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妖精

 押忍!! 漢の中の漢を掲げた男、その名はガク。平和って身近にありますよね。俺の場合はサラのスカートの中に平和があると信じています。


 サラのメイド服の写真がスマホのフォルダーがパート四に突入した。

 何故かメイド服の他にも小細工があったり、どこで着るんだろう? と思われる服も多様にあるのだ。


 俺が一番に推しているのは猫耳と尻尾を付けた腹だしミニスカのハイソックスだ。絶対領域って良いよね。

 手には猫の肉球付きモフモフ手袋だな。


 もちろん語尾は『ニャン』だ!


 サラもテンションが上がっていたのか素直に着てくれた。

 踊ったり歌ったりした動画でご飯三倍はイケるね!


 おっと。

 あまりここで時間を使う事は出来ない。

 俺がベットで目を覚ましたのが八時だからもう十一時だ。


 お昼にはヘイルを出ないと。


「サラ。そろそろトコンさんに挨拶しに行こう」

「……そ、そうですね」


 惜しそうな表情を浮かべてる。

 コロコロ表情を変えるサラは見ていて面白い。


「帝都にもギルドはあるだろうからその時に、ね?」

「うぅ~~。分かりました」

「よしよし」


 俺の胸の中で半泣きのサラ。

 こんな好きなら帝都に行ったら丸一日はサラの為に休みにしても良いかもしれないな。

 日頃かなり負担をかけてるし、そのぐらいしないと罰が当たる。


 半泣きのサラの手を引いてギルドを後にする。

 受付嬢の人はサラが泣いているのを見て俺が何か変な事を強いたと思ったのか、俺をすごい目で睨んだ。

 イヤイヤ、人を見かけで判断しちゃダメだよ?


 まぁ、半分は合ってると思うから黙って退室した。

 サラがこの状態じゃ受付嬢に謝りに行っても更に俺にヘイトが溜まるのは目に見えているからな。下手したら捕まる。


 サラの機嫌は宿屋に着く頃には安定し、馬車に荷物を入れてトコンさんのいるであろうお店に向かう。


 場所は宿屋の店主に聞いた。

 どうやら港に近い場所らしい。近くに行けば分かるそうだ。


「ガクさん。……海はどうして青いんですか?」

「どうしたの? 急に」

「いえ、海を見てふと思いました」


 どうやら彼女は落ち込むと哲学的な思考になるらしい。

 そのうち人が生きてる意味は? とか聞いてきそうで怖い。


「海が青い理由は太陽の光が関係してるんだ」

「太陽の……光?」


 懐かしいな~。

 俺が中学校の頃にこの話題は結構有名になったっけ。


「サラは太陽の光って何種類もあるって知ってる?」

「そうなんですか?」

「そうだよ。太陽が真上にある時と夕方になる時だと違うでしょ」

「そう言われればそうですね!」


 間違ってるかもしれないからそれほど詳しく話さないで、後で掲示板で調べておこう。


「色が見えるのってその色以外は吸収されてるからなんだよね」

「ガクさんの髪の色とかですか?」

「そうだよ。俺の髪色は黒だけど、黒は全部の色を吸収して逆に白は全部の光を反射するんだ。夜は暗いでしょ?」

「ではでは! 海が青いのは青色以外を吸収して青色を反射している。って事ですか?」

「そうだよ。後は空の色が反射してるって調べた時にあったな」

「なるほど!」


 だから晴れた日はより鮮明に青く見えるらしい。

 まぁ、黄色い海や赤い海も緑の海も地球にはあったけどね。


「海が青い理由は太陽の光が原因なんですね!」


 おや?

 サラの機嫌が直ったぞ?


「ガクさんは博識ですね」

「う~ん。俺の世界は魔法文明じゃなくて科学文明だからそれぞれ積み上げた歴史の差かな? それに向こうの世界の事だからこっちで通用するかどうかも怪しいよ?」

「それでもです!」

「そ、そうか」


 サラから博識認定をもらった。やったね!


 おそらく掲示板に馬鹿な奴らが向こうとこっちで物理法則が同じか検証をしたスレットがあると思うんだよな~。

 それも後で見てみよう。


「あ、ガクさん。見えましたよ」

「え? ……うわ~」


 遠くからでもドラゴンの首が飾ってるのが分かる。

 家からドラゴンの首だけ出てる様にも見えるから異様な感じだ。


 正直、近づきたくない。


 サラはウキウキと向かう。


「では行きましょう」

「そうだね」


 今度は俺が落ち込み気味だよ。

 お店を目の前にすると入る人を威圧してる。


 本当に入りにくいお店だな。

 お店として致命的なんじゃないかな?


「こんにちは~。トコンさんいますか~?」


 流石はサラだ。

 堂々と入って行く。俺は後を付いて行く。


「おや? サラクさんとガクさんじゃないですか。ようこそ、『ヒヨコのヒナ』店へ」


 名前がおかしい!

 漢字にしたら雛の雛だぞ? それに玄関の上に飾ってるドラゴン関係ないじゃん!

 せめてドラゴンを絡めろよ!


「良い名前ですね!」

「ありがとうございます」


 そうか!?

 俺は心のツッコミが止まないよ!


「それでここは何のお店なんですか?」

「雑貨屋です。いろいろと売ってますよ」


 フザケンナ!

 何で名前が動物なのに雑貨屋なんだよ!


 名前、ドラゴンの雑貨屋にでも変えろよ!

 違和感バリバリ過ぎるだろう!


「そうなんですか」

「えぇ、どうです? 少し見ていきませんか?」

「そうですね。ガクさん、どうしますか?」

「あ、え? ……えっと、うん。良いと思うよ」


 はい。

 ぶっちゃけ何も聞いていませんでした。


「……ガクさん? 聞いてました?」

「あ~……」

「……ガクさん」

「あはは。ゴメン。別の事が気になって聞いてなかった」

「もう、ガクさんたら」


 頬を膨らますサラ。

 抱きしめたいほど可愛い。


 え? その可愛い表現は誰から教わったのだろう?

 もし、自分で考え付いたのなら君は天使なのでは!?


 あ、今一瞬ミカンを親指に刺して遊んでいる神様が脳裏を過ったな。

 あのミカンどこ産だろう?


「フフフ。仲が良いですね」

「あ、えっと、その……」


 サラが恥ずかしくなって俺の後ろに隠れた。

 あ、背中に柔らかいモノが……当たってない。残念。


「ごゆっくりどうぞ。私は少し奥に行って来ますので」

「あ、はい」


 トコンさんはそう言いて行ってしまった。


 雑貨屋と言うだけあっていろいろなモノが置いてある。

 生活必需品や食べ物、武器に防具。


 ……ん?

 本もあるな。


「ガクさん? どうかしましたか?」

「あ、いや。本が珍しくて」


 スゴイな。

 表紙の妖精が俺に手を振っている。ファンタジーだ。


 現代の映画にあった某魔法学校のお菓子のカードみたいだ。

 何を書いてあるか全然分からないけど。


「たしかに本は貴重ですからね。ですが、この本はどのような本なんでしょうね」

「う~ん。妖精が前面に出てるから妖精がメインの物語かな?」

「……ガクさん?」

「何?」


 サラが俺の顔を凝視している。……照れちゃう。

 なんてそんな冗談は言えない程、サラの表情は真剣だった。


「この本の表紙は何ですか?」

「え? 妖精がこっち見て手を振ってる絵が書いてるけど」

「……」


 サラが真剣な顔をして考え始めた。

 ……邪魔したい衝動を抑えなくては。


「ガクさん」

「はい!」


 ビックリした。

 まだ何もしてないよ。


「私はこの本は真っ白に見えます」

「……マジか」


 毎週創刊される少年誌のような大きさの本に森をバックに妖精がこっちに手を振ったり笑顔で何かを訴えてるのを現在進行形で見てるが、これで真っ白とは思えないが……。


「おや? どうかしましたか?」


 トコンさんが奥から戻ってきた。

 ……なんでウサギ耳のカチューシャをしてるのかは聞かないでおこう。


「この本は何ですか?」

「その本ですか? ……なんでしょうね」

「はぁ?」


 俺の口から阿呆な声が出てしまった。


「会長がどっかから持ってきた骨董品です。表紙も中も真っ白なただの本ですね」


 俺とサラが顔を見合わせる。


 おそらく、と言うかほぼ確実にトコンさんは嘘を付いていない。

 嘘を付けばサラが見抜く。


 そして俺も嘘は付いていない。


 そうなるとこの本に何かあるという事か。


「えっと、もしかしてこの本に何かありました?」


 サラは目で俺に任せるという視線を送ってくれた。


「えっと、俺にはこの本が真っ白には見えなくて……」

「どのように見えるんですか!! 詳しく聞かせてください!!」


 トコンさんは俺にキスをするんじゃないかと言うほど近く迫ってきた。


「離れーい!!」


 俺は反射的に押し飛ばした。

 男に迫られても気色悪いだけだ。


「アハハ……。すいません。つい」


 数歩後ろによろけたトコンさん。


 うわ~。

 この人って俺より強いわ~。


 お店の護衛なんだから強いのは当たり前か。

 でも俺が本気で押してたった数歩後ろによろけさせる程度の威力しか出せないのはどうよ?

 本気で傷つくぜ。


「俺は男に近寄られて嬉しくなる趣味はない!」

「私も同じです」


 ウサギ耳をつけて何を言っているんだか。


「それで? この本はどのように見えるんですか?」

「全体的な色は深い緑色で表紙は森が書かれていて妖精一匹がこっちに手を振ってますね」

「ほうほう……」


 トコンさんの興味対象は本に移ったようだ。

 至近距離で見てる。


「……真っ白ですね」

「私もです」


 サラも見るために頑張っているようだ。

 なにこの可愛い生き物。お持ち帰りしたい。


「う~ん。では、ガクさんにはこの本を差し上げましょう」

「はい!?」


 呪いの本とかだったからどうするの?


「サラさんにはコレを差し上げましょう」


 そう言ってウサギ耳のカチューシャをサラに渡す。


「あ、どうも」


 受けとちゃった!

 あ、意外に気に入ってる。


 ニヤニヤしてるし。

 サラってアニマル大好きなのか?


「その本はそろそろ処分しようかと思ってたのでよろしければどうです?」

「う~ん」


 サラに目でどうしよう? と送ると、どちらでも良いのでは? と送られてきた。

 以心伝心だね。


「……頂きます」

「どうぞ、どうぞ」


 どうしよう。

 断れなかった。


 妖精、可愛いし。

 妖精、俺に笑顔向けてくれるし。

 妖精、妙に色っぽいし。


「お二人はもうこの港を出るんですよね?」

「あ、はい」

「そのプレゼントは私からです。これからもよろしくお願いしますね」

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」

「ありがとうございます」


 俺とサラはトコンさんと握手を交わす。


「ガクさん、次お会いした時はまた面白い話をお願いしますね」

「あははは……。程々にお願いしますね」


 この人は自分の興味があるモノには遠慮がなくなるからな。

 程々にして欲しい。


「それでは」

「はい。お気を付けて」


 俺も頭を下げてサラを追うようにお店を出た。


「ではガクさん。行きましょうか」

「そうだね」


 この本、どうしよう。

 後で読んでみるか。

 

 帝都まで約一週間だからそれまでにいろいろと準備しないとな。

 ……心構えとか?


 あ、そういえば結局会長に会えなかったな。

 ……まぁいいか。


「いざ、帝都へ!」

「お~」


 サラも乗り気である。

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