14 服飾街と苦労人
「ふふふ、ご自分から道を譲っていただけますか?それとも、私がお手伝いいたしましょうか?ええ、好きな方をお選びください、さーん、」
「にっ、逃げろぉぉっ!!」
「ひいっ、道の端に寄れえっ!」
「絶対道を塞ぐなよっ!」
「「死ぬぞっ!」」
拝啓、陽だまりの御方。ぼくは今、かつてないほど逃げ出したいです。優しいあなたの元へ行きたいです。
数時間前。
「ではシーター様、こちらへ。」
「ナタさんが連れてってくれるんですか?」
カナン様とリュカを部屋に残し、中庭へ行くらしいラビとイド様と別れたぼくはナタさんに先導されて廊下を進んでいた。
さっきまで倒れていたため、ふらつくぼくの肘を持って軽く支えてもらっている状態だ。
申し訳ないからと遠慮しようとしたらあのマシンガントークでお願いされてしまったので遠慮するのは諦めた。
「これはこれは、シーター様がまさか私めをご所望くださるとは光栄の至りではございますが同志たちを裏切り1人至福の時を得ようなど浅ましい真似はんぐっ「ごめんなさい、ナタさんが一緒じゃないということだけはわかりました。」
ナタさんに向かって放り投げた白露が、ナタさんの髪に必死に爪を引っ掛け、ナタさんはわたわたと白露を支えようとする。
ごめんなさい、ナタさん、白露。でもこれ以上は聞いてはならないと本能が警鐘を鳴らしてる気がするんだ…
なんだかもう遅いような気もするけど。
『なあっ、あるじどの、あるじどのっ、このひと、なんかやー!』
もふもふもふもふもふもふもふもふもふ
ナタさんが、白露を顔に引っ付けたままもふり始めた。
うん、怖い。
「…がんばって、白露」
『んなぁっ、あるじどのっ!あーるじっ、どのっ!』
バフバフと白露のもふもふな手がナタさんの頭を叩き、足が容赦なく顎を蹴る。
『んなぁぁぁぁぁぅぅゔぅっ!』
《創芽》ー獲得ー発動
ぽぽぽぽぽぽんっ
白露の肉球の触れたところに双葉が芽吹き、白露を僕の方へ押しもどす。
『なぁぁぁっ』
「っわ、」
「はっ、どうやら我を失っていたようです。お見苦しいところを見せました。不思議です、私は犬姫様一択だったはずが…!」
何やらぷつぷつと呟いているナタさんは放置(怖いので)。
大丈夫かと白露を覗き込んだ瞬間
ばふっ
「んぐっ」
もふもふの手が顎にクリーンヒットした。
HP削られた気がするぞ今の…!
『あるっ、あるじどののー、ばかぁー』
いつもはゆったりとこちらまで気が抜けるような喋り方な白露があれだけ必死に助けを求めていたのだ、かなり嫌だったんだろう。
泣きそうに揺れる声音と潤んだ瞳に罪悪感に心が痛む。それを凌駕して可愛い白露に心がときめく。
「…ごめんね、白露」
ほんとごめん、いろいろと。
『なぅぅ、やー』
言えない、ポフポフと肉球で叩かれても可愛いだけでもしろ嬉しいとか、絶対に言えない。
なにやら虚空を見つめてブツブツつぶやき続けるナタさん、ポフポフと全く痛くない豹パンチ(?)を繰り出す白露と、ニヤニヤしないように真顔になって肉球を受け入れるぼくというなかなかカオスな光景は、それからほんの2分後、あるいは2分も続いた後にマーチェスさんが現れたことによって強制終了となった。
「ありがとうございました、マーチェスさん」
案内役の方がいるという客室へ足を進めながら、僕は救世主さんにお礼を言った。ナタさんにマーチェスさんからぼくが寝ていた3日間、世話をしてくれていた、と聞いたからだが…あのカオスな場所をすっぱり解決してくれたからというのが大きい。
正直白露のあまりの可愛さに時間も目的も忘れていたから彼女が来てくれなかったらずっとあのままだった可能性もある。
「いえ、お客様にこちらの事情…といますか、同志の私情でお時間をとらせるわけにはいきませんから。それに、私共城付き侍女としましても、可及的速やかにお連れしたいという理由があるというか…」
栗色の髪に栗色の瞳、初日からずっと僕のお世話がかりをしてくれているマーチェスさん。いつもは楽しそうにニコニコしているマーチェスさんなのだが、今は少し遠い目をしている。
「…なんか嫌な予感がするのですが。」
「元気になられたばかりのお客様にこのようなことを言うのは非常に心苦しいのですが…お気を確かに持ってください。」
マーチェスさんの瞳に、真剣な光が宿る。それはもう、死地に赴く兵士のような真剣さだ…
ぞくっ
…なんだろう、このデジャヴ、何かこの例えをどこかで聞いた気がする。
そして、一階下がればそこは、戦場から逃げ延びてきた兵たちが虚ろな目で彷徨っていた。
「…お客様がいらっしゃったらまず目より少し下を見てご挨拶したのちに…」
「…客室に飾る花は匂いの強めの花をお客様の来る前に飾っておいて、お客様が来たら匂いの強くない花を…」
『あるじどのぉっ、ひと、へん!こわい…』
「あの、マーチェスさん、これは一体?」
「見えません。」
マーチェスさんがさらに遠い目になる。もはや自動で動く人形のように意思を消した瞳に、何も言えなくなる。
さらに一階降りる。
「ふはははは、白い、白くなっていくぞふはははは」
「ホコリサァン、ニゲナイデクダサァイ、ミーンナマトメテオソウジデスヨォ?」
「マーチェスさん、これ大丈夫なんですか⁈なんか魔獣とかの呪いにかかってたりしませんか⁈」
もはや白露なんて怯えきって僕の胸元に顔を埋めてプルプル震えている。
一応伝説の大樹霊なのにこの可愛さ。守りたい。
と言いたいところだけど助けて大樹霊様だよ何ここ怖い。
「申し訳ございませんお客様あと少しお歩きくださイマセ」
だめだ、マーチェスさんまで呪いにかかったみたいになってる。
『あるじどのぅ、きらい、うそ、なの、』
なんか白露が可愛いこと言い始めたがそれとほぼ同時に僕は客室の扉についてしまった。
ほんの一瞬、マーチェスさんの瞳に光が戻る。
「この中には魔王がいます、お気をつけて、では、ワタシハ、コレデ。」
マーチェスさんがなにやら侍女の心得らしきものを呟きながら去るのを見送り、深呼吸する。
上階の騒ぎがうそのように静まり返った廊下で白露をしっかりと抱き直し、そして扉を開いた。
「4日ぶりですね、小狼くん!相変わらず可愛いですねえ!あたしのお店で雇いたいくらっぐむっ」
「こんにちは、小狼くん。体調は大丈夫でしょうか。」
「ごっ、ごめんなさいっ!わざわざ来てもらったのにお待たせしちゃって…ごめんなさい!」
ぼくは、その挨拶を聞いた瞬間反射的に謝った。
清々しい笑顔でセタさんの口を封じているこのお方こそ、あの死屍累々を築き上げた張本人に違いない。
淡い紫の瞳に、茶色の髪の青年。頭こと、ナスイさん。
「ふふっ、ふふふふふっ、いいんですよ、君が謝る必要はありませんから、ええ、そうです、まさかご領主様のご命令を拒否することなんてできませんから、ふふふっ、ええ、光栄ですよ、ふふふふふっ、ついでに城の者たちを教育せよとのことでしたので、ふふふ、少しお勉強会をしておりました、ふふふふっ、皆さん、一度で覚えてくださったようで何より、ふふふ、これで帰ってきたときに忘れていらっしゃったらどうしましょうか、ふふふふ、悪いのはどなたでしたっけ、ふふっ、仕事、仕事たくさん、ええ、謝られる必要はありません、今更1つや2つ増えたところで変わりませんから、ええ、ふふふふふふふふふ」
どうしよう、帰りたい。というより帰してあげたい。
壊れたように穏やかな表情で笑い続けるナスイさんを前に、ぼくは引きつった笑みを浮かべるしかない。
「すみません、ちょっと心の声が漏れてしまいました。私は小狼くんの案内役に、若は城の方たちの散髪に来ました。病み上がりの小狼くんは責任持って城にお返しいたします。それでは参りましょうか。」
「あの、シーターとお呼びください、ナスイ様…」
「?私に敬語を使う必要はありませんよ?お言葉に甘えてシーターくんと呼ばせていただきます。私のことは名水とお呼び捨てください。」
「…いえ、今日は宜しくお願いします、ナスイさん。」
そして、冒頭に戻る。
ナスイさんの微笑みに、見事に人垣が割れ、ナスイさんの愛鳥は慣れたようにその隙間を進んでいく。
本当に魔王もかくやという恐れられ様にぼくはリュカたちがナスイさんを案内役に選んだ理由を理解した。
美少年と話したいなんて名目で名水さんの行く手をふさぐような愚か者はいない。
「ふふふふ、ご協力ありがとうござまいます。」
ナスイさんの腕の中で軽く魂を飛ばして現実逃避しつつ揺られること30分、僕らは誰にも邪魔されることなく、旅の組合は目前だった。
「なんで!」
「魔王の血を引く裏切り者から街を守るんだ!」
「失せろ魔王!」
「フレザからでてけ!」
魔王様のお通りに気づかない愚か者たちが、そこにはいた。
若人になったか、なっていないかくらいの少年たち。
彼らは、青い髪の少女を、寄ってたかって罵倒していた。
ふ、と背後の魔王様の雰囲気が変わる。
今までの過労によるハイテンションから、低く冷たい、まさに魔王的な雰囲気に。
陽だまりの御方、もしかしたらぼく、死ぬかもしれないです。魔王様のお怒りの流れ弾で。
予言を本人が知らないという題名詐欺が続いておりますがそろそろ教えるはず…!あと5話くらい後で…!(結局遅い)
個人的には名水さんとても好きです。
今後とも積極的に忙殺させていこ【ここで文章は途切れている】
「ふふふふふふっ」




