ナルミ
昨日、手違いで22時10分頃に公開してしまいました。
すいません。
押忍!! ガクです。白昼夢というのをご存知ですか? 夢である事を自覚して夢を見る事が出来る事を言います。上級者になると自分で夢をコントロール出来るそうですよ?
何や柔らかい感触と良い匂いがするので、目を覚ます。
すると俺に抱き着くサラ。
俺のお腹の上にはルアンが寝ていた。
あれ?
どうして二人が?
俺のベットに潜り込んだのか。
ルアンがトイレでサラと一緒に行ってその後に寝ぼけてこっちに来たのだろうな。
昨晩は少し冷えたから、仕方ない。
右手に握られた物を確認する。
「やっぱり夢じゃないのか」
石ころがその手に握られていた。
お願い、か。
首にかけられているペンダントをスマホに変えて内容をを確認する。
するとメールに新しいのが入っていた。
あて名は神。
件名はお願いします。
ここまでお願いされると、やらない訳にはいかない。
すでに報酬ももらっちゃってる事だしね。
さて、内容は。
『帝都内の「ガルバイ」という裏のお店に「ナルミ」という少女が奴隷として収容されているわ。お金は申し訳ないけどそちらでお願いする事になってしまうけど、その埋め合わせは後でするので彼女の事をよろしく。詳しい地図は添付ファイルを参照してください』
と、なっていた。
添付ファイルの地図を確認すると、ここから結構離れている事が分かった。
まぁお金は問題ないし、奴隷の権利書を使う事もないだろう。
あの権利書で買った奴隷はすぐに解放できないしね。
馬車で移動するからこれは一日かかっちゃうな。
サラにちゃんと説明しないと。
「ガクさん」
「起こしちゃった? サラ」
「ガクさんがゴソゴソしだしたので起きましたが、真剣な表情をしていたので……」
「ちゃんと説明する」
「はい」
俺はサラに夢での出来事をすべて話した。
すでに報酬ももらってるし、俺個人としても助けたい事も。
やましい気持ちはない。
奴隷の環境が劣悪なのは俺も知っているし、俺と同じなら一度死んでいるんだ。
あの世界で。
だからこの世界では楽しく生きてもらいたい。
俺で力になれるのならいくらでも力になる。
多分、サラには俺の気持ちが伝わっただろう。
「行きましょう。ガクさんがそうおっしゃるのなら」
なんの質問もなく、この言葉がサラの口から出た。
本当にありがたい。
「ありがとう、サラ」
俺はサラを抱きしめた。
身体全体で抱きしめるとルアンが挟まってしまうので、腕だけを伸ばして抱きしめる。
サラも大人しく俺の行動を許して身を委ねてくれた。
その後は、すぐに準備をして朝食も取らずに馬車で移動した。
馬車の移動で三時半の移動だ。
ようやくナルミのいるであろうお店の近くまで到着した。
だが、ルアンがお腹が減ったとぐったりし始めたので、休憩とお昼にした。
モタモタはしていられないのだが、もし万が一戦闘になったらお腹が減っては戦えない。
そういういう意味も込めてお昼にし、万全の態勢でお店に向かった。
裏のお店と神様のメールにあったが、この辺りは街の外れにある為、いわゆるスラムと化していた。
またこの辺りはマシな方だと思う。
風に乗って奥の方の嫌なニオイが鼻をつく。
ルアンをバックの中に入れ、そのバックはサラに持ってもらう。
これが一番安全だからだ。
そして太陽が真上を通過する時間帯になってようやく到着した。
辺りにお店というモノはなく、小屋のような家がギュウギュウに建っているだけの場所だ。
昼という時間なのに誰も歩いていない。
本当に人がいるのかすら怪しいぐらいだ。
俺は地図を頼りに歩みを進める。
馬車は置いていくが、俺とサラに懐いてるからどっか行く心配はないだろう。
徒歩で二十分。
一つの小屋にたどり着く。
俺は軽くノックをした。
「誰だ」
出てきたのは一人の男。
数センチしかドアを開けず、こっちからは何も見えない。
「すまない。ここで奴隷が手に入ると聞いてね。ここで合ってるか?」
「……誰の紹介だ?」
チッ。
めんどくさい。
「あ~。何だったかな~」
俺はバックから銀貨を五枚程握り、ドアに少し近づいた。
そしてドアの男に見えるようにお金を見せた。
「そうか。あいつの紹介か」
金をむしり取った男。
「ちょっと待ってろ」
そう言ってドアを閉められた。
「どうだった?」
「声には裏切るような感情は見えませんでした。おそらくは大丈夫かと」
小声でサラと喋る。
サラには声で相手の感情が分かる。
なら、おそらくは……。
ドアが急に開いた。
「お前か? 俺のところで奴隷を買いたいってのは?」
上半身裸の顔が赤い大柄の男が姿を現した。
手には酒瓶を持っている。
酔っぱらってるのか。
「そうだ。見せてはくれないか? 良いのがいたら買うぞ」
「そうかい。ガキが二人。金があるのか?」
俺はバックから金貨を一枚だけその男に投げた。
「金ならあるぞ。それは見せてくれれば礼として渡すぞ」
男はカモがネギ背負って来たと思ったようで、気持ち悪い笑みを浮かべた。
「いいぜ。来な」
こうして店に入る。
店といえる態勢ではなく、室内は汚くそこかしこに酒瓶やゴミが転がっている。
ルアンを安心できる場所に移動させたい。
そう思う程、空気が汚いのを感じる。
男の後を追い歩くと裏口から出ていく。
その後、二つの家を通過した。
三つ目の家に入ると、そこは紛れもなく奴隷のいる場所だった。
俺の記憶にこびりつく、スミスさんの裏にある蔵の中と同じニオイだ。
さすがにサラが持っているバックの中にいるルアンがニオイに耐えられるはずないと、サラに目で外に出るように促した。
だが、サラはそれを拒絶した。
と、いうよりも必要がなかった。
魔法でサラの周囲の空気をキレイにしていた。
さすがはサラだ。
「ここが奴隷売り場だ。どんなのが良いんだ?」
「そうだな。女の子かな? 可愛い子が居れば、だけど」
男は俺の後ろにいるサラをいやらしい目で見た。
ぶち殺す衝動を抑え、男の言葉を待つ。
「待ってな。ちょうど入ったところだ」
そう言って裏に下がった。
暗がりでよく見えないが、周囲には人の気配がする。
俺たちを監視しているのか。
下手な相談も出来ない。
大人しく男を待つ。
「連れてきた。今、上物は三体だけだ」
ヒドイ。
首輪に裸。
身体はすす汚れていて、所々に傷や打撲跡がある。
食べ物も飲み物もあまり出ないのか、窶れている。
見るに堪えない。
「こいつはライン。こいつがミエン。こいつがナルミ。まぁ磨けばそこそこにはなるんじゃねーか?」
男は何も思っていないのだろう。
どれにするかを平然と話している。
……ダメだ。
ここで怒るのは違う。
あの神様のお願いを聞かなくては。
「それぞれいくらだ?」
「あぁ? ん~。金貨五枚だな」
ぼったくりやがって。
サラに一般奴隷の値段は高くて金貨三枚だと聞いたぞ。
「高いな。少し負けてくれないか?」
「へっへっへ。なら、四枚でどうだ?」
さっき渡した金貨を合わせて五枚か。
まぁ必要経費と思っておくか。
「そのナルミを買おう」
「毎度!! ほら」
男は鎖を俺に投げ渡した。
俺も金貨五枚を奴に渡した。
ナルミの目には何の感情も読み取れなかった。
人形の方がまだキラキラした目をしているだろう。
「こいつの荷物を持ってくる。ま、それほどなかったがな」
鎖を引いて裏に下がっていく男。
ナルミはサラに任せよう。
今はここを出るのが優先だ。
その後、男が持ってきた荷物に必要なモノがあったからすぐに退出した。
長居は無用。
ほかの奴隷も買って解放したいと思ったが、サラにそれはしてはいけないとここに来る前に釘を刺された。
根本的に奴隷を救いたければこの国のルールを変えなくてはいけない。
それをしないで彼女らを買っても俺の自己満足にしかならない。
サラは『それが分かっていてやるなら構わない』と言ってくれたが、俺にそこまで出来る力はない。
頭では分かっているが、どうしようもない。
ナルミは足腰に力が全く入っておらず、サラに支えられて馬車まで移動した。
場所もその場所にあり、馬車の荷台に横にして移動。
途中、身体を洗う井戸に寄ってナルミの身体を清潔にした。
もちろんサラがやった。
俺はルアンの相手をして自分の無力感を消そうとしていた。
帰りはスピードを緩やかにして移動した為、時間がかかった。
結局、五時間近くかかり宿屋に到着した。
水とサラの回復魔法で状態は安定しているとはいえ、あまりにも痩せすぎている。
宿屋の店主さんにお願いしてスープなどをもらい、それを食べさせた。
ルアンも心配そうに見つめる中、ナルミはベットで寝てしまった。
「達成かな。穏便に済んで良かった」
「そうですね」
丸一日ピリピリしてたから疲れた。
今日は早く寝るとしよう。
部屋のベットは二つ。
一つはナルミが使ってるから必然的に俺とサラとルアンで一つのベットを使う事になる。
いい夢が見れそうだ。
本日、3話公開。
この後の話は12時に公開されます。




