴァ様に会いたかったのでちょうどいいです。」


「………は?…………は?」


 語彙力以前に思考放棄したいような情報の羅列に、ぼくは壊れたように一文字をこぼし続けた。


「おや、どこか分かりにくいところがありましたか?言ってくださればもう一度ご説明いたしますが」


「……………………は?」


 いや、分かりにくくはなかった。それはもう、完璧に内容は頭に入ってきた。入ってはきたが…なんというか、理解できない?わけではないけど信じられないというか、とにかく、今の心の内を一言で言うと、


「…は?」


 になるわけである。


「ああ、そういえば言っていませんでしたね。旅の目的地、名工ヴィヴェヴァリィ=ヴューリヴ=ヴェルヴィヴ様がいらっしゃるのはここから東南へ騎獣で3日、宝飾街ジェルエールです。」


「……は?」


 いや、は?え?は???

 確かそこは人身売買が最もひどかった場所。

 そんなとこに行くことをよくスイシュ様やカナン様が許したなとか、死なせないために無理やりHP(生命力)使うとか本末転倒じゃないのとか、水牢楼の街の一族の長って名工と文通できるほど地位高いのとか、魔具って封印解いたり修理したりじゃなくて叩きおこすものなのとか、疑問が溢れに溢れて順番すらわかんなくなってるんだけどちょっと待ってほしい。

 本当に、切に切に、ちょっと待ってほしい。


「ああ、行くときは私は水龍、シーターくんは白蕾くんに乗ってもらうつもりなのでおそらく2日で着きますよ。」


「…は?え?は?……は?…….は?」


「…大丈夫ですか?さっきから"は"以外の言葉を全く発してませんが…」


「は?え、あ、いや、すみません……は?え?は?」


 完全に混乱しきったぼくの様子に苦笑したナスイさんが口を開きかけた時…

 かたんと道場の扉が鳴った。


「…誰です。今は街の一族の長としての権限で道場は貸し切っています。下がりなさい。」


「っはは、はははは、は、はは…」


 不気味で単調な笑い声。

 わずかに開かれた扉が、カタカタと小刻みに震えながら開く。


「やっ、やっと、やっとととととでててていくのか、や、やくくびょうがみ、みみみみ、み、いややや、しし、しんだ、しんだしんだしんだしんだしんだ、しんだ、おおかみ、けっ、はははははっ、でて、でてけっ、でてでてでてでてでてけっ、けけけけけけっ」


 熱に浮かされたように潤んだ瞳、そこに暴れまわるのは圧倒的な力の奔流。

 そこには、昨日藍水さんと訓練した時に乱入してきた瞳使いの青年がいた。


 だが、あの時には美しく輝いていた瞳が今はぐるぐると焦点をなくして彷徨っており、青年が掴んでいる道場の戸はガタガタガタガタと震え、


 ばぎんっ


 破散した。


「…瞳使いの、暴走?なぜ今?瞳使いたちは実水の監督のはず、それに藍水が暴走のコントロールをしていたはずですが…?街での混乱が水牢楼にも及んでいるということですか?此度の魔王はそれほどまでに、強い…?」


「な、なななななすいさま、らっ、ららっら、ら、らららららすぅぅいいいいさま、も、おまっ、おまえええのせいぃぃ!おまっ、おおおまぁぁぅえのせいで、すぃぃいいらうろうが、すいろぅう、ろろうが、おれ、、あたしの、あたらしい、すがぁぁあぁあ!!!」


「っ!瞳玉の感情に呑み込まれてはなりません、意識を取り戻しなさい、隻水!」


 ぐるぐると焦点を変える瞳、危うく点滅する青い瞳とグレーの瞳、グレーの瞳の方だけが、死んだように動かない、セキスイと呼ばれた青年の、左の瞳は死んでいた。

 青い瞳、青い瞳、喪われる光、最後の光、最期の光、微笑む、ナニカ、なにか、忘れてはいけないこと、忘れてはならない罪、


 ぼくの、罪の、在り処は、


「隻水!貴方の名を口にしなさい!水守様に頂いた名を言いなさい!水守様の水は決してあなたを見捨てない!あなたの拠り所として、常に水牢楼はあなたを守ります!隻水!」


「な、ななななななななななななぁぁぁぁぁ???しっ、しんだしんだしんだ、しんだおおおかおおかみ、おまええええのあせいいいぃぃいだだぁぁぁぁぁ!!!おまっ、おまえの、おまえのせいだ、おまえのせいだ、おまっ、おまえがころっころろろろしたぁぁあぁあ!!!」


「隻水!シーターくんはあなたに何もしていません!シーターくんを責めるのは「そうですね」シーターくん⁈」


 目の前に被るのは、白い地平線。

 静かな、白い空と白い大地の広がる

 静寂と白だけがある、

 苦痛とも恐怖とも喜びとも悲しみとも怒りとも興奮とも喜びとも寂寥とも後悔とも沈鬱とも歓喜とも退屈とも羞恥とも関係のない、白き静寂の大地


「ぼくは、死んだ狼です。ぼくは罪、ぼくの存在は罪、ぼくは生きていてはいけないのに、ぼくは死ねないのです。許してください、死ねないぼくを、多くの罪なき優しい人を殺してきたぼくを許してください。人々を殺してなお死を恐れて己だけは殺さないぼくを許してください。ぼくは、死んだ狼です。」


 ナスイさんの話による混乱も、ルヴィを心配する心も、ナスイさんが無事だったことに対する喜びも、昼間の旅籠屋さんとマーチェスさんと楽しく騒いだことも、


 ゆっくりと、静かなる白い大地へと沈んで、残るのは虚ろで空っぽで、光なき【死んだ狼】


「シー、タ、…く…ん?」


「すみません、セキスイさん、すぐに出て行きます。ナスイさん、明日の朝城門で落ち合うということで構いませんか?心配してもらわずとも、ぼくは城に行ってマーチェスさんに世話をしていただくように頼むので。」


「え、いや、シーターくん待ちなさい、隻水!早く名を言いなさい!隻水!水守様に頂いた名を!早く!」


 青い瞳、ぼくが壊してしまった青い瞳、

 血だらけの指、血?何の血?ざんばらに切られた野菜、久しぶりの食べ物、切れた指、食う、食う…喰う?何を食らう?食われる、食われたのは、


 食われたのは、誰?


 青い瞳の、不器用な、

 友達がいるんだ、そいつは猫に好かれてね

 友達がいるんだ、親友って言ってもいい、

 2人の親友がいるんだ、青い瞳が言う、青、青い青、

 友達がいるんだ、この髪は親友が切ってくれた

 友達がいるんだ、女好きの、服をくれた、

 友達の家は、宿屋で、猫がいるんだ、

 2人の親友が、いるんだ、いいやつだ、

 きっと行こう、きっと、2人も歓迎してくれる

 友達2人も、君を見たら驚く、

 友達に頼もう、あの街へ戻ったら、

 髪を切ってくれ、猫と遊ばせてやってくれ、

 友達2人は歓迎してくれるはず、

 あの街は美しいよ、

 きっと行こう、きっと一緒に、そしたら君も

 笑えるはずだよ、シーナー


「けけけっ、け、でてけっ、殺すのは、ころすのははははいつもっ、いつつつつもおまええだぁあっ、でてっけ、けけ、け、けけけけけ、ころっ、ころした、ころしたころした、おまっ、おまえがころろろっした、したしたした、ころした、」


「隻水!やめなさい!隻水、名を言いなさい!水守様にもらった名は!」


「もらららら?すいぃぃぁ、もらったたたたな、ななななな?ししししんだおおおおおかみみみみみ、おまっ、おまえがころろろっした、た、なは、なははは」


 輝きを失う青い瞳

 友達にもらったと笑っていた赤い服が

 金と赤と白の赤い服が

 友達に切ってもらったと笑っていた髪が

 綺麗に切り揃えれた髪が

 血と埃と土にまみれて

 食われる、食われる食われる

 消えていく殺されていく死んでいく

 汚されていく喪われていく堕とされていく


 ー僕の、


「おまぅ、お前が殺したぁぁ、ころっ、ころしたぁぁ!!!」


 ー名は


「お前がっ、おまえがこここころしだぁぁぁ名はぁぁぁ!!」



 ー◼︎◼︎ー◼︎◼︎◼︎◼︎ー干渉ー強制発動ー成功


 ー◼︎◼︎ー◼︎◼︎ー成功







「…シーターくん?」


 狂乱する隻水を水楼子の一族の長だけが使える【水圧】(彼我の水魔力の大きさに応じて相手を威圧)を使用して気絶させた私は、ようやくシーターくんの違和感に気づきました。

 私の言葉に混乱して、壊れたように疑問符を並べるシーターくんがちょっと面白くて遊びすぎたのがいけなかったのでしょう。

 珍しく私がはしゃいでしまったばっかりに、不要な心労をかけてしまった、そう思ったのですが。


 シーターくんの、瞳が、黄色でも、深緑でもなく、


 青い(・・)


「…な、ぜ、あなた、が、その、その色を?」


 その青は、青でありながら青にあらず。

 その青は、その青は、その青は、


 深い深い、水の青(・・・)


『お久しぶりです、名水』


 ああ、ああ、その声は、その呼び方はその表情は、その仕草は、その青い青い瞳は…!

 ありえない、シーターくんではありえない、

 その稜明国の発音は、ありえない、

 その水の力を表す青い瞳は、ありえない、

 ありえないありえないありえないありえない、

 死んだはずの(・・・・・・)あなたが、


「あ…なた…な、のです、か、蒼染そうせん…?」


 それでも、それでも、私は蒼染あなたにもう一度会えたのですか…?


『こう呼んだら、信じてもらえるかな?僕の2人きりの親友、名簿なづき。こう言ったら信じてくれるかな?僕のもう1人の親友、旅籠屋とはまだ交流があるかい?』


「ぁ…」


 久しぶりに呼ばれた名前。

 水守様と、緑水様と、羅水と、今は全滅した故郷の村の人間と、2人の親友しか知らないはずの、


 名水が名水になる前の、真の名前。


「ぁぁぁぁ…蒼染、蒼染なのですか、我が友、我が親友、ほんとうに?ほんとうに、生きて…」


『ごめんね、名簿なづき。僕は死んだよ、間違いなく。僕の体は、魔獣に喰われてこの世から消え去った。』



「………は?」



 蒼染、蒼染、蒼染、蒼染!!!

 私が心を許した、たった2人

 猫好きで女好きの、ちゃらんぽらんな旅籠屋と

 剣好きで女が苦手な、真面目で優しい蒼染


 私と旅籠屋の拠り所、心の拠り所、大切な人

 私たちを泥の中から掬い上げたのは、

 私たちを取り戻してくれるのは、

 いつだって、

 あなたの、蒼染あなたの、


 美しい蒼穹あおだった…


「死ん…だ…?ふ、ふふ、やめ、やめてください、蒼染、あ、あなたは、あなたは昔から冗談が苦手で、したよね、旅籠屋にだって、わ、笑われてたじゃ、ないですか、無理するなと、わた、私だってあんな、あんなちゃらんぽらんな、能天気な奴が、2人に増えたらこま、困りますよ、蒼染、『名簿なづき名簿なづき、僕の大切な親友、僕のたった2人の唯一の1人。可愛くて泣き虫で弱くて寂しがりやの、僕の親友、ごめんね、ごめんね名簿なづき。僕は君を守る騎士でいるっていったのに。ごめんね、名簿なづき。』


 なに、笑ってるんですか

 なに、泣きそうな顔をしているんですか

 なに、慣れない冗談を言おうとしてるんですか


 面白く、ないですよ、似合わないですよ、

 ねえ、蒼染、今なら、今なら笑ってあげますから


 蒼染、蒼染、蒼染、


 お願いだから、お願いだから



 冗談だと、言って……


『冗談でも、嘘でもなく、僕は死んだんだよ名簿なづき


 ああ、なんということだ

 いつだっていつだって、


 私の蒼穹(平安)は、長くは続かない

 私の大切は、長くは生きられない


 私に関わった者たちは、みんなみんな、死んでいく


名簿なづき…?』


「そう、ですか、死んで、しまった、の、ですか、あなたは、」


名簿なづき…?どう、したの、』


 ああ、勘違いしていました。

 私の蒼穹はいつもどこかで笑っていると思って

 私の蒼穹はいつもどこかで人を助けてると思って

 私の蒼穹はいつも私たちを想ってると思って

 そう思って仕事に励んでいたのですが。


 そうですか、そうですか


「私の蒼穹は、もうどこにも無かったのですね」


 微笑みながら近寄った私に、蒼染が怯えの色を走らせます。

 なんで陳腐な悲劇、これでは喜劇にするにもお粗末すぎる。


「ふふふふ、そうですか。死んでしまったのですね、蒼染。ふふふふ、そうですか、そうなのですか、それで…」


 こんな陳腐な台本シナリオを書いて、


「楽しいですか?私たちの唯一を玩具にするのは。そろそろ怒りますよ?旅籠屋。いえ…魔王【猫の愛子】ロク」


名簿めいぼじゃないよ名簿なづきだよ


名水さんの、V Cardの名前が名簿なづきではなく名水なすいだったのはV Cardだとそういう設定ができるからです。


【街の名前の訂正】

×宝飾街パーヒェン

⚪︎宝飾街ジェルエール

⚪︎華飾街パーヒェン

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