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ドシンッと、夢羽が派手に音を立てて地面に落下した。
そのおかげで、近くの木に止まっていた小鳥が飛び立った。
「痛い…。ここは…どこ?」
夢羽は、あたりを見回した。
観葉植物がたくさん植えてある。
透明な壁も見えた。
その壁は、触ってみると薄い素材でできている。
どうやら、温室のようだ。
「綺麗な青空…」
空を見上げて、呑気に呟いた。
───チリーン…。
そのとき、微かに鈴の音が遠くから聞こえた。
「鈴の…音…?」
───チリーン…。
その音はだんだん近づいてくる。
「アリスなの?」
鈴を転がしたような澄んだ声。
声のする方を見ると、夢羽から少し離れたところに、黄金色の髪を二つに結い上げた少女が立っていた。
彼女の首に、金色の鈴がついた首輪を見つけて納得する。
さっきの鈴の音は、首輪の鈴の音だったのだ。
「あなたは…?…ここは一体どこ?」
夢羽は、その少女に尋ねた。
「やっぱり私のこと、覚えてなかったのね…。…私はイヴ。ここはシスティナ王国にある女王の庭園よ」
イヴという少女は一瞬、悲しそうな顔をした。
夢羽は眉をひそめた。
この少女もまたマリヌのように自分のことを「アリス」と呼んでいなかったか。
アリスとは一体何なのだろう。
システィナ王国という国も、聞いたことがない。
思案していると、こつこつと靴音が近づいてくる音がした。
「女王が来たわ」
イヴは背後に目を向けた。
彼女はおもむろに一つの鍵を彼女の衣装のポケットから取り出し、それを夢羽に手渡す。
「アリス、この鍵に願えばどんなところでもいける。…あなたがさっきまでいたあの世界にも。でも、あなたはまだその世界に戻ってはいけない。あなたは今から【猫】に会いに行くのよ。さぁ、早く」
あの世界ということは、自分がもといたところのことだろうか。
でも、なぜまだ戻ってはいけないのか。
そもそも、「世界」とは何のことなのか。
「アリス。早く」
イヴが急かした。
ここは考えていても仕方がない。
夢羽は、奇妙な名前の猫に会いにいかねばならない。
そこに、選択の余地はないのだ。
───【猫】に会いたい。
願った瞬間、夢羽の体はふっと消えた。