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物語屋と死んだ狼は予言の勇者を望まない!  作者: 春夏秋冬
第1章 服飾街フレザ
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22 服飾街と能力適正

「結論から言いますが、残念ながらシーター君の魔術適正は軒並み0に近く、今後技術を取得する可能性も限りなく低いです。」


 残念でしたね、そう言ってイド様は微笑んだ。

 お昼ご飯の後、未だ目覚めないルヴィを待ってぼくは水牢楼に滞在していた。

 昼餉の後に訪ねてきてくれたイド様は、穏やかに僕の適正検査結果を連ねていく。

 ルヴィたちの治癒の時間の合間を縫ってぼくたちの面倒まで見てくれるイド様。自然、背筋が伸びる。


「その代わり、シーター君は身を守るという一点においてとても優れています。いえ、現時点で秀でているのは守るというよりは耐え忍ぶという点ですね。大地に根ざし、風雨雷震に耐え続ける若樹…今のシーターくんはそんな感じです。ですが、いくら傷つける力に対抗できても、耐え忍ぶだけでは命を取る力には勝てません。」


「でも、魔術が使えないなら魔術に対抗することはできないですよね?」


「魔術適性がないのと魔術が使えないのはイコールではないんですよ。ほら、白露くんを喚び出したのも、白露くんの植物魔術も使っているMPはシーターくんのものでしょう?そうですね…シーターくんは絵の具を持っていますが、下絵を描くことができないんです。誰かの描いた絵を塗ることはできますが、自分で書くのはうまくない…この言い方でわかりますか?」


「はい、絵の具がMP、下絵が術式ですよね。」


 ちなみにラビに鍛える!と言って連れ出された白蕾は、白露の生み出した下絵に白露に色を塗らせている状態らしい。


「そうです。さて、シーター君は魔術適性はありませんが、魔力適性は桁外れと言っても過言ではありません。言うなれば、少しの絵の具で上手に塗ることができる、ということですね。魔術面でシーターくんが強くなれることはほとんど無理です。そこで、武器を持ってもらうことになりました。」


 ぽんぽん、とイド様が手を叩く。緩慢でありながら優雅な動きで現れたのは美しい深紫の、おそらくは瞳玉が随所にあしらわれた大の大人が2人ほど立って入れそうな大きな白木の戸棚。

 それを運んできた水楼子の方々は一礼してすぐに、去ってしまった。


「これは…?」


「魔構街ヴェルヴァリヴォの侯爵家工房庫と繋がっている戸棚です。」


「…」


 黙って1メートルほど距離をあける。

 魔構街ヴェルヴァリヴォ。英雄侯爵の中で唯一1つしか街を持たないヴェルヴァリヴォ侯爵の治める街であり、侯爵を筆頭としたマッドサイエンティストの巣窟である。超巨大な街はそれ自体が魔具であり、意思を持つという。

 魔構街ヴェルヴァリヴォの居住者たちは己の発明に誇りを持っていてそれを盗もうとする者に容赦ないという。


「大丈夫ですよ。それは侯爵様からリュカ様への贈り物ですから。」


 …これで一応公爵家の人間だし、カナン様ってなんかあれだから忘れてたけど、英雄侯爵と知り合いで仲のいい12歳児(リュカ)って何者。


「その戸棚は扉に触れたモノを魔具たちが審査し、使わせてやっても良いと考えた魔具が姿をあらわす仕組みになっています。ヴェルヴァリヴォ侯爵家工房庫には並の魔具などありません。性能は超一級品ですが、誇り高く容易に主人を認めないことでも有名です。」


「…魔具が主人を選ぶ、か。白露と同じだね。」


『なうぅぅ…』


 なにやら不機嫌そうな白露を一撫でし、扉に触れる。


「、っ、」


 幾千幾万幾億もの、紫紫水晶の、瞳


 それら1つ1つが途方もない力を蓄えているのが、分かる、理解する、


 幻視する、白い世界に浮かび、白を埋め尽くす両手剣片手剣、大楯、鉾、強弓、ギロチン、短刀、レイピア、拳銃、魔杖、三叉槍、水晶、刀、大砲、大包丁、鉄球、棍、火縄銃、斧槍、鞭、ロット、苦無、そして名もわからない幾千幾万の武器たち

 それは全て僕に向けて銃口や切っ先を向けていて。


『ーー』


 男の人の、声、何か途方もない大きな力を秘めた、

 後ろを振り返れば、そこには


 がたんっ


 ぱっと現実に引き戻される。

 戸棚の扉は開かれていた。中にあるのは、二振りの…いや、一対の曲刀。

 片方は吸い込まれそうな深い青、片方は透き通るような青緑。どちらにも銀で美しい波模様が描かれている。そっと取り出せば、珊瑚色の柄は驚くほど手に馴染んだ。

 僕の身長が120センチくらいだからちょうど1メートルくらいだろうか。ずっしりとした重さは重すぎず軽すぎずちょうどいい。

 …でもきっと、これを実際に振るとなったらすぐにスタミナ切れ起こしそうだよなあ。ぼく、びっくりするくらい腕力ないし。


「シーターくん、鑑定書も忘れずに。」


 みれば下に紫色の紙が落ちている。曲刀を1度畳に置き、拾い上げた


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【魔具】

 〈東水主ノ双剣 ヨスナミ ヒクナミ〉lv1

 種 :草 水 風 夜

 銘:no data


 ヨスナミ

 銘:no data

 姿:蒼碧に白銀の紋様の鞘

  翠の刀身、白波の文様

 術: 草牙 MP50


 ヒクナミ

 銘:no data

 姿:蒼紺に白銀の紋様の鞘

  蒼の刀身、白波の文様

 術:水牙 MP50



 稜明国の海を支配していた海神の懐刀だったが、旅の方々や、商いの方々を喰らい、1つの街を滅した為時の大巫女に封じられた海域主の大海霊。

 かつて大樹霊と共謀して神を殺した神殺しの精霊でもある。

 魔構街ヴェルヴァリヴォの刀工ヴィーヴァの作であったが主人を認めることなく工房庫で眠り続けていた。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ははっ」


 なんか聞き覚えのある話だなあ…


「…イド様、大樹霊って何柱いますか?」


「一柱しかいませんよ。ああ、でも今は大巫女に封じられているそうですが。」


 …白露、やっぱりお前か

 ということはこの双剣の大海霊と白露は知己、この双剣たちも白露のように意思疎通はできるのかな?


 珊瑚色の、まあおそらくは珊瑚の柄は冷たく手に馴染むだけで声が届くことはない。嵌め込まれた紫玉も冷たい輝きを孕むだけ。

 イド様に促されて紙を渡せば表情がふわりと柔んだ。


「おめでとうございます、シーターくん。その双剣は刀工ヴィーヴァの作。とても良いものをお引き立てなさいましたね。Z〜A"までのレアリティでいうとIくらいですね。」


「あまり凄そうに聞こえませんが…」


「Z〜Wまでが素人、V〜Pまでが職人、O〜Mが匠、L〜Jが精霊、I〜Gが大精霊、F〜Dが種の最高位、C〜A"は神の御技です。」


「…なんでそんなすごい剣をぼくが引けたんだろ?あっ、もしかして白」


『ぬーーー』


 白露が、つんっと鼻先を明後日の方向に向けて座っていた。その尻尾はぱったんぱったんと畳を叩く。


「…白露さーん」


『あるじどの、ふたり、いるでしょ、はくろ、しらない』


 これは、嫉妬してくれいるんだろうか。

 苛立ちを示すように尻尾で畳を叩いているが、翼は落ち着かなげに揺れてる。知らんぷりをしていても、白露の意識は完全にぼくに向いているのは一目瞭然だ。


「ふふっ、拗ねないでよ、【葉椿】」


 名前を呼んで頬をなでればびくんと葉椿が振り返り、潤んだ瞳がぼくを写す。


「だいすきだよ、【葉椿】ぼくの大切な相棒。」


 額に口付ければ葉椿の瞳に銀沙が舞う。


『あるじ、どの、はつ、はつばき、すき?』


「うん。【葉椿】はぼくのこと、嫌いになっちゃった?」


『はつばき、あるじどの、たいせつ、まもる!』


 もふっと胸に飛び込んできた白露を撫で繰りまわす。めっちゃ可愛いどうしようこの子。そのうちあまりの可愛さに血迷った人に連れてかれちゃうんじゃないだろうか。

 …まずい、服飾街危なすぎないかな。


「ふふふ、その姿での戯れはとても可愛らしいですね。そろそろ鍛錬の時間ですよ。」


「あっ!ありがとうございました、イド様!」


 一礼し、白露を肩に乗せて双剣を抱える。

 …この大きさ、腰とかに刺せないけどどうすればいいんだろうか。






「遅いじゃないかシーター!」


 道場に行くとリュカが水牢子の女の人たちを侍らせていた。蜜柑を持つ人、林檎を持つ人、葡萄を持つ人…多種多様な果物を持った女性たちに囲まれ、リュカはたいそうご機嫌のようだった。リュカが口を開ければ目線の先の果物を持つ人が一口サイズの果物をそっと口に入れる。

 お前はどこの王様だよ…

 そして白露が果物の山に突撃していった。女性たちの数人が白露を取り囲んで餌付けし始める。


「うんうん、ちゃんと武器は手に入ったみたいだね。て、これまた曰く付きの物を…。一体君はどこの神にケンカを売る気だい?神喰の大精霊なんてそうそういないのに君と一緒にいるとその辺に転がってるように思えちゃうね。」


「ぼくだって理由知りたいよ…」


 そして英雄侯爵2人と友人のリュカは一体どこの魔王にケンカを売る気なのか。

 なんか、聞いちゃだめな気がする。


「さて、シーター。その子たちを自由に振ってもらえる?」


 自由に。その言葉に従ってヨスナミを左に、ヒクナミを右に構える。

 ずっしりと重い一対の双剣を持って…ぼくは固まった。


「えっと、どうやれば?」


 とりあえず振り下ろす為に上に持ち上げようと試みる。

 今まで武器なんて持ったことがなかった。本当に、ペンより重い物を持ったことなんて数えるほどしかないぼくに、双剣というのはあまりにも、


 がちゃんっ


 重すぎた。


「…シーター、君って結構軟弱?」


「抉らないでくださいリュカ。」


 わかってる。フォークとナイフですら持ち続けることができないぼくに武器なんて持てるのかと最初から自分でも不安だった。というか察してはいた。

 落とさないまでも刃を地につけた双剣は重く冷たく、とても自由に触れるとは思えなかった。


「…ねえ、これ以外にぼく自身が強くなれる方法って」


「ないよー。イド様も言ってたでしょ?シーターには魔術が構築できない。白露や白蕾みたいな獣に魔力を与えて力を行使できても、それは君自身の力とは言えないし、僕が術式を書いた紙を渡してもやっぱりそれはシーター自身の力ではないからね。」


 リュカが小首を傾げ、小さく口を開く。

 唇に押し当てられた苺をパクリと食べ、話を続ける


「君さ、少しは自分で考えなよ。僕が君に嘘をついてたらどうするの、僕が知らないことなんてこの世にはたくさんある。僕に聞けばなんでも解決すると思っているうちは、その剣は振れないよ。彼らは絶対に君に応えない。」


 緑の瞳。水守様はぼくとリュカとでお揃いだって言った。

 緑の瞳。そういえばぼくも、リュカも、白露も、白蕾も、みんな同じだ。

 なのにやっぱり、ぼくだけがちがう。いつまでだってそうだ、ぼくだけがまがい物で偽物で、


【死んだ狼】


 昨日、男が叫んだ、幾度も叫んだ呼び名が耳に蘇る。

 生気のない、ツヤのない、光のない、濁ってべっとりとした黄色の瞳。

 いくらでも白露の、【葉椿】のおかげで美しく見えても。


 ぼくはやっぱり、苦痛と大きな苦痛と【声】と小さな思い出と、そしてあの白い白い世界がぼくを形作っている。


「…はぁ。ちょっとまだ早すぎたみたいだね。昨日行っていた通り本を買いに行こう。本当は夜に行けばよかったんだけど、早く行けば行くだけ色々話せるもんね。」


「…ぁ、ごめんなさい」


「いいよ、僕も説明と君への配慮が足らなかった。さ、白露もおいで、置いてかれちゃうの嫌でしょ」


『なうーー、あるじどのー、はくろ、おいてく、やぁー』


 パタパタと飛んできた白露が胸に追突する。

 双剣を支えている今の状態では抱きとめられず、稜明の着物に爪を立てられたせいで前がはだける。


 艶々の板床に傷がつきそうで双剣を手放せず、白露は白露で引っかかった爪をどうにかしようとバタバタ暴れるから余計に衣がはだけた。


『にゃうっ!』


 ぽぽんっ


 創芽ー発動ー連動ー草守護


 ノイズとかすかな音とともに白露の足場を作るように細い若木が伸び、双剣を収めるように植物のつるが巻きつく。

 今まで双葉だった創芽が驚きの進歩である。


 双剣から手を離すとつるがぼくの体にも巻きつき、双剣を背負う形で固定した。

 …え、なにこれすごい


『あるじどのー、だっこー』


「白露、いい子だね」


 だるい腕は不思議と白露をだっこしてもそれ以上疲れない。白露が何かをやっているのか、それともそういうものなのか、


「…樹霊王が…だっこをねだるって…うわぁ」


 後ろでリュカが何か言っているがどうでもいい。

 リュカを待たず歩き出すと女性たちの名残惜しげな目を振り切って横に並んだ。

 ものすごく果物の匂いがする。

 すん、と鼻を鳴らすと白露からも森の匂いに混じって果物の匂いがした。


「それで、買い付けってどこに行くの?」


「んー?ついてから苦笑するのと今覚悟してやっぱりなあと諦観するのどっちがいい」


「どっちも嫌かな」


 なにその微妙に嫌な二択。害になるわけでも利になるわけでもない、正直どうでもいい感じの選択肢。こういうのって余計に困るんだな。

 昔示された二択って、自分が苦しむか他人が苦しむか、とか精神的に辛いか肉体的に辛いかとかだったから割と悩まなかったんだけど。


『はくろ、どっちもー』


 まさかのね。まさかのこの二択でのどっちもね。無茶振りが過ぎます白露さん。


「…あ、もしかしてカナン様のとこ?」


「?なんでそう思った?」


 きょとん、と小首を傾げる動作は苺をねだった時とよく似てる。


「ほら、城に招かれた初日にさ、カナン様に城の物語をいただきますって言ってなかった?」


 確か晩餐の後だ。マーチェスさんに餌付けされたのを覚えてる。


「あー、それはまだ出来かけだから。今から買いに行くのはまた別のとこ。」


「…髪切り屋?」


「うん、まあわかるか」


 ぼくとリュカの共通の知り合いは限りなく少なく、水牢楼とフレザ城を除けばもう髪切り屋しか残っていない。


「でも、ナスイさんはいないんだよね、当たり前だけど」


 当たり前のこと。なのにざわざわとした不安に苛まれて白露を強めに抱きしめた。


「髪切り屋には行くけど用があるのは髪切り屋じゃないからいいんだよ。正直名水のいない髪切り屋に近づきたくない。」


 本気で嫌そうに鼻に皺を寄せる様子はよく名乗っているように犬っぽくて思わず笑ってしまった。

 リュカは物語屋。物語の売買と収集ごとなのだろうけど今までリュカの仕事を見たことがなかったから楽しみだった。


 だからぼくは、すっかり忘れていた。

 くだらなくってどうでも良くって、腹の立つ預言のことも

 リュカが物語屋として語る物語のどうしようもないやるせない苦しさを



 リュカに疎まれ詰られた

 ぼくのどうしようもない歪な弱さを


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