5
気がつけば、ヴィオレはどこかの部屋のベッドの上に寝かされていた。
ここはどこなのだろう。
確かノワールと闘って命からがら逃げて…。
あたしはもともと戦えるような力やものはもってないから…。
ああ、漆黒のマーメイドドレスもボロボロだわ…。
ヴィオレの頭に様々な思考がよぎる。
「…起きた?やっぱり動くんだ…」
部屋のドアには一人の青年が大きめの箱を抱えて立っていた。
眼鏡をかけた見知らぬ青年だった。
「誰…?あんた」
すばやく上体を起こして、ヴィオレは警戒して質問する。
「俺はユウ。お前がボロボロになって倒れてたから、ここに連れてきた」
睨むヴィオレに構わず淡々と話す。
「あっそ。御苦労。あたしのことはお前と呼ばないで。夜想曲第4楽章『ヴィオレ』と呼んで」
ヴィオレは自分の名を口にする。
この青年が自分の存在に全く動揺しないことが気になった。
まるで慣れているようだ。
ヴィオレは、ユウという青年を見定めようとする。
だが、青年の表情からは何も読み取れなかった。
「じゃあ、ヴィオレ。そのドレス、替える?」
「替えのドレスなんてあるの?ふん、まぁいいわ。こんな品のなくなったドレスとは早くおさらばしたいわぁ」
大きめの箱からユウが出したドレスは、ヴィオレに似合う白い下地に紫のストライプ柄のものだった。
なぜ青年がこんなものをすぐに用意できたのかは不明だ。
だが、このドレスはなかなか気に入った。
「自分で着替えられるから。部屋の外で待ってなさい」
淑女よろしくヴィオレが言う。
肩をすくめてユウは部屋の外に出た。
「悪くないわ。これ、あんたが作ったの?」
「そうだよ。まぁ、いろいろあって」
ドア越しにユウの声が聞こえる。
もしかしたら、とヴィオレははっとする。
───この人があたしを作った人形師かもしれない。
動く自分を見ても動揺しなかった。
けれど、正確なところはやっぱりわからない。
ヴィオレは、いつからか自分を作った人形師を探していた。
これといった探す理由は特になかった。
でも、何故か人形師を探さなくてはいけない気がして。
少し、様子を見てみることにする。
ヴィオレは密かにそう思うのだった。