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「待って…待ってよ、女王様…!私のダイナを返して…!」
「うふふ…ダメよ…アリス。あの子はこの国…いいえ、世界を変える猫なんだから」
アリスは必死で返してと叫び続ける。
「残念だったわね。アリス。貴女はもうそろそろこの国からお別れしなくてはいけなくなったわ。さようなら」
別の世界に飛ばされる───。
アリスは直感でそう思った。
とっさに近くに置いてあった紙袋を手に取った。
女王にさっき出会わなければこれからあの人に会って渡してたであろう紙袋を。
───渡したかったな…。
そこでアリスの意識は途切れた。
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近ごろ、森野夢羽の身の回りでは不幸なことが起こりすぎている。
例えば、烏が夢羽めがけて攻撃しようとしてきたり、夢羽の乗っている電車が週に三回は何らかの事故で止まったり、工事現場で木材などが急に倒れてきたり…。
とにかく本当に不幸なのである。
今生きているのが不思議なくらいだ。
「美桜聞いてよ~!」
学校に着いて早々に愚痴りだそうとする夢羽に
親友の高嶺美桜は溜息をつく。
「またぁ~!?いい加減にしてよね…」
愚痴を聞く身にもなってほしいと美桜は思う。
「今日なんかレンガが空から降ってきたんだよ!?」
「アンタ…よく生きてたわね…」
きっと少しでも歩くのが遅かったら頭に直撃していただろう。
「幸運なのか不運なのかよくわからないわ…」
美桜は半ば呆れた。
このやりとりも彼女たちの普段の光景だった。
おどおどとしている彼女に美桜が声をかけたのがきっかけだった。
かくして夢羽の物語が始まる。