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物語屋と死んだ狼は予言の勇者を望まない!  作者: 春夏秋冬
第1章 服飾街フレザ
11/49

9服飾街とおかしな出会い

「青、か。」


 青ゆえに

 それが答えだ。

 あの少女は青いという理由だけで疎まれた。

 子にも親にも選べぬ【色】を、咎とされたら、一体どうすればいいのだろうか


「ねえ、リュカ」

「なんだいシーター!」


 物語屋リュカは、いつもの通りに返したけど、その新緑の輝きは、あの山道で見た輝きに似ているように思えた。

 少し、影の混じる魅惑的なその瞳に、ぼくは聞いた。


「君はなぜあの子を助けないの?」

「理由がないからね!」

「そっか」


 青い女の子を思い浮かべる。理不尽に、怒りを浮かべていた青い瞳を、突き飛ばされて土に汚れた青い髪を。

















 うん、大丈夫

 もう、何も感じない。


「っく、ははは」


 あの青い子は、将来どうなるんだろうな


「さてリュカ、そろそろ行こうか」

「うん、そうだね。じゃ、ありがとね、ナスイ」


 そう言って立ったぼくたちの前に、ナスイどのが立ち塞がった。その瞳は、淡い紫色。

 なぜか、水牢楼のリョクスイ殿を思い出す。ぼくたちを出迎えたリョクスイ殿の、あのアオイロを。


「無礼を承知でお聞きいたします、狼の御方」


 決してぼくたちと真正面から目を合わせなかったナスイ殿は、真剣な瞳で、かすかに顔を白けさせてぼくたちに問うた。


 あの子を助けるつもりがあるのか、と。


「「なんで?」」


 ぼくとリュカはそう答えて、髪切り屋を出た。





「で、なんでそんな顔してるんだ?」


 出迎えてくれたのはマーチェスさんだった。彼女の栗色の瞳には、何も浮かんでいなかった。ぼくはそのままラビの過ごしている中庭へ案内してもらった。

 そしてリュカは、マーチェスさんと連れ立ってどこかへ行ってしまった。


「ねえ、ラビ…」


 中庭の真ん中に立つ金の幹、銀の葉、炎の花の大木の下、ぼくはラビの横腹に背を預けて座っていた。

 本来この大木には紅孔雀が住んでいるらしいが、ラビが鳥払いしたらしい。

 …勇者の騎獣を追い払えるラビって、規格すぎないかなあ


「ぼくは、おかしいのかなあ」

「くくっ、間違っているのかなあ、ではないのだな」


 ラビがグルグルと喉を鳴らす。猫であるならば機嫌がいいことを示すそれは、狼の場合なんなのだろう?威嚇…ではないし、まあ笑っていると見ていいか。

 太陽の光を受けるまでもなく、輝く銀の葉と炎の花を見上げ、ぼくは思考する。

 仮に、水の魔王の力をあの少女が持っていたら

 仮に、水の魔王の力をあの少女が持っていなかったら

 仮に、あの少女だけでなくその家族まで虐げられているのだとしたら

 仮に、あの少女に命の危険が迫っているのだとしたら…


「誰とともに生きようと、何を成そうと何も成さぬと、君自身の力で変えられる範囲は君の自由だ。」


 あの時、リュカに言われた言葉を口遊む。

 だからぼくは間違ってはいない。

 ぼくはぼく自身の意思で、何も変えないということを選んだ。それは、間違いではない。


「悩むといい、シーター!それは確立された、確立されていたお前の権利だ。お前は何もしないという道を選ぶという自由を行使したが、その道を変えるという自由も持ってるからな!」


 銀の葉がちらちらと木漏れ日を落とす。その光の乱舞に手を伸ばせば、ただでさえ白い肌がさらに白みを増した。


「ラビ、もう一度外に出たいんだけどダメかな?」

「?それは自由だぞ?…ああ、いいぞ、遊びに行くか」


 さすがに1人でこの未知の街を歩くのは心細い。そもそもこんなに人が多いところに来たのは初めてだ。一瞬祭りでもあるのかと思ってしまったことは秘密。商業学や帝王学などの本だけでなく、物語や伝記物も読ませてくれた教師役に感謝した。








「わ、おにーちゃんのにじゅーさんってわんわんさん?」


 ラビが連れて行ってくれたのは公園だった。

 色とりどりの天幕と、カラフルな衣装を纏った様々な特徴を持つ者たち。

【旅の方々の回転市場】と呼ばれるそこにはいろいろな国から来た服飾のお店が所狭しと並んでいた。

 とはいえ広い公園の、こと遊具近くには旅の方々の子供達が国や性別に関係なく纏まって遊んでいた。


「うん、ヴィラっていうんだよ。」


 今のラビはよく目立つ体を一回り小さくし、たくさんの空荷を背負っていた。

 ぼくがラビに乗れない以上、乗れない騎獣の狼を連れ立って歩くのは犬の御方、リュカの連れだと喧伝して歩くようなものだからだ。

 もちろんラビという名もそのままでは使えない。

 良い名がないかラビ、ラビ、ラヴィ、ラヴィラヴィラヴィと連呼してるうちに思いついたのがヴィラという名だ。


「はじめまして、ゔぃら、なでなでしてもいい?」


 最初に駆け寄ってきた子供がラビに目を輝かせながらたずねる。全身から触りたい!と主張している子供に、ラヴィはちらりとぼくを見た。


「飛び乗ったり乱暴にじゃなければ触って大丈夫だよ。優しく撫でてあげてね。できる?」

「うん!やくそくするよ、おにーちゃん!」


 前のめりに約束してくれた女の子に触っていいよ。と許可を出せばあっという間にラビは人気者になった。皆旅の経験が長いだけあって不用意に荷を結ぶ綱に触れたりしないし、口元に手を持って行ったりもしない。

 あくまでふれあいの範囲内で堪能しているようだった。

 子供達に取り囲まれて撫でくりまわされているラビを置いてテントの群れに足を踏み入れた。

 少し、ラビが責めるような目をした気がするがそんなのは気にしない。


「おすすメ、おもとメやすくなっテますよー!こレこそしつ、りょう、ネだんのそろったおかいどくひんですネ!」

「稜明国のお茶、お菓子、取り扱っておりやす〜」

「騎獣、荷獣のためのグッズ各種取り揃えています!今なら整備、メンテナンス、お世話もお売りいたします!」


 色々な特徴的な売り手の声に、値切ろうとする買い手の声、雑談に商談に笑い声に罵声に、悲喜交々の声と獣の声や金属の擦れる音、様々な音と色が混ざり合って、少し酔いそうにまでなった。

 さすがにこの情報量は多すぎる。


「やあやあ、そこのおきレいなわこうどさん、ちょっとみテいきまセんかネ?」


 豪奢な細工に布と糸、宝玉を多く使うのがここ、サーライズ国

 華奢な細工に木とガラス、銀を多く使うのがリョウメイ国

 流麗な細工に鱗や角、魔法を多く使うのがディアン王国

 雑多でカラフルでとにかくいろんなものを使うのがマーラカイナ海上諸国連合

 国以外では

 細かな細工に白と銀、聖なる力を使うのが神殿

 自然体の細工に白と赤を使うのが神社

 魔力、聖なる力と依り代を使うのが神霊


「おきレいな、わこうどさーん、ひとメもくレないのはさすがにこころにくるのデすがネ?」


 うん、こういう特色は覚えておくとその人の通った道筋が見えて今後使えるかもしれない


「おネがいネ、むしはだメネ?やっぱりこんなヘんなことばづかいのやつとははなしたくもないかネ…?」


 ………ん?


 なんか、目の前の天幕の人がちょっと泣きそうな顔してる。リョウメイ国の服の女性はぱあっと喜色を帯びた


「や、やっとこっちみテくれたネ⁈」


 あ、ちょっと面倒くさそうです

 うん、見なかった、何も見なかった


「わこうどさん?いまみたネ?わレのことみたネ?わレのこ…ちょっと、まつネ、く、あ、まっテくレそこのびしょうネん!!!」


 え、何待って怖いです何ですかあれ⁈

 逃げましょう、ここは逃げるべき

 人混みに飛び込んだ途端、


「セいなるかみがテづからつむがレたきぬいとのようなかみと、はのしゲったなつのたいじゅのネもとからみあげたそらのかがやきをこぼしたかのようにぎんのきらメっぐ」

「やめてください黙ってくださいお願いします」


 やだなにこのひと疲れる…

 にこにこと嬉しそうな笑みをだだ漏らしの女性はさっきお茶を出してから一言も喋らない。それはもう、身体中から幸せオーラを爆発させているのにも関わらず。


「…えーと、もしかして黙って下さいってお願いしたから喋らないんですか?」

「…(こくこくこく)」

「喋っても構いませ「はじメましテさーらいずのおうつくしいわこうどさんあレだケよびかケテもこたエなかったのにこんセつテいネいにほメたたエたらヘんじしテくレたのはやはりなるしす「お願いですから黙って下さい」


 すってぇー、はいてぇー、すってぇーーー、はいてぇぇぇー

 うん、この人あれだ、城の執事さんとか髪切り屋の若さんとかと同じ類の人だ。

 正確には、賛美ではなくて嫌味を他意なく言っちゃう人だ。


 あ、これ、黙って下さいモードのままなら逃げられるんじゃ…?


「…!…!…!…!…!…!…!」

 口パクで「にゲるはだメ」だそうです。

 なんか、視覚的にも聴覚的にもうるさいなあ、この人。


「なんで呼び止めたのか10字以内で言ってすぐに黙って下さい。」

「きゃくよセびしょうネん」

「11文字、はいアウト。帰りますね、お茶ありがとうございました」

「…!…!」


「まテ(焦)」といったところか。

 綺麗な茶髪に赤銅色の瞳。健康的に焼けた肌とアーモンド型の瞳。いわゆる美人の域に入る人なのになんでこんなに中身残念なんだろうか。

 …あー、ミカラナーン様もそうだなあ

 ……執事さんもそうだなあ

 ………城の人たち、みんなそうだよなあ

 …………今日会った人たち高確率で残念美人じゃ

 …あ、リョクスイ殿とナスイ殿はいい人だった。


「十五文字以内で話してください。ここは何屋さんですか?」

「おちゃとおかしやさんデす」


 うん、だろうとは思っていたけど…

 天幕内の戸棚には茶器が、その他のショーケースにはお菓子が並んでいる。


「あれらもですか?」


 真っ白なうさぎや、ネックレス、指輪。


「さとうざいくとあメざいく」


 どうしよう、会話が成立してる…

 本当に退席する理由がなくなっちゃった…


「エと、わレ、りょうメいのあきないのかたがた。おんなのこが、まちデ、いじめらレる、みた、」

「青の子の事ですか?」


 15文字以上だったからか少し不安げだった女の人は、こくこくと真剣な顔でうなづいた。

 句読点ありで切りながらならお好きに、といえばあからさまに肩の力を抜いた。

 …そんなに必死に喋ってたんですね。


「あおのおんなのこ、なゼいじメらレる?」

「…フレザに伝わる物語のせいです。青い目、青い髪の少女はかつてこの地に存在した水の魔王の容姿と合致します。」

「どこにいケばあエる?わレ、ひとみ、ヘんないろ、いじメらレテた。みすごすは、うらぎり。わレ、たすケらレた。たすケらレなケレば、わレはしんデいた。」


 真剣な表情の女の人は、珍しい赤銅色の瞳を揺らす。


「わレ、あお、たすケたい、」

「そう、ですか。ぼくは特に青の子の情報は知りません。関わる気もありません。ですが、何かわかったら教えるくらいはしても構いませんよ。」


 女性は、出会ってから1番の笑顔を浮かべた。

 元々整った顔をしている女性の笑みは、ぼくなんか引きずり込まなくても十分客寄せになると思う。

 …あー、でも中身残念だもんなあ


「なまエ、おしエテ」

「ものが…いや、ぼくはシーター」


 小首を傾げた女性になんでもないと首を振る。

 これは物語屋とは、リュカたちとは何も関係のないぼくの独断だ。ぼく個人の行動にしておけばリュカたちには迷惑をかけずに済む。


「わレ、やお」

「ヤオさん?リョウメイの方ですよね?」

「だネ」


 結局、何も買わないのも悪いので保存が効くという玉の形の飴玉の入った小瓶を買った。

 透明な飴玉に、赤や青、黄色などで線の入ったそれはリョウメイの昔ながらのおもちゃであるガラス玉をモチーフにしているという。


「では、もしかしたらまた来るかもしれませんが期待はしないでください。…お茶美味しかったです、ヤオさん」

「またネ、しーたー」


 パタパタと手を振るヤオさん。その姿はすぐにお客さんたちに埋もれてしまった。

 客寄せ効果は一応あったみたいで何より。





「ヴィラ」

 ちょうどラビと遊んで(?)いた子供達が帰ろうとしているところだった。

「あー、たのしかった!ありがと、おにーちゃん!」

「どういたしまして。あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」

「んとね、あんまりむずかしいことは、わかんないの」

「大丈夫だよ。聞きたいのは簡単なことだから。青い髪と瞳の女の子と、会ったことないかな?」


 青い髪と青い瞳、その言葉に、子供達が一斉に黙り、騒ぎ始めた。

 曰く、呪われた一族の子であると

 曰く、悪魔の愛し子であると

 曰く、仲良くしてはいけないと言われていると

 曰く、近づかれたら逃げないといけないと

 曰く、教会から監査を受けていると


 曰く、危険だったら全力で抗っていいのだと


「そう、ありがとう」

「おにーちゃんもちかづいちゃダメだよ!」

「市、もう夕方だから帰って来なさい…何してるんだ?」


 少女の父親だろうか、水牢楼の人達に似た衣装の、おそらくはリョウメイ国から来た商いの方々。ヤオさんとも似ている。


「ごめんな、坊主。市と遊んでもらっちゃって。親はまだ迎えに来ないのか?」


 親の、迎え。

 ふっと、外界の音が、景色が、遠ざかるような気がした。全てを認識しているのに、薄い膜が張っているような、それでいて鮮明な。

 楽しかった心も、寂しかった心も、かすかな憤りも。

 全てを飲み込んで、ただ




 。

 I

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 真っ白な世界で、磨きげられた鏡のような湖面にぽつねんと立ち尽くす、ダレカを見た気がした。


「いえ、これから帰るところです。ラ…ヴィラもいますから。」

「1人なのか?おじさんが送っていこうか?」

「大丈夫です。すぐそこなので。」


 これは嘘だ。フレザ城は遠い。

 でも、ラヴィがいるから大丈夫というのは本当だ。荷獣のふりをしているとはいえ本来は騎獣。そんじょそこらの破落戸にやられるほど柔じゃない。


「でもなあ…じゃあ、忠告だけは聞いてくれるか?」

「はい」


 そして、人のいいイチのお父さんは、真剣な顔で言った。


「青い少女には近づいちゃダメだ。あの子と一緒にいると、君までフレザの私刑に巻き込まれてしまうよ」

「…シケイ?」

「あー、なんていうか、あの子をよく思っていないフレザの大人たちがな、ちょっと強く注意するかもしれないんだ。その時に、君まで一緒に強く怒られてしまうからもしれない、というか。」


 思い出すのは、ぼくとリュカに笑顔で手を振り、商品を進めてきてくれたフレザの人々。

 善意は、簡単に悪意に覆る。


「はい、気をつけます」

「いい子だ。気をつけて帰りなさい、夜の街は決して昼の様に優しくはないから。…さ、帰るよ、市」

「ばいばい、おにーちゃん」

「うん、ばいばい、イチちゃん」


 名を呼ぶと、嬉しそうにきゃっきゃと笑ったイチちゃんはお父さんと連れ立ってテントの群れへ帰っていった。

 街に灯りがつき始め、先ほどまではいなかった少し露出の激しい人や、怪しげな風体の人が往来に現れ始めめていた。


「わふっ」

「ん、戻ろうか」


 遊んでいた子たちは皆、親が迎えに来たり自分で戻って行ったりして誰もいなくなっていた。

 帰ったら、また食器に手を触れることなく全自動夕食が待っているのかなあ…

 …ちょっと、わりと、あんまり歓迎したくないかも





 シーターを含めた、保護者と連れだって帰っていく子供達を、物陰から覗いていた存在に気づいたのは、ほんの数人ほどであった。

幼女、幼女に大人気なラビさんでした。

いいですよねえ、もふもふと可愛い子供達の組み合わせ。


(*ฅ•̀ω•́ฅ*)ガオー

(*^^*)(^O^)(≧∇≦)ゔぃらーーー!!


ちなみにシーターは子供が苦手です。主に義弟とか義妹とかのせいで。



【お詫び】

×ラヴィ

⚪︎ラビ

めっちゃ大切なもふもふ要員の名前を書き間違えてました。

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