19 服飾街と嘘吐きの嘘
「この子が私の親友、水亜竜の一白です。数字の一に白で一白。」
藍水さんの紹介してくれた一白は大人の猫サイズのトカゲだった。
瞳は藍水さんと同じ紫色。鱗は、おそらく名の由来であろう美しい桃色でその背には一筋の白い鱗の波。
「合成獣の白露です。白い露と書いて白露。白という文字、お揃いですね。」
「ええ。仲良くなれるといいですね。時間がありませんので早速本題に入らせていただいてもよろしいですか?」
どこか急くような口調は藍水さんの雰囲気にあまり似合っていない。この人も緑水さんのようにぼくのことを嫌いなのかもしれない。
まあ、どうでもいいか。嫌だろうがなんだろうがこれはやらなければならない彼の仕事なのだから。
「本来獣使いは仲良くなったり従えたりした獣を成長させ、新たな力を得ます。しかし瞳玉として封じられていた力が獣として姿をとった一白や白露様は以前使っていた力や技を思い出して再習得しています。
その分普通の獣使いに比べて早く、より強く成長できます。その代わり、以前のレベルまで達するとそれ以降のレベルアップは厳しくなるといいます。…まあ、シーター様と白露様には関係ないかと思いますが。」
「関係ないって?」
「現存している記録によりますと、樹霊王のレベルは4桁ですので。」
へー、4桁か、すごいなあ
…4桁?
1000レベル以上?
「…え?ほんとですか?レベル1,000…?」
『ほんとー、でもまだ、つぎまではんぶんー』
一瞬胸を張った白露がつぎまでは、と言ってしゅんと尾を垂らした。なにそれかわいいどやがお白露可愛いです素晴らしい。
「半分…1500ってこと?」
『なー?ちがーのー。んとー、ごー』
「…次が5,000なら…、え、まさかレベル2500⁈」
『ちゃーー』
次が2000ではなく、5000でもないならば。
え、嘘まさか。
『んと、ごはね、こえたのー』
まさかの5000越え
「…白露、えっへんてしてみて」
『えっへんー、はくろすごいー』
真っ白でフサフサな胸を張り、く、と鼻面をあげた白露。ほんと可愛いです。
「ちなみにいわゆる勇者と呼ばれる方々の平均レベルは300、現時点で観測された中での人族最強はレベル1342です。」
「白露が尋常じゃなく強いのはわかりました。それで、どうすれば白露の力を取り戻せるんですか?」
これです、そう言って藍水さんが取り出したのは…
『なーうー』
「ちょっつま、はくっわっ、」
巨大な空の水槽の中でぼくは白露と遊んでいた。
どうやら大樹霊である白露が魔力を使うと水牢楼の結界に悪影響が出るらしく特殊な水槽の中での訓練となった。
ああ、ただし水は入っていない。
「訓練は簡単です。自分の種の1番簡単な…例えば水なら水の粒、火なら火の礫を小鳥の形に生成してください。」
要は創芽で小鳥を形作ればいいんだけど…
ボンッ
『なあーちがーつぎー』
「待って!白露待って!」
出るわ出るわ、奇怪で不思議な植物たちが。
火を吹くやつ、水槽を飲み始めるやつ、血を吸うやつにつかめないやつ、光り輝くやつに、石のように硬いやつ。
その全てを持ち前の生き抜く力で壊し消し避け逃げ続ける。
比較的危険度の低い…例えばホースのように水を噴射するやつで火を吹くやつを消したり、石のように硬いやつで諸々を押しつぶしたり。
これ、生存本能とかの技術なかったら死んでるんじゃなかろうか。
『あるじどの、くたくたー』
面白そうにパタパタと翼をはためかす白露。
数枚の羽と共にひんやりとした森の香りのする風が捲き起こる。
うん、涼しい…
と、和む隙も与えずまた術式が構築される。
「はくっ、はくろっ、まっ、まってぇぇ…」
ぼんっ
紅の木の実の瞳、苔の体に蔦の尾、頭にはシダの風切羽。
そいつは、どこからどう見ても
[kerrruuuuunn]
植物でできた子馬に見えた。
「げほっ、げほっ、げほっ、いや、なんでだよっ!」
数秒おきに連産される植物たちとの戦いに体力を食い尽くされていたぼくは、ツッコミとともにその場に崩れ落ちた。
「お疲れ様でした、シーターくん。」
「藍水さぁん…まったく、かんたんじゃ、ないですぅ…」
「今回は私の予想が甘すぎたゆえの失敗です。申し訳ございませんでした。」
深々と頭を下げた藍水さんの隣で、一白もまた、お辞儀をした。顎が地面をこすり頭が地面をこすり、体が傾き、背中が地面をこすり、尾が地面をこすり、そして至近距離でこちらをトゥルントゥルンの宝玉のような目が見つめてきた。
「かっ、、構いません!」
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い…!!!!!
『…なあーー、あるじどの、あーるーじーどーのー』
なーなーと鳴いた白露に目をやれば。
鼻面が地面をこすり、頭が地面をこすり
すてんっ
横腹が地面をこすり、背が地面をこすり、
『…なぅぅ…』
仰向けの状態の白露の胸元に、ぼくは顔を埋めました。
天使だ。
[kerrr...]
かすかな、車輪の空回りするような軽い音を鳴らした森馬が前足を折った。
まるで生まれたての小鹿のように、足をプルプルさせながら、紅の目を泳がせながら。
…生まれたてなのは事実だけど。
「あ、うん、大丈夫。みんなやるみたいなそういうルールとかじゃないから。」
[kerr♪]
パタパタと蔦の尾が揺れ、
ぽんっ
軽い音とともに、真っ白な花を咲かせた。
「最初から魔法を使える従属は少ないんですよ。やはり樹霊王はすごいですね。」
本来は文などを持たせて飛ばせる連絡用の簡易連絡式、即席文獣を生成することが目的だった今回の訓練。
まずは創芽などの初級種族魔法で陣や眷属を生成できることを教えるためだったそうなのだが。
眷族
主の核を分け与えられたモノ、主の命令の拒否、主の力の使用可能
眷属
主の核で作られたモノ、主の命令に口出し可能
従族
主の一部を与えられたモノ、主の命令遵守、拒否=激痛、自己成長有り
従属
主の一部で作られたモノ、主の命令遵守、拒否=死、自己成長無し、上位が覚えさせれば可
陣
主の魔力を素とした半永久魔法、主の命令のみ行動可
式
主の魔力を素とした使い捨て魔法、主の命令のみ簡単な行動可
今回は式を生成しようとしてまさかの2段階上を生成してしまったらしい。
「少々、困りました。シーターくん、白露様、森馬、どなたから鍛えましょうか…。
シーターくんが強化されれば白露さまはより、自由に動けるようになります。しかし決定力に欠け、長期戦になれば必ず負けましょう。
白露様が強化されればシーターくんへの危険が減り、作戦に幅が出ましょう。しかし白露様が倒れた時点で負けが確定します。
森馬を強化すればその子がシーターくんを守り、白露様が攻めに出るなど作戦に幅が、またいずれはお二方に忠実な騎獣に、ゆくゆくは戦友となりましょう。しかし、そうなるには時間が足りませんし中途半端な強化では火の一族には意味がないです…
困りました。」
藍水さんの人の良さそうな顔は本当に困っているらしく、下がった眉根にこちらも困った顔になってしまう。
「あなたには、強くなってもらわないければならないのに。」
『……?…!』
一白がらぱくぱくとなにやら口を動かした。
どうやら獣同士のみ伝わる言葉らしく、白露が耳やらしっぽりをピクピクさせている。
すると、
《血族使い》ー共有ー認証ー獲得
《従属ー森馬 noname》ー獲得
命名権ー移譲ー認証ー獲得
[krrr]
森馬が白い花の咲いた尾を振る。
「君は、ぼくでいいの?」
[♪]
「そう…それじゃあ、そうだね。名は七竈。呼び名は、白蕾。よろしくね、白蕾」
ーあr...g...ど…no
途切れ途切れの、かすれた声。
それでも届いたその声に、僕は微笑みを返した。
子馬と子豹と戯れる、少年というにも幼い姿のシーター君を見ながら、私は一白の冷たく滑らかな首筋を撫でます。
ひんやりとしたそこは撫でる私も撫でられる一白も落ち着くベストスポットです。
結局、魔力空腹になるまで一白の作り出す水球からシーター君を守り続ける、という鬼ごっこのような訓練を彼らには課しました。
いずれ立派な肢体を持つであろう白露様も白蕾様も今はまだ幼体。それは戯れの様を呈していてどことなく可愛らしい。
『ァ、ァァ、樹霊王、ソフのカタキ、ニ…くい、』
ーええ、そうですね、一白。
『ニ…くい、にく、い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い…!』
硝子玉の奥底深く憎悪の炎が燃え立ち上る。
ちらりとこちらを向いた白銀の瞳は鋭い一暼だけですぐに逸らさられた。
『ァァァ、チカラ、さ、え…トリモどさナケれバ…にくぅい、憎…イ…じゅ…レ…お、さま…憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い…』
ー…ごめんなさい、一白。
首筋を撫でさする。
憎悪を、炎を、冷たい一白の体に擦り込むように。
『憎…い…憎…み、タ…く…憎…い、憎い憎い憎い憎い憎い…!』
私だけに聞こえる、一白の苦悶の呪詛。
それは樹霊王への憎しみの言葉であり、おそらくは、いや、きっと
一白を憎悪に沈め染め上げようとしている私への、命を賭けた抗議なのだろう。
ーごめんなさい、一白。せめてその言葉を、言葉の連なりを、無視することなく聞き続けるから。
だから、
私と一緒に、憎悪の火に呑まれておくれ。
更新遅れました。
増えていくもふもふ、そして怪しげな人たち
そろそろもう一回人物紹介します




