15 服飾街と旅の組合
「なにをしているんですか。」
抑えた声は、喧騒を切り裂き、その怒りを周囲の人間全てに気づかせた。
「え?あ、髪切り屋の頭さんじゃん!」
「どうしたの?お店見張ってないと若が暴れちゃうのに!」
「頭ー!遊んでくれるの?」
わらわらと嬉しそうに近寄ってきた子供達に言葉を返さず、ナスイさんは鳥の騎獣の足を進ませた。そして憎々しげにこちらを睨みつけていた青い少女を有無を言わさず引っ張り上げ、ぼくとナスイさんの間に乗せた。
「行きますよ。」
「「『はい⁈』」」
ぼくと白露、そして青の少女が盛大にハモった。
「こんにちは、旅の方々。私たち旅の組合はあなた方を歓迎いたします。本日のご用件はなんでしょうか?」
にこやかな笑みを浮かべる受付の女の人に、賞賛を送りたい。
不機嫌そうな青の少女の首根っこを捕まえ、ぼくの肩を抱くようにして押さえつけているナスイさんに、動揺を見せずに応対しているのだから。
「M Cardの発行をお願いします。この子たち、2人分で。」
「かしこまりました。2人合わせて登録料3シーガ銀貨です。」
1人1.5シーガ。庶民の約一月分の生活費である。
魔法のアイテムであることを考えれば安いようにも思えるが、決してホイホイ払える額ではない。
「ではこれで。」
紅孔雀印の巾着と青い巾着からそれぞれ1.5シーガずつ出したナスイさん。その手はギリギリ目視できるくらいの速さでぼくらを捕らえに戻った。逃げ出しかけていた青の少女は再び子猫のようにおとなしくぶら下げられている。
…この人、人間だよな?
「はい、ちょうどいただきました。どうぞこちらへ。」
旅の組合のカウンターの奥の部屋、そこには半径1メートルほどの魔法陣の上にポツンと、全身鏡が置いてあった。
「ではお一人様ずつ魔測鏡の前に立ってもらえますか?鏡面に出るデータは本人にしか見えないのでご安心ください。」
示されたのは何の変哲もない全身鏡。いや、何の変哲もないというのは正確じゃない。鏡の1番上にはガーゴイルを思わせる口がついていた。
ナスイさんに促され、白露を預けてから魔法陣に入る。
《紫陣》ー干渉確認
《魔測》ー認証ー測定ー完了
《M Card》ー認証ー獲得ー完了
ノイズが脳内に走り、鏡に紫に揺らめく文字が浮かび上がった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【名前】キスツス・アルビドゥス
【真名】シーナー
【家名】ヤンガードルシュタイン
【種族】人 lv25
【職業】奴隷 lv23 従者lv1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
HP 1500
MP 580
STR 300
GRD 600
AGI C"
INT 400
MND 1800
DEX 230
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【武器】
・no data
【装備】
・闇衣 lv??
・肩掛けバッグ 皮 3/10
(保管布
(上等干し肉 一切れ
(皮袋:1銀貨 5銅貨 30銅銭
・フレザの食客(橙)上 lv16
・フレザの食客(橙)下 lv16
・フレザの食客(橙)ブーツ lv16
【魔具】
・???? lv??
・大樹霊ノ双葉 lv 3
・M Card lv1
【聖具】
・no date
【魔法】
・no date
【技術】
・???? lv??
・???? lv??
・夜目 lv19
・痛覚制御lv48
・心身制御lv42
・暗記lv21
・速読lv 20
・生存本能lv73
【加護】
・???? lv??
・???? lv??
【呪い】
・???? lv??
・???? lv??
・死んだ狼 lv43
【称号】
・死んだ狼
・ヤンガードルシュタインの玩具
・悪魔の子
・合成獣使い
・旅の組合員:Z
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…うわあ」
職業奴隷とか、技術の種類とか、いろいろ突っ込みどころ満載だ。
しかも呪いにも称号にも死んだ狼あるし…
『なぁあ、あるじどの、よしよしー』
いいこいいこと白露が頬ずりしてくれた。気持ちい、可愛い、愛おしい。
「シーターくん、好きな称号1つと登録名を魔測鏡に宣言してください。そうすればM Cardがもらえますから。登録名はシーターでいいと思いますよ、称号は好きなものを。」
称号にまともなものがない場合はどうすればいいんだろう。
『はくろ、きめらー、あるじどの、はくろのなのー』
うにゃうにゃ言っている白露の言葉を脳内変換してみる。
“あるじどのは合成獣の白露のあるじどのなのー”
「合成獣使い シーター」
《紫陣》ー干渉確認
《M Card》ー捕捉ー認証ー精製ー完了
ノイズが走り、そして鏡の口から透明な白に金で文字の書かれた手のひらサイズのカードが飛び出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
M Card 【Z】
合成獣使い シーター
(合成獣 白露
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うん、綺麗だ。
「利き手の甲に押し付けて下さい。」
組合のお姉さんの言葉に従う。
ふ、と一瞬紫の光を放ったM Cardが甲に吸い込まれるようにして消えた。
「っ、わあ」
そこらじゅうが煌めき、魔法陣が淡く光っている。
これが魔力。
白露の胸の宝玉が、尋常じゃない魔力を湛えていることも、瞳が銀ではなく光の加減で黄緑に見えることも知る。
こんなにも綺麗な景色、外に出たらどうなっているのだろう?
水牢楼も気になるけど、何よりもフレザ城の炎の木。きっともっと美しい。
「水牢子のルーヴィア。」
青の少女の声に目を向けると、ちょうどM Cardをしまったところだった。
「そちらは【M Card】と呼べば本人のみに表示されます。そして、【M Cardー提示】」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
M Card【T】
旅の組合フレザ支部受付嬢 レミ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「このように皆さんにも見えるように提示することができます。国境を越えるとき、新たな街に入るときなどは提示を求められる時がありますのでこのように提示してください。そして…」
説明をまとめるとこうだ。
・【M Card】で自分だけが視認
・【M Cardー提示】で組合ランク、称号、呼び名を提示
・【M Cardー(名前)】で(名前)の人に自分が許可したステータスを提示
・M Cardの横にはA〜Zまでランクが表示
・ランクは旅の回数、組合の仕事請負数などに応じて上がる
・罪を犯すと手の甲に紋が浮かび上がり、常に【M Cardー提示】状態になる
・詳細はそれぞれの名前をタップすると読める
・技術として【看破】、【透視】、【魔具干渉】などを持っている人には盗み見られる可能性がある
・情報の更新は深夜0時に行われ、それまではレベルが上がったり装備が増えたりしても内容は変化しない
「では、良い旅を。」
「ありがとうございました。」
旅の組合を出たぼく達は、なぜか怖い顔をしたナスイさんに彼の知り合いの方の店の個室に連れてこられていた。
「【V Cardーシーター ルーヴィア】」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
V Card
髪切屋橘ノ頭 名水
【名前】名水・レイユール
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「私の場合V Cardですが、M Cardも同じです。このように表示してください。自己紹介しましょう。」
「「はい?」」
「髪切屋橘の番頭、名水・レイユールです。」
称号が番頭ではなく頭なのは、きっと突っ込んではいけないのだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
M Card 【Z】
合成獣使い シーター
(合成獣 白露
【名前】キスツス・アルビドゥス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぼくはシーター、この子が白露です。」
『はくろー』
脇の下から手を差し込み、持ち上げてあげるとパタパタと背中の翼をはためかせて見せていた。
拗ねた顔の青の少女の口がかわいい、と動くのを見てちょっと嬉しくなる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
M Card 【Z】
水牢子 ルーヴィア
【名前】ルーヴィア・双亜
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…水牢子ルーヴィア。」
「さて、顔合わせが済んだところで申し訳ございませんが店主と話してくるので少しお待ちください。決して、何があろうとここから出ませんよう。」
「「えっ、」」
止める間もなく、含みのある言葉を残したナスイさんは部屋から出て行ってしまった。
残されたぼくたちは思わず顔を見合わせた。が、それも青の少女、ルーヴィアさんが目をそらすことで終わる。
暇だ。にしても暇だ。
今、ルーヴィアさんを放ったらかしてステータスを確認したら起こるだろうか?
『なぁぁ〜』
「っふゃっ⁈」
「あ。」
白露が、着地した。ルーヴィアさんの頭の上に。
『るゔぃ、いいにおい、ふあふあ、なー』
「ちよっ、えっ、なにこの子、どうすればいいのよっ!おりて、ちょっと、」
パニックになっている割にははたき落すようなことはせず、やんわりと持ち上げようとするあたりにこの無愛想な少女の本質が見えた気がした。
「困らせちゃだめだよ白露、おいで」
『やー、はくろ、まだおこー!』
思わぬところで白露がまだ怒っていることを知ってしまった。
少なからずショックを受け軽く呆然とする。
まさか、嫌われてしまったのだろうか、もふらせてくれなくなったりしないよね?ね?
「ちょっと、君!ねえ!合成獣使いなら自分の合成獣くらいちゃんと守りなさいよ!ちっちゃい子供だからって守るべきものを守れない理由にはならないんだからね!」
「合成獣じゃなくて白露!それにぼくはちっちゃい子供じゃなくてもう若人だから!君より年上だから!」
「なっ、名前にこだわる前に絆に拘りなさいよ!私にしがみつくとか嫌われてるんじゃない⁈それに私はもう…ってなんで泣きそうになってるのよ!」
白露が、ぼくを、嫌い?
やっぱり、あの変態の犠牲にしたぼくなんてもう嫌いになっちゃったのか?他の人を呼ぶとか話をそらすとか別の人を話題にするとか、いろいろやりようはあったはず…!
白露に嫌われたらプニプニの肉球もすべすべの頬もふさふさの胸元もフアフアの耳もしっとりした鼻も触らせてくれなくなっちゃうかもしれない…!
どうしようかあの幸せを知ったいまもう元には戻れないどうすれば白露は許してくれる?
考えろ考えろ考えろ、この死地を脱するには、ナタさんを排除する?いや近づきたくないな。城から出る?いや、リュカのお仕事がまだだし物語屋と離れたら危ないし…あ。
「そうだ、城を燃やそう。」
「いやいやいやいや、待ちなさい。何があったのよいまの数秒で!私の言葉への反応が何をどうすれば城を燃やすことになるのよ!そもそもフレザ城は絶対に燃えないからね!炎使いの城が燃えるわけないからね!」
「じゃあ…秘伝のレシピ【これぞ完全犯罪☆みんなまとめてみ・な・ご・ろ・し♡】を使って街ごと…」
「何よその物騒すぎる秘伝のレシピは!君は一体何と戦ってるのかな⁈」
「え、変態執事と。」
「ナタさんまたあなたですか!くっ、一概にやめろと言えないところが辛いぃっ!」
「…なんか、最初とキャラ違いすぎない?」
「っ、誰のせいよ!」
「…幼い子供に責任転嫁するって、どうなのかな、おねえちゃん、ぼくがわるいっていうの?」
「っう、罠だとわかるのに強く言えない自分が憎いぃぃっ!」
なかなかいい性格をしている。空を仰いで絶叫してはいるものの、落ちないように白露を抑えてあげているあたり本来の彼女の性格が推し量れるというものだ。
「ぼく、シーター。合成獣じゃなくて白露。よかったらそう呼んで。」
「君ねえ…私はルーヴィア。ヴィアって呼んでもいいよ。…本名は嫌いなの?答えにくかったらいいけど…」
「ルヴィって結局何歳?」
「いや、ヴィアって読んでって言ったじゃないの…淑女に歳を聞かないの。」
「だって白露が」
「許す。」
うん、もふもふは正義だよね。
白露はぼくたちの応酬が沈静化したのを見てルヴィの膝の上に丸まっていた。あるいは再燃しないようになのかもしれない。
「それにしても遅いわね、名水ってば全ての行動は可及的速やかに、が座右の銘なのに。」
ナスイさんは芯から苦労人なのだということを再認識しつつぼくも頷く。
ぼくの案内役は仕事だ。それも普段の仕事に横槍を入れる形で御領主様に命じられたものだ。それを友達と話したいからなんて理由で寄り道するとは思えないし、話すにしても長すぎる…
がっしゃぁぁぁんっ
「「っ!」」
何かの割れる音、怒号と悲鳴。
『なーゔ、あるじどの、きず、におう!』
そして白露が毛を逆立てて扉を睨む。
「どうしよう、名水…!」
小さく叫んだルヴィは、白露が滑り落ちるのも構わず、扉を開け放ち飛び出していた。
それを追うぼくも、先に出たルヴィも、あの馬鹿げた応酬のせいで忘れていた。
「決して、何があろうとここから出ませんよう」
そう、ナスイさんが言い残していたことを。
漸く青の少女の名前がわかりました!
未だに予言の話が出てこないという題名詐欺続行中ですが一応物語は動き始めている!はず!




