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物語屋と死んだ狼は予言の勇者を望まない!  作者: 春夏秋冬
第0章 始まり
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1 始まりの始まりの始まり

しょっぱなから残酷表現入ります。

読んでもらえると嬉しいですm(_ _)m

「やあ、そこの美少年!」


 見事なまでに光を失った黄色の瞳が鈍い白の髪の下から声の主を探す。血のように赤い唇を開き、とりあえず挨拶をこぼした。正確には、血に濡れて赤くなった唇から、だが。


「こんばんは」


 輝きのかけらもない白いざんばらの髪は10歳ほどの少年の顔の横が1番長く、首元が1番短い。白皙の美貌というより蒼白の病人ズラと言いたいその顔は声の通りたしかに整っていると言える。だがその整った顔もまぎれようもない黄色い瞳によって吐き気を催すまでに醜悪なものに見せた。


 少年の瞳はどこまでもただの黄色なのだ。原色の黄色の絵の具をべたっと塗ったみたいな、照りのないただの黄色。死んだ狼の瞳と忌み嫌われる、生者とは思いたくない不気味な色。


「いいか、美少年。荊で縛られた時はな、一層の事体重をかけて自分から刺さりに行くといいぞ!ここで躊躇しないのが最大のポイントだな!一思いに刺された後は変に擦れて細かな傷を増やす心配がないからな!」


【声】は楽しげに少年に忠告する。知識を披露できることが羨ましくてたまらないといった声音だ。

 そう、白い髪、黄色い瞳、整った顔の病人のような少年は、ぶかぶかの半袖一枚で荊に両腕を縛られていた。ちょうど、膝をつく格好で。その首には首輪がはめられ、鎖によって地面へ引かれている。


 少年はいままで無心に首を地面に強く惹かれず、荊も刺さらないギリギリで態勢を保っていた。

 少し動くだけで肌を傷つける荊のせいで少年の腕にはすでにひどい傷跡ができ、血が常に流れ出ている状態にあった。


「はい」


 いつものように無感動に言葉に従う。マリオネットを思わせるその姿勢も少年が死んだ狼と呼ばれる所以の1つでもある。


「っひ」


 肌を貫き、食い破る棘に痙攣する体、更に血は流れ、ふと気づけばしっかりと刺さったトゲは体を動かないように固定し、荊は少年の体を支えるロープのようになっていた。

 明らかに、今までよりも楽で痛くない。


 少年は混乱した

 今まで三種の人間がいた。

 継母上に従って少年を更に虐げる者

 見て見ぬ振り、あるいは同情しつつ何もしない者

 助けようとして継母上の逆鱗に触れる者

 今まで、この窮地を救おうとしてくれた者はいても、この窮地においてより楽に生きる方法を教えてくれた者はいなかった。


「美少年、その体制は楽だがな、あんまりそのまんまだと荊に呑み込まれるから3日くらいしたら傷を移すんだぞ?じゃね!」


 そして声は去っていった。同情も憐憫も恐怖も嫌悪も何もなく、純粋に、雨に濡れる人に雨宿りの木を教えるような、一時的な解決法だけを残して。

 荒地に、鉄の十字架が立ち、そこに纏い付く荊に身を縛められている醜い子供。

 どこか呑気で悪戯っ子のようなその【声】は、少年が生まれて初めて少年の心を動かした。


「びしょうねん…」


 醜い、禍々しい、怖しい、恐ろしい、毒々しい、そんな言葉を投げ続けられてきた少年にとって、己の容姿を褒められたのは久方ぶりだった。死んだ狼、娼婦の息子、醜い悪魔、それ以外で呼ばれたのは久しぶりだ。

 暖かく柔らかな存在が、囁いてくれた、あの僅かなほっこりする時、それ以来で。


「っふふ」


 少年はゆっくりと、どこまでもただの黄色の瞳を閉じた。







「こらこら、美少年!」

「こんばんは」


 最初に荊の十字架で会ってから1年、少年は【声】に13度会った。【声】の存在は着実に少年の壊れそうだった心を持ちなおさせたが、あくまで【声】は少年の心の中には受け入れられず、【声】もまた、少年に必要以上に干渉しようとはしなかった。


「そんなところで何してるんだい?ここは魔獣の森、少年のような美しい者は取って喰われてしまうぞ!今回の君はいつにも増して不思議な格好をしているね?死にたいのかい?死にたくないのかい?」


 頭を決してあげさせない首輪のせいで、少年は未だに【声】を見たことがなかった。


 今回の場所は魔獣の森。その中でも1番月の光の当たりやすい開けた空き地、そこに生える一本の古木に少年はやはり、あの時と同じ荊であの時と同じように繋ぎとめられていた。

 あの時と違うのは、少年の蒼ざめた肌には無数の鞭の跡が走り、そこにおびただしい薬が塗られ、更にその上から魔獣を呼び寄せる蜜をぶっかけられ、かつ魔物を退ける薬草にまみれていることか。

 最初に【声】に教えられたことを忠実に守っておとなしく棘に貫かれたまま、少年は地面に答える。まあ、地面にしか向けないだけだけど。


「継母上の下の娘が、ぼくにご執心でね。それを許せない愚息がぼくを傷つけ、それを下の娘が治そうとするイタチごっこの結果だよ」


 少年は、1年経って知識を蓄えた。それは少年へのこの仕打ちに継母上の娘二人と息子1人が加わったおかげだった。


 一応弟に当たる愚息は見事に継母上と同じ性格で、大喜びで少年を傷つけ弄んだ。執拗なまでに物理的な傷をつけることを喜ぶ愚息のおかげで、少年の体には傷が絶えなくなった。


 一応姉に当たる上の娘は継母上の性格を更に捻じ曲げた性格で、大喜びで少年を辱め、嬲った。執拗なまでに精神的な傷をつけることを喜ぶ変態のおかげで、少年の誇りも自尊心も最低まで落ち込んだ。


 一応妹に当たる下の娘は、継母上の性格を斜め下方向に受け継いだ性格で、大喜びで少年に構い、愛で、愛でられたがった。少年に執着し、少年に愛を捧げるように迫った馬鹿のおかげで、少年の女性に対する対応は磨きがかかると共に女性への軽蔑が生まれた。


 そして彼らとの会話のうちで、不本意にも少年は知識を得た。馬鹿を使って本を読むことすらできた。

 そして少年を壊す理由その全てが、【声】と話しているおかげで抑えられ、気にならなくなった。【声】は全てに対する対処法を知っていて、少年が壊れる前にそれを教えてくれた。


 まあ、多少どころではなく性格が歪んでいることは自分でも自覚しているところではある。


「なあ、美少年。死ぬ前に名前を教えてくれないかな?多分、僕が離れたら数刻、ちょうど明日になるくらいに君は死んじゃうから。君、明日には死んじゃうよ。」












「え?」











 いつも、助言をくれるのと変わらない口調で、【声】は少年に名をねだった。【声】は少年の死を宣告した。今度は、【声】にも助けられない。それを知った少年は、恐怖と、絶望に飲まれた。


「っえ?」


「だから、君の名前を「死にたくない!」


 だって、ここまで、生きてきたのに


「死にたくない、死にたくない、」


 どんなに殴られても、斬られても、打たれても、

 辱められても、嬲られても、恥辱に塗れても、

 偽りの愛を囁いても、嘘と偽りを囀っても、

 それでも、生きてきたのに、


「ぼくを生かしてきた君が、ぼくを殺すというのか、【声】!」


 ぼくは、死にたくない。


「いやだ、いやだよ?」


 だって、いつか、いつかは、


「いやっだぁっ」



 青い空を、もう一度、



「僕は生きたい!!!」







 この瞳に







「ねえ、君は生きたかったの?」





【声】が、かつてないほど近くに聞こえた。ガシャガシャという耳障りな音で、少年はようやく自分が首や腕が更に傷つくことを恐れもせず暴れていたことに気づいた。


「…生き、たい、許されるなら、ちゃんと」

「なあんだ、そうだったの?」


【声】が、愉快げで快活で悪戯げで闊達明朗を音にしたようなその音に、どこか退屈さが、かすかな失望が、混じったように思えた。


「ねえ、名前を教えてよ。」


【声】が孕むかすかな怒りと失望を感じて、少年は思わず名を口にした。それを、自分の名と思ったことはなかったが。


「キスツス・アルビドゥス・シーナー・ヤンガードルシュタイン」

「ああ、ヤンガードルシュタイン家の玩具って君のことだったんだね!にしてもキスツス・アルビドゥス?まさに今の君にぴったりの名前だよ!」


【声】が嗤う。狂気を恐怖を思わせる声音で。芝居掛かった仰々しい口調で。


「でもね、【これからの君】には似合わない。ヤンガードルシュタインという鎖もいらないね。」


 唐突に、黄色い手が鎖に触れた。

 ばぎゃんっ

 鎖はものすごい音とともに、爆縮した。親指の爪ほどの大きさに、小さく。久しぶりに、地面に引かれる力がなくなり、反射的に顔を振り上げた。

 そこには、鬱蒼と茂った森と、夜闇しかなかった。


「…え?」

「キスツス・アルビドゥスという荊は必要ない。」


 ずるっ

 荊が解ける。ベトベトした蜜に足を取られて、少年は思いっきりすっ転んだ。仰向けに。

 満天の星空と、少年を見下ろす影があった。


「君は今からただのシーターだ。」


 その言葉とともに、少年の意識は闇に飲まれた








 シーターが意識を落としたのを確認し、シーターを覗き込んでいた黒マントはどこへともなく声をかけた。


「イド、シーターも連れてく。登録して、シーターは新しい仲間だ。」

「はい、リュカ」


 夜闇から、黒いマントの人影が現れ、リュカと変わるようにシーナーの顔を覗きこむ。


「登録:シーター」


 リュカと呼ばれた影もまた、黒マント。

 リュカが手をかざせばみるみるうちにシーターは清められ、浄められ、癒された。

 そこにいるのは、不思議な髪型の少年。傷も、薬草も、蜜も薬もない。

 それらが一瞬で消えたことにリュカもイドも何ら疑問を抱かない。


「リュカ、シーターを仲間として登録を済ませました。」

「うん、じゃあさっさとここを出ようか。そろそろ追っ手が気づく頃だろうし。ラビ?」


 闇がうごめき、黒いマント、いや、黒い布をまとった巨大な獣が現れた。何を命じられるまでもなく、獣はシーターの服を咥えて背に放り乗せる。


「じゃあ行こうか、イド、ラビ」

「「わん」」


 先頭をイド、右後ろにリュカ、左後ろにラビとシーター。3人と1匹は、辺りの森に散らばっていたヤンガードルシュタインの兵に気づかれずひっそりとその姿を消した。

ノリとテンションで見切り発車しました。

楽しんでもらえれば幸いです。

第0章は説明的な部分が多いので、出来たら第1章まで読んでみてほしいです。

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